2025年に日本は「平均年齢50歳社会」を迎えます。
この急激な人口構成の変化にともなって、サービス、流通、価格設定、コミュニケーションなどが大きく変わっていくことが予想されます。
博報堂では、2014年以降、人口動態に基づいた社会と市場の構造変化を分析し、主にシニア層(50歳以上)を中心にマーケティングの転換を考えるプロジェクト「LEAD2025」を進めてきました。
この日のセミナーでは、これまでのプロジェクトからまとめた今後の市場分析とその活用方法に加えて、50歳以下の市場の見方も紹介されました。
2025年、団塊世代が75歳となり、後期高齢者の人口は総人口の18%に当たる2180万人に達します。
世帯数で見ると、75歳以上世帯が総世帯の22.6%に当たる1186万7000世帯に上り、うち単身世帯が447万2000世帯を占めるようになります。
今後、社会的サポートが必要な人が多数となる「負の高齢化」が順次進行していくことになります。
人口動態の予想は、ほぼ確実に当たると言われています。
「確実に来る未来」に私たちはどう対応していけばよいでしょうか。
ここでは2つの視点で見ていきたいと思います。まず、「市場標準としてのシニア」という視点です。
2つの「キラーデータ」をご紹介します。
1つは「2025年には、夫婦と子供あり世帯1152万に対し、単身世帯1782万になる」というデータです(「社会保障・人口問題研究所 推計値」より)。
つまり、単身世帯が標準世帯になるということです。
それだけではなく、単身世帯の高齢化も同時に進行します。
もう1つは、「2025年には、生活者の在宅時間が長くなる」というデータです。
70代以上女性の在宅時間は平日が19時間46分、日曜日は20時間21分、同じく男性の在宅時間は平日が18時間57分、日曜日は20時間01分です(「2010年国民生活時間調査」NHK放送文化研究所より)。
人口における高齢者の比率が高まれば、生活者が家にいる平均的な時間が長くなるわけです。
その結果、家は「住むだけの空間」ではなくなり、多機能化が進んでいくことが予想されます。
また、高齢ドライバーの運転免許証返納が増えるため、遠出がしにくくなることも考えられます。
そういったデータを踏まえ、企業や事業における「未来の課題」をあぶり出し、その解決方法を探っていくことを私たちは提唱しています。
その際、自社の「強み」と「弱み」を明確にした上で、データを踏まえて「機会」と「脅威」を特定し、課題を抽出していく「SWOT分析」が基本的ではありますが、有効であると私たちは考えます。
さて、「LEAD2025」の「OVER50」のデータには、どのような活用法があるのでしょうか。
考えられるニーズは、例えば以下のようなものです。
私たちは「OVER50」のデータの活用例を、これまでの実績に沿って3つのタイプに分けてみました。
その1つが「企業ブランディング」です。
例えば、「新部門を設立し、R&D起点の企業ブランディングを実施する」という案件があります。
これは、社内のモチベーション低下や、企業イメージの低下、主要事業の売上不振といった逆境にあるメーカーが、「LEAD2025」を活用して若手社員を巻き込んだプロジェクトを実施し、組織の横連携による新部門を設立して「R&D起点の健康」というテーマでメーカー初の企業ブランディングを遂行する、といったケースです。
「R&D起点」という方法には大きな可能性があります。
これまで発見されていない企業の資産が見つかるケースがしばしばあるからです。
またここから、「CTO(最高技術責任者)起点の企業ブランディング」という実践の可能性も開けるはずです。
2つめが「新事業・ブランド開発」です。これに該当するのは、ブランドを横断した役員・担当者が参加する社内ワークショップで「LEAD2025」を活用し、それをきっかけに新しい事業や商品を考える、といった事例です。
新事業開発ニーズはあらゆる分野の企業で増えています。
それにともなって、アイデアをストレッチするツールとしての「LEAD2025」の活用例も増加傾向にあります。
3つめが「インナー意識統一」です。社内における働き方のデザインをしていくに当たって「LEAD2025」を活用していくことで、「ビジネスに直結するワークデザイン」をつくることが可能になります。
課題や方向性を明確にしたうえで、事業分野などに合わせた個別のストーリー構築をすることも可能です。
例えば「2025年における“働く”」「2025年における“食”」「2025年における“住”」などです。
「働く」というテーマに関して、ここでまたキラーデータを提示したいと思います。
「フリーランスが増加し、全労働者の3分の1になる」というデータです。
個人事業主で店舗を持たないフリーランス労働者は、現在、日本に約127万人います。
一方、アメリカではフリーランス人口は5300万人で、労働者の34%まで達しています(政府税制調査会/2015年9月3日)より。
日本も今後、アメリカのようにフリーランスが増え、労働者の3分の1を占めるようになることも十分考えられます。
フリーランスの増加にともなって、働くスタイルも新しくなっていくでしょう。
すでに日本でも社員の副業を認める企業が増加傾向にあり、多様な人材が働く場を共有するコワーキングスペースも増えています。
今後はさらに働く場所が多様化し、これまでになったような新しい「場」が生まれることも考えられます。
そこから、企業の垣根を超えた新しいビジネスが立ち上がる可能性もあるでしょう。
今後は、新しい状況に合わせて企業内からアイデアを出していく取り組みが重要になります。
例えば、次世代を担う社員を選出し、部門を超えて課題を探るワークショップを実施して会社のあるべき姿を考え、その結果を経営層に提言する、といった方法を私たちは推奨しています。
さて、「LEAD2025」のプロジェクトの中から見えてきた課題もあります。それは以下のようなものです。
そのような課題に対応していくためには、人口の50%を占める「UNDER50」について見ていく必要があります。
高齢化が進む一方で、「若い世代を起点にした社会づくり」に関する議論も活発になっています。
例えば、「こども保険」の導入をめぐる議論などがその一例です。
「OVER50」がどちらかというと「課題解決視点」であるのに対し、「UNDER50」は「未来創造視点」であるということができます。
この二つの視点を両立していくことがマーケティングやブランディングにも求められています。
「UNDER50」には7つのキーワードがあると私たちは考えます。それぞれについて見ていきたいと思います。
以上のように、UNDER50を起点に「新基準」を捉えることで見えてくるマーケットチャンスが数多くあります。
OVER50は、将来確実に向き合うことになる課題をあぶり出し、自社の技術による解決策を見つけ出すために必要な視点です。
一方、UNDER50は、未来の兆しから発想し、新しい基準をつくる変革の芽を生み出すために必要な視点です。
クライアントの課題や目的に応じて、これらの視点、発想、データを組み合わせながら、最適な協業の形をつくっていくこと。
それが私たちの役割であると考えています。
※掲載時プロフィールです。
2004年博報堂入社後、ブランディング専門部門を経て、以後マーケティング部門に在籍。
一貫して、ブランディング・マーケティングを担当。
金融等のサービス系業務、自動車会社における国内/グローバル戦略等幅広く従事。
近年では、アルコール、飲料、外食等のマーケティング戦略を立案。東京農工大非常勤講師。
2016年博報堂入社以降、マーケティング部門に在籍。
昨年から「LEAD2025」プロジェクトに参加。現在はトイレタリー、保険、菓子等を中心にリサーチ・プラニング業務を行っている。