博報堂フェロー
スピーチライター/コラムニスト
ひきたよしあき
1984年、博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクター、ソーシャルプラニング局部長を歴任。東日本大震災 広報アドバイザーを一年間務める。
政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活躍。
若い頃、ラジオの深夜放送を
よく聴いていました。
深夜11時に始まって午前3時
あたりまでやっている。
かたちばかりの勉強をやっては
いますが、全く身に入らない。
翌日、睡魔に襲われることが
わかっていても、エンディングの
曲が流れるまで聴いていました。
何が面白かったのか。
当時としては「双方向」の感覚が
ありました。面白い葉書を書くと
読んでもらえる。ネタを考えては
ラジオ局に送っていました。
毎回、自分の葉書が読まれるかも
しれないと期待に胸を膨らませて
いました。
番組作りに参加している感覚が
非常に面白かったのです。
この「深夜放送」の感覚が、最近
戻りつつあります。
5月から小学生から一般に向けて
リモートで講義や講演をする機会が
増えました。
当初は手探りだったのですが、
成功している番組や急激に人を
集め始めたサイトに出演させてもらう
うちに、うまくいくコツが見えて
きたのです。
それが「深夜放送」の感覚でした。
まず、アシスタントがいること。
しゃべる本人は、とても一人ひとりの
表情やチャットに書き込まれる意見を
ひろうことができません。
アシスタントがひとりいて、
「今、こんな質問がきました」
「○○君、難しそうな顔してるけど、
どこがわからないかな」
などと語り手と聞き手をつないでくれる。
全体をファシリテートしてくれる人が
いるだけで、意思疎通が圧倒的に
やりやすくなる。聞き手の参加意識も
ぐんと高まります。
話す話題も、こちらが作り込んだ
資料を貼りつけるだけにしない。
生徒が思いついた質問を間髪いれずに
即答する。
このあたりの臨機応変さで
深夜報道の面白みが変わったことを
我々世代は肌身で知っています。
語り手と聞き手とそれを繋ぐ
アシスタントと共同で物語をつくって
いく。これは、ちょうど視聴者からの
リクエストや投稿を交えて番組を
つくる感覚に似ていました。
なまじ映像があるから、テレビ会議の
ように見えるけれど、リモートの決め手は、
目より耳。
「深夜放送のコトダマ」が、
受発信者双方の間を行き来する
ことで、参加意識と親近感が
醸成されていくのです。
40年前、深夜にワクワクしていた
気持ちが、今、蘇る。
「過去」の中に、必ず革新するための
種火が仕込まれている。
日進月歩のリモートワークに、
ちょっぴり懐かしさを感じながら、
今日もパソコン画面に向かいきりの
1日を過ごしています。
<連載:経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学。
第5回 未来を五感で味わいつくせ
第6回 体調のコトダマ
第7回 座右のコトダマ
第8回 激励のコトダマ
第9回 未来のコトダマ
第10回 気くばりのコトダマ
第11回 変化のコトダマ
第12回 先輩のコトダマ
第13回 効率のコトダマ
第14回 短気のコトダマ
第15回 世代のコトダマ
第16回 信頼のコトダマ
第17回 肩書きのコトダマ
第18回 質問のコトダマ
第19回 母のコトダマ
第20回 希望のコトダマ
第21回 未来予約のコトダマ