川名
2025年、ダイレクトマーケティングはどのようなドラマティックな変化を遂げているでしょうか。その予測に立って2020年に必要とされる取り組みについて考えていきたいと思います。いわゆるバックキャスティングの手法です。
まずは、各自ダイレクトマーケティングの定義をお聞きしていきます。私の定義では、ダイレクトマーケティングは「間接流通以外のすべての販売」であり、どのような顧客が、何をどのくらい買ったかが把握できること、さらにそこから先のおつき合いができることにダイレクトマーケティングのメリットがある、ということになります。皆さんの定義はいかがでしょうか。
前田
BtoBビジネスを手掛けている私たちの立場から見ると、「認知」から「興味・関心」、「比較・検討」「購入」に至るマーケティングファネルの後半部分がダイレクトマーケティングということになります。お客さまを購買行動に導くのがダイレクトマーケティングであり、数字やKPIが厳しく問われることになります。
鳴海
いわゆる「ビローザライン」に相当する、お客さまに近いところで行われるマーケティング活動と定義できると思います。お客さまの声を直接聞くことができる領域といってもいいかもしれません。
高柳
お客さまに直接つながるマーケティング活動がすなわちダイレクトマーケティングであると捉えています。私が携わっているクラフトビールの通販事業もその一つです。
橋爪
オンライン、オフラインを問わず、お客さまとの接点で行われる活動すべてがダイレクトマーケティングであると考えています。セールスとのコラボレーションがとても大事な領域だと思います。
川名
それでは、2025年のダイレクトマーケティングを予測していきましょう。ぜひ一人ひとりが「予言者」となって、大胆な見通しをお話しください。
鳴海
私の「予言」は3つあります。一つめは「購買データターゲティング」が主流になるという予言です。これまでのデジタルメディアにおけるターゲティングは、主に行動履歴や自社商品の購買履歴に基づいていました。これがさらに拡大して、例えばAmazon広告では自社以外の購買データを活用したターゲティングも可能になっている。また、オフラインを含む他社商品の購買履歴もターゲティングのための重要なデータになる。そう私は考えています。
二つめの予言は、「マーケティングファネルの死」です。従来のファネルは「購入・申込」で完結するモデルで、「リピート」や「LTV」という視点が含まれていません。しかしながら、リピート購買やLTVを意識したマーケティングは当然のように行われており、このようなモデルは、2025年には主流ではなくなると思います。
では、どのようなモデルが使われるようになるのか。それが三つめの予言の「フライホイール」です。これは、「サービス」「マーケティング」「セールス」の3つを回転させていくモデルで、これを成立させるには、社内における情報のサイロ化をなくすことと、マーケティング活動を部門ごとに分断しないこと、その二つのポイントが重要になります。
前田
私の予言も3つです。まず、2025年には「対話からエージェントへ」という動きが加速していると思います。私たちを取り巻く情報がますます膨大になる中で、自分のエージェント、つまり、AIの「分身」がパーソナルなニーズに応じて情報を選別してくれるようになる。マーケティングも、そのエージェントを通じて生活者にアプローチするという形になる。そう私は予測します。
次に「新規獲得からLTVへ」です。生活者やビジネスパーソンの価値観の変化にともなって、ROIの軸が、新規顧客獲得コストからLTVコストにシフトするということです。
最後が「名刺交換がなくなる」です。これもAIの普及と関係しています。パーミッションがなされた情報とAIの活用によって顧客のニーズや課題を把握する精度が高まり、予測もできるようになります。営業先担当者の情報もあらかじめ把握できるので、あえて名刺交換をする必要もなくなります。しかし、これによって直接的な対面がいらなくなるわけではありません。むしろ、課題に先回りした提案によって、人対人が対面することの価値が格段に向上することになると思います。
高柳
「サブスクリプションがさらに主流に」「C with Bモデル」の2つが私の予言です。現在、多くの企業がサブスクリプションにチャレンジしています。私が携わっているクラフトビールの通販事業も、年6回ビールをお届けするサブスクリプションモデルです。通常のビール販売が「フロー」なのに対して、通販事業は「ストック」といっていいと思います。このモデルの指標はCPLTV(費用対生涯価値)です。ビールのサブスクリプションモデルの事業者側のメリットは売り上げが安定することであり、生活者の側のメリットは、銘柄を選んだり、店舗に足を運んだりしなくても定期的に商品が届くことです。
2つめの、「C with B」は「Community with Business」という意味です。私たちの通販事業は「売る」というよりも「お客さまと一緒に楽しむ」という感覚のビジネスです。お客さまには「ビール好きのコミュニティに参加する」というモチベーションでサービスをご利用いただいています。ビールファンのコミュニティを企業とユーザーが一緒につくり、「ワクワクするビールの未来をつくる」という目標に向けて仲間の輪を広げていく。それが、私が考える「C with B」です。このモデルを始めてから、年間LTVベースでROIが約4倍になりました。これはほかの分野でも有効な方法だと思います。
橋爪
私からは「ほぼAI」という予言をさせていただきます。AIの活用は世界中で広まっています。今後、仕事の多くの部分をAIに任せることができるようになると予測します。
その根拠の一つが、私たちがFuture Workplace社と一緒に実施した「職場におけるAI調査」です、世界10カ国・地域で実施した調査によると、「職場で何らかの形でAIを利用している」と答えた人は50%で、昨年と比べて18ポイント増えています。1年間での利用率の増加を考えると、2025年には確実にほぼAI の世界に突入すると思います。とくに答えが多かったのがインド(78%)、中国(77%)、UAE(66%)です。その中で、日本は29%で最下位でした。今日の日本は世界と比較すると遅れていると言えます。
「自身のマネージャーよりロボットを信頼する」と答えた人は64%で、これに関しては日本が全体を上回っています(76%)。バイアスのない判断ができることなどがロボットの優位点と考えられています。
一方、「マネージャーはロボットよりも何が優れているのか」という質問では、「従業員の感情の理解」(53%)、「従業員の指導」(47%)、「職場文化の創出」(43%)といった答えが多くなっています。バイアスのかからない判断を求める一方、人にしかできない点も明らかになったと言えます。この結果を受けて、私は先ほどの予言にもう一つの要素をつけ加えたいと思います。「ほぼAI、よりai(愛)」──。つまり、AIが使われるようになればなるほど、「愛」、つまり人間的感情が大事になる、その欲求はより強くなると思います。
川名
AIの活用と人間の感情や能力。そのバランスをダイレクトマーケティングではどのようにとっていけばいいのでしょうか。
橋爪
例えば、マーケティングオートメーションを導入しても、人間によるオプティマイズは必ず必要になります。テクノロジーの活用により、ヒューマンエラーが減少し、手間や時間がかかる作業を任せられます。人間が本来集中したい業務に特化できるのです。細かな調整が必要なところでは人間の感性が必ず求められることになると思います。
前田
AIが得意なのは分析で、人が得意なのは肌感覚を捉えることやビジョンをつくることである。そんな整理ができそうな気がします。
川名
さて、これらの予言を受けて、私たちは2020年に何に取り組めばいいのでしょうか。
鳴海
部門のサイロ化をなくし、全体最適を目指すことだと思います。「木を見て森を見ず」とならないようにすること。それは今すぐにでもできるのではないでしょうか。
前田
お客さまを先回りするマーケティングなど、データやテクノロジーを活用した新しいカスタマーサクセスモデルをつくることを目指すべきだと思います。
高柳
もう一度商売の本質に戻ることが必要であると私は考えています。顧客帳を活用した江戸時代の商売のように、お客さまを把握し、お客さまを深く理解するビジネスが求められると思います。データはもちろん重要ですが、その裏にあるお客さまの「像」をしっかり把握しなければなりません。
橋爪
テクノロジーと人の共生は不可避です。既に簡単に安価に開始できる状況は整っています。将来のために、今すぐAI活用を始めるべきだと思います。そうしないとデータが蓄積せず、本当にAIが必要になった時に使えなくなってしまいます。躊躇していては遅れてしまう。そう皆さんにお伝えしたいですね。
川名
あらゆる商売はもともとダイレクトマーケティングでした。その意味で、ダイレクトマーケティングは最も本質的なマーケティングといっても過言ではないと思います。今後、ダイレクトマーケティングの領域はどんどん広がっていくでしょう。テクノロジーを積極的に活用する一方で人間の本質を見失わないようにすること。そうして顧客をより深く理解すること。そんな視点を大切にして、ともに成功を目指していきましょう。
博報堂入社以来20年間マーケティングセクションにて様々な業種の広告主に向けた新商品開発、広告戦略立案、ブランド戦略構築等に関わる。
06年よりデジタル部門に異動し、博報堂DYグループの新しいコミュニケーションモデル「エンゲージメント・リング」を発表。10年エンゲージメントプラニング局長を経て、18年より日本広告審査機構事務局長。2011年には、アジア広告祭審査員/カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル審査員を務める。週末は、駿河台大学メディア情報学部客員教授。共著に『自分ごとだと人は動く』(ダイヤモンド社)、解説に『本当のブランド理念について語ろう』(CCC)がある。
2005年よりリスティング広告に関わり、2007年からは大手広告代理店にて従事。豊富な実績が認められ、2011年にGoogleから日本で2人目となるGoogle AdWords(現Google広告)トップコントリビューターに選出される。2013年にクロスシナジー株式会社を創業、リスティング広告を中心としたWebマーケティング支援やセミナーなどの教育事業を手掛ける。2017年、株式会社5(ファイブ)に取締役として参画。Amazon広告を取扱う代理店として、同社代表の若松武志氏と共に運用ナレッジやコンサルティングノウハウを構築、国内大手企業を含む多数のクライアントへの運用支援を行なっている。身長185cm、高校時代は野球部。
NTT、及びNTTコミュニケーションズにおいて、オンライン/オフライン双方の顧客接点チャネルで広くマーケティングとCRM業務を経験。デジタルチャネルや中小企業向けMAの立上げなどを行い、現在は大企業向けのデジタルマーケティング責任者を務める。セールス&マーケティン分野のプロフェッショナル人材(最上位のMS3)として社内認定をされている。
大学卒業後、株式会社電通レイザーフィッシュ(現:電通アイソバー)に入社。
ソーシャルメディア黎明期から活用方法を提案し、2013年に『共感クリエーション』(ワークスコーポレーション)を共著。2015年から現職。キリンビールの公式SNSの運用や「キリン 氷結」や「本麒麟」などのデジタルメディアを活用したプロモーションの担当を経て、現在は「グランドキリン」をはじめとしたクラフトビールのダイレクト事業および、プロモーションを担当。
ソフトウェア開発会社勤務時にウェブ開発業務に携わる。Web Marketing の可能性を感じ、Web Masterに転向。その後、外資広告代理店でのキャリアを開始する。マス広告を始め、ダイレクトマーケティング、デジタルマーケティングの実績を作る。IT業界、医療業界のクライアントを担当。2018年12月より日本オラクル勤務。デジタルマーケティグ部署を牽引する。