博報堂プロダクツのフォトグラファ-23名と博報堂のアートディレクター23名が タッグを組んだ写真展 「脳よだれ展2018」が、 2018年6月28日~7月8日、スパイラルガーデン(表参道)にて開催されています。
今回は、本写真展のテーマや見どころについて、博報堂プロダクツのフォトグラファー百々 新、プロデューサー後藤 塁、博報堂のアートディレクター原野 賢太郎に話を伺いました。
後藤:この企画展は、博報堂のアートディレクターと博報堂プロダクツのフォトグラファーがタッグを組んで、ビジュアルチャレンジを行い、次の広告・クリエイティブをどうしていけばいいか、ということを考えていく場でもあります。今回は、人間の持つ「23の欲求」というテーマのもと、言葉や理屈を超えて、人間の生理に強く働きかけるビジュアルを究めてみよう、という試みです。特設Webサイトや海外賞へのエントリー等も行っており、力を入れて取り組んでいます。
百々:この「脳よだれ」という考え方は、シズル写真から由来しています。「シズル」とはどういうことなのかを突き詰めていった時に、人間が本能的に反応するようなことではないかという解釈に至り、「脳からよだれが出る」=「脳よだれ」というコンセプトが出来ました。今回はさらに「23の欲求」というテーマを設定することによって、目指す方向を明確にしています。
後藤:まず、今まで一緒に仕事をしたことのない人と組めるというのは大きいですよね。あと、普段の業務では、伝えるべきことが既に決まっていて、グラフィックをどれだけジャンプアップさせるかというところが主ですが、「脳よだれ展2018」では、「○○欲」というテーマに対して、その欲とは一体何なのかを本質的に考え、伝えることをゼロから自分たちで考えるので、とてもためになるなと思います。
百々:そうですね、「問題を解決する」のではなくて、逆に「問題を提起する」ような行為はなかなかやらないので、やりがいを感じるし、難しいことにチャレンジする醍醐味はありますね。
後藤:今回の作品制作する上で、皆で気をつけようと言っていたのが、安直にその欲求を伝える絵にしないということです。つまり、涎を出させるために梅干しの絵を見せるようなことです。その写真がちゃんと本能を刺激できているか、というところまで深く考えることが難しさでもあり、醍醐味でもあります。
原野:個人的に感じていることなのですが、いつもアートディレクターは、クライアントに説明する時、一生懸命「言葉」を使って、入口から出口まで道筋を立て計算してプレゼンテーションをしているんですね。言葉で説明しようとして意味を考えがちなのですが、「脳よだれ展」は欲望という感覚的なものを伝えていくために、言葉ではないところで戦わなければならない。頭の中でもやもやとしているけど言葉にできないことを絵にぶつけるという部分ですかね。
原野:「脳よだれ展」に参加することによって、自分の可能性の幅、自分の余白を広げて、また業務に戻る、というのは価値だと思います。「広告」とついた瞬間に「広告脳」になってしまいがちです。しかし、今の時代は、もっと視野を広げて色んなことを取り入れて広げていくべきだと思うので、そのチャレンジになっていると思います。その一歩踏みだしている感じは、時代にフィットしている気がします。
百々:広告会社のプロフェッショナルが集っているのでそのクオリティを感じてもらえたらと思います。最近は、大型のポスターが減ってきていますが、プリンティングのディテール、どこまで近づいても精細に見えるというような本物ならではの距離感も含めて、会場でオリジナルプリントをみて体感していただきたいです。
後藤:「承認欲求」という言葉があると思うのですが、あの欲求って、SNSが出てきて意識されるようになった気がするんです。今まであった言葉ではあるのですが、言われて初めて、自分のこの感情って承認欲求だったんだ、という風に意識するようになりましたよね。同様に、今回展覧会で取り上げている「23の欲求」のなかで、聞いたことや、自覚したことがない欲求もあると思うのですが、作品を見て、自分の中にあった無自覚の欲求に改めて出会うような、そんな発見があるのも、この展覧会の見どころだと思います。
原野:僕は、この展覧会を見た後に、普段の生活がちょっと面白くなるといいなと思っているんです。今回の作品たちって、日常の風景を、切り取り方によって色んな解釈を提示していると思うのですが、それを鑑賞した方々が、普段の生活の中で「これって○○欲なのかな」とかを意識して面白く見えてくるような、日常の見え方に少しでも変化が起こるといいなと思います。この写真展は自分の脳を柔らかくして、帰ってもらえるといいなと。
百々:北風さん(博報堂取締役常務執行役員 北風勝)が今回の展覧会カタログへ書いて下さった言葉があるんです。
「昨今、優勢なのは圧倒的に「べき」である。「こんなんでいいかも?」的なアイデアはどうにも肩身が狭いのだ。(中略)ここにもっともらしい「べき」はない。あるのはすべて「かも」である。無数の「かも」が脳ミソの深淵なる察知能力をツンツンと刺激して、瞬時のうちにあなたの脳はダラリと垂涎したに違いない」
この展覧会や「脳よだれ」という概念が、今の世の中を少しでも面白くできるといいなと思います。
「脳よだれ展2018」は、2018年7月8日(日)まで開催しています。
本能が刺激され、脳からよだれが出る感覚を体感し、
普段なかなか考える機会のない自分の中の「23の欲求」と向き合う時間を、
是非、会場で味わってください。