博報堂ブランド・イノベーションデザイン ディレクター 岡田庄生
これからの仕事は、オフラインで立ち上げ、オンラインで進めていき、オフラインで終結させる。そんな働き方が当たり前になるかもしれません。
長らくオフィスワークに縛られていた我々は、半ば強制的にその呪縛から解き放たれました。とはいえ、強制的にリモートワークになり、今度は自宅に縛られていただけかもしれません。アフターコロナを迎えて、本当の意味で働き方が選べる環境になるのだと言えます。
では、どのように働き方を選択したらよいのでしょうか。従業員の希望でしょうか。それとも経営者の意志でしょうか。もちろんそのような視点もあります。しかし私は、オフラインとオンラインのメリットとデメリットを冷静に見つめて、業務の成果に対して効果的な働き方を組み合わせることが重要だと考えています。
そのような視点のもと、私が4年前に立ち上げた研修講座「ファシリテーション型リーダーシップコース」の卒業生たちと最近考えた、オフラインとオンラインのメリットとデメリットを紹介したいと思います。
図は、オフラインとオンラインそれぞれの働き方を「作業と環境」「個人とチーム」という2つの軸で整理したものです。4つの象限に対して、仕事環境、個人作業、日常のコミュニケーション、会議の4つの項目で、感じていることを書き出しました。また、良い点はオレンジ色で、課題に感じている点は青字で、出てきた意見を色分けしています。
まずはオフライン(オフィスワーク)について見てみましょう。図1をご覧ください。
全体を俯瞰すると、右下の「日常のコミュニケーション」にオレンジ色の文字が集まっているのがわかります。オフィスで働くことが日常のコミュニケーションを取る上で役に立っていたことを改めて感じます。具体的には「偶然の会話から仕事になったりする」「心理的距離を一気に近づけることができる」といった意見が出ていました。
一方で、青字が多いのが左下の仕事環境に関連する項目です。例えば「室温が合わない」「通勤が面倒くさい」「早く帰るのは申し訳なく感じる」など、今までは当たり前だったことが、リモートワークを経験したことにより、課題に感じるようになったようです。
総じて言えることは、オフィスは複数のメンバーと一緒に働く環境としては最適だということです。特にチームで動くような組織にとっては、これからもオフィスは欠かせない環境になるのでしょう。
次に、オンライン(テレワーク)について見てみましょう。
図2では、先程のオフィスワークとは対象的に、右下の日常のコミュニケーションが青字ばかりなのが目立ちます。また、左下の仕事環境についても青字が多く、課題に感じている点が多数あげられています。すでにテレワークが始まって3ヶ月以上経過してもなお、やはり基本的な仕事環境では自宅はオフィスに比べると足りない点が多いようです。
一方で目立つのが左上の個人作業に集まるオレンジの多さです。例えば「作業が効率化する」「ひとりで集中できる」「移動時間が不要」など、オンラインが個人作業にとってメリットが多いことがわかります。会議についても意見は半々程度で、思ったよりオレンジ色のポジティブな面が多い印象です。
総じて分かったのは、オンラインは環境としてはまだ十分ではないものの、作業をすすめる上ではオフィス以上に快適であるということです。一人ひとりが独立して動ける、専門職が多く集まる企業は、テレワーク中心の方が働きやすいのかもしれません。
以上の分析を踏まえて、これからの仕事の進め方について、以下のようなハイブリッドなプロセスを提案します。図3をご覧ください。
まず、一つの業務を立ち上げ期から終結期まで大きく4つに分けます。そして、オフラインとオンラインの良い点をもとにして、フェーズごとに働き方をミックスしていくのです。
オフラインは、信頼関係の構築や、込み入った深い議論に向いています。このことから、メンバー同士が顔を合わせ、目線を合わせることが重要な立ち上げ期(0→1)や、最終的な決断をする終結期(9→10)に向いています。
一方、オンラインは参加のしやすさや集中して作業できるというメリットがあります。ですので、情報収集やアイデア出しなどの拡散期、出てきた意見をまとめる収束期(1→9)はオンラインでの進行が向いているでしょう。
と、モデルケースを提案したものの、実際のところ働き方に正解はありません。むしろ、一人ひとりに合った働き方があり、無数の正解があるということが、この一連のコロナショックで我々が得た学びなのかもしれません。そのために、まず自分や自分の組織はどのような働き方が最適なのか、それぞれのベストを探す必要がありそうです。
その際に、なんとなく元に戻そうとか、なんとなく週2日ぐらいなど、周りに流されるのではなく、オフラインとオンラインのメリットを知った上で組み合わせるべきです。働き方は、あくまでも手段です。仕事の質を高めるという目的を見失わずに、自分や組織、プロジェクトに合った働き方を見つけることが重要ではないでしょうか。
2004年、株式会社博報堂入社。企業ビジョンやブランド、商品開発などの支援を行う博報堂ブランド・イノベーションデザインに所属。著書に『買わせる発想 相手の心を動かす3つの習慣』(講談社)『博報堂のすごい打ち合わせ』(ソフトバンククリエイティブ)、『プロが教える アイデア練習帳』(日経文庫:日本経済新聞出版社)などがある。経営学修士(MBA)。多摩美術大学非常勤講師。