おっ、今日は零度なのか
やっぱり真反対なんだな、日本とは
毎日2万歩の強行軍調査に出かけたのはちょうど1年前
自分の子供世代より若いメンバーの中に混じって、歩く歩くを1週間
遠く遠く日本から何千キロも南に下ったとあるまちで、
この当たり前のことを当たり前のようにびっくりしていた
暑い暑いあっつい〜
すでに気温は36度超え
アスファルトの照り返しもあってか
ジリジリと日差しが肌に突き刺さるのに
湿度のせいか、そらがでっかいからか、かなり過ごしやすく感じる
そうか
整理されすぎていないこの街並みの猥雑さと活気とそこここにある緑のせいだ
ともかく心地いいここメルボルンは、人口約500万の大都市
「大都会を抜け地方都市にも行ってみよう」
引率リーダーのそんなひとことで調査は進む、深まる、広がる
1都市を見ても、わかることは少ない
ましてや、1分野だけから掘り進んでも、全体にはたどり着けるはずもない
俯瞰って簡単にいうけれど、
分野は未知に広がり
知れば知るほどわからなくなっていく
まちに関わるということは、多分そういうことだ
それにしても海外の駅は、どこもほんとうにわかりやすい
サインが優れているのか、建物がいいのか、デザインがいいのか
はたまた秀逸な全体最適なのか・・・
どこへ行ってもいつも感心する
つぎの列車まで時間があるので、それぞれ思い思いのお弁当を買って混み合う列車に乗り込むと、なんと行き先とは逆の方向に進んで行ってしまった
いや〜、ご愛嬌ご愛嬌
こういう時にも慌てることなく的確に情報収集できる最近の若者は頼りになる、ほんとうに。
一駅先で折り返して、みごとみんなでゆったり座れて、目的のまちまでカタコトゆられること1時間ちょっと。電車に揺られて食事を取るのは、どこの国でも快適だ。
まちとまちの間はたいてい山並みか田畑がひろがっているというのが、日本のあるある風景だけれど、ここはいきなり砂漠がどーんと広がる。
鳥取砂丘、何個分だろうか、世界はやっぱり広いんだ。
山と川と田畑と緩やかに繋がる日本とは違って、まちとまちの境界線がかなりくっきり鮮明なんだろうなと妄想する
赤茶けた時に枯れ果てた草木の色に車窓を照らされながら到着した駅バララット(Ballarat)
思わずバケラッタって読んでしまったこのまちは、駅から出るとまるで映画のオープンセット。
少し低層の懐かしい木造の建物、幅広いみち、澄み切った雰囲気、青く広く大きい空。こんな街並みがリアルに存在するからこそ、個性があってまちはおもしろい
圧倒的な存在感あれど生活感は伝わりにくいそのクリーンさと静けさの中、トコトコッとみんなで歩きはじめた
程なくインフォメーションセンターに到着
そうか、暑くて外に人が出ていなかったんだな。
賑わいを感じながら、日本のような丁寧な説明&おもてなしを受け、このまちの歴史・文化や見所を伺った
ゴールデンシティって呼ばれるんです
そうか
鉱山の街だったんだな
一攫千金を夢見てたくさんの人がここに集まってきたんだ
そして散っていったんだ
セットみたいなまちに見えたのも、うんうんと頷ける
日本にもあるな、そういうまち
明るさの中にすこーしだけ哀愁を感じたのはそういうことだったんだ。
ちょっとだけまちの初見ができるようになってきたのが、少し嬉しい
インフォメーションを出てまた歩き始めると
高校生だろうか?学生グループに遭遇
学生ってなんか国境はないな
東洋人の集団に遭遇し興味津々の様子だけれど、声をかけてくるってことはない
ちょっとシャイな感じ、こっちから声を掛けると湯水を切ったように話し出す
みんな、いるだけで、話すだけで、楽しそう
こうやって半端なく暑いのにも関わらずひたすら歩いて調べるまちの構造、このアナログさこそが、実は一番大切
私の好きなこの一見回り道・帰納的アプローチこそ、実はちか道で機能的
そう世の中、最短距離を求め過ぎてたのかも知れない
お疲れ様でした
随分歩いて湖に着いたところで、調査終了
若者がささっと配車アプリを使って、さささっとタクシーを呼び、映画セットの中をスーッと通り抜けて駅に戻る
いつの日も帰りは近く早く感じるもの
黄金色の砂漠平野をさっと通り過ぎ、大都会メルボルンに舞い戻ってきた
クルマも路面電車も一緒に楽しく走っている
そう路面電車環状線はなんと運賃無料
ひっきりなしに来る、ときに繋がって渋滞している路面電車を見て時刻表の不要さが身にしみてわかる
サービスってこういうものだ 可視化されさえすればいい、テクノロジーは二の次三の次
加えてこのメルボルンは、街中のクルマ通りをシャットアウトしてはいない
クルマと共存する公共交通、そんな光景がともに刺激しあいこのまちを益々元気にしているようだ
なぜだろう
日本は、まちは、くらしの場は、残念ながらちょっとビハインドのよう
ひとは見えたものしか観ることができない
素人らしいときめき・憧れが、ものを見る目が霞み、点でまちを見てしまいがちに
都市計画も建築も土木もランドスケープも、そしてテクノロジーも
真の専門家がもっともっと大義を背負い大英断のもと、あらゆる方々を巻き込みリードして、ほんとうのまちをつくるアクションを共に行なっていきたい
パリ、ポートランド、バンクーバー、メルボルン、そしてトヤマ
2013年、あのOECDが世界で優れたまち・コンパクトシティを5都市選定したそのひとつメルボルンに、エイっとみんなでやってきて随分と日が経った
全部制覇したいね、なんていう目標だか夢だかto do listだかわからないことを掲げてもうすぐ2年ちょっと。今若者たちは、次なる地バンクーバーを調査中である
そして日本のまち・トヤマ・もこの中に入っていることをほんとうに誇りに思う
想えば叶う
実現しはじめるといつも、「なんとなく想う」ということの大切さをしみじみ感じる。
あっという間に随分と月日が経ったある日
あの時と同じように電車に揺られ大都会を抜け地域へ向かう
支線に乗り換えホームを出発した電車は
大きなブレーキ音とともに線路上で急に止まり、
運転手が何事もなかったように席を立ち、扉を開け、
2両電車の車内を歩いて反対側へトコトコと移動
そちらの運転席から、今度は反対に向けて出発進行
お〜スイッチバックだ、すごいなここにもあるんだなんて思っていたら、
同じ駅にもう一度停車し、またお客さんを乗せ、
なにごともないように、目的地に向かいはじめた
行って戻って・・
あれ、これってバララットに行ったときと同じじゃないか
不可思議な共通点を勝手に見出しながら、
辿り着いたバララットコーナーがボツんとある図書館で
写真集や資料を広げながら、
あの映画セットの暑い日々を思い出しながら、
そうか、だから姉妹都市なんだな
降り立ったそのまちも
セットのように綺麗に静かに整備されていた
少しの既視感を纏わりながら
帰り道の車窓で
今と情景が交差するウイットに富んだブラインドを
なぜかずーっと見入っていた
つぎは、「5/60/1827」です
*オーストラリアの森林災害に深く心を痛めてしまい、なかなか執筆ができませんでした。1日も早い豪州ならではの復興の道程を願ってやみません。
メーカー・シンクタンク・外資系エージェンシーなどを経て、博報堂入社。
事業戦略/新商品開発/コミュニケーション戦略等のマーケティング・コンサルティング・クリエイティブ業務やプラットフォーム型ビジネス開発に携わり、都市やまちのブランディング・イノベーションに関しても研究/実践を行っている。