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世界で戦えるエージェンシーネットワークになる/ 近藤暢章(連載:「博報堂のグローバルビジネス」Vol.1)

2020.10.07
ボーダーレス化する企業活動への対応力の更なる強化のため、海外事業を強化している博報堂。1973年に初の海外拠点をマレーシアに設立してから47年。現在、海外19の国と地域、105を超えるオフィスで事業を展開しています。
新連載「博報堂のグローバルビジネス」では、博報堂の世界における新しい挑戦について、各領域のリーダーへのインタビューを通じて紐解いてまいります。
第1回は博報堂のグローバルビジネスの変革について、海外事業を統括する取締役常務執行役員の近藤暢章に話を聞きました。

Hakuhodo International Unitが始動

──2020年4月に博報堂の海外事業体の名称を「海外事業ユニット」から「Hakuhodo International Unit」に変更しました。
また海外ネットワークの拡大としては、2019年11月にはタイの「Winter Egency」、2020年3月にはインドの「AdGlobal360」と、有力デジタルエージェンシーを相次いで買収。1月には「Hakuhodo Digital Vietnam」の営業を開始するなど、この2年間で精力的に動いています。博報堂のグローバルビジネスは今、どう変わろうとしているのでしょうか。

「世界で戦えるエージェンシーネットワークになる」という目標の下、当社のグローバルビジネスはかつてとは違うステージに入っています。
広告表現は言語文化と密接な関係があるため、かつては広告業界もその国の文化を背負っているという意識が強く、1980年以前は海外展開をあまり重視していませんでした。海外拠点も主に日系クライアントのグローバル化を支援するための拠点という意味合いが強かったのです。
しかしアジア市場の急成長や国内市場の成熟化により、今では状況がまったく違います。博報堂は海外マーケットを本気でとりにいくことを経営戦略として決めたのです。海外エージェンシーの買収やアライアンスもその一環です。小さな改革に見えるかもしれませんが、博報堂の海外事業体の名称を「海外事業ユニット」から「Hakuhodo International Unit」に変更したのも、我々が「日本のエージェンシーの海外事業部」ではなく、あくまで「グローバルエージェンシー」であることを明確に宣言しておきたかったのです。
もちろん改革はまだ始まったばかり。海外比率は博報堂DYホールディングス全体でも売上総利益ベースで20%ぐらいなので、もっと高めたいと考えています。海外のエージェンシーとグローバルマーケットで戦っていくには、その組織もグローバルスタンダードで通用するものにしていく必要があると考えています。

──グローバルスタンダードで通用する体制とは?

「世界で戦えるエージェンシーネットワークになる」ためには、先ほども触れましたが、戦う相手が世界のエージェンシーになるということです。そういう意味で、グローバルスタンダードに則った戦い方にシフトし、ローカルやグローバルのクライアントを獲得していきたい、と考えます。
まずは、体制づくりとし、「1国1マネジメント」に変えていきます。博報堂は現在、1つの国に複数の拠点を置き、それぞれのクライアントニーズに沿ったきめ細かい対応を行っています。今後はエリアを統括する組織をつくってリソースや武器をコントロールさせ、強い組織力とスピーディーな決断で戦っていこうという、戦力向上と効率化を狙った方針です。
最初の例として、2020年1月にHakuhodo International Thailandを設立しました。タイ国内の12拠点を束ねて、強い体制、強いチームでローカルのクライアントを獲得していくことが可能となり、同時に人事、総務、経理などを統括し、経営の健全化と効率化を図ります。現地で優秀な人的リソースを確保するための採用や、新規ビジネスの問い合わせ対応なども、窓口を一本化して効率よく行うことができます。このマネジメントスタイルを、今後他の国、地域でも展開していく計画です。

──今後、海外マーケットでのプレゼンスを高めていく上で、Hakuhodo Internationalの強みとは?

一つはアジアの生活者に対する洞察力の深さとデータ蓄積量です。
「生活者発想」は博報堂のフィロソフィーであり、国内だけでなく海外でも大きな武器になります。現在はアジアが中心ですが、中国を含めて、アジアの生活者データの収集・分析にこれほど投資している企業はほかにありません。我々が海外の企業の担当者に「生活者発想」の理念や、生活者に特化したシンクタンク「生活総合研究所」のコンセプトを話すと、決まって良い反応が返ってきます。それだけ世界的に見ても珍しいのでしょう。
生活総合研究所は現在、中国(生活綜研(上海))とタイ(生活総合研究所アセアン)にありますが、今後さらに台湾、インドなどにも広げる計画です。引き続きこの分野に投資することによってグローバルエージェンシーとの差別化ができ、生活者への深い理解をベースに、より説得力のあるソリューションをクライアントに提供できるはずです。
もう一つの強みは、博報堂がこれまで国内で培ってきた「インテグレートする力」だと思っています。あまりに慣れすぎていて、社員も強みとして自覚していないかもしれないですが、統合マーケティングソリューションカンパニーである私たちならではの基本スキルです。

──ひと言でいうと、ワンストップでクライアントの課題解決ができる、ということでしょうか。

いや、どこのエージェンシーも「ワンストップでできる」とは言うと思います。でも実際は、どこまで真にクライアントのニーズに応えているかが重要です。
博報堂の強みは、クライアントが本当に欲するものを理解し、社内リソースや武器はもちろん、外部連携企業のリソースにも精通し、それらを最適にインテグレートして、プランニングからエグゼキューションまで責任持って提供できることにあります。これは海外でも必ず強みになるはずです。ただ、これは外からは見えにくいので、我々が日本であたりまえのようにやっている、すべての生活者のタッチポイントを視野に入れてマーケットをデザインする力とそこから生まれるサービスの質の高さを、海外でも理解してもらう工夫が必要になると思います。

──冒頭で挙げたように、この数年、海外のデジタル分野の買収案件が続いています。この狙いと展望について聞かせてください。

アジアには既にデジタルエージェンシー、または専門組織が11社あり、今後もデジタルエージェンシーは買収等を通じて増やしていきたいと考えます。
オールデジタル化時代に、本改革の中心に、「博報堂デジタルネットワーク」を2019年に構想しました。いくら優秀な企業や組織でも、個々がバラバラに「点」として動いていても発展性がないわけで、ナレッジを共有したり、協業したり、それらが全部自走するようなネットワークの構築を目指しています。
更に、各国のデジタルエージェンシーを通じて得られる調査データを集積すれば、アジアの生活者に最も強いデータを有するネットワークになり、その意味でも期待できます。

──デジタル領域だけでなく、アクティベーション領域でもグローバルなネットワークが構築されつつありますね。

はい。2020年4月に、台湾の広告エージェンシーグループGrowww Media社を買収したことが一つのきっかけになっています。アクティベーション領域では、博報堂プロダクツ(https://www.h-products.co.jp/)の独自の事業提案力が、海外でも非常に高く評価されていますので、今後はGrowww Media社と博報堂プロダクツ、そして、アセアン地域の広範囲で事業展開しているSquare Communications社(http://squaregroup.com.vn/)やPMG社(https://www.pmgasia.com/)等が連携して、さまざまな事業領域をビジネスモデルとしてアジア各国に輸出し、成果を出していけたらと考えています。

──欧州市場や北米市場についてはいかがですか。

アジアも大切ですが、本気でグローバルエージェンシーを目指すなら北米・欧州市場の開拓は欠かせません。直近で大きな動きがあるのは欧州です。2019年1月に英国の「Unlimited Group」とドイツの「Serviceplan Group」と業務提携しました。両社ともデータマーケティングやアクティベーションの領域において、博報堂と同じような志向を持っているエージェンシーなので、欧州市場はアライアンス先との協業によってプレゼンスを高めていく考えです。Serviceplan Groupの協力を得て、ドイツのミュンヘンに、ヨーロッパ全体を統括する組織Hakuhodo International Europeを設置する計画も進行中です。

──グローバルビジネスにおけるネットワークの形成は、博報堂のフィロソフィーで「生活者発想」と両輪を成す「パートナー主義」にもつながりますね。

はい。ビジネスチャンスを広げていくという意味で、博報堂のフィロソフィーである「パートナー主義」は、立派なグローバル戦略です。既に博報堂は、数多くの日系クライアントのグローバルビジネスを支援してきた実績がありますが、日本で長年パートナーとしてお選びいただく中で培ってきたクライアントのブランドに対する深い理解と愛情があるからこそ、海外でも同様に事業パートナーとして貢献できると考えています。
インドでは日系クライアントのデジタル領域に早くから取り組んでいて、そのご縁が前出の「AdGlobal360」の買収にもつながりました。
クライアント企業のグローバル戦略を受けて、博報堂も世界を舞台にパートナーとしてビジネスを創造していく。ブランドが世界で輝くとき、それを真ん中で支えているのが博報堂であるべきだと。それがグローバルエージェンシーの基本だと思うんです。最も深くブランドを理解し、最適な方法で世界展開できるようにサポートする。パートナー主義は今後、グローバルにおいても大きなビジネスチャンスを生む可能性があると考えています。

近藤暢章(こんどう・のぶあき)
株式会社博報堂 取締役常務執行役員 Hakuhodo International Unit長

1984年に(株)博報堂に入社。第一営業局に配属されて以来、営業職としてキャリアを積み、(株)TBWA HAKUHODOの前身である(株)G1の設立に尽力。2004年に同社執行役員、2006年にTBWA HAKUHODOの常務執行役員兼CFOに就任。
2008年博報堂に戻り、第一営業局長を経て2012年執行役員、2014年常務執行役員、2015年取締役常務執行役員に就任。2018年海外事業ユニット(現Hakuhodo International Unit)長となり、グローバルネットワーク力のさらなる強化と体制整備に努めている。

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