CES ASIA 2017が、中国・上海市で6月7~9日の3日間、開催されました。米国で毎年開催されるテクノロジー世界最大級のカンファレンスであるConsumer Electronics Show(CES)のアジア版です。主催は米国と同じ、Consumer Technology Association(CTA)。中国での開催は今年で3回目となり、世界中から450社以上の企業が出展、来場者は3.5万人、メディアも1,100社、スタートアップも75社を超える規模へと拡大しているそうです。1月の米国CESと同様、AI、スマートホーム、自動運転、VR/AR、ロボットが多数展示されていました。米国CESと比べると少ないですが、日本から大手企業も参加していました。
私自身、グローバルの仕事を通じて感じるのが、やはり中国のテクノロジーやサービスが、欧米でも存在感を一気に増してきています。今年、Amazon Alexaが米国CESを一世風靡し、IoT進化の次世代インターフェースとしてボイスコントロールが注目を集めました。期間中にアップルのWWDCも開催されSiri対応スピーカーのHomePodも発表されたので、CES ASIAもこの流れになるのか、それとも中国ならではの動きが出てくるのか、楽しみに上海に来たのですが、中国の進化のスピード感に圧倒されてしまいました。CES ASIAを見て感じた、そんな中国ならではのテクノロジートレンドをいくつか紹介したいと思います。
中国は、全体的に新しいけど若干雑なガジェット系のハードウェアが主流かなと思っていたのですが、デザインや質感のレベルがこの2、3年で物凄く上がっています。一昔前の安かろう悪かろうといった所がもはや見当たりません。アップル製品と遜色がないレベルで、私自身も直感的に欲しいと思うものもありました。また、各社のブースでも「テクノロジーがどのように人々の生活を変えるか」というコンテクストに提案が変わってきています。
VR/ARもたくさんの製品が紹介されていました。ヘッドマウントディスプレイが、よりスリムにかっこいいデザインになっていたり、リビングの壁やソファと合わせるようなコンセプトのものもありました。マイクロソフト社のホロレンズ型のMRも数が増えてきた印象です。Pimax社は4Kから8KのVRを発表していたり、大型体感ゲーム機とVRのセットがあったり、戦闘ゲーム用のコスチュームとVRのセット、工場現場で使用するビジネス使用のARグラスなど、実際のビジネスや生活シーンへの広がりを感じました。1つ面白いなと思ったのが、Vidoo社(微動)のハンドジェスチャーを識別し操作が出来るVRです。教育やゲーム、仕事などにも使えそうですよね。ジェスチャー認識の技術はVR以外でも自動車のコントロールパネル操作にも音声認識と合わせて実現可能だそうです。GfKによるとVR市場は中国単体で16年7.5億ドルから17年16億ドルに倍増するそうです。上海の街中のショッピングモールでもゲームセンターに、VRの戦闘ゲームやライド系VRゲームがもう既に置かれていました。
Tencent社は、WechatやQQを展開する中国最大規模のテクノロジー企業です。「インターネット+」をテーマに、医療や健康、社会サービスなど、コミュニケーションから生活者のライフスタイル全般のサービスから、より良い中国社会づくりを目指しているそうです。テンセントの持ち味である、ゲーム、ソーシャル、コンテンツ、Wechatやメッセンジャーツールに、ビッグデータ、クラウド、AIを活用していく構想をセミナーで紹介していました。Tencentは1つのアプリやサービスのユーザー数がどれも億単位というのは日本では考えられないスケールです。(Wechat 8.9億, QQ 8.7億のMAU、他にもたくさんAPPがあります)。実感レベルですが、オンライン動画やTV・ドラマの視聴、ゲームはかなり普及しているので中国のコンテンツ市場も相当大きいと言われています。
私が今回のCES ASIAで最も驚いたのが、アメリカ企業の類似のサービスをいち早く取り込んだJD.com(京東商城)です。Taobaoに次ぐ第2位のEC企業で、Tencentグループと提携しています。「Smart JD Smart Life」をテーマに、キーノートでは「京東Alphaスマートサービスプラットフォーム」というスマートホームやIoTデバイスに連動するハブ機能をオープンプラットフォームとして提供すると宣言。音声認識型スピーカーの機能を持つ「Ding Dongスピーカー」や、「スマート冷蔵庫」「AR/VR 3D展示ECショッピング」も発表。あと、コンセプトとして「ドローンや無人輸送車」の物流改革も掲げ、ブースでは実機も展示されていました。米国CESで各社が発表していた新製品やサービスを、これだけのスピード感で開発、リリースしてしまうのには脱帽しました。
もう1つ、バーチャルフィッティングのHAOMAIYIという企業ですが、元々オンライン上のサービスでしたが、実際のファッション店舗に大型のスマートミラーを設置し、店員がスマートフォンとスマートミラーを使って接客し、鏡を見ながら自分の顔や体型に合わせて着せ替えやカラーチェンジができるリアル店舗でもバーチャルフィッティングをできるようにしました。気に入ればそのままオンラインで注文も出来てしまうというものです。店舗に陳列されている各アイテムのタグにもQRコードが印刷されているので、自分のスマホでも同じ事が出来る仕組みになっています。実際にC&Aや複数のブランドと提携しているということや、中国で圧倒的に普及しているwechatと連携しているため、誰でも直にサービスを利用し、決済まで使えるという点です。オンラインサービスが、オフラインのリアル店舗に展開しO2O2O型のビジネスモデルを展開するこのスピード感も中国ならではでしょう。
スマートホームは、Haierなどの家電メーカー、SUNNINGなどの家電量販店、そしてChina Mobileの通信事業者の各社がプラットフォームを提唱しており、中国でもこれからのトレンドだと感じました。ユニークなのは、家電量販店が積極的にスマートホームプラットフォームを提唱し最新のIoT家電を展示していたり、中国事情を反映して浄水器や空気清浄機、ジューサーも含まれていました。空気や水の問題、健康意識が高い国民性を表しています。あと、スマート美容器具やスマートミラー、音響器具もたくさんあったので、中国の美容や音楽への関心が高く、市場ポテンシャルも大きいかもしれません。
Baiduは、中国の検索最大手の企業ですが、自動運転においては、中国の地図データを保有しNVIDIA社とも提携。会場内で実際の自動運転試乗会を実施していました。Project Apolloという自動運転車開発のオープンプラットフォームを4月の上海モーターショウで発表し、CESでも様々な技術やソフトウェア、センサーも展示。Road Hackersというチームを募集し、中国の道路地図と実際の走行データを蓄積する事で、自社のAIも活用し人海戦術とAIで急速に予測精度を高めているそうです。2017年7月に北京でProject Apolloの自律走行技術のオープン化を発表予定。アライアンスパートナーを募集し、中国国内でのエコシステム確立を目指しているようです。中国は国産メーカーによるEV開発が急ピッチで進んでいるため、もしかすると世界に先駆けてBaiduの地図データと国産EVによる完全自動走行が中国で実現するのかもしれませんね。
もう一つはNEVSです。NEVS社は、ナショナル・エレクトリック・ビークル・スウェーデンからなる社名で、スウェーデンのサーブを傘下に持ち中国企業が親会社になります。次世代のサステナビリティな社会を見据え、次世代のコネクティビティを搭載するEVを開発、提供していくと発表していました。中国の天津市からカーシェアリングを前提に受注しているそうです。
自動運転が新産業領域として注目されていた米国CESと比べると、中国では生活者の車内体験が変わるコネクティビティの方が、関心が高いように感じました。推測ですが、中国政府はEV(新エネルギー車)を政策として推しているため、車単独の自動運転カーというよりも、EVをベースとした社会インフラとセットでの自動運転化の方向になっていくのかもしれません。
今回はCES ASIAの状況を紹介させてもらいました。会場を見た後に上海の街中で食事をしたのですが、日本でも話題になっているアプリで解錠し1元で乗れるmobike等のシェアリング自転車が、街のあちらこちらにあり、普通に老若男女が通勤や移動に使っています。(※丁度、この原稿を書いている時に日本市場参入の記事が出ました)。VR体感ゲームが街中のショッピングモールに普通にあり、Xiaomi(中国版アップルと言われ、今はIoTプロダクトを幅広く展開。アップルとMUJIをテクノロジーで融合したような感じでしょうか)のアップルのようなデザイン性とサービス力の高いショップがモールの中に普通にあり、スマート家電も普通に買えます。冒頭で紹介したHuaweiも家電量販店では、アップルと同等のクオリティで展示販売されており、体感クオリティのレベルが想像以上に高まっています。まさに、まだ日本には無い新しいテクノロジーやサービスが生活の中にあるというのをここ中国で実感しました。
CES ASIAのセミナーの中でも多く聞かれたのが、中国の企業はスタートアップでもグローバルを見据えています。中国国内の競争が熾烈すぎるというのが本音のようですが、R&Dセンターは必ずと言っていい程、欧州やアメリカに設置し、グローバル基準の開発、ビジネスを想定していると言っていました。Eコマースショッピングや自動運転など、中国国内でもまだ各社のプラットフォームが競争段階だったり、生活者視点で見ると安全性の懸念やリスクもたくさんありますが、次々と世の中にプロダクトやサービスをリリースしていく中国のスピード感、グローバルスケールの視点は、日本も危機感を持って学ばなくてはいけないと痛感しました。中国がAIやディープラーニングを手にすることで、14億人のインターネットユーザーのデータが元になり、あらゆるテクノロジーやサービスの進化を更に加速してしまうということです。様々な中国企業が仮にガラパゴスであっても、グローバルの存在感、ビジネスの流れをあっという間に作れてしまうということかもしれません。
デジタルやデータを活用したマーケティング領域の戦略プラニング、マネジメント、事業開発、グローバル展開を主に担当。自動車、IT、精密機器、家電、EC、化粧品業界を中心に、デジタルシフト、データ分析、DMP活用、組織開発といった企業のマーケティング高度化のサポートを行う。アジア・中国の海外業務にも精通。APACエフィー2016審査員。