藤原
今から5年前の2014年のリテールの課題は、分散しているデータをどうするか、顧客の行動データがとれないことをどうするかといったことでした。2019年では、対話型コマースやスマートロボットなど、「ストアの中で楽しんで買ってもらいましょう」というテックが多くなったように思います。そこでまず、2014年と2019年の違いから始めたいと思います。
射場
北米のテックは、ここ3年で20年から30年分くらい変わったと思います。体験の考え方も変わりました。2014年には「オムニチャネルを活用する」だったのが、2017年には「消費者エクスペリエンスを作る」に変わり、現在は単にデジタルで「体験を作る」から、ビジネスモデルやオペレーション、KPIも含めてデザインして「総合的に体験をデザインする」に変わってきています。
長谷川
購買方法が変わってきていますね。2014年に比べると、サブスクリプションをはじめ、購買経路が多様化したといえます。
斉藤
2014年にはお客様に操作していただくことが多かったのですが、2019年には顧客にテクノロジーを意識させない方向になっています。
山崎
2014年は大きな企業が提供するシステムが、すべてとは言わないが大半で、2019年はスタートアップ企業という色分けがはっきりしています。
射場
アメリカの大きな企業は、スタートアップ企業がつくったものをつなげばいいとなってきています。
藤原
求められる人材も変わってきていますか?
射場
何をつなげばいいかを考える、プロデュース側に立つ人が必要になっています。テクノロジーがわかって、消費者体験をつくる技術、スキルが必要です。
山崎
リテールが投資対象になって、資金が入ってこないと優秀な人材は育ちませんね。
藤原
この2年ぐらいのテクノロジーとエクスペリエンスはいかがでしょうか
長谷川
広告の使い方が変わってきていますよね。今は、お客様がほしいと思った瞬間に買える状況をつくらないと、情報過多ですから、ほしいと思ったことすら忘れてしまいます。広告は単に商品を出すのではなく、役に立つ情報としての商品を出すようにすることが必要です。お客様の買い物の導線にきちんと合わせていかないと、買いにつながりません。
射場
アメリカでは、先に商品をオーダーして店でピックアップできる「BOPIS (Buy Online Pickup In Store)」というサービスがウォルマートを中心に流行し、消費者の行動が変わったといわれています。このサービスによる売り上げはECに匹敵するそうです。当初はピックアップに時間がかかっていたのですが、現在はドライブスルーでピックアップできるとか便利になっていて、アプリの利用率も上がっています。
斉藤
サービスを設計してからアプリを活用してもらうというのは、まずアプリを入れてもらう日本とは逆ですね。
藤原
GAFAと中国系のBATを、小売りはどう見ているかという話題に移りたいと思います。ただ、ウォルマートの売り上げはアマゾンの2倍以上あって、小売りのプレーヤーはやはりリアル店舗を見る必要もあると思います。
長谷川
逆説的ですが、GAFAはリアルの価値を大事にしています。リアルの価値には、摩擦がない、つまり「スムーズに買い物ができる」ことと、「発見がある」ことのふたつがあります。例えば、無人コンビニで買い物をしたら通知が来て、「買い物時間は56秒でした」と知らせてくれました。水しか買わなかったので短かったわけですが、買物がすぐに済むだけでなくそういう楽しさも提供してくれます。
斉藤
「小売りあるある」に、店頭に商品がなく、バックヤードまで取りに行くということがあります。お客様にはマイナス体験をさせてしまいます。GAFAは、そうしたマイナス体験をさせないようにしているところがうまくできていて、参考になります。
射場
ウォルマートはリテールのトップでありながら、2015年に、自分たちは”リテール会社ではなく、テクノロジー企業になる”と発表して,業界を驚かせました。その言葉を実行に移し、2018年には世界のIT投資で3位の巨額の投資をして、デジタル化を進めています。ウォルマートが、リアルなリテールであってもGAFAと戦えることを示してから、大手のリテール企業も、デジタル化を一気に進めています
藤原
金融サービスなど、本業とは違う収益源を小売りは探し始めているのでしょうか?
長谷川
直近で「Retail as a Service」という言葉をよく耳にするようになりました。例えば、食品スーパーの大手でグローサリーの「クローガー」が、マイクロソフトと組んで「スマートシェルフ」に取り組んでいます。これはメディア事業でありプラットフォームです。そこにはマイクロソフトのアルゴリズムと、売り場に関するクローガーの知見が入っており、棚づくりの支援もできるもので、競合のリテーラーに対してソリューションサービスとして提供していく計画です。
藤原
では、テクノロジーと顧客体験とは何なのでしょうか?
山崎
テクノロジーとは、迷いをなくし、手間を省いて、簡単に商品にたどり着けるようにするもの。顧客体験をやりやすくするものだと思います。
斉藤
テクノロジーによって、スタッフが決済に使う時間が短くなったら、その分を接客に充てたいですね。
射場
テクノロジーが先ではなく、まず誰が顧客で、その中で重要な顧客とは誰なのかを考え、どのような体験を提供すれば利益が上がるかを考えることが必要です。その上で体験をデザインすることが必要だと思います。
長谷川
テクノロジーで利益を生むとなると、目先の効率化やコスト削減に飛びつきがちで、行き過ぎてしまうことがあります。すぐに利益に結びつかないかもしれないが、CXを上げることなどに使うことが、長い目で見ればいいのではないかと思います。
藤原
最後に、これから行動すべきことは何でしょうか?
射場
アメリカで起きていることは、日本市場でも起きることが考えられるので、準備することが重要です。その際には、自前主義を捨てることも考える必要があり、テクノロジーがわかり、ビジネスデザインもできるプロデューサーのニーズが高まる可能性があると思います。
長谷川
マーケターの観点からは、体験の設計が大切といいたいですね。自分が心地よかった体験など、体験の引き出しを増やすこと、自身がコンシューマーとして動くことが重要です。
山崎
自分を大切にし、人のいうことを鵜呑みにしないことが、今後行動すべきことです。
斉藤
自分たちが何をやりたいのか、自分たちが主語になるべきです。自分たちが成し遂げたいことに対してテクノロジーが足りないのなら、他とつないでいくことが求められます。
藤原
人の言うことを安易に信用せず、自らコンシューマーとして動き、自分を大事にして、自分で考えることが、結局は重要ということになりますね。
2000年自社ECの立ち上げをし、物流からささげ業務まですべてを構築する。現在全社マーケティング統括と情報システム部門トップを兼任しオンラインとオフラインを統合した顧客体験の向上を通して長い関係性を構築していくことを進めている。
2007年、包装用品、店舗用装飾品、慶弔用品、事務用品などを扱う専門商社に販売員として入社。2010年、自社ECサイト立ち上げを機にEC運営に携わるようになる。その後、モール店立ち上げ、公式SNS、LINE@など様々なサービスの立ち上げ、受注管理システム導入などを主導で進める。商品導入の商談から受注対応、出荷業務、広告運用までEC運営に必要な幅広い業務を担当。立ち上げから7年連続二桁成長を達成し退職。
その後ECパッケージベンダーにてwebディレクターを経験、複数クライアントの運用支援に従事。2018年より現職。株式会社イオンフォレスト(ザ・ボディショップ)にてモール運営、オムニチャネル推進・自社サイト/アプリ開発などデジタル分野に広く携わっている。
プロバイダ及びデータセンターにおいてネットワーク・サーバエンジニアを経て2006年にZETA株式会社を設立、代表取締役に就任(現任)。ECソリューション「ZETA CX」シリーズとしてサイト内検索エンジンやレコメンドエンジン、レビューエンジンを開発、販売している。
2012年博報堂入社。以来TBWA\HAKUHODOにてブランド・コミュニケーション戦略の立案に従事した後、博報堂買物研究所において海外のリテールテックスタートアップ企業とのアライアンス・ソリューション開発経験経て、2017年より現職。現在は主に小売・CPGメーカー・通信会社等の企業が保有する顧客データや「生活者DMP」の活用によるマーケティングの高度化を支援。また、サイネージ・モバイル等の生活動線メディアを連携させ、都市の中で新たな情報体験の提供を可能にするメディアサービス・ビジネス開発を推進。
IBAカンパニー代表として、米国等の最先端イノベーションを活用しての事業開発、日米の協業をサポートする。現在のフォーカス領域はデータ活用、フィンテック、サービス&リテールテック。IBA立ち上げ前は、18年間米国企業の本社とアジアにて、新規事業開発、マーケティング、およびマネージメントに従事。コルゲート・パマリブ社、クラフト社、 アメリカンエキスプレス社、Fila社を経て、日本コカコーラ社副社長としてイノベーションをリードした。