こんにちは。ヒット習慣メーカーズの江です。
4月1日、多くの企業が令和になって初めての新年度を迎えましたが、東京都内では、先週に続き新型コロナウイルス感染拡大による平日のテレワークまたは週末の外出自粛要請が出されており、普段は多くのビジネスパーソンや観光客でにぎわう街の人出が大幅に減少し、とても閑散としています。
一方、中国では、新型コロナウイルス感染による発症が世界で初めて確認されたとされる武漢市でも明日の8日、都市封鎖が解除される予定です。他都市との航空便や高速鉄道が再開し、2カ月半ほど流れが止まっていた人やモノが動き出します。
さて、今回注目したいのは日々の暮らしを充実したものにしてくれる、急速定着してきた「雲遊ライフ」です。
「クラウドサービス」は中国語でそのまま「雲(=クラウド)服務(=サービス)」というふうに3文字で表現されます。「雲遊ライフ」とは、コロナの影響で外出や行動を厳しく制限される中でも、字面通り人やモノの流れが「雲(=クラウド)」の上で止まることなく、「回遊性」のある「ライフ」を維持できているという意味で私が考えた造語です。新型コロナウイルス前と比べると、今まで存在しなかった、人気レストランの店舗休業に伴いレシピをオンライン公開する「雲大厨(=クラウドシェフ)」、VRで全国の名所を旅する「雲旅行」や日本でも浸透し始めた「雲乾杯」「雲聚会(=パーティー)」などの「雲○○」と称されるクラウドサービスが話題を呼び、本格的な普及が始まろうとしています。
そんな中で、新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために、学校が再開するまで登校できない青少年と、春節期間の連休が延長されたのに見識を広げたくても旅行に行けずにいる人が最も影響を受けているとされます。
ここでBaidu指数をみると、「雲遊ライフ」の拡大を象徴する「雲課堂(=教室)」という類の教育系クラウドサービスへの関心度は1月末の春節休みを境に急上昇したことが顕著に表れています。その後も毎週月曜日がやってくるたびに、「雲課堂」を注目する人が急増することは見ての通りです。
また、中国で大人気のショートビデオのプラットフォームでは、ライブ中継または動画配信の形式で「在家雲遊博物館」という、国内各地の名高い博物館を観覧できるサービスの提供を開始。各博物館の学芸員から専門的な解説を聴くことができる一方、リアルタイムで質問したりして双方向のコミュニケーションも実現可能です。まさにクラウド上を回遊するだけで中国のことわざで言う「万巻の書を読み、万里の道を行く」(学ぶと共に、様々な経験を積むことの大切さ)を体現できるものですね。他には、時と場所を選ばず、自分の好きなタイミングで憧れのインストラクターに習って体を鍛える「雲健身(=フィットネス)」や、字幕による楽曲の背景知識などの解説付きで生演奏を楽しめる「雲音楽会(=コンサート)」もにわかに人気を集めています。
なぜ「雲遊ライフ」は一過性のものでなく、この先も習慣として定着しうると考えられるのでしょうか?その理由を探ってみました。
1つ目の理由は、「雲遊ライフ」のほうが心理的または物理的制約から解放されることです。中国は非常に広く、高速鉄道網の整備が進む中、利便性が向上したといえ、都市間の移動にはお金もかかるのです。そして、1例を挙げると、SNS上で不慣れな自炊で失敗作をネタとして披露しても笑われてしまうことが少なくて済みます。このように、「雲遊ライフ」で心理的なハードルを下げると挑戦したいことも他人に披露したいことも、過度に気負うことなく実現しやすくなる利点がありますね。また、子供が「雲遊ライフ」をしていて、その影響から親も利用するケースが増えてきているようです。
2つ目の理由は、「雲遊ライフ」の安心感を高めるために、各社、「非接触」に徹したこと。非接触配達がその代表です。中国のネット通販やデリバリーサービスの顧客と接触しない配達方法など衛生面を意識した対応が広がりを見せています。注文から受け取りまですべてコミュニケーションアプリのミニプログラムで行われたり、ロボット配送の実験が進んだりしています。新型コロナが終息した後も、慢性的な人手不足状況に置かれても顧客都合に合わせてロボットが24時間365日の待機で注文したものを届けてくれることも、衛生面でさらなる安心感を与えてくれることが期待できます。「非接触」の良さを知ってしまった中国の生活者では「非接触サービス」を選ぶことは減ることがないでしょう。
最後に、「雲遊ライフ」のビジネスチャンスについて、少し具体的に考えてみました。
現在は新型コロナ問題がいつ収束するかが見通せない中、日本でも「雲遊ライフ」の普及が見込まれますが、今後はデジタルでは代替できないリアル消費の良さも再評価されるだろうと考えます。今回の逆境も、生活者の日常生活を変える新たなイノベーションが生まれるきっかけとなるかもしれません。
2017 年博報堂に中途入社。
近いようで遠い中国のヒット習慣から仕事のヒントを探す日々。
中国で一番辛いと言われる故郷の湖南料理をこよなく愛する、生粋の「辛党」。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。