白根
博報堂キャリジョ研は、2013年の誕生以来、主に働く女性をテーマとした調査活動を行ってきました。今年からは改めて「働く女性が生きやすい“ニュートラルな社会”づくり」をビジョンに掲げ、引き続き世代分析やトレンド分析などを行っています。特に2018年に『働く女の腹の底 多様化する生き方・考え方』(光文社新書)を上梓してからは、多様な方面の方々とご一緒してさまざまな取り組みを行っているのですが、その一環として、大学の「キャリア教育」を通じてこれから社会に出ていく学生たちのために何か力になれることはないかと思案していました。そんな折、目白大学の安斎先生よりご著書『女性の未来に大学ができること:大学における人材育成の新境地』(樹村房)を献本いただいたことでご縁がつながり、連携プロジェクトの話が生まれたんです。
安斎
そうでしたね。まずは2019年6月のキックオフミーティングにおいて、キャリジョ研の方々と学生が顔を合わせてプロジェクトのテーマについて協議する中で、「イキイキと働く女性をテーマにした図鑑づくり」という案が出ました。さらに、学生がアイデア出しを行う中で「“オフィスカジュアル”がどういうものかわからない」という素朴な疑問が上がり、それがきっかけでオフィスカジュアルをテーマにした図鑑制作を行うことになりました。そこから2020年2月の完成まで約9か月間、キャリジョ研の皆さんがずっと学生たちと併走してくださり、共に走り抜けてくれました。
白根
プロジェクトに挑戦した安斎ゼミの鈴木さん、木下さん、感想はいかがですか?
鈴木
実は友人から「インターン先の企業に“オフィスカジュアル”で行かないといけないんだけど、どんな服装がいいんだろう?」と聞かれたことがあったんですが、私自身よくわからなくて、うまく答えられなかったという経験があったんです。それについて話してみたところ、キャリジョ研の方々に「確かにそうだよね」と賛同いただけて、オフィスカジュアルが今回のプロジェクトのテーマに決まりました。ずっと疑問に思っていたことをこうして追求し、解決する機会が得られてすごく嬉しかったし、大きな学びになりました。
木下
私もオフィスカジュアルというテーマ案が出た時、確かによく耳にするけどどういうものなんだろう?と疑問に思っていました。このプロジェクトを通して、オフィスカジュアルとは何かというのを私たちなりに解明できたので、非常に満足しています。
白根
最初は想定しなかった学びなどはありましたか?
鈴木
最初は、オフィスカジュアルとはどういう服装を指すのか、ということだけを考えていましたが、社会人の方々の話を聞くうち、たとえば営業の方が少し変わったアクセサリーをつけることで会話の糸口にしたり、コンサルタントの方が相手に信頼感を抱いてもらえるような服装を心掛けたり、体を動かす仕事なら当然動きやすい服と靴を選ぶことが鉄則…といったように、ファッションと仕事が深く関連していることが見えてきました。仕事に寄与するためのファッション、という捉え方があるというのは発見でしたね。
松井
社会人としての経験を積んできて、それなりにファッションでも失敗も重ねながら皆さんルールを確立させていることがわかりましたよね。確かに経験がない最初の段階では、こうした情報は貴重なのではないかなと思います。
白根
場違いな服を着てしまったとか、先輩に注意されたとか…失敗談は特に面白いですよね。私たちも多かれ少なかれ、そうした失敗を経験している。その上に成り立っている皆さんのファッションを知ることができたのは、非常に興味深かったです。
安斎
ちなみにキャリジョ図鑑に登場いただいた社会人の皆さんは、私とキャリジョ研さんのネットワークから選定させていただきました。せっかくの機会なので、学生がさまざまな仕事に興味を持つきっかけになるよう、どんな職業の人に話を聞きたいかをまずは学生にヒアリングし、その上でなるべく業界や職種にバラエティを持たせることを心掛けました。そうしてご協力いただいたのが、私のかつての赴任先である群馬と、東京で働く多種多様な女性たち10人です。オフィスカジュアルを切り口にしながら、それぞれの方の仕事観まで掘り下げていくという、非常にユニークなプロジェクトになったと思います。
白根
6月に決まったテーマに基づき、7月にはデザインと構成イメージを固めましたよね。そして8月から撮影の方法や取材の進め方を習得し、リハーサルを重ねながらインタビュー本番に備えて準備を進め、11月に10人の女性にインタビューを実施。順次原稿作成を進めていき、校正を重ね、2020年年明けに印刷という流れでした。木下さんは、最初にデザイン候補をつくっていただいたことに始まり、ゼミ生の間での役割分担なども担っていただきましたね。
松井
特に大変だったこと、楽しかったことを挙げるなら、それぞれ何ですか?
木下
役割を分担するまでは良かったのですが、いざスケジュール管理となると、限られた時間の中でやることがたくさんあって頭を悩ませられましたね。特に11月は、ひと月で一気に10人にインタビューすることになり、いろいろと都合があって一人の人にかけられる編集の時間もまちまちになってしまいました。編集作業の方法やソフトの使い方も各自ばらつきがあったので、最終的に体裁を揃えていく大変さもありましたね。一方で楽しかったのは、写真の選定です。こう配置すると見やすいかな?とか、この服かわいいねとか…撮影時に光を合わせて撮ることで他のページと統一感を持たせるといった工夫も、作業をやりながらどんどんできるようになっていった。そのプロセスは純粋に楽しめました。
鈴木
私が楽しかったのは取材です。たくさんのキャリジョの先輩方に、ファッションや仕事の話はもちろん、取材項目にはなかったさまざまな体験談などをたくさんうかがうことができ、面白かったと同時にとても勉強になりました。
私も木下さんと同じく作業スケジュールの管理が一番難しく感じましたが、付け加えるなら、まとめのページの編集も一筋縄ではいきませんでしたね。今回の結論として最後をどう締めるべきか、意見が噴出してなかなか容易にはまとまりませんでした。というのも、取材を進めるうち「オフィスカジュアルには明確な決まりがない」ことが改めてわかってしまったわけですが、それでも何らかの法則があるものとしてわかりやすく学生に示したいという想いがあったからです。そこで、原稿が出そろったところですべての原稿を並べ、共通点は何か、どんなルールがあると言えるかについて、時には1日8時間ほどをかけてディスカッションを重ねました。
松井
ディスカッションを経て、実際にどうまとめていきましたか?
鈴木
まず取材を通して、キャリジョのみなさんがどんな職場でも共通して「意識せずとも守っていたルール」があったので、絶対に守るべき三ヶ条として左側にまとめました。一方で、みなさんがそれぞれの職場環境で「意識して守っていたルール」を右側にまとめました。個人的にも「みんなの意見が反映された冊子にしたい」というこだわりがあり、誰かの意見を否定して掲載しないということはしたくなかったので、結果的に全員から出た意見がこのページに集約されることになってよかったなと思っています。
白根
左側にはまず守るべき掟。そして右側には、もっと素敵なキャリジョになるために有効なテクニックが1、2、3のステップで示されています。この構成はとてもいいなと思いました。取材を通じて、キャリジョのみなさんが周囲の雰囲気に応じてカジュアルに寄せたりフォーマルに寄せたりとファッションの工夫をしていることが見えてきました。協調性を持ったうえで、個性も出し、さらにそれをコミュニケーションにつなげる。こうした、まさに女性ならでは、キャリジョならではの仕事への向き合い方について、学生の皆さんにも見つけていただいたことが私はすごく嬉しかったですね。
清泉女子大学文学部地球市民学科 教授
(「キャリジョ図鑑」作成時は目白大学メディア学部教授、2020年4月に移籍)
目白大学社会学部メディア表現学科 4年生
(同学部同学科は2018年4月よりメディア学部メディア学科に改組)
目白大学社会学部メディア表現学科 4年生
(同学部同学科は2018年4月よりメディア学部メディア学科に改組)
博報堂キャリジョ研 代表、第三プラニング局 ストラテジックプラニングディレクター
博報堂キャリジョ研 研究員、TEKO アクティベーションディレクター