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【アルスエレクトロニカフェスティバル2018 レポート】
Error- the art of imperfection 最適化からはみ出た部分”エラー”を如何に価値としてリフレーミングできるか?

2018.12.12
#アルスエレクトロニカ#イノベーション#クリエイティブ#グローバル#テクノロジー#博報堂ブランド・イノベーションデザイン

今年もメディア・アートの祭典・アルスエレクトロニカフェスティバルが9月初旬にオーストリア・リンツ市で実施されました。動員数は5日間で10万5000人超と過去最高人数を更新。また、54カ国から1,300名を超えるアーティスト、サイエンティスト、テクノロジストなどが参加され、大きなフェスティバルとなりました。

フェスティバル動画

今年のフェスティバルテーマは、「エラー/不完全性のアート」

いきなり脱線しますが、今年のフェスティバルのテーマ、「エラー」というキーワードを初めて聞いたのは、今年の初め。私がアルスエレクトロニカ・フューチャーラボに研修滞在していた時のことでした。アルスエレクトロニカの芸術監督、ゲルフリード・ストッカーさんとフューチャーラボのメンバーが、今年のフェスティバルテーマについて、前年度のテーマが「AI(Artificial Intelligence)」だったことを鑑みて、今年はどう言ったテーマにするか、とブレーンストーミングをしていた時、幸運なことに私もその場に居合わせていたのです。

昨年のテーマ”The Artificial Intelligence –The Other I” credit:Ramiro Joly-Mascheroni & Aline Sardin-Dalmasso

色々とキーワードが出る中で、もっと人を勇気付けられる、人の可能性を感じられる言葉は無いか、と盛んに議論されていました。
そんな時、ふと「Error」という言葉が出た瞬間、その場にいた全員の時間がピタリと止まりました。そしてリンツの街中に「ERROR」と書かれたポスターが貼られたフェスティバルの光景が目に浮かんできました。おそらくその場にいた全員がその時、同じ風景を思い描いたのだと思います。その後は、もう堰を切ったように、「エラーは人にも機械にもかかる言葉だ(マシーン・エラー、ヒューマン・エラー)」、「ヒューマン・エラーは人間のクリエイティビティのことだよね!」と、次々にアイデアが出て、もうエラーしかない!という雰囲気でその会議は笑顔で終わりました。
その数ヶ月後、晴れて「ERROR」というテーマで9月にフェスティバルが実施されました。

今年度のメインビジュアル・ポスター credit: Ars Electronica / Martin Hieslmair
フェスティバル期間中リンツ中央駅の電子看板に掲示された”エラー”ポスター Credit: Martin Hieslmair

今回のテーマは、AIが搭載され、最適化社会へと進みつつある現代において、人間の営みすらもエラーとして捉えてしまう可能性に焦点に当て、エラーとされる部分こそが人間にとってのチャンスであり、最後の切り札なのではないか、我々は不完全性を受け入れる勇気を持とうと世の中へ提案をしました。いかにもアルスエレクトロニカらしい視点の切り方です。

ERROR=社会を見る眼差しの話

博報堂チームは、このテーマを、社会が目まぐるしく変化をしていく中で、いわゆる最適化からはみ出た部分=”見立てとのズレ”をポジティブにとらえる積極的な姿勢はどう作ることができるか?つまり、エラーを失敗と捉えるのではなく、どう価値としてリフレーミングできるか?と紐解きました。

多様な価値観が存在し、今まで見えていなかったもの、見ていなかったものが顕在化してきた社会で、一人一人が寛容性を求められる時代に突入していること。アニミズムという東洋の思想を取り入れることで、人と情報との関係性が今大きく飛躍する時代を迎えているということ。デジタルコミュニティという存在がフィジカルなコミュニティと同等に近い存在で浮かび上がり、それに合わせて既存のシステムをアップデートが求められていること。などなど。
アートから色々と未来への兆しを発見する中で、今を生きる私たちが、新しい価値観に対して、今までの既存の思考では受け入れられないと拒否するか、面白がってチャンスとして捉えられるかで、大きく将来へ影響を及ぼす時代だと気づかされました。私たちは大きな変革期の真っ只中にいると、一人一人に自覚を促すテーマだと思っています。

フェスティバル終了後、改めて全体を見直したところで、”エラー”をリフレーミングする視点を以下3つ挙げさせていただきます。その視点でなぞりながら、本当に一部だけですが作品をご紹介します!フェスティバルの空気を少しでも感じていただければと思います!

メイン会場である“POST CITY”のインフォメーションセンター前の様子 Credit: Martin Hieslmair

Hakuhodo’s View Point①Artistic Journalism

目まぐるしく変化するデジタル時代に対し、人間のやり方・クリエイティビティを発揮する場所はどこか、またはエラーと判断する軸のあり方を問う作品やプロジェクトたち。社会・時代への批判を投げかけ、今まで見えていなかったものを可視化し、体験化していく作品が多く見られたことから、アーティストが示す現代のジャーナリズムのあり方であると定めました。

作品①Useless Weapons Series / Alexandra Ehrlich Speiser (AT)

ダークウェブ上でシェアされている武器の3Dデータを改ざんし、使用不可に、かつプレイフルなものと変化させる取り組み。シェアされることがすべていいこととは限らない、と現在のエラーをあぶり出す。

Credit: vog.photo

作品②The Art of Deception / Isaac Monté (BE), Toby Kiers (US)

例えば、自身の顔を整形することができるように、これから体の内部-心臓すらシェイプデザインできる時代が来たら。美しく装飾された(豚の)心臓が、私たちは今の自分の状態から、体内から逸脱できる(エラーを起こす)可能性を示している。

Credit: Vanessa Graf

作品③MOGU Leather / Mogu S.r.l. - Maurizio Montalti (IT/NL)

キノコの菌糸から生成したサステナブルな皮革製品。失敗から偶然生まれたものであるとアーティスト自身が語っていたことが印象的なプロジェクト。最適化された実験では出会えない発見、失敗(エラー)がチャンスに変化することを物語っている。

Credit: tom mesic

Hakuhodo’s View Point②Animated Things

今後、人間と情報はどのような関係性を築くのか。人のような振る舞いをする何か(Things)・ただプログラミングされている動きに生命性を見出す人間のサガを刺激する領域の存在感が増してきています。私たちが生きる社会の輪郭がラディカルに変化することを予感させる作品たち。最適化社会が進む先に、私たちは何に愛着・喜びを感じることができるのか?未来に想いを馳せてみましょう。

作品④Mother of Machine / Sarah Petkus (US)

人は他人との境界を、個体としてはっきり自分とは別人だと見極めることができるが、このロボットは鑑賞者を母親度数で認識・判断し、その結果を後方のスクリーンで周囲へと共有する。人間とは違う視点を持つことをオープンにしている。このロボットを制作したアーティストは、この子を愛し育てていると明言している。(ちなみに私の母親度は”Mammy 8%”でした。)

Credit: tom mesic

作品⑤Anima / Risako Kawashima (JP), Yasuaki Kakehi (JP)

デジタルデバイスに息を吹き込むことで明かりがともされる作品。
シャボン玉が触れると明かりがつき、割れると明かりは消える。物や空間に愛着や人間らしさを感じるデバイスのあり方を示唆している。

Credit: Risako Kawashima, Yasuaki Kakehi

Hakuhodo’s View③Digital Communities

情報という価値を再定義し、その個人情報から得られる利益を市民に公平に還元するプロジェクトや、フェイクニュースを見極める技をウェブ上で公開しているもの、ただ目的もなく人と人をつなぐだけではコミュニティなど生まれないと風刺している作品など、ひとり一人の市民のつながりが、社会の力になるための仕組みとはいったい何か?を提示する流れが見られました。
ページの関係上、作品紹介は割愛しますが、今年のプリ・アルスエレクトロニカのデジタルコミュニティ部門をチェックしてみてください!(英語版のみです)
https://ars.electronica.art/prix/en/winners/

終わりに What is “the real world” in our age?

最適化社会が進む中、私たち自身が備えているクリエイティビティ・能力だと信じている部分すらエラーと判断される状況に今後陥るかもしれません。
アルスエレクトロニカは、アート・テクノロジー・社会の視点で今の世相を浮かび上がらせる作品をキュレーションし、私たちに今何ができるのかを考え、実践していく場としてのフェスティバルを提供し続け、約40年もグローバルレベルで支持されています。
未来を志向しながら、今この時代に何が起きているのか?を知り、今の私たちのリアル”現実世界”は他の誰でもない我々が作っているからこそ、より良い世界になるために、しっかりしなさいと大きな力で言われているような気持ちになりました。
今年の「エラー」は、私たちはピンチがチャンスと片付けるには簡単なことではないですが、そこがイノベーションを起こすためのきっかけになると可能性を感じる機会となりました。
実際のフェスティバルでは、ここで語った数千倍の熱量が満ち溢れています。そこに集まる人の熱気はもちろん、クリエイティブな環境から触発されて生み出されるディスカッション、体験型プログラム、シンポジウム、コンサートなど街中で展開されています。
企業向けのツアーも現地で行っていますので、ご興味があればご連絡ください。
それでは、また来年リンツでお会いしましょう!

田中 れな(たなか れな)
博報堂ブランド・イノベーションデザイン
クリエイティブプロデューサー

2007年博報堂入社。営業職として、様々な企業の広告制作、新商品開発、戦略ブランディング、メディアプランニングなど、ブランドのコミュニケーション設計に携わる。現在は世界的クリエイティブ機関アルスエレクトロニカとの共同プロジェクト「Ars Electronica Tokyo Initiative」を推進し、企業のイノベーション支援プログラムを多数提供している。

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