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「新市場」に「新体験」を「新業態」で提供する ──デジタル販促市場開拓を目指す「SP EXPERT'S」のビジョン

2020.06.18
#生活者インターフェース市場#販促
この20年以上の間、広告市場を牽引してきたのはデジタル広告でした。一方、販促の領域はデジタル化に大きく立ち遅れているのが現状です。市場規模6兆円とも言われる販促の領域は、印刷物中心のアナログな手法が現在も主流となっています。そこに「デジタル販促」という新しい市場を開拓することを目指して結成されたチームが「SP EXPERT'S」です。そのビジョンと具体的な取り組みについて、主要メンバーに語ってもらいました。

デジタル販促市場は「購買証明」を軸に拡大する

──はじめに、「SP EXPERT'S」の概要について説明していただけますか。

窪田
販促とマーケティングとデジタルテクノロジー。その3つを掛け合わせ、「よりお得で」「より便利で」「より楽しい」買い物体験を創出することを目指してつくられたチームがSP EXPERT'Sです。デジタル化によって生活者の買い物体験は大きく変わっています。その変化は、未来に向けてさらに大きくなっていくと僕たちは考えています。未来を見通して、買い物体験をアップデートしていくこと。それがSP EXPERT'Sのミッションです。

──チームを立ち上げた背景についてお聞かせください。

窪田
今、販促業界は大きな歴史的転換点にある。そう僕たちは考えています。ひと言で言えば、「販促のDX化(デジタルトランスフォーメーション化)」です。

デジタル広告の世界では、「コンバージョン」という概念が発明されたことによって、リーチ型広告、クリック型広告、検索連動型広告、リターゲティングといった広告効果の可視化ができるようになりました。生活者がどのような導線を辿ってコンバージョンに至っているかを把握し、さらにそれを次の施策にいかすことができるようになったわけです。これにより、広告投資の説明責任が果たせるようになったことで、デジタル広告への投資が大きく増大しました。

同じことが、販促の領域でも起きようとしています。これまで、集客施策とリアル店舗での購買行動との関連性を把握することは困難でした。その大きな理由は、集客ツールの多くが印刷物だったからです。チラシで店外告知をし、POPで店内告知をし、DMで再来店告知をする。一方、購買情報を把握できるのはPOSだけ。告知と購買のデータはつながっていない──。それがこれまでの販促の基本的な形でした。

しかし、デジタルプラットフォーマーのIDと店頭のPOSデータを紐付けることができれば、誰がどこで告知情報に接して、どこで購買をしたかを正確に把握することができます。それを僕たちは「購買証明のデジタル化」と呼んでいます。デジタル広告市場がコンバージョンを軸として拡大していったように、デジタル販促市場は購買証明のデジタル化を軸に広がっていくと考えています。


デジタル広告では、cookieによってユーザーの行動を把握します。僕たちが考えるデジタル販促では、そのcookieがSNSなどのプラットフォームのIDに当たります。プラットフォーム上でキャンペーンや告知を実施し、リアル店舗に呼び込んで、購買情報と紐付ける。さらに、それを再来店につなげていく。それが販促のデジタル化です。

販促キャンペーンを類型化する試み

──ひと口に販促と言っても、方法はさまざまですよね。

窪田
そのとおりです。僕たちは、デジタル販促を推進するに当たって、まず過去の膨大な販促キャンペーンを検証し、販促施策を類型化する作業を行いました。販促キャンペーンの手法は、大きくは、商品購入をともなうクローズドキャンペーン、商品購入が必須ではないオープンキャンペーン、そして流通サンプリングの3パターンに分けることが可能です。それをさらに応募方法などで細かく分けて、計40に類型化しました。


これまでは、優れた販促のアイデアがあっても、それをキャンペーンとして設計するための見取り図がなかったので、そのつど手間と時間がかかっていました。この類型化のツリー図があると、企画やアイデアをどのようなパターンやプロセスに乗せて実現すればいいかが一目瞭然なので、キャンペーン設計が非常にスムーズになります。

窪田
販促業界での経験が長い人たちの頭の中には、おそらくこのような見取り図が漠然とあったと思うんです。しかし、デジタル販促を実行する際には、販促のプロ以外にも、マーケティング、テクノロジー、データ解析などのプロが必要になります。そこで共通言語をつくるためには、それまで暗黙知としてあったものを形式知化しなければなりません。その形式知化の結果として生まれたのがこの類型図ということです。

黒野
私たちはこの類型図をもとに、それぞれのパターンに該当するソリューションの開発に取り組んできました。現在は、LINEとの協業のもとで、全パターンに対応するソリューションの販売を始めています。

田口
すべてのソリューションに共通するのは、「お得さ」「楽しさ」「便利さ」です。例えば、従来のシールを集めて応募するといったタイプのキャンペーンの場合、シールを集めること自体に楽しさはなかったわけで、どちらかというとシールをはがきに貼る苦労がありました。僕たちが重視しているのは、「楽しみながらキャンペーンに参加できる」ということで、シールを集める過程自体でも楽しいと感じてもらえるようなソリューションを提供しています。さらにポイントを集める方法をスムーズにしたり、あといくつでポイントが満点になるかをリマインドするといった「便利さ」を組み合わせたりすることで、商品購買とキャンペーン参加を「よりお得で、便利で、楽しい体験」とすることができると考えています。

白井
これまでの販促キャンペーンには、「景品勝負」というところが多かれ少なかれありました。私たちがクライアントにプレゼンをする場合も、景品の目新しさが評価されることが少なくありませんでした。しかし、デジタルを活用すれば、これまでになかったキャンペーン設計や体験の創出が可能になります。

黒野
いくつか例を挙げると、例えば、「ランキングマイレージ」は、ポイント収集をランキング形式にすることで、競争の楽しさを味わってもらえるソリューション(ニュースリリース)、「グループマイレージ」はグループでポイントを集めることで、チームプレイの楽しさを味わってもらうことができるソリューションです。また、「ビンゴマイレージ」のように、縦軸を同じ商品の数、横軸を商品の種類にしてビンゴを成立させるようなエンターテイメント性の高いソリューションもあります。(ソリューションについて詳しくはこちら

モジュール化によって多様なクライアントニーズに対応する

──現在は、LINEとの協業が先行して進んでいるのでしょうか。


LINEは、同社の販促API(アプリケーションプログラミングインターフェース)を使って販促ソリューションを開発するパートナー企業を「Technology Partner(販促・OMO部門)」として認定しているのですが、SP EXPERT'Sはその認定パートナーとなっています。

これは、我々のソリューションの設計力や開発力が評価されたものですが、デジタル販促市場を盛り上げていくためには、オープンなエコシステムをつくる必要があると考えています。プラットフォーマーとSP EXPERT'Sに加えて、ソリューション販売代理店、コンテンツホルダー、印刷会社、流通企業などと協業しながら、デジタル販促市場を拡大していく。それが僕たちの大切にしていることです。

──博報堂DYグループとプラットフォーマーだけの関係に閉じたものではないということですね。


そうです。我々が開発したソリューションは博報堂DYグループだけに販路を閉じることなく、あらゆる企業/代理店に対して提供しております。従来の競合という概念にとらわれることなく、デジタル販促という新しい市場を一緒に盛り上げていってくれる。そんなセールスパートナーを沢山増やしていきたいと思っています。

──販促の類型が40種類でそれぞれに対応するソリューションがあるということは、販売するソリューションも40種類あるということですか。

木村
基本的なソリューションの数が40、と考えてもらうのがいいと思います。販促類型はあくまで「類型」で、クライアントの多種多様な要望によってその形は個別に変化していくものであると僕たちは考えています。そのような柔軟な変化に対応するために採用している開発方法が「モジュール化」です。レゴのブロックのように、モジュールを組み合わせていくことによってソリューションを無限に拡張していけるというメリットがこの方法にはあります。

キャンペーンごとに仕組みを一からつくっていったのでは、時間やお金がかかるし、仕組みの再現性もなくなります。一方で、ガチガチの仕組みをつくってしまっては、クライアントニーズに柔軟に対応することができなくなります。再現性と柔軟性を兼ね備えた開発思想。それがモジュール化ということです。

エコシステムによって形成される新業態「オルタ」

──購買の便利さや楽しさが実現することは、そのブランドのファンが増えることにもつながりそうです。

窪田
まさにその点を僕たちはとても重視しています。販促の基本的な役割は短期的な売上を伸ばすことですが、それゆえにキャンペーンが終わった途端に売上がガクンと落ちることがよくあります。キャンペーンを一発花火に終わらせずに、継続的に売上を確保していくにはブランディングの要素が欠かせません。SP EXPERT'Sにはブランディングの専門家がいるので、販促を起点としたブランディング施策を立てることが可能です。

白井
販促キャンペーンを一回的なものにせず、ブランディングにつなげたい。そんな問題意識は、クライアントの皆さんもおもちだったと思います。しかし、これまではそれを解決する方法がありませんでした。販促領域でデジタルを活用できるようになって、ようやくその課題の解決に取り組めるようになったということです。

田口
これまで、ブランディングは広告領域の話で、販促とは関係がないと考えられてきたのは、KPIの設定が異なっていたからだと考えられます。広告のKPIはブランドイメージの向上で、販促のKPIは売上。その二つが交わることはこれまでほとんどありませんでした。

窪田
広告と販促でKPIが違うということ自体、本来はおかしなことです。違いは、結局のところ、売上のスパンだけですから。長期的な売上を目指すのがブランディングで、短期的な売上を目指すのが販促。しかし、企業の成長にはその両方が必要なはずで、その統合の仕組みを販促起点でつくっていくのが僕たちの役割であると考えています。

──今後のビジョンをお聞かせください。

窪田
デジタル販促という「新しい市場」に、より便利でより楽しい買い物という「新しい体験」を、これまでになかった「新しい業態」で提供していくこと。それがSP EXPERT'Sのビジョンです。僕たちは、その新しい業態を「オルタ」と呼んでいます。広告業界でもレップ業界でもテック業界でもないオルタナティブな業界、略してオルタです。

これからの時代は、一社で中央集権的にすべてのビジネスプロセスを管理することは不可能であると僕たちは考えています。先ほど李からも話がありましたが、さまざまな強みをもった企業が集まり、それぞれの強みをまさしくモジュールのように組み合わせてエコシステムをつくっていくことが必要です。そのエコシステムによって形成される新業態、オルタによって、デジタル販促市場を拡大していく──。そんな目標に向けて、各業界のプレーヤーの皆さんとの協業をどんどん推進してきたいと思います。

■プロフィール

窪田 充

博報堂DYメディアパートナーズ プラットフォームビジネス局

李 眞煥

博報堂DYメディアパートナーズ プラットフォームビジネス局

黒野 友梨

博報堂 第三アカウント戦略局

田口 圭太

博報堂 デジタルビジネス推進局

白井 尚子

博報堂プロダクツ デジタルプロモーション事業本部

木村 廷龍

博報堂プロダクツ デジタルプロモーション事業本部

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