THE CENTRAL DOT

博報堂のソーシャルアクション
Vol.4 PARA PING PONG TABLE

2019.12.06
#CSR#SDGs
*本活動は、SDGsの17の目標と169ターゲットにおいてSDGs 8.5 、10.2 、17.17に貢献しています。

パラ卓球選手が感じる「戦っている世界」を、変形卓球台で表現。

「パラ卓球台」は、パラ卓球というスポーツの魅力と、障害のある選手の強さをより多くの人に知って頂きたいという想いから生まれた卓球台です。選手へのインタビューやスケッチを重ね、選手が感じている卓球の世界を表現。パラ卓球協会とTBWA\HAKUHODOは、2018年2月に活動をスタートし、卓球台を製作する三英の協力を得て、全20種類の内3種の卓球台を製作しました。本卓球台を使った試合及び体験イベントを、パラリンピック公式イベントや全国の学校等で行っています。2020年をきっかけに、パラ卓球の魅力をさらに伝えていきます。

左:浅井雅也/TBWA\HAKUHODO DisruptionLab 右:立石イオタ良二 /日本肢体不自由者 卓球協会 渉外広報担当

パラ卓球って面白い!パラ卓球選手ってすごい! を伝えたい!

― パラ卓球協会はどんな課題を持っていたのでしょう。

浅井(TBWA\HAKUHODO):ニールセンスポーツの調査*1によると、パラスポーツを見たことがある日本国民は1%しかいないんです。「オリンピック・パラリンピック」と言われていても、オリンピックばかりがニュースになって、終わった瞬間パラリンピックは誰も見ない、といった風潮を自分でも感じていたので、確かにこの状況を変えなくてはと思いました。
*1 世界最大のスポーツマーケティング調査会社による2017年のアンケート調査。全国の16~69歳が対象

― パラ卓球台のアイデアが生まれた経緯は?

浅井: 選手にインタビューする機会を頂いた折に、発見が沢山ありました。他のパラスポーツと違い、パラ卓球は普通の卓球と、使う道具やルールが全く同じです。違うのは、体に障害があるということだけ。しかも例えば右手を失った選手と左足の動かない選手が戦う、という。ちょっと異種格闘技戦のようなイメージ。実際の試合の様子をお聞きすると「お互いの弱点を攻めまくる」というお話。普通の卓球とは全く違う戦略があるんです。この選手は右手を失っている。ならば右手側に打ちまくれば有利にゲームを運ぶことができます。さらに考えると、その右手側ばかり打たれる選手は、どういうふうにその弱点を克服しているんだろう…と。卓球台を使ってそのことを表現できたら面白いねという話になっていき、この変形卓球台のアイデアが生まれました。20選手分、全20種類のデザインを起こしました。当初はこの変形卓球台のデザインをもとに、ポスターを作っていたのですが、「ポスターだけじゃなくて、実際に台を作りたいよね」という話で盛り上がりまして。立石さんに相談したら三英という卓球台メーカーの三浦慎社長に「ダメ元で話してみようか」と。社長に会いに行くと「こういうの待ってたんだよ!」と喜んでくださって。「でもお金ないんですけど…」って口ごもったら、「そんなこといいんだよ」みたいな感じで返していただいて(笑)。台の天板は三英がオリンピックに使う台と同じ仕様で、作ってくださいました。

第66回カンヌライオンズ2019のデザイン部門で金賞、インダストリークラフト部門で銅賞を受賞。
詳細はhttps://jptta.or.jp/

子どもたちが変わりました。選手たちも変わりました。

― パラ卓球台を学校に運んで、特別授業もされているとか。子どもたちは喜ぶでしょう?

浅井: 台に触れるだけでなく選手と打ち合いもしてもらうんですが、めちゃくちゃ喜びますね。例えば車いすの選手がふっとネット際にボールを落とすと、変形卓球台の長い方にいる子どもは、もちろん絶対ラケットが届かない。「あ!ずるい」とか言うんですけど、選手が「いや、でもこれが僕のいつもやってる卓球だからね」と言うと、「すげー!」って反応に変わります。その一瞬でリスペクトに変わるんです。実際に体験すると全然違いますよね。今までのパラスポーツ体験は、車いすに座ったり、無理やりどこかの部位を固定したりというように、健常者にとっては非日常の環境でスポーツをすることにどうしてもなってしまいました。そうすると、「つらい」「大変」という感情が一番に残ってしまう。でもこの卓球台は、健常者が自分のまま全力でやってよくて、それでも難しい、という卓球台。だから選手と同じ気持ちになれるのかなと思っています。

― 選手の皆さんは変わりましたか。

立石(パラ卓球協会): 例えば、選手たちの撮影の時にスタッフの皆さんが、普通に「うわ、すごいですね」とか「海外遠征とかどうなんですか」とか、本当に日本代表として、尊敬の念をこめて話してくれました。その接し方に選手たちもすごく喜んでくれて、心開いて。また、選手たちをかっこよく見せてくれたホームページができあがった時に、みんなとても喜んで「シェアしていいですか」などと、初めて自分たちから発信をどんどんするようになってきたんですよ。取材が入った時にも、「障害をわかりやすく伝える卓球台があるので、台と一緒に取材してください」と選手から言ったり。1、2年前は、みんな見られることが本当に苦手で、自己表現することにとても臆病だったのに。カンヌのゴールド受賞も、何より選手たちがとても喜んでくれて。パラ卓球と選手の素晴らしさを伝えたくてやってきましたが、それが受賞という形になって表れたことが本当にうれしいです。

卓球から、「できた!」という喜びを。そして人生の可能性を。

― これからの目標や夢は?

浅井: 美術館にこの台を置いていく、という構想があります。「スポーツ」や「障害者」とは、違う文脈の人たちに見てもらうチャンスをどんどん作りたいと思っているからです。全く知らなかった人が、「なるほど」と感じられるツールにしたいと思っています。

立石: パラ卓球のいいところは、他のどのパラ競技よりも、幅広い障害をフォローできること。色々な障害がある方が楽しめるという点です。例えばウィルチェアーラグビー*2の選手は、体の状態をはじめ、様々な条件がそろっていないとトップ選手にはなれません。バスケでも陸上でもそうです。でも、「この障害だから君はちょっとできないね」というのがないのが卓球なんです。例えば、障害児として生まれてきた子どもたち、障害を負ってしまった人たち、障害のある子の親御さんたちというのは、かなりネガティブで、スポーツをしようという発想がなかなかありません。でも何かのきっかけで、その方たちがパラ卓球に触れたなら…。「スポーツっていうのもアリなんだ」という選択肢を得る。そこから外に出ていくという行動を起こすようになる。そして、外に出ることによってもっともっと色々な選択肢を、彼らは獲得していくわけです。そのきっかけを作るのが今の日本では難しいと思うんです。でも、卓球だったら天候も関係ないし、どこにも台は置けるし。病院から出られない子どもたちでもスポーツに触れられるチャンスがあるのは、卓球だけかもしれないと思うんです。そして彼らがラリーを1球でもできた時、成功体験が生まれるんです。スポーツができた! スポーツやりたい! ってマインドチェンジがそこで絶対に起こる。そのきっかけになりたいんです。そしてさらに、君の障害だったらバレーもできるよとか、卓球に触れた子たちが卓球のほかに行くのでもかまわない。障害のある方たちに、成功体験と選択肢を届けていけるような、団体になりたいと思っています。
*2 車いすで競技するラクビー。車いす同士がぶつかり合う激しいボディコンタクトがあるのが特徴

茶田ゆきみ選手が感じる卓球台。車いす選手の「ネット際への手の届きにくさ」を表現。
八木克勝選手が感じる卓球台。(生まれつき)両手が短いことにより、「走り回らないとボールに届かないこと」を表現。
(写真左)小学校等で、教育プログラムや体験イベントを実施。
(写真右)「ParaFes2018」のエキシビションマッチでオリンピック選手とパラリンピック選手が本卓球台を使用。

こちらのインタビューの他、博報堂DYグループの事例を「新しい幸せをみんなでつくろう! Hakuhodo DY Group SDGs Collaboration Book 2019」に多数掲載しております。ぜひ、上のリンクよりご覧ください!

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