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経営のコトダマ 第20回 希望のコトダマ

2020.06.01

博報堂フェロー
スピーチライター/コラムニスト

ひきたよしあき
1984年、博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクター、ソーシャルプラニング局部長を歴任。東日本大震災 広報アドバイザーを一年間務める。現在、博報堂教育財団でコミュニケーションコンサルタント。
政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活躍。

「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるうコミュニケーションのプロ・ひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

新型コロナウィルス が世界を覆いつくす中で、
私たちは様々な言葉に出会いました。

「新型コロナウィルス」という同一の課題に対し、
世界中の様々な立場の人が一斉に答える。
その言葉が、瞬時に翻訳され世界に知れ渡る。
こんな経験は、人類史上初めてではないでしょうか。

3月のはじめに、イタリア・ミラノの高校が
閉鎖されることになりました。
そのときに校長先生が生徒に向けて書いた文章が
世界から絶賛されました。

世の中が浮き足だち、生徒の多くが不安を抱える
中で、先生の文章は、ゆっくりと、格調高く始まります。
作家アレッサンドロ・マンゾーニが、1630年代に
ペスト禍に襲われたミラノを描いた「許嫁(いいなづけ)」
を引用し、風評やデマに踊らされることの恐ろしさを
語っています。
毒を塗りこんだ布でペストを蔓延させたとでっち上げられ
拷問、処刑が行われる。

人間は同じことを繰り返す生き物だからこそ、
先生は、「理性」と「人間性」を働かせることの大切さを
説いていくのです。

私は日本語でしか読めないのですが、読み始めると
呼吸がゆったりとしてきました。
よい文章のリズムは、人を躍動させたり、沈静を促したり
するものです。

「頭を冷やしなさい。
集団妄想に取りつかれてはなりません。
適切な予防で十分です。

普段通りの生活を送りなさい。
この機会に散歩して、
良書を読みなさい」

校長の言葉は、耳元で

「落ち着きなさい」

といわれているかのようです。
私には「希望のコトダマ」に感じられました。

読み終えて、先生の言われるとおり
合理的な思考を使い、日常生活を淡々と
送ろうと心に決めました。

これほどまでに校長先生の言葉が
人の心に刺さるのは、先生の高い教養に
依るところが大きいと思うのです。

ただデータを読み上げたり、状況を報道
するのではない。
未来を暗く案じたり、感情的に人を非難
することもありません。

過去に人類が疫病と戦った歴史を
小説の中に見つけ、パニックになったときの
人間の心理の醜さ、稚拙さを洗いだす。
それを生徒に紹介しながら、今、どんな
行動をとるべきなのかを語っていくのです。

私はこれを読み、人が人を説得する文章
すべてのお手本ではないかと思うのです。
もちろん経営やマーケティングにも応用
できます。

背後には、読書と思考の質量と、それに
費やした時間があります。
頭の中に大きな人類史や人間心理の池を
もち、そこから最も適切な言葉とエピソードを
吊り上げてくる。

コロナ禍の中にあって、幅広い読書の大切さを
あらためて先生に教えて頂きました。

100年前に日本を襲った「スペイン風邪」は、
一度波の去ったあと、木枯しの季節にまた上陸。
以前にもまして感染力が強くなり、多くの方が
なくなりました。

あなどってはいけません。
合理的に思考をつかい、普段の生活、経営、
運営を淡々とやっていく。

この姿勢を守る限り、私たちは絶対に
新型コロナウィルスに負けません。
体に気をつけて、この危機を乗り切りましょう。

http://www.kumamoto-kmm.ed.jp/sch/e/sunatories/files/24560/1706457842.pdf

<連載:経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学。
第5回 未来を五感で味わいつくせ
第6回 体調のコトダマ
第7回 座右のコトダマ
第8回 激励のコトダマ
第9回 未来のコトダマ
第10回 気くばりのコトダマ
第11回 変化のコトダマ
第12回 先輩のコトダマ
第13回 効率のコトダマ
第14回 短気のコトダマ
第15回 世代のコトダマ
第16回 信頼のコトダマ
第17回 肩書きのコトダマ
第18回 質問のコトダマ
第19回 母のコトダマ

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