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モノ、コトに続く潮流、「トキ消費」はどうなっていくのか/夏山明美(連載:アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点 Vol.13)

2020.10.22
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業や生活者を取り巻く環境はどのように変化したのか。また、今後どう変化していくのだろうか? 多様な専門性を持つ博報堂社員が、各自の専門領域における“文脈”の変化を考察・予測し、アフター・コロナ時代のビジネスのヒントを呈示していく連載です。
第13回は、博報堂生活総研の夏山明美主席研究員が、同研究所が提唱している消費潮流「トキ消費」の観点から解説します。

Vol.13 モノ、コトに続く潮流、「トキ消費」はどうなっていくのか

博報堂生活総合研究所 主席研究員 夏山明美

その時・その場でしか味わえない盛り上がりを楽しむ

 「トキ消費」とは、博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が2017年から提唱しているモノ、コトに続く消費潮流です。1970年代から80年代にかけてのモノ消費の時代、生活者は人より新しいモノや珍しいモノを持つこと、所有に価値を見出していました。

 そして、モノが揃ってきた90年代頃から、人より新しいコトや珍しいコトの体験が価値となるコト消費が活性化。しかし、その後、人気を集めたり、世の中で話題になる事象のなかには、コト消費の活性化というだけでは説明しきれないものも出始めました。

 例えば、ハロウィン期間に仮装した人たちが渋谷の街などに繰り出して、見知らぬ人ともハイタッチや記念撮影をして楽しむ、あの現象。観客も歌って踊って、場を盛り上げるフェスやライブ。コスプレ、声出し、手拍子などで賑やかに観る映画鑑賞会の応援上映。企業の商品開発などを生活者の寄付で実現するクラウドファンディング。好きなアイドルや商品に投票する総選挙型キャンペーンなど…。

 いずれもコトの体験に留まらず、生活者が人と一緒に生み出すトキに主体的に参加する点が従来のコト消費と異なります。私たちは、こうした事象に人が魅了されるのは、「その時・その場でしか味わえない盛り上がりを楽しみたい」という欲求が背景にあるからだと分析。こうした欲求のもとに生まれる消費を「トキ消費」と名付けました。

 さらに、事象の共通点の分析から、時間や場所が限定されていて同じ体験が二度とできないという「非再現性」、不特定多数の人と体験や感動を分かちあうという「参加性」、盛り上がりに貢献していると実感できるという「貢献性」をトキ消費の3要件としました。

コロナ禍によるオンライン化でトキ消費が活性化

 いま、トキ消費について生活者はどう感じているのでしょう。生活総研が2017年から毎年7月に実施する調査※の結果でみていきましょう。
※博報堂生活総合研究所 消費に関する生活者調査 毎年7月実施 東名阪 20~69歳男女 1,500人 インターネット調査

 まず、トキ消費の実感度について。「オフライン、オンラインを問わず、その時・その場でしか体験できないイベントやサービスが話題になっていたり、注目を集めている」という意見について、そう思う、ややそう思うと答えた人の合計値は、昨年までは4割弱でした。しかし、コロナ禍に見舞われた今年の7月は前年から12.3ポイントと大きく上昇して、48.3%となりました。性別では男性が前年差15.5ポイント増で46.6%となり、女性(49.9%)との差を縮めました。

 さらに、興味深いのは年代別の変化です。これまでは20代の実感度だけが上昇傾向でした。しかし、今年になって、他の年代のスコアが大きく上昇。その結果、年代間の差が縮小して、あらゆる年代がトキ消費を実感するようになったのです。では、なぜ実感度が上がったのでしょう。その答えは、今後広がると思うものにありました。

 今後、世の中で話題になりそう、注目を集めそう、広がっていきそうだと思うものをいくつでも答えてもらったところ、オンラインライブ、ライブ動画配信、クラウドファンディング、オンラインイベント・セミナーなど、オンライン型のトキ消費が上位を占めたのです。

 コロナ禍で、様々な人や団体、企業が、リアルのライブやイベントなどの自粛を余儀なくされました。しかし、そんな苦境のなか、新たなムーブメントとしてオンラインのライブやイベントが生まれています。また、投げ銭やチャット機能などで、生活者が参加できるものも増えています。子どもを預けなきゃならないから、遠方だから、ひとりでは行きにくいから…など、これまで様々な事情でトキ消費を諦めていた人も、オンライン化で敷居が下がりました。誰でも、どこからでも、気軽に参加しやすくなったのです。このことは生活者のみならず、企業にとってもビジネス機会の広がりと捉えられるのではないでしょうか。

トキ消費をビジネスに活かす3つのヒント

 今後、ますます注目され、活性化していきそうなトキ消費。最後に、この潮流をビジネスに活かす3つのヒントを具体事例とともにご紹介します。

【トキのお題を与える】

 最初のヒントは、生活者がそのトキに盛り上がれる、新しい記号やルールをお題として提供しようというものです。例えば、あるアメリカの環境保護団体は「シリアルナンバー入りの限定10万本のガラスボトル購入後、ハッシュタグとともにSNSに写真を投稿しよう」と呼びかける生活者参加型キャンペーンを期間限定で実施しました。その期間だけでしか手に入らない商品を購入するだけに留まらず、SNSに投稿するところまでをルール化し、参加してもらうことで、個人の消費行動が、環境運動への貢献に繋がっています。

【新しいトキをつくる】

 新しいトキをつくるとは、新しい習慣や旬、歳時記をつくるということです。例えば、日本愛妻家協会は1月31日を語呂合わせで「愛妻(アイサイ)の日」と制定。また、8時9分も語呂合わせで「Hug(ハグ)」として、「1月31日の8時9分に夫婦でハグをしよう」といった、新しい習慣を提案。日時をかなり限定することで非再現性を高め、新しいトキを創り出しています。

【モノ・コト・トキを循環させる】

 最後は、モノ・コト・トキを分断せずに、トキ消費をテコに、モノやコトを活性化しようというヒントです。

 例として、モノをトキにした事例をご紹介します。あるミュージシャンの全国ツアーでは、その会場でしか買えない一夜限りのグッズを販売。それぞれの会場でどんなモノが売られるのかは秘密にしておき、次のライブ会場が近づくたびに、SNSでグッズを発表してファンの期待を高めています。そのため、いくつもの会場をハシゴするファンもいて、グッズは売り切れ続出です。いまだけ・ここだけでしか買えないようにすることで、モノをトキにしていると言えます。

 オンラインダイニング「ズムメシ」は、コトをトキにした事例。各世帯が、同じ飲食店から食材を取り寄せて、決まった日時に食事会をするというものです。おもしろいのは、料理人や生産者も参加して、画面越しに食卓を囲み、土地の歴史や作物などの解説をすること。普段なら、お客さんが料理人や生産者とはまずありえません。オンラインの利点を活かすと、消費者も、料理人も、生産者もそれぞれの居場所からアクセスして、特別なトキの共有が可能。この事例では、非再現性と参加性を高めることで、コトをトキにしています。

 これまで、生活者は企業から提供されるモノを所有したり、コトを体験するだけでした。しかし、ご紹介した事例は、いずれも生活者がトキに参加する価値を提供しています。トキ消費は生活者の参加ではじめて完成する、従来とは異なる潮流であり、企業が生活者とともに生み出すものともいえるのです。皆さんなら、生活者と一緒に、どんなトキを創りますか。

夏山明美
博報堂生活総合研究所 主席研究員

1984年博報堂入社。主にマーケティング部門でお得意先企業の調査業務、各種戦略立案などを担当。2007年より現職。研究所のリサーチ全般のプロデュース、独自調査の管理・運営、生活変化の研究業務などを担当。共著に『生活者の平成30年史~データでよむ価値観の変化~』(日本経済新聞出版社)など。

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