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アルスエレクトロニカ・フェスティバル2020の“3つの特色”
(アルスフェス2020直前解説 Vol.2)

2020.09.04
#アルスエレクトロニカ
2014年からアルスエレクトロニカと協働する博報堂アートシンキング・プロジェクトのメンバーが、間もなく開催される「アルスエレクトロニカ・フェスティバル2020」のポイントをお伝えしていく短期集中連載です。第2回は博報堂ブランド・イノベーションデザインの田中れなが、今年のフェスティバルの特色について解説します。
※アルスエレクトロニカは、オーストリア・リンツ市を拠点とする世界的な文化・芸術機関です。博報堂は、アルスエレクトロニカ内の組織でR&D・コンサルティング機能を有するアルスエレクトロニカ・フューチャーラボと、2014年度より提携し、協業しています。

こんにちは。博報堂ブランド・イノベーションデザインの田中れなと申します。アルスエレクトロニカと博報堂のプロジェクトを担当するイノベーションプロデューサーです。このページでは、もうすぐやってくるアルスエレクトロニカフェスティバルについてご紹介したいと思います。

今年のテーマは、In Kepler’s Gardens -A global journey mapping the ‘new’ world。ケプラーとガーデン。常に芸術と技術の境界を揺さぶるアルスエレクトロニカは、ここにどんな意志を込めているのでしょうか。博報堂はこう読み解きました。

アートシンキングとアルスエレクトロニカ 2020年のフェスティバルテーマ「In Kepler’s Gardens」を読み解く(アルスフェス2020直前解説 Vol.1)

「常識を疑って、新しい常識を作る」ケプラーの庭で、世界中の知をつなぐ。

ここからは今年の特色を3つ挙げながら、アルスフェスを迎えるマインドセットを一緒に作っていけたらと思います。

今年の特色①つながりの再創造-世界がお家にやってくる

毎年世界中から10万人以上が参加し、日本からも大勢のアーティスト、研究機関、企業、大学が参加する、アルスエレクトロニカフェスティバル。今年もヨハネスケプラー大学をメイン会場に据え、街中をソーシャルディスタンスを保ちながら開催します。(期間:2020年9月9日(水)-13日(日) 5日間)

ただし今年は、現地開催に加えて、ARS ELECTRONICA GARDENSとして世界120都市を一気に繋ぐという前代未聞のデジタルプラットフォームを形成し、Real-Digitalのハイブリッド形式での実施となります。

このコロナ禍で多くのイベントが中止せざるをえない中、公共やアーティストを巻き込み、よりアップデートした形で実現させようとする彼らの姿勢。それに共感した世界中のアーティストと研究機関が、彼らと熱い鼓動を重ねているというのが、今年のフェスティバルのストラクチャーです。

アルスエレクトロニカの芸術監督であるゲルフリード・ストッカー氏は、このフェスティバルを、コロナ危機に対応したフェスティバルではなく、リスタートのフェスティバルである。ハイブリッド形式を模索し、大きな実験としてのフェスティバルなのだと言っています。

通常だと、現地に赴かねば体験できなかったフェスティバルが、自宅から参加できる。いわば、フェス本体に加え、世界を一変し得るアートやアイデアがお家にやってくるわけです。リンツへ行けないことを残念に思う気持ちは勿論あります。しかし、今目の前にある変化を受け入れ、自分を取り巻く環境の視点を変えるいい機会ではないかと思っています。

アルスエレクトロニカは、現実世界をラボラトリーに変換し、未来に向けてクエスチョンを投げかけます。この世界は、この危機を超えて一変すると言われているが、それは本当か?本当ならそれは何が変わるのか?と。その変異に向け移行するプロセス、いわば生きたイノベーションの実践プロセスをアルスは9月に世界に対して示すことでしょう。この5日間は要チェックというか、必見・必聴の嵐が吹きすさぶのではないでしょうか。

今年の特色②パークでもプレイグラウンドでもなく”ガーデン"

世界には多様なガーデン=庭が存在しています。一般的にガーデンと言われた時、生い茂った木々に色とりどりの花、草むら、芝生などがイメージできるのではないでしょうか。そもそもガーデンの語源は、旧約聖書の「囲われた楽園=Gard+Eden」。その歴史は権力の象徴であったり、宗教観の反映、美の探求の表れなど時代に合わせて役割を担い、限られた空間に彩りを加え、見て楽しむ文化として今日に受け継がれてきています。

少し視点を変えてみましょう。お庭へと目をこらすと、植物は勿論、そこへ訪れる虫、鳥、動物、土中に存在するバクテリアなど、人間とは違う生き物が多数暮らしています。それは、人間と土、植物、その環境とが互いに異なる文化を受け入れ、共生している空間だと言えると思います。
その環境を、その庭を自分の聖域として、慈しみながら育てているガーデナー(庭師)がいる。そのガーデナーを想像しながら、アルスのいうガーデンを見てみましょう。

ARS ELECTRONICA GARDENS-世界の120の都市をつないで、それぞれのガーデンを表出する。このガーデンには各々ガーデナーがいて、自身の思いや理想を追求しアイデアの種を蒔き、結実させるまでの、総勢120パターンの実践が詰まった楽園であると言えます。そのガーデンが集まっているから複数形の“Gardens”。それぞれのPracticeがこの5日間、オンラインで表出するのです!

この場所で遊んでねと遊具が用意されたプレイグラウンドでもなく、公共性が保たれたパークでもなく、ガーデンはある種、一人一人のガーデナーの熱気や変態性が詰まった息遣いや実践を指します。これは、キーワードとして出ている“Autonomy(自律性)”とも関連し、一元管理ではない人間の尊厳や自分を取り巻く環境との調和を示唆しています。世界中の“Gardens”の散策、してみたくなってきますよね!

今年の特色③主体的な未来 -地球レベルで取り組む'NEW NORMAL'

最後にケプラーさんに触れます。ケプラー第三の法則-調和の法則は、生み出すまでに第一・第二の法則から10年かかりました。粘り強く主体的な未来を作り出す意志とその実践が、その当時の常識(天動説)を転回させ、新しい常識(地動説)を科学的に証明し定着させたのです。またその彼の一連の発見は、ニュートンの万有引力へとつながり、新しい常識をさらに連鎖させていきました。

今、私たちを取り巻く環境を見てみると、一番身近な話題はコロナですが、世界の人間全員が国境や人種、性別、言語の壁を超え、これに打ち勝とうと模索し、工夫を重ねています。いわば変化が起きる前の'between'に皆立っている。各々の実践はこれからどんな新しい常識(New Normal)を生んでいくのでしょうか。

さて、少し未来に想いを馳せてみましょう。皆さんはどんな未来に期待しますか?また何を不安に思うでしょうか?皆が見ている世界の形は一つではありません。その形を変形させる、またはボーダーを揺さぶり拡張し、その境界を越境する存在がアーティストであると私は信じています。ぜひ、ご自身のガーデンに、熱狂さや異文化を取り入れることをためらわないでください。そして、アルスが形にしようとしている、また世界各国のガーデンが取り組んでいる現実世界での新しい実験のプロセスに参加してみてください。

と、今年のテーマを噛み砕いていくだけで終わってしまいました。次回は、もう少し解像度を上げ、フェスティバルの中身に触れていきたいと思います。どうぞお楽しみに!

フェスティバル公式ページはこちら

田中れな
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 イノベーションプロデューサー

2007年博報堂入社。企業の広告制作に携わった後、現在はアートシンキングを起点に、未来社会での課題発見のリサーチ・アクションプラン開発など、未来を構想するプログラム制作に従事。世界的なクリエイティブ機関・アルスエレクトロニカとの共同プロジェクトを推進し、企業のイノベーション支援プログラムを多数提供している。

※この記事は、博報堂ブランド・イノベーションデザインのnote(リンク)で掲載されたArt Thinkingの記事Vol.3をもとに編集したものです。

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