今年で3回目を迎えるアドバタイジングウィーク・アジアが、2018年5月14日~17日に六本木の東京ミッドタウンで開催され、4日間で延べ13,000人超が集まり各セミナーが盛況を博しました。当レポートでは、今年最初の基調講演となった「CEO’s Talk 水島正幸 Meets 山本敏博」についてレポートいたします。アドバタイジングウィ―ク・アジアのエグゼクティブプロデューサーであり、イグナイト代表でもある笠松良彦氏がモデレーターとなり、当社代表取締役社長水島正幸と電通代表取締役社長執行役員の山本敏博氏が対談いたしました。
笠松
公の場で両社の社長が対談をされるのは初めてとなりますので、固い話だけでなく、一広告人としてのご意見もぜひお聞きできればと思っています。そもそもなぜお2人は電通、博報堂に入社されたのでしょうか?
山本
いまの学生と違って当時は相当いい加減な就活でしたから、こんな場で話すのもなんですが(笑)。私が大学に入ったのが1978年、卒業したのが81年です。モラトリアム人間の時代とも言われていた当時、自分自身もモラトリアムな人間で、なるべく社会人になるのを先延ばしにしたいという気分でした。要は大人になりたくないという理由で、広告業界を選びました。電通を選んだのは、博報堂の試験に落ちたから(笑)。最初の配属先はテレビラジオ局で、日本テレビ系列の東阪名の放送局を担当するというところからのスタートでした。
水島
私は82年の入社で、山本社長より一つ下の年次です。そういう意味では私も同じような学生時代を過ごしていました。就活のときには、人とは違うことをやりたいなという思いはありました。あと、一生やる仕事だと考えると、面白そうなことをやって生きていったほうがいいだろうと。だったら広告だなと思ったんです。博報堂に行ったのは、電通の試験に落ちたから(笑)。営業に配属になり、担当や勤務地は変わりましたが、その後30年間営業をやっていました。
笠松
どんな定義でも結構ですが、お2人にとって広告とは何でしょうか?
山本
質問を言葉通りに受け取れば、私にとって広告は仕事であり最大の関心事です。私が考える広告の機能とは何かということでいうと、それは昔も今も、広告の対象物―商品やサービス、企業や非営利団体、考え方や意見―それらさまざまな対象物を、個人にとって、また社会にとって、より高い価値を持つもの、あるいは評価されるものに変えることだと思います。知らなかったことを知るというのがまずあり、そこから、知ってはいるけど自分にとっての価値をイメージできないと思っているものを、より良いもの、自分にとって価値があるものにする。そういう機能だと思います。
水島
山本社長の話に通じるところがあると思いますが、市場や価値をつくることはもちろん、自分にとってどう関係のあるものにするか、自分事化する回路をつくるということが重要な役割だと思いますね。平たく言うと、人の心を動かして商品の流通や販売を動かし、さらに得意先の商品がたくさん売れることで世の中が動いていく。そういう「動かす」機能があるのではないかと思います。また、自分が営業だったからかもしれませんが、「つなげる」ことも重要な機能だと思う。たとえば企業と商品と生活者を、広告というコミュニケーションを使ってつなげていく。研究といったサイエンスの部分を、人に届けるアートの部分とつなげる。あるいは広告主と媒体社をつなげる。ブランドを作っていくというのも、生活者の気持ちのなかにつなげていく作業だと思う。この「動かす」と「つなげる」を回していくのが、私のやってきた広告です。
笠松
これからの広告はどうなるのでしょうか?どんな切り口でも結構ですので、ご意見をお聞かせください。
水島
私が入社した80年代前半は、たとえばグラフィックの一枚絵にすばらしいコピーがついているとか、かなり丹念にテレビCMがつくりこまれていたりとか、「ザ・広告」ともいえる時代でした。そこから、商品の発売にあたって、どうやってピークをつくるか、メディア、店頭も使いながら考えて…というように、キャンペーンが広告の仕事のひとつになっていった。その後90年代後半くらいからはブランディングが広告の重要な役割になり、最近ではデジタルが増えていく中で統合コミュニケーションが求められるようになってきました。こうして広告は時代とともに変わってきましたし、これからもますます変わっていくだろうと思います。
特に生活者のあらゆるデータをとれるようになったことで、広告会社も広告主もさまざまなことがわかるようになってきましたから、これからはもっとレベルの高いサービスを提供していかなければならないでしょうし、逆に受け手のほうも「わかっているならもっと攻めてきてよ」というふうに、求めてくるコミュニケーションのレベルが上がってくると思います。ですから単なるキャンペーンや統合コミュニケーションという枠を超えて、たとえばアプリサービスだったり、商品開発だったりも含め、広告の仕事はどんどん広がっていくだろうと思います。
メディアもどんどん変わってきています。知らないことを教えてくれるマスメディアから、いろんなことを探索できたり、個別にいろんなコミュニケーションがとれるデジタルメディアが出てきた。IoTが普及すれば、家や街、社会などあらゆるところがメディアになりえますから、そこからまた新たなコンテンツやサービスが生まれていくでしょう。そういったことも「広告」として大きくとらまえ、自分たちは仕事を展開していかなければならないし、それを面白がったほうがいいのかなと思います。
山本
水島さんのおっしゃったことに100%アグリーです。そのうえであえて言うと、変わりゆく社会に具体的に対処していくというのと同時にもうひとつ、「自分たちは広告をどう変えていくのか」という意志の部分も重要だと考えます。先ほど言ったように、広告の機能は昔もいまも基本的には変わりません。重要なのは、ここにいる全員、笠松さんも水島さんも含め、広告をやっている人間がどういう意志を持つのか。つまり「変わりゆく社会のなかでどんな広告をしようとしているのか」ということだと思います。変化する時代の中で、私たちが広告という仕事を通じて獲得し、磨いてきた能力をもっとも活かせる方法は何なのかを考えながら、広告をいまよりももっと質の高い、もっと効果の高い、もっと効率の良い、もっと精緻な、あるいはもっと拡張できる、もっと楽しい、もっと美しい、もっと力強いものに変えていくんだという意志が必要なのではないでしょうか。それがなければただ後手に回ってしまい、もともとは自分たちの機能を磨くためにつくったはずの中間指標が目的化してしまい、下手をすると広告の本質的な機能を見失って迷走してしまう恐れもあると思います。結局どんなに考えたって、未来がどうなるかなんて誰にもわからない。どう変わっていったとしても、そこにどういう意志があるか、が大事になってくるのかなと思います。
笠松
広告がこの先どうなるかというイシューについては、議論が尽きませんね。お2人からあったように、領域がどんどん変わっていくことで守備範囲も変わっていくということがひとつあります。そのうえで山本社長がおっしゃるように、守備の感覚だけでなく、自分たちがどうしたいかの部分がなければ、この先立ち行かなくなる。その通りだと思います。
そんな未来に向けて、広告会社はどう変化していくべきか、あるいはどう変化させたいとお考えでしょうか。
山本
広告という仕事を通じて我々が獲得してきたはずの能力を拡張し、活用、応用する、その場所や場面を広げていくことが、広告会社に必要な変化だと思います。そのためには広告業界の社会的な存在価値というものをもう一度問い直す必要があるのではないかと思う。もし、広告は社会にとって役に立っているという自覚にたどりつけたならば、その自覚をもって、どうすればより世の中に役立つものに変貌できるかを考えるべきだし、そう変貌していきたいと考えています。
水島
私も同じく、広告会社が存在の意味合いをいかに変えていくかは重要だと思います。実際これまでもだいぶ変わってきたとは思うんです。私が会社に入ったころはまだ客先に「広告お断り」なんて紙が貼ってあったような時代でしたが(笑)、それがだんだん、いろんなところでお役に立てるようになってきました。まだ宣伝部の方への貢献が中心の仕事も多いとは思いますが、ブランドを扱う事業部の仕事や、最近ではCMO(チーフマーケティングオフィサー)と向き合う仕事、あるいは経営のご相談を受ける仕事も増えてきています。そういう意味では我々のやっていること、求められていることの意味合いは、つねに進化していると言える。そんななかで我々が何を培ってきたかというと、「クリエイティビティ」に尽きると思うんですね。クリエイターのクリエイティビティというよりは、「クリエイティビティをもって世の中に価値をつくっていく」ということ。それこそがそもそもの会社の機能であり、DNAだと思うんです。その機能がこれからどういう風に求められていくのか。あるいは、我々がそこにどんな意味合いを持たせられるかが非常に重要だと思います。
デジタルトランスフォーメーションで事業構造そのものが変わっていくタイミングで、もしかしたら我々広告会社が、イノベーションや事業開発の領域で新たな価値をつくったり、もたらすことができるかもしれない。それは一つの夢ですし、これから広告会社がもっともっとやっていかないといけないことだと思います。そこで忘れてはならないのが、ワクワクやドキドキのようなもの、面白がることです。そして、せっかく広告会社がそうした領域に関わるのであれば、「やばい、こんなこと考えるんだ」と思ってもらえるような、お得意先に驚きをもたらすようなもの―ひいては生活者にサプライズをもたらすものでなければならないと思います。やはりそこが、我々が機能を発揮できる大事な部分だと思うんです。もっともっと役に立ち、面白いことをやりながら仕事をするというような感じがいいのかな、という風に思います。
笠松
これから業界をもっと面白くしていくために、一人一人の広告人はどんなプロ意識を持つべきでしょうか。
水島
広告業界には、いい意味で無限の可能性があると思います。そんななかで、これからどう変わっていくのか、どっちにいくとより面白がれるのか、という好奇心が一番重要なのではないかなと思います。よその業界に行ってしまう若手もいたりしますが、割と何をやってもいいというのが広告会社の良さでもあるので、せっかく無限の可能性があるのだったら、自分の好奇心を発揮しながら、いまいる会社でそれに熱狂的にチャレンジしてみるというのが、ベーシックに一番大事かと思います。
山本
水島社長にまったく同感です。それを成立させるために、これから特に持っておくべきことが3つあると思います。
広告には、人に向かっていくもの、社会に向かっていくものという2種類がありますが、特に後者に関しては、これから人の生活が手に取るようにわかるようになり、技術的にもできることがどんどん増えていきます。そういう意味で、人の人生、あるいは社会に深くかかわってしまう度合いが高くなってくるわけで、これからますます「自覚と覚悟」が必要だし、洞察が必要だし、倫理観、謙虚さ、企て、野心が必要になってくると思います。
また、広告というのは事業活動の中の一つのプロセス――もっと言うと勘定科目の一つです。昔からそうだし今後もそれは変わらないでしょう。広告の境界線がぼやけてくるなかでは、ますます事業やビジネス全体から広告をとらえる「視野や視座」が求められますし、それがなければ事業全体から乖離してしまうことになる。
最後に必要なのは、成功体験や過去のメソッドを捨てる「思い切り」です。強い情熱と意欲とともに、つねに毎日、捨てていく思い切りが必要だと思います。これら3つを持って、水島さんが言うように、楽しく面白く、人のやらないところに向かっていければと思います。
笠松
最後に、いま目の前に大学4年の自分がいたら、どうやって入社を誘いますか。
山本
社長になれるぞ。なったらひどいぞということは言わずに(笑)。
水島
私も一緒で、お前でも社長になれるぞと言います(笑)。
笠松
わかりました(笑)。お2人ともありがとうございました。