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多様性に対応したこれからの広告表現【アドテック東京2019レポート】

2020.02.27
#adtech
マーケティングとテクノロジーに関するカンファレンス「ad:tech東京2019」において、『多様性に対応したこれからの広告表現』というタイトルでセッションが行われました。スピーカーとしてゲッティイメージズジャパン 代表取締役社長 島本久美子氏、フォリオ CMO リュウ シーチャウ氏、博報堂 CMP推進局 ストラテジックプラナーの楊蘇瑞が登壇、スマートニュース 執行役員/広告事業担当 川崎裕一氏がモデレーターを務めました。

■イノベーションを推進する多様性

川崎
『多様性に対応したこれからの広告表現』というタイトルで、今回はお話していきたいと思います。ではまずみなさん、簡単に自己紹介をお願いいたします。

島本
ゲッティイメージズの島本です。私はゲッティイメージズのヴァイスプレジデントで、日本を含む東アジアと東南アジアを担当しています。もともとロンドンでゲッティイメージズに入社したのですが、人生の半分は日本、半分はニューヨークとロンドンで過ごしてきました。よろしくお願いいたします。


博報堂の楊です。私は中国出身で、2013年に博報堂に入社しました。入社後3年半は主に日本国内の広告案件を担当して、直近の4年間は中国にフォーカスしていて、クライアントが中国に進出するときの事業戦略やデータマーケティング戦略のサポートをしております。今日は自分の経験を交えて、中国にフォーカスして情報をシェアさせていただきます。

シーチャウ
フォリオのシーチャウです。私も中国出身で、外資系の消費財の会社で仕事をしていたのですが去年からフォリオに入社しまして、経歴的にもダイバーシティの話だと思うのですが、生まれは中国で日本でずっと仕事をしていて、日系企業で働いたことはなくていろんな国の人がいるなかで働いてきたのでそういった意味でもダイバーシティを経験してきたのかなと思います。

川崎
ではさっそく、「インクルージョン」から今日の話を始めたいと思います。島本さんはインクルージョンという言葉を、どのようにとらえていますか?

島本
多様性を表現した広告は最近増えてきていると思うのですが、「インクルージョン」を考えるとまだまだ課題があるのではと思っています。
最近でインクルージョンがうまくいったケースは、ラグビーの日本代表だと思います。「One Team」を掲げることによってインクルージョンが達成でき、個々の能力が発揮できました。インクルージョンはパフォーマンスを上げるのに重要なポイントです。私たちが扱っている商業用の写真でも、男女のイメージは、この10年あまりで大きく変わっています。

ゲッティイメージズで1番売れた写真ですが、2007年ごろの“女性”のイメージは、カメラ目線の美しいモデルのような女性でしたが、2009年以降はカメラ目線がなくなり、やがてモデルがメインではなくなり、“女性が何をしているか”にフォーカスが当たるようになります。2018年には白人女性ではないモデルが登場しています。

あるトイレタリーのブランドが行ったグローバルのアンケートで、7割の女性がメディアや広告で自分のことが描かれていないと感じてらっしゃるらしいです。さらに、6割の女性がその職業と自分のイメージが合っていないから、将来の夢をあきらめてしまっているという結果がでました。そのように、広告やメディアに使われている写真は知らない間に価値観の形成にものすごくインパクトを与えているのです。それを変えていこうと思ったときに、そのブランドだけでは難しいので、我々と組んでコレクションをつくりました。
こちらのコレクションは女性のフォトグラファーが、女性を撮っています。加工やレタッチもなしで、女性を撮ったというコレクションです。そのほかにもムスリムの女性や高齢者、障害者を撮り直したりと、ビジュアルからステレオタイプを打破する取り組みをしています。

こういったものがもっと広告に使われていくようになっていくと、特に若い女性にとって、広告と自分自身とのギャップがなくなるのではないかと期待しています。
ちなみに、“お父さん”のイメージも変わってきています。強い父親のイメージから、子育てに参加し、包容力のある優しいお父さんにトレンドが変わりました。2018年には、ゲイのカップルと赤ちゃんの写真が、LGBTQで1番になったのと合わせて、“家族”の写真の売り上げトップテンに入りました。障害者については、人口の2割いるのにもかかわらず広告には使われません。社会の中で活躍する姿をナチュラルにとらえた写真をもっと増やす必要を感じています。

川崎
「インクルージョン」と「ダイバーシティ」をどのようにとらえていますか?

島本
ダイバーシティは数値目標のようにとらえていて、インクルージョンは永遠のテーマでしょうか。ダイバーシティとインクルージョンを推進している企業はイノベーションが進むといわれています。いろいろな人がいると、阿吽の呼吸が通用しませんから、イノベーションの前提から見直すことが必要になり、結果として新しい発見が生まれるということなのでしょう。

川崎
次は広告の多様性について、楊さんからお願いします。


日本と中国では大きく異なることがあります。たとえば、日本では都市と地方という分け方をしますが、中国には都市だけでも1級から4級まであり、それぞれでライフスタイルも夢といったものも異なります。
広告のルートも、日本はマスの方がネットより優勢ですが、中国は逆です。販売ルートも、日本はリアル店舗で、中国はECやOMOが重要。中国の生活者には、多様で強いこだわりがあり、平均的なユーザー像は意味を持ちません。「千人千面」といい、人それぞれに応じたアプローチが求められます。

そこで私たちは、消費者行動ビッグデータと生活者洞察データをかけ合わせて、より解像度の高い中国生活者の理解を得ようとしています。消費者行動ビッグデータは、EC行動データ、購買データ、オンライン行動データといったもので、生活者洞察データは定点調査や口コミ・生声データ、検索ワードなどです。
中国では多様な生活者がいるため、平均的な生活者像を分析してもあまり意味がありません。この2種類のデータを活用してより強いこだわりニーズを探索したうえで、そのニーズを持っている生活者にアプローチします。そうすることでより良質なブランド体験や、中国でのファンを増やすことができます。

実際にある食品メーカーが、中国において女性を対象に商品を展開しようとした時も、データ分析すると潜在顧客が大きく3層ありまして、子育て中の女性、大学生、そしてOLでした。そこで、それぞれに応じた食べ方を提案しました。
日本で売れているものを中国でも売りたくなり、日本に近い広告にしたくなりますが、日本で売れていないものが中国で評価されることもあり、商品とコミュニケーションを改めて考える必要があります。

■ダイバーシティがビジネスでも結果を生む

川崎
ダイバーシティとディシジョンメイクのリスクについて、リュウさんはどのように考えていますか?

シーチャウ
ディシジョンメーカーが男女、どちらかに偏るのはよくなく、ダイバーシティが必要だと思います。私はLINEを利用した女性向けの少額投資を担当していますが、以前のチームはすべて男性でした。それを男女半々にして、投資初心者も加えました。
以前のサービス内容は、投資商品にありがちなものだったので変更しました。女性にとって投資は遠いものに感じられがちなので、「30万円でイタリア旅行」といった身近な目標を設定できるようにし、イヌやブタのキャラクターが、投資金額の増減や長期運用の必要性などの情報やメッセージを柔らかく伝えるようにもしました。

その結果、女性のCVは3倍になったのです。バナー広告も、投資リテラシーの高い人が担当していたものを、男女半々のチームでつくった結果、CPAが1/10になり獲得コストが下がりました。男女の違いだけでなく、自分と気の合わない人も入れた方が、クオリティの高いディスカッションができるようです。ダイバーシティが進むと結果も出るので、ビジネスチャンスとしてとらえることが大切と思います。

島本
スポーツフォトグラファーもほとんどが男性で、女性アスリートを撮影する際には、異性として魅力的な姿を無意識に撮りがちです。意識の高いフォトグラファーであっても、そうした傾向があります。今後は女性のスポーツフォトグラファーを増やす必要があると感じています。


バナー広告には商品の露出を多くしたい、と考えるクライアントが少なくありません。中国も以前はそうでしたが、今ではストーリーをつくり、ライフスタイルに合っていると実感させたうえで商品につなぐことが重要で、クリック率も変わってきます。とにかく、細かくストーリーをつくり、正しくターゲットに当てることが必要です。

川崎
では最後に、お気づきになられたことがあれば一言ずつお願いします。

シーチャウ
ダイバーシティって何のためなのか、わからないから進んでいないのかなと思っていたのですが、実際に進んでる事例もありますし、中国の例もそうなのですが、多様性をビジネスチャンスと捉えてやっていくポテンシャルもあると思うので、今後も引き続き注目していきたいと思います。


自分の経験だと、比較的マーケティングにフォーカスしている考えをしていたんですけど、おふたりの話を聞いて、ビジュアルも重要ですし、フォトグラファーも組織も含めて多様性は重要だなと勉強になりました。今後はその点についても勉強していきたいなと思います。

島本
中国のマーケティング事例で、そこまでターゲットを多様化させて対応していることに驚きました。日本にいるとそこまでなかなか考えないと思うのですが、そういった環境のなかで世界に対してマーケティングしていこうとなると難しいことも多く、日本においても多様なチームで対応していくことを意識していかないとならないのかなと感じました。

川崎
ダイバーシティとインクルージョンは氷山のようなもので、洋上にあるダイバーシティを、海の中で支えているのがインクルージョンです。ダイバーシティに注目が集まりがちですが、インクルージョンは絶対に必要なものであることを知っておきたいと思います。

■プロフィール

楊 蘇瑞
株式会社博報堂
CMP推進局 ストラテジックプラナー

2013年大学卒業後博報堂に入社。中国における豊富なデータドリブンマーケティングの知見を活かし、得意先グローバル事業に関する提案、ならびにブランド課題に関する戦略的コンサルティングを主に担当。同時に、研究開発局にも複属し、中国生活者に関するデータプラットフォーム及びソリューション開発を担当。

川崎 裕一
スマートニュース株式会社
執行役員 広告事業担当

1999年日本シスコシステムズ(現シスコシステムズ合同会社)入社。ネットイヤーグループを経て、2004年にはてなに入社し取締役副社長に就任。2010年kamadoを設立し代表取締役に就任。2013年にミクシィ入社。執行役員クロスファンクション室 室長を経て、2013年6月取締役。2014年より現職。

島本 久美子
ゲッティイメージズジャパン株式会社
Getty Images 日本・東南アジア・香港・台湾 営業部ヴァイスプレジデント/ゲッティイメージズジャパン株式会社 代表取締役社長

大阪府出身。2歳から13歳までを米国で過ごす。
1991年 神戸大学経済学部卒業後、大阪ガスに勤務。大阪ガスでは地域開発に取り組み、マルチメディアをテーマに京都リサーチパーク設立に関わる。その後渡英し、ゲーム会社を経て2001年、英国のパブリシティポータルサイト「イメージネット」に入社、グローバルセールスダイレクターに就任。2004年にイメージネットがゲッティイメージズに吸収されたのを機にゲッティイメージズ(イギリス)で、イメージネットと報道写真のメディア向けセールスを担当する。報道写真のセールス シニアディレクターとして、イギリス、ドイツ、スペインの報道写真事業の拡大に貢献。2009年に帰国し、ゲッティイメージズのアジアヴァイスプレジデント兼ゲッティイメージズ ジャパン代表取締役に就任。現在に至る。最終学歴は2006年University of Manchester (UK), Media Studies 修士号。

リュウ シーチャウ
株式会社フォリオ
CMO

一橋大学卒 P&G、RBで複数消費財カテゴリーのマーケティングを経て、J&J Japanのマーケティング本部長に就任。全ブランドの売上及びその収益責任を負い、かつデジタル戦略を統括する。二年間で全ブランドのマーケットシェア向上を実現した後、J&J香港の現地社長として赴任、一年間でV字回復して軌道に乗せる。2018年7月より現職。

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