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「withコロナ時代」のアセアン生活者 意識と行動の変化

2020.10.26
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中の生活者の意識・行動に様々な影響を与えていますが、国やエリアによってその度合いや特性には違いが見られます。
博報堂生活総合研究所アセアンでは今年二回目となる「新型コロナウイルスに関するアセアン生活者の意識調査」を7月に実施しました。本レポートでは、博報堂生活総研アセアンのRegional Strategic Planning Director、金森 貴司が、前回2020年3月に実施した第一回目の調査結果にも触れながら、アセアン6か国の定量調査と定性調査を元に、生活者の意識と行動における変化・特徴をレポートします。

引き続き9割以上が「コロナ」による生活変化を実感

新型コロナウイルスによる生活への影響度について、「大きく変化があった」と「やや変化があった」の合計は7月の調査では、96%。3月調査の94%に引き続き、生活者に大きな影響を与えていることが見て取れます。

国別に見ると、調査時点で各国における新型コロナウイルスの感染状況には差が出ています。タイ、ベトナム、マレーシアは、新規感染者の増加が落ち着き、通勤や通学、外食やショッピングなどが再開している一方、インドネシアやフィリピンでは、新規感染者が1000人を超え厳しい状況が続いていました※。
このように感染拡大が続くインドネシア・フィリピン・シンガポールでは、生活者が影響を強く受けている傾向が見られ、比較的感染状況が落ち着いてきたタイ・ベトナム・マレーシアでは、生活への影響度がやや弱まっていることが2回の調査で判明しました。
※2020年10月現在でも、インドネシアやフィリピンでは依然感染拡大が続いています。

家計に与える影響とコミュニティでの助け合いの輪

感染拡大や、ロックダウンといった各国の政策に伴う景気の悪化・生活者の収入の減少はアセアンでも大きな懸念事項になっています。
調査でも91%の生活者が買い物の際に「本当に必要なものか慎重に考えるようになった」と回答。このような厳しい状況の中で、生活者と地域社会は、今まで以上にお互いをサポートし合い、新しいアイデアで事態を打開しようと動き出しています。

タイでは、食品や日用品などの生活必需品を自由に寄付、または受け取ることができる棚「ハピネスキャビネット」が生活者の間で草の根活動として登場。コロナ禍で有志が置いたこの棚は、タイ全土で設置される大きなムーブメントになりました。
また、外国人観光客向けの工芸品や特産品を自国民向けに改めてスポットライトを当てるなど、母国や自分が暮らす地域に対して愛と誇りを持ってお互いを助け合う活動が活発化している様子が各国で見られました。

「ニューノーマル」を取り入れつつも「コロナ前に戻りたい」生活者

コロナ禍で影響を受けた生活項目に関して「今後も変化を受け入れたい(ニューノーマル)か、コロナ前に戻りたいか」を聴取した設問では、アセアン全体の傾向としては「コロナ前に戻りたい」という回答が多く見受けられました。
「旅行/レジャー」、「友人・恋人関係」、「子供の教育」、「他人との関係」など、新型コロナウイルスの影響で、活動や交流が大きく制限されていた項目が特に「コロナ前に戻りたい」という傾向が強く、一方で、相対的に「変化を受け入れたい」傾向が強い項目としては、「情報収集」、「健康」、「家族関係」、「食事」などが挙がりました。

生活者の「オンライン購買行動」は急速に増加

また、「出費の変化」に関する調査結果からは、「ニューノーマル」な購買行動に関する大きな変化も見て取れました。

全体的には2020年3月調査とほぼ同じような傾向でしたが、顕著だったのは「オンラインショッピング」の大幅な上昇。アセアン全体で見ると前回調査比で23ポイント(*四捨五入前の数値は22.8%)も上昇していました(40%⇒62%)。また、「フードデリバリー」も前回比14ポイント上昇と大きく変動しており、この数か月の間で、生活者の購買行動のオンライン化が進んでいることが見て取れます。

また「キャッシュレス決済」はここ数年、アセアンにおいても話題のトピックでしたが、新型コロナウイルスの影響により、これまで語られてきた「利便性」のメリットだけでなく「感染拡大防止対策」の観点からも、急速にサービス拡大と利用者増が進んでいます。博報堂生活総合研究所アセアンとしても、今後のアセアン生活者のデジタルシフトの潮流には注目しています。

“withコロナ”時代のアセアン生活者の欲求とマーケティングチャンス

博報堂生活総合研究所アセアンでは、今回の調査結果を元に、アセアン生活者の欲求と企業のマーケティングチャンスをまとめました。
「コロナ禍はまだ終わっていない」という未だ残る不安と、「自粛中に我慢していたことをやりたい」という前向きな気持ちが混在しているのが、アセアン生活者の特徴だと捉えています。

未だ残る不安:「コロナ禍はまだ終わっていない」

1. 取り組みたくなる感染予防対策がしたい
感染予防対策は継続が必須だが、慣れと飽きが生じて気が緩むことも。生活者が今後も意欲的に続けられるよう、シビアな「義務」ではなく、「やってみたい」と興味関心を持てたり、SNS映えしたりするギミックのある感染予防対策を企業側から提供したい。
2. 感染リスクを避けるため、デジタルテクノロジーを最大限活用したい
これまで「利便性」で利用促進されてきたテクノロジーは、「感染リスク回避」の論調で老若男女から支持され、習慣化する。デジタル上のタッチポイントは、今後はオプションではなく、必須になるため、アセアン生活者の行動・習慣に合わせた開発が求められる。
3. 我慢せず、美味しく楽しく、健康を維持/増幅したい
自粛期間中に生活者が実感した「免疫力を高めたい」「家族全員で健康でいたい」「在宅ワークでも体形を維持したい」「無理せず健康でいたい」などの“withコロナ時代の健康志向“に寄り添うソリューションへのニーズが顕在化。アセアンのポジテイブなマインドに合った、手軽で美味しい取り組みが求められている。

未だ残る生活者の不安を背景に、生活者が安心して活動できるように、商業施設などでは目に見える形で“取り組みたくなる”感染予防対策を実施している様子がアセアン各国で見られました。日本の商業施設では市販のアルコールジェルが入り口に設置してあるのが一般的になっていますが、タイのある高級ショッピングモールの入り口では、消毒剤が自動噴出されるトンネル型のオリジナルの「消毒ゲート」を設置するなど、日本では見られない大掛かりな「目に見える」感染対策の取り組みが見られます。

また、同じくタイにあるレストランチェーンのソーシャルディスタンス対策として、ただ座席数を減らすだけでなく、空いた座席にレストランのマスコットキャラクターを設置するなど、生活者を楽しませる工夫に積極的な企業もありました。新型コロナウイルスに対する不安の中でも、常に前向きな精神と創造性で前進しようとするのもアセアン地域の生活者の一つの特徴といえるでしょう。

前向きな気持ち:「自粛中に我慢していたことをやりたい」

4. 地元や自国のコミュニティを助けたい
自粛後の消費や行動が後押しされるきっかけのひとつが、「自国のために」。感染抑制に成功している国は愛国心も芽生えているため、サポートする先やサポート内容を生活者に具体的に示し、国内での活動を刺激したい。
5. “Spark of Joy(自粛からの解放感)”を楽しみたい
「自粛が終わったらやりたい」と思い我慢していたことを、制約が緩和された今こそ楽しみたいアセアン生活者。企業やブランド側が感染対策を万全にしつつ、解放感と共にその欲求を最大限高められる舞台を用意したい。
6. 予測不能な「もしも」のときに備え、自分の未来を前向きにデザインし直したい
COVID-19がもたらしたのは生活習慣の変化だけでなく「未来は何が起こるか分からない」という漠然とした未来への不透明さと不安感。生活者はいざという時に備え、改めて自力を高める必要性を感じている。副業、資格、保険など自分や家族の未来を「リデザイン」する前向きな提案を求めている。
7. 家族と一緒に、家族のために動きたい
アセアン生活者は元々家族の繋がりが強いが、コロナ禍の厳しい局面を乗り越え、家族の有難さ・絆が一段と深まっている。共に頑張った家族のために、「家族と一緒に」という家族単位での消費・行動欲求がますます高まる。

警戒心や不安は継続する一方で、感染状況が落ち着いている国を中心に、前向きな消費行動も見られます。
タイ、ベトナム、マレーシアなどでは、海外からの旅行客の減少を補うために、政府や旅行業界が国内旅行を喚起するためのサポートや割引を実施。生活者の観点では経済的なメリットにとどまらず、自国の美しい自然や魅力を再発見する機会にもなっています。また、自粛からの解放感を背景とした「個人的に旅行を楽しみたい」という気持ちと合わせて、「旅行を通して地元や自国のコミュニティを助けたい」という思いも生活者の行動を後押ししているとみられます。

このように、新型コロナウイルスによりアセアン生活者は大きく変化しており、国ごとにも影響の違いが出てきています。各国ごとに異なる生活者の意識・感情に寄り添いつつ、新しい生活者の行動様式の変化を着実に捉えた企業活動も必要となってくるでしょう。既にいくつかの点で大きな変化が見られますが、まだ新型コロナウイルスの影響による生活者の変化は継続中であり、何が「元に戻る一過性の事象」なのか、何が「新しい生活様式として定着する構造的な変化」なのかを結論づけるためには、これからもアセアン生活者を注意深く観察し、調査・分析していく必要があると思っております。
博報堂生活総合研究所アセアンでは、今後もアセアン地域特有の生活者の変化について、定期的に情報・レポートを発信していきます。

【調査概要】
第二回「新型コロナウイルスに関するアセアン生活者の意識調査」(*第一回は2020年3月に実施)

定量調査
対象者:20~49歳の男女
調査対象国:タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、フィリピン
サンプル数:各国300サンプル、計1800サンプル
調査手法:インターネット調査
実査期間:2020年7月10-13日

定性調査
調査対象国:タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、フィリピン
調査手法:HILL ASEAN各国研究員によるデスクリサーチ
実査期間:2020年7月

金森 貴司
博報堂生活総研アセアン
Regional Strategic Planning Director

人事コンサルティング企業、ITサービス企業などを経て2016年博報堂入社。ITサービス企業ではユーザーの行動ログデータとリサーチデータを統合し総合的に顧客インサイトを分析するフレームワークを開発・実践活用を推進した。博報堂では、デジタルやデータを活用したマーケティング領域を中心に戦略プラニング、マネジメントなど、国内外のプロジェクトに参画。インドに駐在しデジタルマーケティング部門のマネジメントに従事した後、2020年4月より現職。

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