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世界最高峰の文化コンテンツ集積地「西陣」を、“文化のスタートアップスタジオ”に。~西陣connectプロジェクト~

2020.01.23
#クリエイティブ#グローバル#地域創生
2019年10月23日、未来の西陣の担い手を呼び込み、西陣ブランドを世界へ発信する起業家や職人を西陣地域全体で育てることを目指す活動体「西陣connect」が立ち上がりました。このたび、プロジェクトリーダーである博報堂関西支社の北川佳孝、京都市総合企画局の平井忠之氏、現在進行しているアーティストコラボレーションの立役者であるPR-yの笠谷圭見氏に、「西陣connect」へのそれぞれの思いと、今後の展望について伺いました。

西陣connectが立ち上がるまで

北川
元々、個人的に京都の伝統文化に興味があって、今回の家具コラボでもお世話になっているフクオカ機業の代表の福岡さんを紹介いただきました。福岡さんとは意気投合し、西陣ってだいぶ元気がなくなってきてしまっているけど、どうしたら元気になるだろう、という話を食事をしながら話す仲になっていました。そんな話をしているところ、ちょうど京都市でも西陣を中心とした地域活性化ビジョンというものを1年間進められていたんです。「西陣connect」のプロジェクトが立ち上がるもっと前から、西陣地域をどうするべきか、どうあるべきかということを検討する有識者会議がひらかれていて、その次のフェーズとして、民間の力も借りて具体的な活動を行っていくにあたって提案する機会があり、博報堂関西支社として参加したという経緯です。

平井
この西陣を中心とした地域活性化ビジョンは、西陣の産業、観光、文化に関わる多くの方の意見を伺ったり、住民の皆さんにアンケートを採ったりしながら、地域のポテンシャルと課題を突き詰めていってビジョンを策定したんです。ビジョンには目指すべき将来像と実現のための方策を示しています。方策には、地域が行うもの、行政が行うもの、民間で行うものなどある中で、民間のみの取り組みでは進まないものの初期段階を下支えしていこうとプロジェクトを公募しました。その結果、7社競合のプロポーザルとなり、様々なジャンルの方に参加していただいたなかで、博報堂関西支社のアイデアを選ばせていただきました。「今後、こういう人たちとつながってやっていこうと思います」という熱い想いを感じまして。

──北川さんと笠谷さんのお二人の出会いはいつだったのでしょうか。

北川
笠谷さんと僕は、これまでプロボノ活動で自閉症のプロジェクト、ダイバーシティ啓発の活動を一緒にやっていました。元々は、笠谷さんの「ディストーション」という障害者アートの活動が出会いのきっかけです。

笠谷
あれは、7年前、2012年くらいですよね。

北川
そうですね。その時は本当に単なるボランティア仲間という形でした。「西陣connect」のプロジェクトが始まって“西陣と、新しい可能性をつなぐ”というコンセプトで、みんなが想像しないことをどんどんやっていきたかったので、色々と考えていくうちに笠谷さんの顔が浮かんで、ファーストプロジェクトはこれにしようと思ったんです。

──笠谷さんは北川さんから話をお聞きになられて、どのように感じられましたか?

笠谷
僕は、障害者アートの魅力を発信する手段のひとつとして、障害者アートを洋服という形にして主に海外のファッション市場で展開するという活動をしているのですが、埋もれてしまっている魅力に違う角度からスポットを当てるという意味では「西陣connect」の取り組みと僕自身の活動に近いものを感じましたし、やりたいと思いました。
今回は洋服というよりもコスチュームに近いものが良いんじゃないかと思ったので、友人がデザインを手がける「ROGGYKEI」というブランドとタッグを組み、ウエディングドレスを製作するというご提案をしました。

それぞれが抱く、「西陣connect」への思い

笠谷
僕の当プロジェクトへの想いは先ほど少しお話しましたが、正直今回お声掛けいただいてから初めて西陣織に触れて、改めてとても魅力的だと感じました。元々僕も関西人なので、京都の文化に触れるきっかけができたことが一番うれしいですね。ROGGYKEIのデザイナーのひとり、興梠(こうろぎ)くんも京都出身なんですが、西陣織のことを僕と同じようにあまり知らなくて、今回ご一緒する西陣の職人さんから色々お話を伺う中で、西陣織でできることをたくさん知りました。今までやったことがないことに挑戦できるのが嬉しいですし、僕たちのモチベーションにつながっていると思います。
今回使用させていただく絵画の作者の親御さんたちも喜んでらっしゃるので、必ず良いものに仕上げたいですね。

平井
この西陣の町は、京都の中の京都というか、この文化や産業がずっと途切れることなく受け継がれ、中心であり続けてきた町です。また、この町の成り立ちを語るうえで特徴的なものとして職住一致の町であったということなんですよね。この町で働く人自身がこの町に住み、生活していて、消費をし、商品も作る、というこの循環するような素晴らしい土壌があって、濃密なコミュニティーが形成されてきた町です。
ただ、先ほどまで話していたように、そのベースとなっている西陣織産業に元気がなくなってきています。なので、地域活性に取り組むにあたって、僕は、「職住一致」の新たな形ができたらいいな、という思いをずっと持っていました。そのためには「ここで働く人」が大事になってきます。「住む人」がいればいい、ということではなく、「働いて住む人」が大事なんです。この町で新しいことにチャレンジしながら、この町に住み、生活する人をいかに呼び込むか。そこに一番寄り添ってくれたのが、博報堂のアイデアだったんです。委託と言いつつも、我々がどこか北川さんとチームになっているような感じで。我々もプロジェクトにコミットしていきたいと強く思って、今インタビューをしているこの西陣connectの活動拠点も、西陣エリアで使いやすいところをいくつか候補を出して一緒に選びました。

北川
おっしゃってくださったように、僕たちは受託者なんですが、結構言いたいことを色々と言わせて頂いています。(笑)こういう場所がないかとか、こういう人を紹介してほしいとかご相談すると、平井さんや京都市のメンバーのみなさんが何とかしてくれるというように進んでいて、最初から想いを一緒にした共同プロジェクトとしてやらせていただいているんです。クリエイター側の意見も最大限何とかしてやろうという思いで動いていただいて、僕らにとってもありがたいです。

──ちょうどこのインタビュー場所のお話が出ましたが、なぜこういう元消防署の出張所だったこの場所を拠点にされたのでしょうか?

平井
この場所としては、西陣の中心と言ってもおかしくない場所なんです。建物の面する通りが「千両ヶ辻」という通称が付いていて、かつては、1日1000両のお金が動いたというぐらい西陣の中心で栄えていた。その延長線上にある場所です。それと南北の通りと東西の通りが交わる突き当りという立地で、ここで何かをやりだすととても目立ちます。この消防署の出張所がなくなる時は、地域の方々から困ったなという声もありましたし、この場所を公共的な使い方してくれたら嬉しいという要望も出ていたんです。そういう意味でも、西陣connectの拠点という使い方はぴったりはまったかなと思っています。

12月14日に西陣connect拠点ではじめてのイベントとしてクリスマス会を開催。 西陣の町に住む親子が通りがかりにどんどん集まり、拠点に入りきれないほどの盛況となりました。

北川
基本的にプロジェクトは内向きじゃなくて外向き、世界に向けたプロジェクトにしていくのがベースではありますが、西陣の地域を活性化することが最終的な意義です。そういう意味では、西陣に軸足を置いて外を見ないといけないと思うので、西陣の中に何かしらの拠点をもつというのは地域活性の仕事として絶対だと思っています。こうやって打ち合わせがあるたびにお邪魔したりしていると、地域の町内会の方に柿をもらったり、スマートボールの台を借りたりとか、小学生が遊びにきたりとか、そういう交流が大事だと思います。

──西陣の中には、西陣織だけでなく、様々な魅力があるというお話をいただきましたが、改めて、西陣ブランドに対する思い、現在持っている課題を教えていただけますでしょうか。

平井
西陣ブランドには長い歴史があります。平安京までさかのぼると千何百年。すぐそこが平安京の内裏、天皇が住まわれていたところの周りを囲んで、当時高級官僚のような人々が住んでいたエリアなんですね。そこから時代を経て豊臣秀吉がそこに聚楽第という住まいを構えて政治を行いました。また、応仁の乱をはじめ蛤御門の変などで町が大きく焼けた際には町衆が力を結集して乗り越えてきたという歴史もあります。どこを切っても、その時代その時代にいつも第一線級の、政治と経済と文化の中心となる場所でした。この歴史の上にあるということが、この西陣のブランドだと思うんです。
伝統産業を引き継いでいらっしゃる方や文化をずっと伝承されている方といった、この町を守っておられる方にお話を伺った際に、「伝統って昔からあったものを何ひとつ変えずにずっと大事に大事に守ってきたモノやと思ってたら大間違いですよ」って言われたんです。伝統というのはその時代その時代に少しずつ合わせて、アップデートし続けてきたから伝統として残っているんだと。それが僕にはズドーンと響いて。それがこの西陣のブランド力なんだと感じました。スクラップ・アンド・ビルドではなく、アップデート。絶対に潰すことなく、新たなものを少しずつ取り込んできた。今、こうして西陣織を生かして新しいことをやろうとしてる。そういうことを受け入れられるだけの素地と寛容性がある町だと僕は思うんです。

平井
「3代住み続けへんかったら京都人ちゃう」とかいう話ってよくありますよね。そんなことはなくて、むしろほとんど外から入ってきてるんですよ。統計を見ると、この10年以内にこのエリアに住み続けた人は4割。ほんの7、8年前からこのエリアに住み始めた人ばかり。おそらくどの時代もきっとそうだったと思うんです。でも、この地に元から住んでいる人々があらゆる人を受け入れ、自分たちの仲間として取り込んでいく。多分、北川さんも10年経てば、西陣の人って言われるのかなと。そういう懐の深い寛容性があるんです。だから文化においても新しいものも受け入れられる。
でも今、少しその部分が弱くなってきてるのかもしれないなと感じているんです。西陣の産業が少し元気がなくなっていることに伴って、皆さんも自信がなくなってきて。
住民の方々へのアンケート調査では、やはり西陣の町は、西陣織の町というイメージであり、その歴史ある文化がずっと色濃く残っている町という回答が多い。だから、町の強みだと思っていること自体の元気がなくなってきているということが課題だと思っています。西陣織に代わる、この地で産業として成り立つ文化が欲しいっていう声も多いんです。西陣織を否定するわけではなく、そこからインスパイアされた何かができたらいいな、という意味あいで、それによって、ここで働く人が増えたらいいなと期待しているんです。

北川
平井さんがおっしゃったように550年の文化伝統、すでに世界有数のコンテンツの集積地だと思っていて。これをある意味、自由にクリエイティブに使っていいよ、という権利を与えていただいたプロジェクトだと思っているんです。それが「西陣と新しい可能性をつなぐ」という西陣connectのタグラインで現していることです。クリエイティビティを発揮し、その積み重ねてきたものを、できるだけ強く面白く今までにない形で世界に発信していきたい。基本的にすべてにおいて、世界に届くくらいのクリエイティブをやっていこうという気概を持って、お声がけをしています。

平井
そこに関連して、もう一つ課題があるんです。先ほどお話したように長い歴史と文化があって、あらゆるジャンルにおいてすばらしい人がたくさんいらっしゃるんですね。何百年と続く老舗の料理屋さんであったり、伝統文化の継承者であったり。そのような方々が思いのほかつながってないんです。どこの誰々さんということは、みんな知ってはいるんですが、その方同士があまりお知り合いではないという。

北川
西陣の町の中でのコネクトも意外と大事ですね。

平井
そうなんです、これがもったいないなと。違うジャンルの一流の人同士を掛け合わせられたら、もっと面白いですよね。今いる人たちをつなぐだけでも化学反応が起こるだけのものがあるのに、使い切れていないというのも課題だと思っているんですよね。

──「西陣connect」のアクションのベースとなる事業構想について、ご説明いただけますでしょうか。

北川
まず、「西陣文化のスタートアップスタジオ構想」についてお話しますね。
“スタートアップスタジオ”という言葉は今様々なところで耳にすると思います。その多くは、資本(お金)をスケールアップするという意味で使われていますが、僕たちは文化をスケールアップしていくということを目的にしています。西陣エリア全体が文化のスタートアップスタジオになりたいという想いの構想です。国内外の若い人たちが、僕らが今進めている活動で情報発信したものを見て興味を持って何かここで始めたいと思ってくれた人たちを全力でサポートしたいと考えています。博報堂としてはクリエイティブ、マーケティングの側面でサポートをし、地域の町内会の方、京都市の方、西陣織工業組合や各種団体のみなさんと一つのチームとなって進めていきます。西陣の町で何かを始めに来てくださる方々に、地域の視点と外部のプロフェッショナルの視点の両方の視点で育てていける環境を整えています。
西陣の町から、彼らが世界へ羽ばたくと、西陣という町、西陣ブランドが世界中で知られることになります。このエコシステムを作りたい、というのが大きな構想です。

ただそれは、僕らが1、2年ですぐにできるものではないので、ここからの2年間はその兆しを作る期間としています。3年目以降にできれば実装できる仕組みを目指す上で、ちゃんと事業化をし、収益も上げないといけない。そこで現時点で見えているのが、三つの軸となる事業です。
一つ目はクリエイティブ事業です。今まさに商品開発しているプロジェクトがありますし、その開発した商品を活用してメディアとコラボしたり、展示をしたり、動画制作をしたり、様々な展開を考えています。

二つ目は、まだ構想段階ですがそこで生まれたものやそこから派生したものを世界中で買えるようにするEC事業です。単にECサイトを開くということではありません。ここでももちろん収益は上げたいですが、それよりもこのプロジェクトを知ってくれた人が実際にこのプロジェクトの製品だけでなく、西陣のプロダクトに興味を持ったり、触れたりしてもらうことが大事だと思っています。加地金襴さんの作っている別のプロダクトだったり、スキャンティークさんとコラボした家具と、フクオカ機業さんが作られている西陣織の帯がセットで売れるなんてことも今後実現できればいいなと思います。このEC事業で商品が売れるほど西陣の産業にも還元できる仕組みになるといいなと考えています。また、僕たちは広告会社の本業として商品企画の経験もあるので、商品アイデアを考えて、それをブランディングして、西陣の企業の方々にOEM製作をお願いしていくという仕組みができると、企画した分だけ地域に還元する。そういうことにチャレンジしていきたいんです。

三つ目は、回遊・教育事業です。
最終的には、人を西陣の町へ連れてくるという具体的なアクションをしたいと考えていて、現在検討しているのは「観光」です。インバウンド向けの高付加価値ツアーを検討しています。すでに京都は有名な観光地として多くの観光客が集まっていますが、まだ西陣エリアのような、京都の奥深いところに足を伸ばしてもらうまでには至っていない。ここは、西陣織だけでなく、お茶、能、狂言など、濃厚な“京都”が集まっている集積地です。ここで、少人数のツアーで、機織り体験を実際に行ってもらったり、西陣の食を楽しんでもらったり、高付加価値な旅を提案したいと思っています。各国の旅行代理店と協力し、旅行パッケージを販売することで西陣へ人を呼び込むことを考えています。
また、「教育」という形でも、西陣に興味を持つ人を増やしたいと思っています。たとえば、ある工房と組んで西陣織職人体験コースを作り、西陣織を作る20の工程をそれぞれの工程ごとの職人さんに教えてもらう。高校生たちが実際に足を運んで学べたり、動画コンテンツにしてオンラインで学べる形もあるかもしれません。西陣織というと多くの人は「機織り」の工程だけをイメージしていると思いますが、西陣織は、糸の先染めの織なので、糸を染める工房、その染めた糸を巻く整経屋さんがいて、、、と本当に細やかな工程に分かれているんです。人によっては、織ることよりも、鮮やかな糸を染める工程にすごく興味を持つ人もいるかもしれません。これが知られていないことは、学生にとっても、工房にとっても機会損失だと思うんです。その機会づくりをビジネスとして取り組んでみたいと考えています。

──現在進んでいる2つのプロジェクトについて伺いたいのですが、笠谷さんとROGGYKEIさんのドレス製作のプロジェクトは障がい者アートを西陣織のテキスタイルにし、それをドレスに仕立てるというものですよね。実際取り組まれていて、いかがですか。

笠谷
今回のプロジェクトの問題は色数ですね。まず使用する絵画作品を、織りやすいようにドットで表現する「紋意匠図」というものに変えるんです。そのデータを見ながら実際にそれをテキスタイル化する時に、ここをちょっと金箔っぽくしたいとか、こっちの色を抑えたいとか調整します。西陣織の場合、縦糸が基本的にベースの白1色なので、仕上げの色数は横糸だけで表現することになります。たとえば原画の中に、同じような赤色だけど微妙に違う赤色が複数ある場合、それを忠実に再現するにはその微妙に違う色数分の糸を用意する必要があり織の工程で大変なことになる。再現性と実現性というのをずっと協議していて、今日もそのすり合わせのミーティングをしていました。

原画と紋意匠図を確認するミーティングの様子

北川
想像以上に、きちんと再現ができそうだと分かりました。今日まで本当にちゃんと作れるのかちょっと不安でした。

笠谷
今日が一番心配でしたね。もう構想と、パターンはほとんどできているので今はテキスタイル待ちです。

平井
職人さんも燃えていると思いますよ、新しいことに挑戦するので。

北川
ROGGYKEIとのドレスのプロジェクトと、もう一つ進んでいるのは、西陣織を使った家具のプロジェクトです。環境問題に積極的に取り組まれているシンガポール発の世界的な家具ブランド「スキャンティーク」とコラボレーションをしています。そのようなブランドと、一点を長く大切に着続ける着物文化を背負う西陣織は、サステナビリティやSDGsといった観点からベクトルが合うのではないかと考え、挑戦しています。
単に布地と家具のコラボというだけでなく、その家具を通じて、京都西陣の文化や着物文化などに興味を持ってもらえるようなストーリー性を持たせたいと思い、商品計画をしています。

活動拠点の壁にはプロジェクトに関するアイデアスケッチなどが貼られている。

世界レベルのモデルケースを目指す。西陣connectの今後の展望

平井
京都市は、特定の地域で、特別に課題解決に取り組むだけでなく、エリアごとの資源を活用して個性と活力があふれた活性化を進めるための「ビジョン」を作っています。そのうちの一つが西陣エリアの活性化なんですが,エリアを厳密に線引きせずにグラデーションで示しています。これはこの地の課題を解決することが同様の課題を抱えている周辺の地域にも有効であると考えているからです。そういう意味では、「西陣connect」の構想も、西陣エリアだけの取り組みにとどまらず、周辺地域にも活用できるモデルケースとなることを目指しています。

北川
西陣文化でコンテンツ開発を成功した場合、おそらく日本国内だけでなく、世界のなかでのモデルケースとなれるくらい、高いレベルの文化を持つ場所だと思っています。

平井
ユニークな人たちが目指す町って、世界中にあると思うんですよね。クリエイティブな人たちが集まってきて、さらに発展するような町。それって、どちらかというとそういう人たちが集まってるということが重要で、その土地自体にはそこまで意味がなくても集まっていたりするじゃないですか。でも、西陣はその土地自体にも文化と歴史がある。五節句をはじめ季節ごとに伝統的な行事があったりしますが、今その文化を継承する人がすごく少なくなってきている現状もあります。でも、クリエイターの方々はそのような他にない文化を面白がってくれたりします。そのような方々がここに暮らして、アレンジしながら文化を継承していってくれたら、これからも残すことができるんだろうなと思いますし、そういう面白い人たちが暮らしていれば、また彼らを目指して新たにクリエイティブな若者がやってくる。そんなことを僕の夢として勝手に描いています。

──笠谷さんは、プロジェクトの今後のビジョンのようなものはありますか?

笠谷
今製作しているドレスを世界中のできるだけ多くの人に知ってもらうために、2020年9月のパリのファッションウィークで発表することを計画しています。
ROGGYKEIは海外のバイヤーから高い支持を得ているので、そこで広まって逆輸入的に日本で知られる形になるかもしれません。

北川
世界での情報発信を目指す西陣connectとして、それでいいと思っています。

──すでに発表されていますが、最初の成果発表の場はアメリカ・オースティンで開催されるテクノロジー・音楽・映画の祭典である「SXSW」とされています。なぜSXSWにしたのでしょうか。

北川
西陣connectは、西陣と新しい可能性をつなぐと場所なので、京都市や西陣の方々がこれまでに絶対に出したことないようなところに出したいと思いました。さらに、SXSWは、テクノロジー・音楽・映画の祭典なので、どんな反応が得られるかも未知数で、そこでの化学反応でまた新しいことが生まれるんだろうなと。

■西陣connectの出展情報
SXSW 2020 Trade Show
2020年3月15日~3月18日
場所:オースティンコンベンションセンター展示ホール
時間:午前10時~午後5時

──本インタビューを読んで西陣connectに興味を持っていただいた方もいらっしゃると思います。どうすれば参加できるのでしょうか。

北川
伝統文化や技術に関係した仕事に興味がある若い方にはぜひ「西陣connect」のSNSをご覧いただいてDMでご連絡いただきたいです。ご来訪いただくのも歓迎ですので、この拠点だけでなく、工房などもご案内します。また日本が誇る世界最高峰の文化「西陣ブランド」と共に、世界に向けた新しいチャレンジをしたい企業、アーティスト、メディア、教育機関などの方々は是非気軽にお声かけいただきたく思います。

<プロフィール>

北川佳孝
西陣connectプロジェクトリーダー

2002年博報堂入社。関西クリエイティブ・ソリューション局。クリエイティブ業務、PR戦略立案業務、ソーシャルプロデューサー業務を中心に行う。多摩美術大学にて「ソーシャルデザイン」講師(2014-2015年)を務め、デザインを通じた地域活性化プロジェクトに従事。アスペルガーやLGBTなどのマイノリティPR・表現活動を行う一般社団法人「Get in touch」元理事。

平井忠之
京都市総合企画局プロジェクト推進室
事業推進担当部長

1990年京都市入庁。道路や橋などハード整備を中心としたまちづくりに携わる。公共事業の発注や検査を所管する監理検査課長や土木事務所長などを経て,2017年から現職。文化を基軸に産業や観光などあらゆる分野を融合させるまちづくりに取り組み,2019年1月に「西陣を中心とした地域活性化ビジョン~温故創新・西陣~」を策定。

笠谷圭見
株式会社リッシ
取締役副社長 クリエイティブディレクター

グラフィック・映像・空間演出など、活動の幅は多岐に渡る。2011年より知的障害者による創作物の魅力を発信するプロジェクト「PR-y(プライ)」を主宰し、海外のギャラリーや研究機関等との橋渡しを手がける。「DISTORTION」というコンセプトワードを掲げ、アート展やファッションブランドのプロデュ—ス、ドキュメンタリー映画の監督など、様々な領域で表現活動を行っている。

西陣connectコアスタッフ(左から佐伯 研・北川 佳孝・三宅 達也・鳥本 拓志)
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