神田:
僕は博報堂クリエイティブ・ヴォックスで10年ほどCMプラナーをして、2015年から博報堂のクリエイティブ局にいます。広く映像に携わっていて、他にもテレビ東京系の「きのう何食べた?」というテレビドラマの企画監修もしています。
伊藤:
僕は2006年に博報堂に入社しました。営業局でデジタル領域のクライアントを5年間担当し、その後EBUとストラテジックプラニング局を経て2016年に縁あって博報堂ケトルに出向。今は事業戦略、コミュニケーション戦略立案からデジタルを活かした施策、メディアプランニング、トラッキングまで幅広く担当しています。
伊藤:
僕は2年前からジェームスチームにジョインしました。クライアントは「テレビCMを全てWEBにシフトしよう」という思い切った舵取りに踏み切ろうとしていて、社長プレゼンという大きな仕事からの参加でした。
憧れの神田さんとやれる!!という喜びで興奮しましたね。神田さんは博報堂クリエイティブ・ヴォックス時代から話題作を沢山世に出していて、常人離れした感性で有名人でした(笑)。僕は前からずーっと仕事したかったんです。
伊藤:
お話しをいただいた時、WEBの特性を活かしてつくるコミュニケーション戦略は「受動性より能動性」にしようと思いました。
アクセスした人が、ごく自然に続きを観たくなって訪問してくれて、連続性とか継続性が出て、好き勝手に拡散してくれるものじゃないですか。そいう能動的な構図を作りたいとクライアントにお伝えしたところ、「おもしろそうだね」って言ってくださいました。
中身については、とにかく神田さんのセンスに全面的に頼ることにしたので、まずは神田さんのところにとんでいったことを覚えています。SNSを使いこなす世代が、絶対にハマってシェアしてくれるものを作るぞと意気込みました。
神田:
なぜ10秒にしたか、ですが、認知も上げたい、ファンもつくりたい、ラインナップの豊富さも伝えたい・・・と入れ込むべき要素の多さを整理していた時、ふと、動画の「秒数の価値」について考え直したんです。
オウンドメディアでオンエアされている動画って数分にわたるのものから30秒、15秒と色々あるじゃないですか。長い間15秒CMを基本に作り続けてきた経験から、スマホでは15秒でさえ既に長いと感じる生活者が多いことをあらためて思い出したわけです。10秒だったら、視聴ハードルを下げるという力があるな、と。
1本の長尺動画で多様な商品ラインナップを紹介するよりは続けて見たくなる連続した短尺動画の連作で、次々と商品を見せていく方が効果的なんじゃないかと考えて「連続10秒ドラマ」というアイデアが生まれました。商品と違うところで面白くしがちなWEB動画だけど毎回商品に必ず落とすという構成も新しく見えるのではと思いました。
神田:
「商品登場の瞬間が一番笑いのポイントになる」という新しさを狙ったんです。商品が出てくるカットって、視聴者にとってはつまらなくなることもあるでしょ(笑)。
さらに、カー用品がストーリーに自然に入ってくるようにするように、車の密室恋愛とか、車を巡るミステリーとかホラー、SFとか、色々なジャンルを考えたんですが、一番スムーズに毎回車を登場させられるのが「昼ドラのような大人の恋愛ドラマ劇」かなというところに落ち着きました。
伊藤:
1000万回再生されて、最初の7話を終えた時点で、既にかなりのファンがついてくれていましたが、継続すべき理由をロジカルに説明することが我々に求められました。
ツイッターでのつぶやきとか、「続きが見たい」と言ってくれる方たちの声を集め、さらに、プラスアルファでこういった
PR戦略が必要です、というストーリーを携えて得意先に出向いたんですが、社長が開口いちばんに、「あれはおもしろいから継続しよう」って。 資料を見る前におっしゃっていただけたんですよ。うれしかったです。
伊藤:
社長はもともとマーケティングのトップにいらっしゃった方で 、 それだけにロジカルなモノの考え方は当然のように身についていらっしゃいます。それだからかな? 広告クリエイティブが大好きな方なんですよ。
プレゼンや打ち合わせに伺うと、「早く、見せて!」といつも催促してくださいます(笑)。
そして、お見せすると判断は早い。クリエイティブを観る前に、すべての状況、問題点をご自分で完璧に把握して消化なさっているので、あっという間に判断いただけるんだと思うんです。
神田:
たとえば、17話で、タイヤに「ウンコ」(すいません、下品で)と落書きするシーンがある。そんな言葉使うなと却下されるかな、と思い、ルージュで車のフロントガラスに違うメッセージを落書きするシーンも準備してお見せしたら、社長が「いや口紅はだめだな。嫌な感じを与える。タイヤにウンコは全く問題ないよ」と。
伊藤:
お話しするたび、直感的なご判断がいつも冴えわたっておられてすごいなと感じます。
神田:
10秒という自分でまいた種のハードルが、めちゃくちゃ高かったです(笑)。
ストーリーがおもしろくて、感情の機微まで描いて、ストーリーがつながっていて、毎回必ず商品に落ちる・・・を継続していくのが、話が進むにつれて考え甲斐があるけど頭を悩ませました。
神田:
商品も好きなものを好きなタイミングで出せるわけではありません。冬にしか出せないタイヤがあったり季節も関係しますし。クライアントさんには必須商品をいくつか決めていただいてその他商品を多めに出していただいてます。
で、ストーリーのつながりや商品ベネフィットのわかりやすさを照らし合わせながら僕の方でピックアップさせてもらう形にしています。
企画考案の思考回路としては、いったん商品からはなれた全然関係ないストーリーから発想するのと、両極から考え始めてどこかでつなげる、という方法を1か月近く続けていました。
伊藤:
僕は、神田さんの“つなげていく作業”の大変さを見ていたので、ようやくつながった案を見たクライアントが、「こちらの商品に変えてほしいんだけど」というご指示をいただいたときに最高につらかったです(笑)。
神田:
きれいにはまるときもあるし、ゼロから考え直すときもあるしっていうところで。
ストーリーラインがあるから、商品の順番を一個崩すと全体が崩れるんですよね。だからカセット式になんでもハマるわけじゃないのが難しいところです。
最近は「もう、そろそろないね、出す商品」って言われてます(笑)
でも今、21話まで来ていて、今月22話目を撮影予定です。楽しみにしてください。
神田:
タクティーの社長から現場の方まで面白いと言っていただけたこと、ヒットしたこと、いろいろ賞をいただいたこと、そのどれもがうれしかったです。
ですが、エピソードとして自分としても幸せを感じた瞬間は、撮影現場で役者陣が、「10秒でよくこんだけ面白い要素がはいりますね、すごいですねー」って、企画を褒めてくれたんです。
演じている役者さんに広告制作の現場で企画を褒めてもらえる経験って今まであまりなかったんです。10秒に詰め込んで成立させる苦労がわかってもらえたんだ!と思って報われた気持ちがしました。
伊藤:
僕も、撮影終了時には「お疲れさまでした、次の撮影はいつなんですか?楽しみ」って役者さん達に言っていただけたときに、何かすごくいいなって思いましたね。
神田:
そうですね、特にスパイクスでのフィルム部門とフィルムクラフト部門のダブルグランプリは日本人としては初めてだそうで、「10秒であらゆる要素を全て盛り込んだ上でおもしろくしているのが職人芸=クラフトだ」というコメントと、「すべての登場商品から逃げずにつくるというこの姿勢は正しい」と評価されたと聞いています。
ACCは「ジェームスが圧倒的な差だった」と審査委員長がコメントしてくださいました。だからACCもスパイクスも最後まで紛糾したようなことはなく様々な国籍の審査員たちが文句なしだったというような話を聞きましたね。これしかない、と。
伊藤:
審査員の方々が、単純に大爆笑だったと受賞後に聞きました。しかも商品で落ちているって、これはいったいどういうこと?!スクリプトの書き方もすごいねってなったそうです。
伊藤:
それが意外でしたね。一見ベタなドメスティックギャグですからね。
エントリー映像に、英語の字幕を入れるのが実は大変な作業でしたよね。
神田:
そうそう。日本語と英語のニュアンスが違うので。
伊藤:
たとえば部長ということばひとつとっても、「ボス」だとちょっと違うよね、「肩書では「シニア」らしいんですが、みたいなことを神田さんと延々話して、結局「ボス」でいきましたけど。
神田:
そういうのってセンスなんですが、伊藤が英語できるからすごく助かりました。
普通に翻訳してもどことなく機械的に上がってきちゃうから。クリエイティブの内容をちゃんと理解して言葉をチョイスしてくれる人の存在って海外賞だとかなり効いてくるんじゃないかと思います。
神田:
賞を狙うというのを反対する人も結構いるんですけど、僕は正しいと思っていて。
賞を取れるレベルに達しているクリエイティブって世の中の評価も高く、話題になったり、好感度もあがったりします。特にCMの場合は顕著です。
世の中に広く伝えるのが広告の役割だから、世の中の気持ちをつかむためには何を基準にしたらいいかというときに、賞を取れるかどうかって分かりやすい目安になります。
神田:
そうですね、狙ったほうがいい。
賞をとると、作品も企業も広く知ってもらえるんで、特に今回のタクティーの仕事はKPIが認知アップだったから、受賞したニュースによって結果的にいろんな人に知ってもらえて目的達成に貢献できたと思います。あと、動画の場合は検索して見に来てくれる人も増えるのがいい効果だなと。
伊藤:
何か単純にクリエイターだから賞を狙うというより、神田さんが言ったようにそのクライアントにとってもハッピーになるという目的があるから狙うっていうのはいいと思うんですよね。クリエイター自身の名前を知ってもらえるというのはもちろん結果としてついてくるし。
「広告会社は賞を狙うために作っているんでしょ」とおっしゃるクライアントもいらっしゃいます。
ジェームスはコミュニケーションについて考えるとき、僕たちをチームの一員としてみてくださり、同じ目的に向けてみんなが一丸となるような環境をつくってくださっていたので、受賞も自分達のこととして一緒に喜んでいただきました。何かひとつの正しい“賞獲り”の姿かな、なんて。
神田:
めちゃくちゃ喜んでくださいました。
伊藤:
社長にプレゼンテーションさせていただく機会は年4回くらいありますが、場所が博報堂ケトルになることもあり、そのようなシチュエーションも楽しみにしてくださっています。
1979年生まれ。博報堂クリエイティブ・ヴォックスで10年間ほどCMプランナーとして活動した後、2015年博報堂入社。飲料、化粧品、スポーツくじなど幅広い業界のキャンペーン作品を手がけ、ACCグランプリ、ADFEST Film craft GOLD、文化庁メディア芸術祭マンガ部門、London International Awards、朝日広告賞など多数の広告賞を受賞。
2019年「愛の停止線」(株式会社タクティー、ジェームス)の10秒CMは、ACC賞とスパイクスアジアでグランプリを受賞した他、TCC賞にも輝いた。
1981年東京都生まれ。2006年博報堂入社。営業職、インタラクティブ職、得意先常駐、ストラテジックプラニング職で統合コミュニケーションを学び実践。2016年に博報堂ケトル参加。事業戦略、コミュニケーション戦略立案からデジタルを活かした施策、メディアプランニング、トラッキングまでの領域を担当。