「絶メシリスト」とは、店主の高年齢化や後継ぎ問題などで、時代と共に次々となくなっている地方の街の“絶やすには惜しすぎる絶品グルメ”を「絶メシ」と名付け、群馬県高崎市の市民に愛される老舗食堂を紹介する飲食情報店サイトです。群馬県高崎市・博報堂・博報堂ケトルが共同で企画し、2017年9月にウェブサイトを公開しました。地元に愛されていた老舗食堂「絶メシ店」を紹介するだけでなく、お店の後継者やインターンの募集も行っています。
― このコラボレーションとアイデアが生まれたきっかけ、実施までのエピソード、そしてこれからの取り組みについて伺っていきたいのですが。
富岡(高崎市長): そもそもは、街の個性をアピールするいい知恵はないかと常々思っていたこと。パンフレットを作るといった既存の方法では、あまり効果がないと思ったので。それと、もう一つは高崎の飲食分野の課題です。街の魅力の発信において、飲食は大きなウエートを占めますが、高崎には港があるわけでもないし、特産物があるわけでもない、有名な飲食店が沢山あるわけでもないので、どうしたら効果的な宣伝ができるだろうかと悩んでいました。この2点について、知恵をお借りしながら取り組もうと公募したところ、博報堂の提案が一番よく考えられたものだったのです。絶メシの企画は、博報堂のお二人から「路地の片隅にあって、店自体はそんなにかっこよくないけれど、市民の皆さんが愛していて、おいしいと思っている店、そういう店を発信しましょうよ」と言われたのがきっかけで生まれました。ただ、絶メシという言葉には否定的な印象があり、気になりましたが、「絶やしたくない、絶品を出す店」という説明を受け、それでいこうとなりました。絶メシリストの制作にあたっては、「市長の推薦は受けません。私たちが選びます」と言われました。こういう志がしっかりしている人たちがやるのは安心できます。第一線の飲食のルポライターが市のレンタサイクルであちこちまわって食べ歩き、店のおやじさんと話をして書いてくれました。地に足の着いた取り組みで、たいしたものだと思います。
この取り組みの成果ですか? 一番は、経営しているおじさんやおばさんが胸を張るようになったこと。またその店を行きつけにしている住民の皆さんが、ここが絶メシに載ったんだよねと話題にして、称揚するというか、褒めるというか、胸を張るということがとても大きいですね。自分たちの支えてきた店が改めて評価されたということは、地域での自分自身の生活が評価されたと思ってくれたということです。そういう意味で地方文化の発信なんです。これから先については、飲食店だけではなく、お豆腐屋さんのおいしい油揚げや、おいしい手作りのコロッケといったものにも光を当てようと考えています。
― 一気にお話し頂きました(笑)。では博報堂の二人に。公募の件を聞いた時、どう思いました?
畑中(博報堂ケトル): 面白いと思いましたが、東京と同じ視点でやっても、盛り上がらないだろうなと。それでフィールドマーケティングを行い、色々食べ歩きました。
日野(博報堂ケトル): その過程で、市民の皆さんが「いい店だったけれど、ここもあそこもなくなった」などとおっしゃるわけです。そうか、飲食店がなくなっているのかという想いを持ち帰りました。
畑中: そうして「店がなくなる前に食べてほしい」という紹介の仕方ができないか、と思ったのが始まりです。
日野: 実はメディアに出ることに、どのお店もあまり積極的ではありませんでした。皆さんご高齢なので、お客さんが増えたら、対応にちょっと自信がないと。だから、テレビなどの取材が来ても断られることがありました。そうした中で、「デルムンド」という店は全て受けてくれました。そこには、高崎のために一肌脱ぎたいという気持ちがあり、そういう想いにすごく支えられてリストができました。また、高崎映画祭のプロデューサーなどで活躍されている志尾睦子さんからは、「映画館を持っているから、動画を作れば、そこで流しますよ」とご提案頂きました。予算が限られていたのですが、色々なところから費用を捻出して、CM監督をはじめ、高崎出身の皆さんに協力して頂いてCMが生まれました。そのCMが広告賞をとって、それでまたニュースになり、さらに多くの人が手伝ってくれるようになりました。
観光協会が大きな看板を作って駅前に置いてくれたり、JRが、通常はポスターを貼れないところにも沢山貼ってくれたりとか。街の人が、自分たちの街が盛り上がるといいなと思って、自分たちのできることで協力してくださったという感じはすごくありますね。
富岡: カンヌの前に、ニューヨークの広告祭で賞をとった時に、絶メシを英語で何と訳すのかと思ったら、「レッドリストレストラン」というそうなんです。面白いですよね、絶滅危惧種ですよ。レッドリストとは、愛着が感じられますね。
畑中: 世界にもあるらしいですよ。日本だけでなく、世界でも飲食店がどんどんつぶれていて、審査員たちはそれがわかっていたんですね。それでニューヨークで賞を頂きました。
― これからについて、何か夢や構想はありますか。
日野: 絶メシリストが決まった時に、市長が、日本全国の地方都市が同じように困っている問題だから、絶メシがうまくいったら、他の街でもやったらいいよとおっしゃったんです。それがすごく印象的でした。地域プロモーションは、どうしても自分たちしか持っていないものを探しに行くと思いますが、この企画は、実はどこの街でもあるものを、高崎という街でピックアップして編集するというものでした。実際に現在、石川県や福岡県の柳川市など、色々なところからお話を頂いていて、すごく面白い動きになっていると思います。
畑中: 今後の展開として、「デルムンド」のハンバーグソースのように、すごくおいしいものをレトルトにし、パッケージ化して売るといったことを考えています。駅のお土産屋さんで売れるようにするとか。絶メシがコンテンツになったので、それを使ってもう少し外に展開をしたいですね。もしかしたらイベントもできるかもしれません。それくらい育ってきているので。
富岡: こうした取り組みは、市外の人にアピールすることも大事ですが、市民が、こういう店があるんだ、と初めて知ることも大切。その地域内で、改めて自分たちのことを見直すきっかけにすることが重要だと思います。
こちらのインタビューの他、博報堂DYグループの事例を「新しい幸せをみんなでつくろう! Hakuhodo DY Group SDGs Collaboration Book 2019」に多数掲載しております。ぜひ、上のリンクよりご覧ください!