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博報堂のソーシャルアクション
Vol.3 みんなで考える桃太郎

2019.11.28
#CSR#SDGs
*本活動は、SDGsの17の目標と169ターゲットにおいてSDGs4.7、10.2、17.17に貢献しています。

自分で考えるから、記憶に残る。そんな新しい道徳の「授業」を生み出す。

「桃太郎に父親を殺された」という鬼の子どもを描いた新聞広告を題材に、この新聞広告を制作した博報堂のクリエイターと桃太郎伝説の地である岡山県の中学校教諭、一般社団法人Think the Earthが協働して考案したワークショップ型授業です。多様な価値観がぶつかりあう現代において、異なる視点を持つことの大切さを伝え、お互いの価値観や意見を尊重し合う土壌を作ることを目的として2016年にスタートしました。
岡山県や東京都の中学校をはじめ、日本各地に広まり、中学校の授業や教師を目指す学生向けワークショップなどで活用されています。

左: 山﨑博司/博報堂 統合プラニング局 中央: 谷本薫彦/岡山県真庭市落合中学校・岡山県津山 市立津山西中学校 元教諭
右: 小畑茜/博報堂 第二クリエイティブ局

短い時間で与えた知識は、短い時間で抜けていく。

― 普段、「道徳」の授業はどのように行っていたのでしょう。

谷本(先生): ただ道徳の教材を読むだけでは、生徒たちが自分の頭で考えたことにならず、不十分なのではと課題意識を持っていました。短い時間でパッと与えた知識は、また短い時間でパッと抜けていってしまうものです。じっくり少しずつ育てることを「涵養(かんよう)」と言うそうですが、道徳の授業もそのようにしたいと考えていました。

― 谷本先生は、もともと博報堂のクリエイターと接点があったのですか。

谷本: いえ、全くありませんでした! 2015年の夏、家族旅行で訪れた先で立ち寄った本屋さんで、たまたま「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」というキャッチコピーの広告を目にして、衝撃を受けました。誰が作ったものか調べるだけで飽き足らず衝動的に、「鬼太郎」という、桃太郎を鬼の子どもの視点から描いた物語を書き上げてしまいました。

― 物語を書いたのですか!?

谷本: はい。そして、その物語をもとに道徳の授業をしました。127名を体育館に集め、「鬼太郎」を題材にして物事を別の立場から見つめる大切さを伝える授業です。生徒や教員からの評判も上々で、これを絵本にできたら道徳の教材として使えるなと思ったのです。この広告が博報堂の山﨑さんと小畑さんの手によるものだとは知っていたので、お二人に頼んだら絵本を作ってくれないだろうかと考え、お二人に連絡をとったのです。

一つの答えより、多様な考え方を届けたい。

― 「絵本」を作るという話からなぜ、道徳の「授業」を作ることになったのでしょう?

山﨑(博報堂): それは実は、私たちクリエイターの側から提案させて頂きました。私たちが制作した広告が持っていたもともとのメッセージは、「簡単に結論をださずに、考えてほしい」というものでした。絵本にしてしまうと、それが初めから一つの結論に落ちていってしまうので、私たちがやりたかったこととズレてしまうと思ったんです。

小畑(博報堂): 谷本先生が書かれた「鬼太郎」を読ませて頂いて、なるほど、とても良くできていて面白いなと驚いたんです。けれどやっぱり、ストーリーにしてしまうと、一つの方向へ誘導するみたいになってしまうのがもったいないよね、という話もあって。

山﨑: そこで、授業を一緒に作りませんか、という提案をさせて頂きました。

― 「授業」作りはスムーズに進んだのですか。

山﨑: いえ、初めはもう手探りで、何をどうやるかも見えませんし、何が成功のカギになるのかもわかりませんでした。ですからひとまず、私たちからアイデアだしをさせてください、と話をしたのです。結局、10案くらいのアイデアを最初に提案させて頂きました。

小畑: アイデアだし自体は、普段の仕事でもやります。ただ私たち広告クリエイターは普段、見て数秒で理解するようなものを作っているのに対して、授業は50分という時間の可能性を活かしきることが求められます。その違いには、結構苦戦しました。

― 試行錯誤から、最終的に今のカタチに落ち着いていくのには、何か決め手があったのでしょうか。

谷本: 「サイコロ」という形式に辿り着いたのは重要でした。手で触れられるので登場人物に感情移入しやすく、机に自立するのでボディランゲージで議論できる、会話の促進剤になったのです。最終的には、全3回構成の授業案が完成しました。まず1回目の授業で、「鬼太郎」の視点から桃太郎の物語を捉え直して視野を広げる。2回目の授業では、鬼を殺すという結末までに、選べたはずの色々な選択肢があったことを発見する。最後に3回目の授業で、桃太郎のその後のお話を自ら考えることで、自分たちの手でより幸せな未来をデザインすることを試みる、というものです。

「桃太郎」の新しい物語は、日本全国へ。

― 授業を実施して、その後の反響はいかがでしたか。

谷本: 毎回、授業の終わりに振り返りの感想文を書いてもらったのですが、ペンの走る音がすごいんです。静寂に包まれた教室の中、原稿用紙の上をペンが走る音だけが響く。それくらい、生徒たちが自分の言葉でアウトプットできるくらい、しっかりと残ったものがあったということです。また、同僚や、口コミを通じて知った全国の学校の先生方から、問い合わせを受けました。教材のデータもすべて無償で配布しているので、岡山県内だけでなく、東京を含めた全国の学校で「みんなで考える桃太郎」の授業が、今も実施されています。

小畑: 広告賞を受賞したもともとの「桃太郎」の新聞原稿にもすごく思い入れがありましたし、それが話題になって様々な方が意見を発信してくれているのが嬉しかったんです。けれどそこから思わぬ方向へ広がって、広告業界にいたら全く触れないであろう教育の現場でクリエイティブの力を発揮できたのは、とても面白くて、嬉しい経験でした。

山﨑: 広告クリエイターはこれまで、物を売るという文脈での広告表現の領域で、社会から求められてきました。ですが実は、その技術が今回の「教育」のように新しい領域と交わることで、想像を超えるような動きや成果を生み出すことができるのかもしれない、と勇気をもらえた活動でしたね。

こちらのインタビューの他、博報堂DYグループの事例を「新しい幸せをみんなでつくろう! Hakuhodo DY Group SDGs Collaboration Book 2019」に多数掲載しております。ぜひ、上のリンクよりご覧ください!

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