今年で21回目を迎えるADFEST 2018「アジア太平洋広告祭」が3月21~24日、パタヤ(タイ)にて開催され、3月23日には、博報堂グループ4名のスピーカーによる博報堂主催セミナーが実施されました。モデレーターを博報堂のAPAC Co-CCOの木村健太郎がを務め、前半では多数の広告賞を受賞した「Gravity Cat」の制作秘話についてSIXの奥山雄太が語りました。後半では「monom」チームリーダーの小野直紀、クリエイティブプロデューサー鈴木あいが「Pechat」誕生秘話について明かしました。
テーマ: The Power of Ideas, the Power of Believing
日時:2018年3月23日(金)14:30-15:15
講演者:木村 健太郎(博報堂APAC Co-CCO/博報堂ケトル共同CEO)
奥山 雄太(SIX/クリエイティブディレクター)
小野 直紀(博報堂「monom」リーダー/コピーライター/プロダクトデザイナー)
鈴木 あい(博報堂「monom」クリエイティブプロデューサー)
以下、セミナー内容の抜粋です。
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木村:まずは2017年、世界中のアワードで数々の賞を受賞した「Gravity Cat」の映像をご覧ください。
木村:僕が初めて「Gravity Cat」を見たとき、3つのことを思った。
1. どうやって撮影したのか?
2. どの部分が実写で、どの部分がCGなのか?
3. なぜこんなに長いのに、ずっと見ていられるのか?
まず、最初のトピックだけど、これ、どうやって撮ったの?
奥山:まずは、メイキング映像からご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=WtwrnAvNBL4
木村:全体的に、想像していたより、ずっとアナログな手法で撮影しているんだね。どうしてこの方法になったの?そこまで「リアル」にこだわった理由は?重力変化はともかく、猫は、CGにすることは考えなかったの?
奥山:僕らの狙い通りに動くCGの猫じゃ、愛されないと思ったから。なぜ、インターネットの世界で猫はこんなにも愛されるのか?世界中の話題の猫動画をリサーチしてわかったことがあった。猫って、犬に比べて無表情でミステリアスだから、何考えてるのか人間にはわからなくて、次になにをしでかすのかと期待させてくれるのだなと。そんな、人間の想像を超えてくる猫の行動の魅力は、リアルに撮らないと映像に映らないなと考えたんです。
木村:なるほどね。でも、言うのは簡単だけど、アンコントローラブルな要素が増えるほど、実現するのは難しくなってリスクもある。
奥山:“More Risky, More WOW”(よりリスキーに。それがWOW=驚きになる)だと思います。インターネットの世界は魅力的なコンテンツで溢れかえっているから、ちょっとやそっとのことでは、興味を持ってもらえないし、感心してくれない。でも、みんなに興奮してもらえる、とてもシンプルな公式がある。とにかく難しい「遊び」に挑戦すること。その挑戦への熱量を映像に宿すこと。インターネットには「遊び」に対する過剰な熱量を称賛する文化がある。
ユーチューバ―たちは、日々、たわいのない遊びに全力で挑戦して、再生数を稼いでいる。だから僕らは、重力変化の表現、動物の表現、主観の表現、ワンカットの表現、4つの難しい手法を組み合わせるという「無謀で壮大な遊び」に挑みました。なんといっても、PlayStation、「遊び」のブランドですから。
木村:でも、リアルというけど、もちろんCGも使ってるでしょ?そこで2つめの質問。どの部分が実写で、どの部分がCGなのか。
奥山:窓外の街の景色、最後の外へ落ちるシーンの街の景色はCG。でも、部屋の中での出来事は、すべてリアルに撮って組み合わせています。ある1箇所をのぞいて。正解はこちら。(VIDEO:水のシーンを流す)この水は、完全にCGです。
木村:CGのクオリティもすばらしいのもあるけど、そこまでのシーンを徹底してリアルにやっていて、その延長にあるから、フェイクの水もリアルに見えてしまうのかもしれない。
奥山:Keep it Real, and Fake becomes Realってことかもしれません。
木村:この水のシーンもそうだけど、次から次へと予想外な展開がやってきて、目が離せず、あっという間に5分がたってしまう。そこで、3つ目のトピック。なぜ、こんなに長いのに、ずっと見ていられるのか?
奥山:視聴者が離脱しやすいオンラインフィルムにおいては、とても大事なトピックです。
木村:我々は「5秒に1回、WOWを」という話をよくするけれど、この映像はそれがとてもうまく実現されていると思う。そのあたりで、特に工夫したことは?
奥山:まず、見てほしいものがあります。(VIDEO:たくさんのTwitterの感想を見せる)「すごい」「かわいい」「かっこいい」「笑った」「泣ける」「怖い」実にバラエティに富んだ感想があります。この「Gravity Cat」のアイデアを定着させるとき、大きく2つの感情を大事にしようと考えました。1つは、重力変化の映像が「びっくり=WOW」という感情。もう1つは、猫が「かわいい=KAWAII」という感情。
木村:「Gravity Cat」という1つのアイデアに、2つの感情が掛け合わされている、と。
奥山:そう。その「びっくり=WOW」の感情と「かわいい=KAWAII」の感情を、かわるがわる喚起することで「5秒に1回、WOWを」を実現しようと考えました。猫がかわいくて癒された思ったら、次の瞬間には重力が変わるWOWがあり、また、次の瞬間には、猫のかわいい感情がやってくる、みたいな。WOWというと驚きのことのようだけど、KAWAIIだってWOWになる。
木村:感情の振り子(Emotion Pendulum)を揺らすことが見続けてしまう秘密だったんですね。
木村:だんだんと、Gravity Catの謎が解明されてきました。たくさんのチャレンジングな映像手法を組み合わせて、たくさんの感情のWOWを生み出しまくった、ということですね。でも、こんなリスクのあることに挑戦するのはとても勇気がいる。そんな勇気のある映像制作に踏みだすにあたって、大切にしたことは?
奥山:僕が無謀な性格だというのもあるけれど、やっぱり大事なのは、信じられるチームをつくること。
今日のテーマに即して言えば“Believing makes Brave Risks.”(リスクをとる勇気は信じることから生まれる)
まずキーになったのは、映像ディレクターの柳沢翔(資生堂のHigh School Girlも作ったディレクター)。このアイデアを思いついたとき、同時に彼の顔が浮かびました。彼とは何度か仕事をしていますが、とにかく演出プランを難しくして自分の首を苦しめるマゾヒスティックな姿勢と、それを試行錯誤して実現するチームを率いる力がある。でも、実は3回断られました。
あともう一人のキーは、プロデューサーのTakashi Asoさん。僕や柳沢さんが出す無謀なアイデアやプランに対して、彼は一度も「不可能だ」と言わなかった。そうやって、一緒に無理難題に立ち向かえるチーム、最後まで一緒に戦いつづけくれると「信じられるチーム」を作れたから、リスクのある方へ、リスクのある方へと、選びつづける勇気を持てました。
木村:最後に、もうひとつ質問。この主役の子猫、超演技がうまいけど、どこで見つけてきたの?
奥山:すばらしい質問。実は、彼は僕の飼い猫。「しゃけまる」という名前なんですが、僕にとって信頼できる猫は、しゃけまるしかいなかった。彼こそが、My Believable teamを率いたMy Believable catです。
木村:しゃけまるも「信じられるチーム」の一員ということですね。でもずいぶん太ったようだけど??
奥山:カンヌでゴールドを受賞した時に、ご褒美に贅沢なエサを与えすぎました。彼はもう2度と、重力から自由になることはできないと思います(笑)。
1992年博報堂入社。ストラテジー、クリエイティブ、デジタル、PR の境界を取り去り、全体をシームレスにつなげるユニークなプラニング手法を確立。2006 年、従来の広告手法にとどまらないイノベーティブなキャンペーンを手がけ、熱いアイデアで世界を沸騰させることを目的に博報堂ケトルを設立した。これまでに8つのグランプリを含む100 を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム&インテグレート部門審査員、アドフェストプロモ&ダイレクト部門審査員長、スパイクスアジアデジタル&モバイル部門審査委員長など20 回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013 年から3 年連続でカンヌライオンズ公式スピーカーに選出された。
1985年東京生まれ。東京大学経済学部卒業。
CMプランナーとして育った知見と技術を生かし、映像のストーリーデザインからコミュニケーションのストーリーデザインまで、エモーショナルなエンゲージメントに取り組む。「GRAVITY CAT / 重力的眩暈子猫編」で世界3大広告賞すべてで金賞を受賞するなど、これまでに6のグランプリを含む50以上の国際賞を受賞。2017年5月より、SIXに複属。
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