※本インタビューは、6月10日に実施いたしました。
九州各地での記録的豪雨で被災された皆様におかれましては、心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復旧をお祈りいたします。
──社長に就任なさった時のお気持ちを聞かせてください。
およそ40年ぶりに九州に戻ることになったわけですが、生まれ育った故郷に恩返ししながら仕事できることをとても嬉しく思っています。一方で地域社会の人口減などを目の当たりにすると、地域で事業を行っていくことの難しさも痛感し、担った責任の重さに身が引き締まる思いです。
──九州の課題をどう解決していきたいですか?
福岡市は人口が160万人を超え、現在もなお人口集中が進んでいるエリアです。一方、他の地域は人口減に苦しんでいます。九州の中での福岡一極集中、これを解く鍵が、東京一極集中や地域の活性化の解決にもつながるのではないかと考えています。
よく都市と地域の「格差を是正」するという言い方を耳にします。僕は取り組むべきは格差是正より、それぞれ地域が持っている多種多様な特性に光をあてて、その良さをいかに引き出し発信していくか、が大事だと思っています。
九州7県は、それぞれ違った持ち味を持っています。地域ごとの産業、観光資源、農林水産資源、自然、ひと、歴史、文化などなど。それぞれに光をあてて、素晴らしさを引き出し世界中に発信していくつもりです。格差是正の施策は一時的なものですが、この素晴らしい「地域の個性」は未来につながっていく価値であり、継続していくものだと思います。
──会社のウェブサイト1ページ目に九州博報堂の「パーパス」「クレド」という宣言が飛び込んできます。これを設定した思いを教えてください。
九州博報堂をどんな会社にしていくのか?どんな役割を担っていくのか?これをはっきりと掲げてスタートすべきだと考えて、会社の「パーパス」をつくりあげました。「地域の情熱たちと、未来をつくる」は我々の「存在意義」であり、進むべき方向を示したものです。地域の情熱とは、九州で頑張っているたくさんの企業、ベンチャー、職人、行政、メディア、大学などあらゆる方々のことです。その地域の情熱たちと一緒になって、愛されるブランドやサービスや事業を見つけ出したり創りあげたりしながら、全国に、そして世界に発信していこう、それによって豊かな未来づくりに貢献していこう、というものです。
そして、このパーパス「地域の情熱たちと、未来をつくる」を実現するための行動指針が「6つのクレド」です。これは社員の行動を「こうあるべき」と規定するものではなく、一歩踏み出す時やアイデアを発信するときに勇気を与えるてくれるもの、背中を押してくれるものだと思っています。
この「パーパス」と「クレド」で、この難局に道を切り開いていきたいと思います。
──パーパスとクレドは経営陣だけでつくったのですか?
昨年12月に統合が発表されたあと、2社(当時の西広と博報堂九州支社)の若手から経営陣まで30人ぐらいの多種多様な専門性をもったメンバーでチームを組み、2回にわたり終日議論してつくり上げました。参加できなかったメンバーからもアンケートなどで声を集め、みんなでつくりあげた「パーパス」と「クレド」です。
──改めて、九州博報堂の「強み」は何ですか?
九州一円に深く根ざしたネットワークと実績を持つ「西広」と、生活者発想を生かしたクリエイティビティと世界にネットワークを持つ「博報堂」の九州支社が融合してできた会社ということ、まさにこれが九州博報堂の強みです。
統合発表後、当初は「2つの円」をいかにして同心円に近づけ社員同士の融合を図っていくのかに腐心していました。そんなある時、同心円ではなく、それぞれの個性をもっと際立たせて、2つの円が翼を広げるように大きくしていけばいいと気づきました。二つの文化が混じり合って、それをリスペクトしながらお互いの良さをさらに広げていくほうがずっと強い会社になると。
──2つの歴史ある文化が統合するのですから、大変だったのでは?
結果的に「コロナ禍」が社員の融合を一気に進めることになりました。世界の危機に対して社内の調整にエネルギーをかけている場合ではない、一丸となってこの危機に立ち向かおう、九州の企業や生活者を少しでも前向きにできるように貢献していこうと。
会社発足の翌日から在宅テレワークにしたので、クライアントとの接点維持や働く環境づくり、情報共有の工夫など、全社員が頭と身体を自然にフル回転してくれたと思います。気づいたら、この大きな危機に対して“手を取り合って立ち向かっていくぞ”という空気が生まれていました。
──江崎さんご自身の話にもどりますが、江崎さんは営業、秘書、人事という経歴をお持ちですが、いまの社長職にどのように活かされていると思いますか?
営業の経験は20数年前の話なので、いまや全く役に立ちません(笑)。新入社員のように毎日たくさん学び、吸収してますよ(笑)。実に刺激的です。
一方、人事局での仕事は今の仕事にも大きく影響しています。「経営的な視点」と「人材が生命線」だということです。自分が社会の役に立っていることを知った時やありがとうと言われることで、人はやる気が出る。そして、もっと役に立ちたいという思いがその人を成長させる。人事や人材開発の領域で学んだり経験したことが、いますごく役立っています。
──社長に就任されての初年度、何を一番したいですか?
コロナ禍の中で九州博報堂が立ち上がり、いきなり「存在意義」が問われるスタートになったわけです。コロナの影響は生活やビジネスの在り方を劇的に変えました。そして世の中の多くの価値観を打ち壊したといってもいいと思います。スクラップされた価値観が再構築されるとき、まさに広告会社の出番だと考えます。クライアントや社会に対して今までなかった全く新しい価値、新しいカタチ、つまり「別解」をどんどん提案していきたいですね。
悩んだらパーパスとクレドに立ち返って、ピンチをチャンスに変えることに取り組んでいく。初年度はそれにつきますね。
世の中では「afterコロナ」「postコロナ」「withコロナ」などと言われていますが、九州博報堂はそのもう一つ先、「beyondコロナ」を見据えて、新しい日常をつくり出し、一歩先に行こうよと社内外に宣言しています。
──「beyondコロナ」とは、具体的には?
プランニング局の全メンバーが、世の中のコロナに立ち向かうアイデアや事例を見つけ出し、それらの視点やアイデアの肝、ヒントはどこにあるのかを分析したレポートを毎週毎週全社員にむけて情報発信しています。
もちろんクライアントとのリモート下でのコミュニケーションツールとしても活用しています。クライアントの中には、さらに社内で展開して頂いたり、実際にビジネスチャンスにつながった例も出てきています。
──SDGsにも力をいれていらっしゃると伺いました。
九州の企業には、SDGsに早くから取り組んでいらっしゃる経営者が多かったと思います。そしてこのコロナ禍でその重要性は一層脚光を浴びてきたのではないでしょうか。
社会の危機の中で、あらためて自社の存在意義や事業の在り方を問い直した時に、SDGsを事業の真ん中に据える、ソーシャルグッドを目指すという企業が一気に増えています。相談を受けたり提案の機会も多くなってきています。
もともと博報堂九州支社で“社会課題をビジネス機会につなげていく”という目的で立ち上げた「Qラボ*1」がSDGsを推進してきました。これからも大学教授などの外部知と組んでクライアントへの提案や情報発信を強化していきます。
*1.「九州しあわせ共創ラボ」:
2016年に発足した、様々な調査を通じて九州の⽣活者の意識を把握し、これからの時代の「しあわせに繋がるアイデア」を九州の方々と共に発想することで、九州をさらに活性化していくための活動体。
──どのような会社にしていきたいですか?
まずは、社員が元気で健康で、笑いの絶えない会社にしていきたいですね。
そして情熱と目的を持った人たちが集まり、そういう人たちがここに来ると成長できると実感できる会社にしたいです。
クライアントやメディアや協力会社など、あらゆる人たちから一緒に組んで何かやりたい、何かやってくれそうだな、と思って頂けるような魅力的な会社でありたいと思います。
【江﨑 信友 プロフィール】
1989年3月:早稲田大学第一文学部卒、同年4月博報堂入社。
初任配属は営業局。2000年秘書室秘書役、2003年人事局労務部長、2005年人事部長。2011年博報堂DYメディアパートナーズ人事部長。2014年博報堂人事局長および博報堂DYメディアパートナーズ人事局長に就任。2019年九州地区事業統括(兼)西広取締役を経て、2020年4月1日より現職。