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D2Cブランドにマーケティング視点を

2019.11.08
#ブランディング#マーケティング
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局(MSC局)は、「広告の外側」にある生活者接点を構想、開発、運用することを目的としています。MSC局が最近力を入れている領域のひとつが、D2C(Direct to Consumer)ブランドの立ち上げ支援であり、そのための戦略的パートナーが株式会社フラクタです。
MSC局はなぜフラクタをパートナーに選んだのか、MSC局とフラクタは共同でどのようなサービスを提供しようとしているのか。MSC局 ユーザーエクスペリエンスデザイン部 部長の入江謙太と株式会社フラクタ 代表取締役CEOの河野貴伸氏に話を聞きました。

D2Cブランドの特徴とは?

──「D2Cブランド」とは、実際にはどのようなものなのでしょうか。

河野
シリコンバレーのIT系スタートアップのやり方やSNSを活用したデジタルマーケティングを、リテールビジネスに積極的に取り入れようと考えた起業家がサンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨークを中心に登場したのが、その起源だと言われています。シリコンバレーのスタートアップの特徴は「ビジョンドリブン」、つまり「なぜこの事業をやるのか?」「我々はこの事業で世界をどう変えたいのか」といったことにこだわることにあります。それをお手本にしたD2Cブランドも同じくビジョンドリブンであり、ビジョンの実現を目指しながら、プロダクトをアップデートし続けるのが特徴です。

またIT系スタートアップの多くがディスラプター(破壊者)であるのと同様、D2Cブランドも既存のものを取り除いて、新しいものに置き換えていくことを目指す事が米国では多く見受けられます。日本では急激な変化は好まれませんが、米国では本当に一気に置き換えが行われます。

入江
デジタルネイティブ世代が、D2Cブランドを支えているがゆえの特徴もあります。彼らは何でもかんでもデジタル化するわけではなく、どこにデジタルを適用すれば効率的かを考えてデジタル化します。デジタルの使い所を理解していて、SNSなどでもどれにどのように力を入れればいいかがごく自然にわかっているのです。また垂直立ち上げを目指す傾向があり、売上を早く一定の水準に持っていくことを考えます。そのためにデジタルを活用するのです。

米国でD2Cブランドが急速に立ち上がった理由としては、日本ではオムニチャネルの構築が流通の課題になっていますが、米国ではあたりまえのようにECと店舗が連動していることが影響していると思います。デジタルネイティブ世代のD2Cブランドオーナーは、オムニチャネルネイティブでもあり、チャネルの構築で悩むことはありません。

河野
一見デジタルとは真逆な「エクスペリンスファースト」もD2Cブランドの特徴です。一般的にブランドには「シグネチャーアイテム」と呼ばれる象徴的商品が存在しますが、D2Cブランドにおけるシグネチャーは「象徴的・感動的な体験」なのです。「おもてなし」は日本におけるシグネチャーといえますね。私たちはこれを「シンボリック・エスクペリエンス」や「インプレッシブ・エクスペリエンス」と呼称しブランドUXにおける重要な要素として捉えています。

フラクタはブランドを深く掘り下げたうえで支援できる会社

河野
フラクタは、すごくシンプルに言うと「ブランドを支援する人やチームが集まった会社」です。特にEコマース(EC)を起点としたブランディングに強みを持っています。ECですから、デジタルマーケティングはあたりまえです。しかしデジタルで完結せずにアナログな体験を統合し、全体感のあるサービスをクライアントと一緒に考えていく――というビジネスを13年手掛けてきて、数多くの実績を持っています。顧客との直接的なコミュニケーションを大切にするD2Cブランドの支援についても考え方や打ち手を多く持っており、得意な分野だと言っていいでしょう。

──D2Cブランドにおけるブランディングの特徴は何でしょうか。

河野
D2Cブランドは顧客へ直接販売しますから、中間マージンがない分、低価格が実現できると言われています。ですが、ただ安いだけでは単なる低価格メーカーとなってしまいます。商品から得られる経験に基づく価値、今までになかった利点、機能的価値だけではなく情緒的価値などをきちっと伝えて共感を得て、「好きになってもらう」ところまで考えなければなりません。

──MSC局がフラクタに期待していることは何でしょうか。

入江
博報堂のクライアントの多くは、大手メーカーです。これらは一見B2Cに見えて、実はB2B2Cといった業態になります。中間のBは卸など流通業であり、顧客接点は彼らが握っています。したがって大手メーカーのほとんどが顧客データの獲得で苦労している一方で、顧客とダイレクトな接点を持っているメーカーが力を持ち始めています。このような背景から大手メーカーの中でも自らD2Cブランドの立ち上げにトライしている企業が多数出てきているのです。

しかし博報堂は、B2B2C的なマーケティングには極めて強いのですが、D2C的なアプローチは知見が充分ではありません。そこでD2Cに強いフラクタと協業することで、最新のブランディングやマーケティングにも対応できるようにしたいと考えています。

一方で、フラクタのクライアントにはスタートアップも多いのですが、これらの企業が小さいまま終わるのかといえばそうではありません。ある程度以上の規模を目指すのであれば、今度は博報堂が手掛けてきたマーケティングが求められる場面が出てくるはずです。

──フラクタとパートナーを組もうと決めた「決定的理由」は何だったのでしょうか。

入江
河野さんが、日本のD2Cブランドの草分けと言われるメーカーの取締役をされていて、現場も含めてよく理解されている点です。デジタルやウェブに強く、デジタルマーケティングがわかっているだけではなく、商品企画、製造、流通など、実際にD2Cブランドを運営している立場の方のお話が伺えることに大きな魅力を感じました。

河野
ありがとうございます。フラクタにはデザイナーもいますが、クリエイティブディレクター、テクニカルディレクターといったディレクター職が主体の会社です。フラクタに特徴的な職種に「ブランディングディレクター」があります。これはブランドの理解に長けた人材です。クライアントだけでなく競合ブランドも含めた歴史や思想を理解し、そのうえでブランドオーナーやブランドリーダーと対話して、そのブランドの哲学を掘り下げていきます。ディレクターなのでもちろん進行管理や制作にも関わりますが、最終的にはそのブランドならではのビジネスフレームワークを作り上げるのに近い仕事を担っています。

日本のメーカーがD2Cブランドを立ち上げるときの課題は

入江
D2Cにおいては売ること以上に、売った後に顧客からフィードバックをもらい、それを商品開発の原動力にして、長く使い続けてもらう、次もまた買ってもらうことが大切です。一方、日本にはメーカーと流通が共同で築いてきた「商品を効率的に売る仕組み」があり、それは非常に優れたものです。メーカーとしては棚の良い場所に置いてもらえれば商品が売れるわけで、流通の意見に寄り添うことを重視してきた傾向があります。

デジタル化によってメーカーも顧客からのフィードバックをこれまで以上に直接受け取れるようになっているものの、長年築き上げてきたメーカーと流通の信頼関係がある中で、D2Cアプローチを取りにくい状況があります。

──「D2Cブランド」を構築したいというメーカーが増えてくるなか、何が課題だと考えますか。

入江
「みなさんがつくっている商品を、ご両親、奥さん、お子さんのような身近な人に、本当にその値段で買わせたいですか?」「貴社が本当につくりたい商品はどのようなものですか? それはなぜですか?」と尋ねると言葉につまる場面があります。大手メーカーほどその傾向が強いように感じます。「つくりたいものをつくる」というメーカー魂をどうやってもう一度取り戻すのかが課題になっているのです。

河野
そのような課題を自覚し、危機感を持つクライアントからは、「社内に理想を植え付けたいがどうしたらいいか」「社長を動かすためのプレゼンを一緒に考えてください」といった相談を受けます。それに対して、「D2Cとはこういうことです」「このような資料があり、これを使ってこう説明すればわかってもらえます」「広告クリエイティブについてはこのように作りましょう」という具体的な回答と提案を我々はしていきます。こうしたやり取りを通じて、企業側も「なるほどD2Cとはこういうものか」と理解するようになり、少しずつ芽が広がってきているのが、今の日本の状況です。

もう1つ、D2Cブランドは「特効薬」という誤解もあります。そのためD2Cブランドを立ち上げればいいと我々に丸投げしようとする企業も出てきます。しかしどんなブランドであっても、社内に熱意を持って進めていく人がいないと成功しません。商品企画とマーケティングがダイレクトにつながらないとD2Cブランドはうまく機能しないのですが、そのつなぎ役は社内の人でないとできないからです。

大手メーカーがD2Cブランドに取り組む意義とは

──大手メーカーがD2Cブランドに取り組む意義は何なのでしょうか。

河野
非常にニッチなユーザーに対してダイレクトにコミュニケーションを行うことにより、スピード感を持ってブランド化することが可能ということです。大手メーカーの場合、1つ成功パターンを構築できれば、すぐに横展開できるリソースがあります。1つ1つは小さくても、とりまとめたら大きなスケールにできるということが、大手メーカーにとっての意義だと思います。D2Cブランドを立ち上げるのであれば、再現性を忘れてはいけません。

ただしこのような戦略だと、従来のマスプロダクト製造と比較すると利益率が下がることになります。ニッチな分、大量生産による製造コストの低下が見込めないからです。また流通を通さずにECなどのダイレクトなチャネルでの販売が主体となるので物流コストも発生します。そうなると単価を上げざるを得ないので、顧客がそれでも買いたくなるストーリーと価値を綿密に練り上げなければなりません。そのためにも、これは本当に作りたい商品なのか、なぜそうなのかという問いにきちっと回答できる必要があるわけです。

入江
ニッチなニーズとは特徴的なニーズということでもあり、それと正面からもっと向き合うことで企業は鍛えられます。向き合うことで得られる知見をもとに1つのブランドを成功させて、それをシリーズ化・カテゴリー化していくことが、大企業におけるD2Cブランドの成功のポイントになるのではないでしょうか。

スタートアップでは「ビジョンヘビー」に陥らないことが重要

──次にスタートアップのD2Cブランドが陥りやすい課題は何でしょうか。

河野
実現可能性を考えないで、あまりにも大きく理想的な未来を描いてしまうことですね。これを「ビジョンヘビー」と呼んでいます。これがITのスタートアップだと製造原価はほとんど人件費が主体ですし、在庫を持つ必要は基本的にはありません。しかしメーカーであれば、たとえ工場を持たないとしても、実際の商品(在庫)が存在します。実物の商品は、食品であれば日に日に価値が落ちていきますし、アパレルなどファッション性が高いものなどもシーズンが終わると価値がほとんどなくなってしまいます。

もちろん高いビジョンを持つことは尊いし、それがD2Cブランドの成功要因でもあるわけです。しかし、それは世界的なブランドのように実際に利益を上げてから誇れる話であって、Whyだけでなく、What、Who、Howをイメージした現実的な事業計画と地道な企業活動とが必要なのはD2Cブランドであっても同じです。そうするとあまりに理想的なビジョンを掲げてしまうと、現実と理想の乖離に苦しむことになるわけです。実装を意識しないビジョンのために、いざ営業してみると心が痛むということになりがちなのです。

実際に成功しているD2Cブランドのオーナーは、毎日泥臭い活動をしながらも理想は捨てないという人ばかりです。これは私自身がD2Cブランドの経営に関わった経験から、特に強く感じるところです。

入江
つまりスタートアップのD2Cブランドにおいても、従来のマーケティング発想が必要になるということなのです。最初は勢いで急成長したとしても、すぐに成長の限界が訪れて、そこでもがいているD2Cブランドが多い。このようなタイミングでWhyを見直すことも大切ですが、それ以上にSTP(セグメント、ターゲット、ポジショニング)、CI(コーポレートアイデンティティー)、UI、タグライン、ECサイトのデザイン、サービス内容、CRMといった従来のマーケティングが重要視している要素を見直す方が効果的だったりするのです。

河野
D2Cだからといって、ある程度成長したら「ダイレクト」にこだわる必要はありません。米国のD2Cブランドを見ていると、上場せずに大手メーカーに売ってしまうケースも多いですし、普通に既存の流通に乗せる企業も多いのです。D2Cの特徴と言われるデータドリブンに関しても、従来型のマーケティングにおけるSTPや出店計画など地道な企業活動で実践していけばいい。つまり商売としてあたりまえのことを着実にやれるようになれば、スタートアップの成長の限界を超えることは難しくありません。D2Cはあくまで手段であって、目的ではないことを忘れてはいけないと思います。

MSC局とフラクタが提供すること

──最後に、MSC局とフラクタがこれから共同して提供していくことについて聞かせてください。

入江
大企業でもスタートアップでも企業規模には関係なく、これからD2Cブランドを立ち上げていく企業、もしくは次の成長を考えている企業に対して、継続的なマーケティング活動を導入するための支援をしていきます。大手メーカーがD2Cを導入するためにはフラクタの知見が大きく役に立つでしょうし、スタートアップが成長の限界を超えるためにはMSC局の知見が必要になるでしょう。

河野
ビジョンと実装を乖離させずに、いかに成長を目指すか――この難しい課題を自分たちで解決できるようになるためのご支援と客観的アドバイスができることが、我々のコラボレーションにおける最大の強みだと考えています。そのためのワークプロセスも共同で開発しましたので、ご興味ありましたらぜひご連絡ください。

※本記事は、“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信に掲載された記事です。

入江 謙太
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
ユーザーエクスペリエンスデザイン部 部長

マーケティング/クリエイティブ/デジタルを統合したコミュニケーションプランニングの知見と、広告を超えた新しいサービス開発の知見をかけ合わせ、企業や事業やブランドの成長に貢献します。日本マーケティング大賞、ACCグランプリ(マーケティング・エフェクティブネス部門)、モバイル広告大賞、東京インタラクティブアドアワード、カンヌ、アドフェストなど受賞。

河野 貴伸
株式会社フラクタ 代表取締役
土屋鞄製造所 デジタル戦略担当取締役
ジャパンEコマースコンサルタント協会講師
Shopify 日本公式エバンジェリスト

2000年から「ショッピング体験のエンターテイメント化」を目指し、EC制作、楽曲制作、CG制作を主体としたクリエイティブ活動を開始。近年は「Eコマース」から「ユニファイドコマース」への進化に関わる人材育成とコマースを中心としたブランドUXの改善に重点を置いたブランドビジネスの支援、及びコマースプラットフォーム「Shopify」の普及活動を全国で展開中。

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