ベトナムの小売市場では、トラディショナルトレード(チェーン店化されていない小さな個人商店)が多く、例えば日用消費財については、トラディショナルトレードで購入する人が80%~90%を占めるといわれています。その一方で近年、モダントレード(スーパー、ドラッグストア、家電量販等チェーン化されたお店)が急速に伸張しています。
今後ベトナムでさらなる増加が予想されるモダントレードの店舗におけるショッパー(買物客)行動の特徴を解明することを目的に、自社で商品開発から製造・販売までを手がけている、ベトナム発の某大手アパレルブランドにご協力いただき、ホーチミン市内3店舗にて調査を行いました。
購入の有無に関わらず、全ての来店客の行動を把握するため、調査では「ショッパートラッキングシステム」と呼ばれるAIカメラを活用しました。本システムは、来店客数や年齢・性別のほか、店舗内の回遊特性(どのエリアにどのくらい滞在していたか)などを判別することができ、既に日本を始め各国で実用化されている技術です。今回ベトナムの買物客の行動の解明と、それを基にした商品改革や店舗改革も視野に入れ、分析を実施しました。
各店舗288時間分の映像データから来店客の行動パターンを分析すると、属性ごとに回遊エリアの特性が見えてきました。
ショッパートラッキングシステムで取得したデータに、POSデータを掛け合わせて分析したところ、上記アパレルブランドの来店客に関して、
・ 40代以上の買物客は購入率が非常に高く、安価な商品を数分足らずで購入して帰る
・ 一方で20代、30代の男女は来店客の多くを占め、滞在時間も非常に長いにも関わらず、購入率が低い
・ 20代、30代は店舗の中でもある特定の陳列棚の前で立ち止まる率が非常に高い
という特徴が見られました。
わざわざ店舗に訪れたにも関わらず、何も買わずに帰ってしまう人は実は多く、その購買ポテンシャルは高いと考えられます。しかし今まで、購入せずに帰ってしまう人に関するデータを取得することは難しく、ブラックボックスとなっていました。今回ショッパートラッキングシステムを活用し分析することで、期待して足を運んでくれたにも関わらず残念ながら購入してくれなかった人=「Mr./Ms. X」の行動を見える化することが可能に。このMr./Ms. Xをターゲットとするマーケティング手法「買わなかった人マーケティング(Mr. X marketing)」※1で、店舗戦略を検討しました。
上述の分析結果から、
「Mr./Ms. X = ある特定の売り場・棚に興味を示すも買わずに帰る20代、30代男女」
と規定し、彼らを中心にすえた商品改革、店舗改革が結果として売上を伸ばすことが近道なのではないかという仮説のもと、ターゲットの特徴に応じた以下の施策案を作成しました。
① ゆったりと寛ぎながら比較検討するのが楽しくなる空間を作る
② クロスセルを促す(もう一つ商品を購入してもらう)ため、商品の配置を工夫
③ 調査により、ターゲットの60%は午後5時以降に来店していることから、その時間帯にショーウィンドウのディスプレイやライティングを工夫
④ 同時に、午後5時以降の顧客対応が手薄にならないよう、店員を増やす
現在、これらの施策案を具現化したパイロット店舗を作り、実証実験を行っています。ショッパートラッキングシステムを活用してPDCAを回しながら改良を重ねています。
ベトナムにおける店舗戦略を検討する場合、バイクを中心とした移動手段や、家族や友人との来店率の高さといった、ベトナム特有の生活者行動を考慮した、独自のショッパーマーケティングが必要となります。
5Gなどテクノロジーの進化により、リアル店舗、EC、工場、物流など、買物を取り巻くあらゆる要素がインターネットでつながる日が近くやってきますが、そのような新しい時代も、生活者の視点を忘れず、「Mr. X」を見つけることがビジネスの成長を導く鍵の一つになると我々は考えます。
さらなる発展が確実視されるベトナムマーケットにて、効率的で洗練された店舗戦略の構築と実現を支援してまいります。
※1:買わなかった人マーケティング(Mr. X marketing)
一般的に購入者に焦点が当てられるPOSデータ分析とは異なり、お店まで来たが商品を買わなかった潜在顧客を捕捉し購入者へと変える為のオリジナルメソッド