新聞広告を題材に、クリエイターが公立中学校の授業をつくる。
そんな新しい試みをした、コピーライター山﨑博司とアートディレクター(以下AD)の小畑茜。どのようにこのプロジェクトが始まったのか、どんな授業内容だったのか、授業を受けた生徒たちの反応は?など、プロジェクトの様子をお届けします。
2016年7月。そんな話が僕たちのもとに届きました。連絡をくださったのは、岡山県の中学校の先生。
鬼の広告とは、2014年に僕とAD小畑が制作した、「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」という新聞広告です。
たまたまその広告を見た先生が、知り合いをたどって僕らを探されたのです。こうして僕と小畑は、谷本薫彦先生と出会いました。
そもそも鬼の広告は、大学入試問題になったり、先生がみる教育関係の書籍に掲載されたりと、教育現場からの問い合わせが多い仕事でした。
今回もそういった話なのかなと思い、打ち合わせに出るとびっくり。「絵本をつくりたい。道徳の授業で使いたいんです。」と。
そしてすでに先生は、泣いている小鬼に「鬼太郎(おにたろう)」とネーミング。鬼太郎視点での物語を書きはじめられていたのでした。
けれど、僕らは悩みました。
絵本にするのは、魅力的な話。もしかすると出版することもできるかもしれない。でも、新聞広告でメッセージしたのは多様な考え方であり、広告を見た人が私はこう思う!俺はこう思う!と自由に意見を言いあえる土壌をつくること。それに対し、僕らがあるひとつのストーリーを作っていいのか、と。
そこで「絵本ではなく、いっしょに授業をつくりませんか?」と提案しました。
こうして1枚の新聞広告から授業をつくる、という桃太郎プロジェクトがはじまったのです。
「授業をつくりましょう」と言ったものの、正直、授業なんてつくったことも考えたこともありません。
そこで僕らは先生とともに、現状の課題をあぶり出すところからはじめたのです。すごく広告的ですね。笑
「これからの時代にあわせて、対話的な学びの中で考えを深める授業はどうか」「多角的に物事をとらえられるオープンエンドな道徳が必要かも」などなど。
そして、僕らはこの広告がもっている本質に立ち返り、しあわせの捉え方に対して生徒一人ひとりが自分の意見をもち、チームで議論しあえるワークショップ型の授業をつくる、という大きな方針を立てたのです。
授業づくりで難しかったのは、時間です。
ふだん僕らの仕事は、複雑な要件や課題を整理し、少ない時間で人を惹きつけ心を動かすことが求められる。けれど、授業は違います。
いかに50分飽きさせず、興味をもたせ、集中してもらうか。授業の中で、子どもたちの内発的な変容を促すデザインをする。そこが大きな壁でした。
そこで僕らが考えたのは、大きく2つのポイントです。
1つ目は、気持ちの動線づくり。
ひきつける導入から、授業に参加するのが楽しくなるツールを用意し、能動的に考えてもらい気づきへと持っていくこと。
2つ目は、授業で学んだことを普段の生活でも使えるかも、と生徒たちに思ってもらうこと。
ただ、チーム作業や個人で考えたりする時間を考えると、到底1コマ(50分)で終わる内容ではありませんでした。
そこで、「50分」+「50分」+「50分」の3コマ編成へ。
それぞれの内容が決まってくると、谷本先生は学習指導案をまとめ、僕らは授業でつかうクリエイティブツール制作へと進んでいきました。
この時点で2月。動き出してから、すでに半年がすぎていました。
先生は岡山。僕らは東京。
どうやってこのプロジェクトを進めていったのか、疑問に思う方もいるかもしれません。
打ち合わせは、基本スカイプで行いました。2~3週間に1度のスカイプ打ち合わせに向け、僕と小畑はスキマ時間をみつけながら、ああでもない、こうでもないとアイデア出し。資料をまとめ、谷本先生とディスカッションをしていったのです。
次回「後編」では、3コマの授業の中身をお話しします。
1983年生まれ。2010年博報堂入社。TBWA\HAKUHODOを経て、現部署。
主な受賞歴: TCC最高新人賞、ACCグランプリ、Cannes bronzeなど。
1988年生まれ。2011年博報堂入社。
主な受賞歴:毎日広告デザイン賞 優秀賞 朝日新聞広告賞 審査員賞
(スタッフリスト)
企画制作/博報堂+谷本薫彦+Think The Earth
◯C/山﨑博司 ◯AD/小畑茜 ◯企画/谷本薫彦
◯アドバイザー/永井一史 ◯PR/上田壮一、笹尾実和子