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ヘルスケアPRから社会課題を解決する オズマピーアールが取り組む「テトテトプロジェクト」とは

2020.05.29
#PR#グループ会社
博報堂グループの広報・PR会社であるオズマピーアール。その強みの一つが、高度な専門性が求められる医療・ヘルスケア領域におけるPR(パブリックリレーションズ)です。なかでも、世の中のヘルスケアに関わるコミュニケーションを同社が独自にサポートする取り組み「テトテトプロジェクト」が注目されています。立ち上げからかかわる同社の伴野麻衣子さんと野村康史郎さんに、誕生のきっかけや、実現したいことなどについてうかがいました。

伴野麻衣子さん:オズマピーアール オズマヘルスケア本部 本部長
ヘルスケア領域に特化し、これまで国内外の製薬企業、医療機器メーカー、製薬工業協会、学会などのPR活動を担当。さまざまなヘルスケア領域におけるコーポレートコミュニケーション、疾患啓発活動、患者会コミュニケーションを手がける。

野村康史郎さん:オズマピーアール オズマヘルスケア本部 部長
ヘルスケアクライアントを中心に、多様なクライアントのPR戦略立案から企画実行まで幅広く手掛ける。「カンヌライオンズ」「スパイクスアジア」「PRアワードアジア」「日本 PR アワード」など国内外のアワードをヘルスケア案件で受賞。日本 PR 協会「PR プランナー試験対策講座」の講師も担当。

仕事は終わっても、患者さんたちの人生は終わらない

──お二人の普段のお仕事と、「テトテトプロジェクト」を立ち上げるまでの経緯をお聞かせいただけますか。

伴野
私はオズマピーアールに2006年に入社し、その後すぐジェイ・ピーアールというヘルスケア・医療専門の子会社に出向、2年後に戻ってからもヘルスケア領域を担当してきました。入社以来ずっとヘルスケアのPRと向き合ってきたことになります。製薬会社、医療機器メーカーさんなどのご依頼で、一般的には興味・関心がもたれづらい希少疾患や難病などの啓発活動について、いかに世の中の関心を惹くことが出来るかを考え、社会に情報を流通させ、届けるのが主な仕事です。

野村
私はもともとスペシャルオリンピックスという知的障害のある人にスポーツ活動を提供するNGOで広報を担当していて、より専門性を高めたいと思い2007年にオズマピーアールに入社しました。私も製薬会社や自治体などの仕事が中心で、禁煙の啓発活動にも長く従事し、「ニコチン依存症」「受動喫煙」といった概念の定着などを行ってきました。仕事の流れを簡潔に言うと、製薬会社や自治体などから「この病気について知ってもらいたい、理解を深めてもらいたい」といったお題をいただいて、私たちが世論や生活者の関心を逆算し、ニュースを創り出すことで、メディアやインフルエンサー、コミュニティなどに働きかけながら世の中に届ける仕事だと考えています。

伴野
医療にまつわるさまざまな仕事をしていると、その都度患者会やお医者さん方とのつながりが生まれるのですが、いざその仕事が終了すると直接的な関わりはなくなります。一方で、案件自体は終わっても、患者さんたちの人生、「アンメットニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)」はずっと続いていくんです。そのことに気付いて以来、ご縁を途切れさせず、その後も何か患者さんたちに関わっていく方法はないだろうかとずっと思っていました。そんな中、数年前に携わったある製薬会社さんの仕事で、先天性の心臓病のお子様を持つ多くのお母さん方が関わっていらっしゃる患者会さんとつながったことが、「テトテトプロジェクト」立ち上げを決意する大きなきっかけになりました。

野村
生まれながらに心臓病を患っていても、現在の医療ではほとんどの患者さんが成人を迎え、普通の生活が送れるようになってきました。ただ小さいころから親御さんの手厚いケアを受けてきたために患者さんが自立できず、病気をよく理解せず成人した後に病気を悪化させてしまうという新たな課題が生まれています。そこで我々は、彼らが子どものころ参加できなかった最も印象的な出来事であろう運動会に着目し、幼少の心臓病の患者さんが挑戦する「初めての運動会」というイベントを企画・実施して、課題の存在を社会に問いかけました。この企画を通して患者さんとご家族に自立の一歩を踏み出してもらうとともに、メディアやコミュニティを通して先天性心疾患という病気に潜む課題について多くの人に知ってもらうことができました。
この企画を進めるなかで、親御さんたちから、「患者会を運営しているが、会員とのコミュニケーションが難しい」「(病気の子どもを)保育園や幼稚園に預けられないので、自主保育グループを立ち上げるしかない」「病気についてもっと情報発信していきたいが、やり方がわからない」といったさまざまな悩みをうかがったのです。そんな話をうかがううち、我々の専門性も生かしながら、継続的に彼らの課題を解決するためのコミュニケーションを支援していく枠組みをつくりたいという思いに至り、生まれたのが「テトテトプロジェクト」の構想でした。

テトテトプロジェクトのサイト(https://ozma.co.jp/tetoteto/

──テトテトプロジェクトはビジネスではなく、無償の支援という形で取り組まれているのですよね。具体的に、どういった活動を行っているのですか。

伴野
「テトテトプロジェクト」のベーシックなメニューは、PR活動のサポートを必要とされている患者会さんやヘルスケア関連の学会の方々などが伝えたい情報について、無償でニュースリリースを作成、配信するサービスです。ヘルスケア領域のメディアや世の中の興味や関心を引きつけるニュースリリースの書き方、どういうメディアに情報を届ければよいかなどの相談をお受けしています。また、弊社の会議室を無償でお貸しして患者会の皆さんが集まるお手伝いをしたり、患者会のホームページ作成や病気を啓発するキャンペーンのお手伝いを行ったりもしています。

野村
患者会を立ち上げるためのワークショップ開催のサポートや、無償で利用可能な情報発信ツールを紹介したりすることもあります。最近ですと、複数の製薬会社に寄付を募って病気の啓発を行いたいという患者会さんからのご相談があり、製薬会社さんにご説明する企画書の作成から企画の実行までをお手伝いさせていただいたりもしました。

伴野
希少疾患は患者数が非常に少ないものも多く、患者会の方から「仲間を探したい。そのためには、どういう情報発信をしていけばいいでしょうか?」というご相談を受けることもあり、サポートすることの意義を感じます。ヘルスケアチームの若手メンバーも、チャレンジしたい案件に自ら手を上げてくれます。

野村
そもそもヘルスケアのPRの仕事では患者会や学会の先生方とのコミュニケーションが必須ですから、こうしたつながりを広げていくことは我々の現業に直結することでもあります。実際、我々がさまざまな患者会と製薬会社さんとをつないでいることで、製薬会社さんの方からも「患者会に精通したPR会社」としてオズマピーアールを認知していただけるようになりました。

伴野
そうですよね。最初は目の前にいる困っている人に対して「何かできないだろうか」と考えたところからスタートしましたが、このプロジェクトに取り組むことは、私たちの本来の仕事のスキルアップにもつながりますし、仕事で得たことを社会に還元できる場でもあり、続けていく価値があると感じています。私たちが患者さんやヘルスケアにかかわる皆さんのコミュニケーションを活性化させ、皆さんのハブとなって「手と手」をつないでいくような活動をしていけたらと考えています。

ヘルスケアPRの可能性―PRの力で社会を変えていく

──お話をうかがっていると、ヘルスケアのPRは、患者さんと非常に深く関わるのだなという印象を受けます。

野村
それは理由があります。報道などさまざまなメディアを通して病気の啓発を行うときには、患者さんご本人に、ご自身の経験や想いを語っていただくことが不可欠になります。でもそれには、確固たる信頼関係が必要。信頼がない相手に本心は語れませんし、一過性のプロモーションに利用されると思われてしまうと協力すらしていただけないでしょう。成人前の患者さんの場合は親御さんの懸念もあります。ですから我々も、課題に対して、また患者さんに対して真摯に向き合います。我々はパブリックリレーションズのプロとして、信頼に基づいた良い関係性を築いていかなくてはならないと考えています。

伴野
ただ、もちろん難しい側面もあります。以前あるお医者さんから、「あなたはその患者さんの話が記事となり報道され、情報として残っていくことに対する責任がとれますか?」と問われたこともあります。発信する意味、発信する責任をしっかりと考えることはもちろんですが、その経験を社会に届けていくことが、病気の理解や課題解決につながるのだということを患者さんにしっかりとご説明することも不可欠です。

野村
最近だと芸能人、著名人の方でも、病気を公表する方が増え、前向きな反響や共感が得られるようになりましたし、社会に対してもポジティブなインパクトを与えます。ただ一般の人の場合、自分自身がその病気だというのを知られたくないというのはごく自然な反応。やはり、自分から発信する勇気がある人は限られています。でも一方で、当事者として「自分が語ることで、同じ病気の方の悩みを軽減させたい」とか「社会の理解を深めていきたい」といった強い使命感を感じている方もいる。そうした思いを届けていくことをサポートしていけたらと思っています。

──ヘルスケア領域ならではのPRのあり方、役割があるということですね。

伴野
ヘルスケアのPRは、新商品の良さを直接伝えるような分かりやすい仕事ではありません。けれど、だからこそ非常にやりようがあると感じています。薬機法などプロモーション面でのさまざまな規制もありますが、だからこそ自由な発想でのクリエイティブやアイデアの力が求められる。それがこの領域の一番の醍醐味なのかなと感じています。私がこの領域にかかわり続けている理由もそこにあります。

野村
そうですね。私も「パブリックリレーションズ」という仕事の本質をもっとも体現しやすい領域だと感じています。どうしてもPRというと、一方的にメディアに情報を載せてアピールすること、と思われがちですが、その本質は、弊社のビジョンにもある「社会に問いを立てる」ことにあると思います。ヘルスケア領域は特に、課題がまだ気づかれていなかったり、たくさんの誤解があったり、加えてコミュニケーションが難しいと思われている。だからこそPRが持つ力を発揮しやすい領域なのかもしれません。PRの力で社会に一石を投じることで、波紋を広げ、世の中の流れを良い方向に変えていくことができたらいいですよね。

オズマピーアールの企業ステートメント「Unlock All.すべての鍵を解き放て」  問いを立てることの重要性を謳う

「当事者に届いた」実感とともに

──ヘルスケア領域のコミュニケーションの変化や、新しい潮流などはありますか。

野村
5~6年ほど前、ちょうど我々が「テトテトプロジェクト」を始めたころから、医療の啓発、PRの方法に大きな変化が出てきていると感じます。ソーシャルメディアの普及もあって、コミュニティの中での情報発信の価値が高まり、ステークホルダーの方とコミュニケーションを「共創」することが重要になってきています。

伴野
一方で、製薬会社のビジネスの側面では、生活習慣病などの薬がある程度開発し尽くされたこともあり、近年は希少疾患、難病など、まだ解決策を模索している病に関する薬の開発に注力されてきています。そうなると、広く情報を届けたつもりでいても、本当にその情報を必要とする限られた患者さんには届いていないといったことも出てきて、SNSを活用するなど、よりコミュニティとダイレクトにつながっていくことも増えてきました。

野村
最近は、行動科学の方とご一緒することも多いんです。情報を伝えるだけでなく、実際に人が動く仕掛けを作っていこうとしています。最近だと、あるNPOさんがつくられた「デジリハ」(デジタルリハビリ)というサービスを訴求するお手伝いをしています。リハビリの動きは単調で動機付けが難しいため、小児の患者さんたちがなかなか継続できないという課題がある。そこで、身体の動きに合わせて変化するデジタルアートをリハビリに活用して、子どもたちが楽しく意欲的にリハビリに取り組めるようにするプロジェクトです。

伴野
同じ年代の子どもたちがプログラマーとして起用されており、彼らのアイデアで、リハビリへの意欲や関心を高める仕掛けが組まれていることも特徴です。こういった大人では思いつかないアイデアが活かされている “やってみたくなる仕掛け”を施したアプローチに賛同し、ご協力することを決めました。

デジリハ(NPO法人Ubdobe)

野村
私がやっていた禁煙の啓発活動もそうですが、昔は「このままだと大変なことになるよ」、という“北風的”な恐怖訴求が多かった。でも最近は、まずは興味を持ってもらって、自然とそういう行動がとりたくなる“太陽的”なアプローチをとることが増えていますね。おそらく恐怖訴求だと、一定数の反応は得られても、その先の人たちを動かすことはできなかったんです。

伴野
医療に関わる情報は難解だという固定観念が強いジャンルでもありますから、難しいものをいかに分かりやすくして入り口を広くし、興味を持ってもらえるかが大切。テトテトプロジェクトもそれを意識しています。

──最後に、今後に向けた思いをお聞かせください。

野村
最近はPRの仕事でも、誰もがSNSで発信できる時代になり、マスメディアからの報道だけでは多くの人に、本当に必要としている人に情報が届いているという実感が得られにくくなりました。社内の若い世代が、「本当に届いているのか?」「誰かを実際に動かせたのか?」と感じていたとしても、やむを得ない気もします。一方で「テトテトプロジェクト」においては、我々がお手伝いしたことがどう当事者に響いたか、当事者がどう変わったかを直接感じることができる。我々の仕事の意義を再確認できる機会としても、大切にしていきたいですね。

伴野
医療やヘルスケアの情報は、命にかかわるものだからこそ、いろんな人たちが情報発信するようになった時代に適切な情報を選択する力を身につけねばなりません。それは社会の課題といえます。ピーアールは「パブリックリレーションズ」であって、決してアピールではない。倫理性をもって、社会課題をパブリックリレーションズの力で解決していくということが本質だと思っていますし、このプロジェクトを通してそれを実行していけたらと考えています。

オズマピーアール:https://ozma.co.jp/
テトテトプロジェクト:https://ozma.co.jp/tetoteto/
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