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中国生活者のマインドは依然、「アンダー・コロナ」の警戒心

2020.07.03
#中国生活者#生活総研
新型コロナウイルスの感染拡大は、たった数か月で世界中の生活者の意識・行動に様々な影響を与えました。生活者の意識や行動の何が、どのように変化しているのでしょうか。
今回は、世界に先駆けて「アフター・コロナ」として3月ごろから徐々に経済活動再開に踏み切った中国における、生活者の意識と行動について5月に行った調査をベースに、博報堂生活綜研(上海)の首席研究員 山本哲夫が解説いたします。

■世界に先駆けアフター・コロナ期を迎えた中国の現状

中国では1月23日に始まった武漢での都市封鎖を大きな契機として、中国全土で厳しい生活行動・経済活動の制限が行われ、中国生活者は徹底した自宅待機生活を余儀なくされました。この結果、湖北省など一部の地域を除いては、他の国ほど長期の都市封鎖が行われることなく、2月の下旬には流行の収束に向かっていました。

生活綜研のある上海でも2月24日からはオフィスでの業務も再開され、3月から通常モードでの業務になりました。飲食店も早々に再開が進み、サラリーマンで賑わっています。4月8日には、武漢市の都市封鎖も解除となり、日本のGWに当たる労働節の5連休には、1.15億人もの人が旅行に出かけたと言われています。しかし、昨年の労働節には3連休で1.95億人の人が旅行に出かけた実績があり、それに比べると新型コロナの影響が大きいことがわかります。
また、映画館や劇場等のエンタメ施設は、現在もなお開業できていないところがありますし、学校でも、小学校低学年や大学生については5月いっぱいまでリモート授業が続きました。
また、つい先日吉林市や北京等で局所的なクラスター発生のニュースがあり、油断できないような状況が、6月もまだ続いています。

労働節連休では、美味しい空気を楽しむピクニックが流行した

■旅行への警戒が続く中で生まれた「クラウド旅行」「デリバリーお墓参り」

ここからは、アフター・コロナ期に起こった事例をいくつかご紹介したいと思います。まず、自宅待機から解放されたら行きたくなるのが旅行ですが、今はまだ海外旅行に行くことはできないため、必然的に国内旅行となります。しかし、鉄道やバス、飛行機等の公共交通機関の利用に不安を感じる人も多く、自家用車でのドライブ旅行が盛んになっています。車での移動も難しい人には、「クラウド旅行」で旅行気分を味わうことができるようになっています。これは、オンライン生中継で他の参加者たちと一緒に旅行気分をリアルタイムで味わうというもので、エベレスト登山やポタラ宮殿等への旅行が人気でした。
また、中国のお盆にあたる「清明節」の連休(4月4日~6日)では、お墓参りをオンラインで行う「クラウドお墓参り」に加えて、自分の代わりにお墓参りを代行してもらう「デリバリーお墓参り」というサービスも人気となっていました。500元(約8000円)の「デリバリーお墓参り」のメニューには、紙のお金、花などのお墓参り用品から、墓石の拭き掃除、お墓へのお辞儀、号泣の代行サービスまで含まれています。
生活綜研(上海)の5月調査によると、新型コロナウイルス収束後も「旅行を控えるようにしている」「外出を控えて家の中でできる娯楽や趣味を楽しむようにしている」という回答が多く、「新型コロナウイルス流行が収束したら海外旅行をしたいと思う」の意識が低いという結果が出ています。また、旅行に関しては「今後は節約したい」意識が高いという結果も出ているため、旅行・レジャー産業がオンラインサービスを駆使しながらビジネスをつなげる努力をしています。

博報堂生活綜研(上海)「アフター・コロナ意識・行動変化調査」2020年5月

■オンライン生中継「ライブコマース」でリアル店舗も販売獲得に走る

今回の新型コロナウイルスの影響を大きく受けているのは、やはり実店舗を持つ小売業です。しかし現在、実店舗を持つ小売業においてオンライン生中継での商品販売を行う「ライブコマース」が活発な動きを見せています。ライブコマースとは、タレントやインフルエンサーがライブ動画を配信し、視聴者はリアルタイムに質問やコメントをしながら商品を購入できるという新しいeコマースの形で、中国では既に一人のインフルエンサーが2時間で3億円を売り上げるような市場成長を遂げていました。
現在は有名人に代わり、一般の販売員による生中継販売が大変盛り上がり、「今だけお得に」商品を買うことができるメリットから大変な人気となっています。日本でも浸透しそうなこのライブコマースは、ECの発達によりその存在意義が問われつつある実店舗のショールーム化、スタジオ化を推し進め、店舗とオンラインの融合がより一層進展すると考えられます。

生活綜研(上海)の調査によると、「ライブコマース」での買い物は、コロナ以前よりも、コロナ流行中、コロナ収束後にやや活発になっていることが明らかになっています。

博報堂生活綜研(上海) 「アフター・コロナ意識・行動変化調査」2020年5月

■ラグジュアリーブランドや高級ブランドがこぞって「分割セレブ」な若者を狙う

中国では、新型コロナ流行以前からラグジュアリーブランドの販売ターゲットの主軸が若者に移る動きがありました。そして、コロナショックによって大打撃を受けたラグジュアリーブランド業界は、売上回復に向けて若者に向けた施策を加速させています。
なぜ若者に高級ブランドを?と不思議に思われるかもしれません。その背景には、アリペイやECプラットフォームが提供する「花唄(ファーベイ)」「白条(バイティァオ)」等の電子クレジット決済が非常に手軽に利用できることや、消費を刺激するための分割金利・手数料無料の販促が頻繁に行われるようになり、高額な商品も分割払いでサブスク的に購入する動きが活発になっていることがあります。
生活綜研(上海)では、分割払いで自分の収入レベル以上の消費を行う若者生活者を「分割セレブ」と名付けていますが、そうした生活者が中国の高額消費のターゲットとなりつつあります。
若者を対象としたラグジュアリーブランドのコミュニケーションの変化の1つに、アニメやバーチャルアイドルを活用した広告が数多く展開されるようになったことがあります。若者に人気のKOL(Key Opinion Leader)を活用する動きも活発で、日系車やドイツ車の高級車ブランドもこぞって「小鮮肉(シャオシェンロウ・若い男性イケメン細マッチョを指す)」の男性アイドルをブランドキャラクターに起用するなど、他の国では考えられないようなコミュニケーションが展開されています。
中国では現在、急速に高齢化が進展しているのですが、いまだに若い人たちの消費パワーが顕在です。生活綜研(上海)の調査によると、電子クレジット支払い「花唄・白条」の利用者のメインが20~30代となっており、さらに「自分の収入レベルを超えて消費してしまう」と回答した人が半数近くを占めていることから、「分割セレブ」層がラグジュアリー消費を活性化させていることが明らかになっています。

博報堂生活綜研(上海)「分割セレブ」実態調査2020年6月

■いまだ「アンダー・コロナ」マインドの生活者。「アフター・コロナ」へ進みたい企業。 ―共通点は、「先手」を打とうとしていること。

このように、いまだに生活者の心理には新型コロナウイルス流行時に抱いていた警戒心が色濃く残っていることがうかがえますが、一方で様々な工夫を行い、生活者の消費意欲を刺激して「アフター・コロナ」へと経済回復を目指そうとする企業の動きが対照的な状況となっています。

守りの姿勢の一方で、これから訪れる経済的な危機を乗り越えるために、今からスキルアップや自己啓発に取り組む人も増えており、最近「有料自習室」が、学生だけでなく大人世代に利用されるようになっていることが話題となっています。生活綜研(上海)の調査によると、「将来のことを考えて暮らしの備えをしたい」という意識が高く、「オンライン学習」や「投資・資産運用・貯金」「商業医療保険加入」がコロナ収束後も堅調に推移していることが明らかになっています。

博報堂生活綜研(上海) 「アフター・コロナ意識・行動変化調査」2020年5月

中国の生活者は、新型コロナ流行の第二波の襲来を恐れて「自己防衛」に走るばかりではなく、来るべき将来の変化に備えて、着実に「先手」を打つ動きを始めています。そして、企業側も、コロナショックで受けた打撃を少しでも早く回復するために、次々と新しい工夫を凝らしながら、こちらもまた「先手」を打つ形で生活者の消費欲求を刺激し続けています。

現在、コロナが収束へ向かおうとしている日本が中国生活者や企業から学べることは、予想外のことが起こってもそれに翻弄されずに柔軟に受け止め、先手を打つことを「新常態」と受け止めていく姿勢ではないでしょうか。

■調査概要
「アフター・コロナ意識・行動変化調査」
調査時期:2020年5月8日~22日
調査地域:1級都市(北京・上海・広州・深圳)
新1級都市(天津、青島、南京、蘇州、杭州、鄭州、武漢、長沙、東莞、成都、重慶、西安)
調査対象者:20~69歳の男女
サンプル数:1600人
調査手法:インターネット調査

「『分割セレブ』実態調査2020年6月」
調査時期:2020年6月10日~12日
調査地域: 1級都市(北京・上海・広州・深圳)
新1級都市(天津、青島、南京、蘇州、杭州、鄭州、武漢、長沙、東莞、成都、重慶、西安)
調査対象者:20-59歳男女
調査手法:インターネット調査

山本哲夫(やまもと・てつお)
博報堂生活綜研(上海) 首席研究員

1995年に博報堂入社して以来、企業のマーケティング業務全般に携わってきており、コミュニケーション領域から事業開発領域まで、幅広い実務経験を持つ。博報堂生活綜研(上海)のメンバーとして、2018年6月より新たに活動を始める。

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