徳久はまずセッションの位置づけについて「フォーラム全体のテーマである『生活者インターフェース市場』の取り組みの中でも、マーケティング領域の進化をいかに進めていくかにフォーカスを絞ってお伝えします」と説明しました。
さらに「2014年から始めている博報堂DYグループの『“生活者データ・ドリブン”マーケティング』の中から最新の取り組み事例から、データ基盤領域で“顧客を知る”というニーズに応える「Data EX Platform(DEX)」、販促領域として“売りを作る”というニーズに応える「SP EXPERT'S」、業種別マーケティングで“潜在顧客を捕まえる”ことを可能にする「カテゴリーワークス」をご紹介します」と話しました。
最初に株式会社Data EX Platformの小西克己代表取締役社長CEOが登場。小西社長は「DEXは安心・安全なデータ連携を推進するための専門会社として、この10月に博報堂DYホールディングスの完全子会社として設立しました」と紹介しました。
生活者に関するデータを利用する場合、有効に活用出来れば経済発展に繋がりますが、一方でセキュリティに関するリスクが課題になります。小西社長は「独自技術により、データ活用に関する、『個人データの利活用』と『個人データの保護・管理』という相反する課題に対応するのが我々のコンセプトです」と話し、「準備室としてご案内してから、これまでの1年半で百数十社から引き合いをいただき、実証実験に参加したいというお声も数十社からいただきました。そのうちの10社には実際に実証実験にご協力いただきました。その取り組みのうちいくつかをご紹介します」と続けました。
実証実験での取り組みについては、博報堂CMP推進局の髙栁太志が説明しました。
「実験に参加したある消費財メーカーはCDP(カスタマーデータプラットフォーム)を構築したり、自社でアプリを立ち上げて顧客接点を作っていたものの、自社チャネルでの自社製品の購買データしか集まらず、他チャネルでの競合製品の購買データが集まっていない外部購買データを連携しようにも個人情報の壁がある、という悩みを抱えていらっしゃいました。この悩みを解決するために活用したのが博報堂DYホールディングスが保有する特許技術『k-統計化&データフュージョン』です。この技術によって、CDPに外部購買データが連携されて、顧客分析が高度化出来ると共に、配信の高度化も実現しました」と説明しました。
もう一つ紹介したのが保険会社の事例です。髙栁は「保険の商品は結婚や就職といったライフステージが変化するタイミングで売れることが分かっています。しかし、居住地や職業といったデータは最初に登録してもらった時点から更新されないため、ある保険会社はライフステージの変化を捉えられないことに悩んでいました。このケースでは、博報堂DYホールディングスが保有する特許技術『モデル転移型データフュージョン』を使いました。まず20万人へのアンケートを実施し、最近ライフステージの変化が起きた人の正解データを取得しました。その正解データとWebの閲覧行動データから機械学習でモデル化し、ライフステージの変化が起きるタイミングでの特有のWeb閲覧行動の統計モデルを作りました。
次に、保険会社のWeb閲覧傾向に統計モデルを適用し、ライフステージ変化モデルと適合度の高い人のセグメントを作成しました。
モデル転移型データフュージョンを適用したことで、この保険会社では顧客のライフステージの変化が捉えられるようになり、精度の高いターゲティング配信や、オウンドサイト訪問者へのWeb接客の高度化等が可能になりました」と紹介しました。
DEXの小西社長は、「10月の法人化以来、ご紹介した特許技術などを活用して四つのソリューションをご提供しています。データの活用はリスクもあります。データ活用に関する風評被害も出やすい状況です。我々はデータの効果的な活用に加え、どういったデータ連携であれば安心・安全であり、どういう表現であれば風評被害を避けられるのか、といったこともアドバイスさせていただいています。是非ご相談ください」と締めくくりました。
続いて、SP EXPERT'Sについて博報堂DYメディアパートナーズ プラットフォームビジネス局の窪田充が紹介しました。
SP EXPERT'Sは博報堂DYグループを横断したデジタル販促に特化した専門組織です。横断の理由について窪田は、「以前は、販促のプロフェッショナルが単体で企画から実施までを全て担当していました。しかしデジタル化した販促市場においてはこれが大きく変わります。例えば店舗にセンサーを設置して顧客の店舗内行動を把握したいという要望があった場合、デジタルテクノロジーの知見やプラットフォーマーとの協業が必要になります。また、販促を通じて取得した購買データを『マーケティング戦略に生かしたい』といった要望があった場合、販促を設計する段階からCRMやマーケティング全体を見据えた戦略が必要です。こういったことに対応するためには様々な専門人材が必要なのです」と語りました。
続いて窪田はデジタル販促キャンペーンについて「自社サイトで行うデジタル販促キャンペーンは会員登録が必要になるので、そこで離脱が起きるのが課題でした。それを解決すべく登場したのが『プラットフォーマーと協業するキャンペーン』です。プラットフォーマーと協業することで、キャンペーンの参加者が日頃からそのプラットフォームのアプリを使っていれば、アプリのダウンロードや会員登録は必要ありません。キャンペーンの途中で特定のユーザーに対して直接メッセージを送って再度の参加を促すといったことも可能です。今までの販促はキャンペーンが始まったら、キャンペーン終了までに出来ることはほぼありませんでしたが、デジタル販促であれば、キャンペーン期間中に様々な施策を実行出来ます。データを活用した細かな運用設計がキャンペーンの成否を決める販促の運用時代が到来しています、と語りました。
また窪田は、「SP EXPERT'Sには様々な独自ソリューションがあります」と続け、「ランキングマイレージ™」「グループマイレージ」「ビンゴマイレージ」を紹介しました。
「ランキングマイレージ™は、キャンペーン対象商品を買った数がランキングとして表示され、その順位に応じて賞品がもらえるキャンペーンです。従来はキャンペーンで規定された上限まで商品を買ってしまうと、それ以上に商品を買うモチベーションは沸きづらい、という課題がありました。ランキングマイレージであれば、購入者に順位が付くので、それが上限以上に商品を買うモチベーションになります。グループマイレージは複数人のチームを作って参加出来るようにしたキャンペーンです。コミュニティを通じた波及力に着目し、自分がキャンペーンに参加するために自然と周りを巻き込みながら商品購入に繋がる設計となっています。ビンゴマイレージは、ビンゴゲームのようにシートをプラットフォーム上で配ってビンゴを目指してもらうキャンペーンです。商品を購入してシール枚数をただ集めるだけでなく、ビンゴを通じて楽しみながら販促キャンペーンに参加することが出来ます。複数ブランド、カテゴリ全体でのキャンペーンにすることで、予算が少ないブランドでも実施出来ます。複数ブランドでキャンペーンをやることで、自社の中で買い回りを促進すれば、自社と消費者の双方にメリットがある」と語りました。
窪田は最後に「インセンティブをフックに商品を買ってもらうことはデジタル時代の販促でも変わりませんが、オールデジタル時代の販促だからこそ出来る、プラスアルファの付加価値、人の心を動かす体験を販促を通じて提供していきたいと考えています。またメーカー向けのソリューションだけでなく、リテール向け、メディア/コンテンツホルダー向け、また予算が余りない店舗でも出来るようなものなど、今後もプラットフォーマーと協業してありとあらゆる販促ソリューションを作ってまいります」と今後の意気込みを語りました。
次に博報堂CMP推進局の堀内悠が登壇し、マーケティング・ソリューション「カテゴリーワークス」について語りました。カテゴリーワークスとは、博報堂DYグループの「生活者 DMP」と各カテゴリを代表する専門メディアが保有するオーディエンスデータを連携し、市場把握からマーケティング戦略立案、コンテンツ/クリエイティブ制作やメディアプランニング/広告配信までを一貫して支援する業種特化型のマーケティング・ソリューションです。
カテゴリーワークスを開発した理由について堀内は「クライアントへのヒアリングで、自社のオウンドメディアに人があまり来ず、潜在顧客にアプローチ出来ないと悩んでいる企業が多くいらっしゃることが分かりました。そういった企業の場合、外部メディアにうまく情報を出すことが出来れば、効果的に潜在顧客にアプローチすることが出来ます。我々はこういった取り組みのサポートがしたいと考えました」と語りました。
また「メディア側も悩んでいる」と堀内は語りました。「カスタマージャーニーの一部にはなっているはずで、データもたまっているけど、マーケティングの専門スタッフが不在でそれを有効活用出来ていないと考えているメディアが沢山いらっしゃる」と続けました。
そしてこのようなクライアント、メディア双方の悩みを解決した例を紹介しました。
ある自動車メーカーと自動車専門メディアの事例では、「メーカーは自社で購入した人のデータや、店頭来訪者、サイト訪問者のデータを持っていましたが、それだけでは潜在顧客にアプローチ出来ないため限界を感じていました。一方、専門メディアには購買を比較検討した層のデータがありましたが、それを有効に活用出来ていませんでした。そこでメーカーのPR記事や発表会の動画を専門メディアに掲載するといった従来からある手法に加え、専門メディア上でも見積もりのシミュレーションを出来るようにしました。通常はオウンドメディアでやっていることを、専門メディアに移植した訳です。これによって、購買に最も近い潜在ユーザーにアプローチ出来るようになりました」と紹介しました。
続いて朝日新聞社総合プロデュース室デジタル推進チームの瀬端哲也メディア・ディレクターも登壇し、取り組みを語りました。瀬端ディレクターは「朝日新聞社ではここ1〜2年でテーマメディアやバーティカルメディアと呼んでいる特定の切り口に特化したメディアを多く立ち上げています。これまで当社が集客出来ていなかった人を集めることが狙いです」と語りました。
堀内は「多くの専門記者の方が在籍している、という朝日新聞社の強みを生かすことが出来るやり方ですよね」と話し、瀬端ディレクターも「専門記者が多く在籍しているので新たなメディアを立ち上げるときにそのリソースが使えます」と語りました。
瀬端ディレクターは、新たに立ち上げたメディアの一例として朝日新聞デジタル内の「おでかけメディア」を紹介しました。「おでかけコンテンツやスポットに詳しい専門記者がいますし、おでかけに関連したニュースは定期的にアップされるのでそこから関連記事としておでかけメディアに送客することが出来ます。このような体制になっているのでメディアの垂直立ち上げが可能なのです」と紹介しました。
堀内は「我々はオウンドメディアの立ち上げについてご相談いただくことがありますが、朝日新聞社にはそのために必要なことが揃っていると感じます。また、ここまでオンラインのことをお話してきましたが、朝日新聞社はオフラインでもスポーツや学生イベントなど様々な取り組みをされていて、そういう部分でも日本有数の資産をお持ちです」と話しました。瀬端ディレクターも「将来的にはオフラインのイベントに来ていただいた方の情報もためていきたいと思っています。オンラインとオフラインの双方の体験を繋げていけたら、と考えています」と語りました。
紹介した事例について堀内は「潜在ユーザーをため込むだけでなく、体験価値を最大化することに繋がっているのがお分かりいただけると思います」と語り、「今後もいろいろな課題に対して、様々な座組みを考えてご提供していきたいと考えています」とまとめました。
最後に徳久が再度登壇し、内容を振り返りました。徳久は「生活者インターフェース市場が到来することで、活用可能なデータは質・量共に飛躍的に増えていきます。我々はそうした環境変化に俊敏に対応しながら、“生活者データ・ドリブン”マーケティングの進化を進めて行きたいと思います」と語り、セッションを締めくくりました。