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SDGsは「行動の10年」へ。今わたしたちがすべきこと
~Vol.1:きれいごとで勝負する、本気のSDGsとは?~

2020.11.05
#SDGs

日本においても企業を中心に徐々にその理念が浸透してきたSDGs。国連での採択から5年経過した今年、国連は新たに目標達成年である2030年までの10年間を「行動の10年」とし、取り組みを加速させていくことを世界中の人々に呼びかけています。コロナ禍を乗り越えながら、SDGs達成に向けた取り組みのスピードを速め、活動を拡大していくために、今わたしたちがすべきこととは何か。立場の垣根を越えたパートナーとして、ともにSDGs普及啓蒙活動の旗印に立ち、同時期にSDGsについての著書を上梓した慶應義塾大学教授の蟹江憲史さんと博報堂DYホールディングスCSR推進担当部長の川廷昌弘の二人の対談です。
Vol.1となる今回は、2人の出会いやこれまで協働してきたエピソード等を交えながら、SDGsが今までの環境保全活動等とどのように違うのか、企業や生活者一人ひとりが取り組む意義について、あらためて語りました。

互いがパートナーとして最適な相手だった

蟹江:
川廷さんとはかれこれ10年くらいの付き合いになりますね。先日上梓した『SDGs(持続可能な開発目標)』(中公新書)にも、僕がSDGsを語る上で欠かせないエピソードとして、その出会いについて綴っています。

川廷:
最初にお会いしたのは、国連大学で開催された「World Shift Forum 2011」で、「市民と国際ガバナンスのシフト」についてのトークセッションにパネラーとして一緒に登壇したんですよね。蟹江さんが、経済・環境・社会的側面から企業評価をするトリプルボトムラインのバランスについて説明されていて、なんてわかりやすい話をされるんだろうと感動しました。当時僕は、会社業務として環境省が推進する地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」や、「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」などに関わっていて、環境保全や経済発展のバランスをどうとらえればいいか悩んでいた。そこに蟹江さんの言葉がすごく響いたんです。

蟹江:
そうだったんですね。

川廷:
2015年の春、久しぶりにお会いした時に、蟹江さんに言われた「ちょうど企業のカウンターパートを探していたんだ」という言葉は、非常に印象に残っています。

蟹江:
僕にとってなぜ川廷さんとの出会いが重要だったかというと、SDGsはつまるところ広報戦略だと考えるからです。SDGsが今多くの人々に広がっている要因の一つは、SDGsのカラフルなアイコンデザインだと思います。広報戦略がうまくいくかどうかが、成功のカギを握っているともいえる。またちょうどその頃研究者の間でも、これからは企業など外部のパートナーと連携しながら課題発見から課題解決へと進めていき、研究成果を着実に社会に還元、実装させていく必要性があると議論されていました。そんなタイミングでご連絡してくださったのが川廷さんで、「一緒に活動をしていきたい」と言われたわけです。その真剣さに驚いたと同時に、広報戦略のプロが必要だと感じていたので、非常に心強いパートナーを得られたように感じ、嬉しく思いました。

SDGs採択時の国連本部 UN Photo/Cia Pak

SDGsが教えてくれる「すべてはつながっている」こと

蟹江:
僕は研究者としてさまざまな国際合意の形や、温暖化関連法案を含めた国際制度についての研究を長年続けていました。そして、もうこれ以上の方策は出てこないだろうかと思い始めた頃に出会ったのが、SDGsです。SDGsは「開発」と「持続可能性」を同時に謳うだけでなく、目標ベースのグローバル・ガバナンスという意味でも非常に画期的で、革新的なコンセプトです。

SDGsの最大の特徴は、経済と社会と環境という、お金と人と地球の話が、同じ立ち位置で語られていること。たとえば貧困の原因は経済格差だけではない。実際は温暖化による気候変動で災害が起こり、家を失って貧困になるケースも多々あり、環境面からも取り組まなければ本当に貧困をなくすことはできない。経済、社会、環境のすべてがつながっているということをSDGsは説いています。

また、貧困と言っても、1日150円くらいで生活しているような「絶対的貧困」もあれば、日本のような先進国における「相対的貧困」もあって、SDGsは両者を同等に取り上げています。SDGsの前文にある「誰も置き去りにしない」とはそういうこと。各自が課題を身近に感じられるようになっていることが特徴的だと思います。

川廷:
それを理解するために大きな役割を果たすのが、17のゴールとそれに紐づく169のターゲットですね。まず17のゴールについて、2016年に国連広報センターの皆さんと共に、博報堂のクリエイティブ・ボランティアの活動として、 “SDGsの自分ごと化”をコンセプトに17のゴールを分かりやすい日本語にしていきました。

ゴールの中身をより具体的に理解するためには、さらに169のターゲットについても知る必要があると蟹江さんと僕は感じていました。そこで、拙著『未来をつくる道具、わたしたちのSDGs』(ナツメ社)の出版に合わせて挑戦したのが、169のターゲットの「新訳」です。蟹江さんにご相談をしたら、偶然にも同じ時期にご著書を出されるということがわかり、お互いの著書でお披露目することにしました。蟹江さんを中心に委員を構成し、さまざまな立場のアドバイザーの方たちと「SDGsとターゲット新訳」制作委員会を立ち上げ、原文と政府仮訳を尊重、参考にしつつ、わかりやすい日本語に落とし込んでいきました。こだわったのは、中身を正しく伝えるためのわかりやすい日本語にするということ。そして読んだ人が、自分たちが住むそれぞれの地域の話に置き換えて解釈してくれればいいと考え、蟹江さんの最終判断のもと新訳の作業を進めていきました。

蟹江:
たとえばゴール12は、「持続可能な消費・生産形態を確実にする」ということを示しています。アイコンには「つくる責任 つかう責任」とあり、なんとなく理解できても、実際にどういう行動をとればいいかイメージがわかない人がいるかもしれません。

そこでターゲットを見ていくと、「食品ロスを半減させよう」といったことが書かれてある。日常的に生活者一人ひとりが「ああ、こうすればいいんだ」というところまで具体的に考えがつなげられるのが、このターゲットなんです。このターゲットがわかりやすい日本語となってより浸透することで、SDGsはまたぐっと前進させることができるはずです。

川廷:
本当ですね。僕もそう信じています。

いま改めて、SDGsに企業が取り組む意味とは

蟹江:
企業がSDGsに取り組む意義について考えるとき、僕は起業家の方々の存在を思い浮かべます。そもそも起業する人というのは、社会に存在するさまざまな矛盾に気付くところから始まっていて、それを解消することがビジネスにつながっている。SDGsは、いま世界が直面している矛盾を「17の目標、169のターゲット」という形で明示してくれているとも言えます。
我々の生きる社会、世界をあるべき姿にするためにこれだけの矛盾が横たわっていて、それぞれにビジネスチャンスがあるのだということも教えてくれているんです。特にいまの学生たちが生きている時代は、9.11があり、リーマンショックがあり、3.11があり、熊本地震など、大規模な災害も起きている。自分の力では何ともできない事象が常に起きているような世代だからこそ、必然的に彼らの目は社会に向いています。当然、SDGsへの本気度が感じられ、課題解決に取り組む人や企業を応援したいと思うでしょう。

川廷:
本当にそうですよね。双方の著書でも触れてありますが、そもそも日本では近江商人の「三方よし」だとか二宮尊徳の「道徳を忘れた経済は罪悪」だとかいう理念が江戸時代から言われてきた。渋沢栄一の「道徳経済合一説」だって100年も前の言葉です。
明治時代に生まれた多くの日本企業はそういう精神から始まっていますが、企業が大きくなり、雇用のために売り上げを上げて株価も上げて…とまい進するうち、さらにはグローバル経済を戦わなければならなくなり、いつのまにか経済最優先の思想に陥ってしまうこともある。創業者精神に立ち返りたいと思っても経営判断としては難しいという、矛盾をかかえた経営を続けているんだと思っています。

2003年はCSR元年といわれていて、企業も温暖化対策や社会貢献の大切さを唱え始めた。僕が博報堂の業務として環境省の「チーム・マイナス6%」の取り組みを始めたのが2005年で、以来クールビズなども少しずつ広がっていき、大企業を中心に社会貢献を自分ごと化していった潮流ができ、SDGsを推進する土壌ができてきた。さらには2015年、日本政府が「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が資金運用においてESG(環境、社会、ガバナンス)の視点を反映させる国連のPRI(責任投資原則)に署名した」と国連で報告。2017年には経団連が企業行動憲章の中でSDGsについて触れており、まさにESG投資とSDGsが同時期に浸透していくという動きを見せています。
蟹江さんがSDGsに出会って確信を得られたように、世の中も、企業も、さまざまな側面で本格的に問題意識を持ち始めたなかでSDGsに触れ、きっと「これだ」と思ったんじゃないでしょうか。

いよいよ始まった「行動の10年」と、コロナ禍がもたらした気づき

蟹江:
「行動の10年」が始まった2020年ではありますが、貧困や飢餓、経済の持続可能性など、SDGsの実践においてコロナ禍は厳しい側面をもたらしています。一方で、既存のさまざまな仕組みや制度を変える大きなチャンスでもある。
たとえば今回、グローバルのサプライチェーンが寸断されてしまった。今後同じようなことが起きないように“切れないサプライチェーン”について考える必要があるでしょう。国内の資源をもっと活用する、ひいては地方創生により力を入れようという動きになるかもしれません。これまでの方法が持続不可能なら、元に戻しても仕方がない。サステナブルにしていく方法を求めて前に進むしかないという気運が高まってきている時期だと感じています。SDGsはその大切な指針になると思います。

川廷:
コロナによって、多くの人が生活の中で「持続可能」という言葉を実感したと思います。持続可能性とは、企業や社会が取り組んでいくものではなく、自分たち一人ひとりが主体的に行動することで実現させていくものなんだということを感じたのではないでしょうか。

蟹江:
SDGsのゴール3でも感染症について触れられていますが、そもそも、マスクをして手洗いをすることで自分を守ることが、結局は社会を守ることにつながる。自分のため、が、社会のため、になる。

川廷:
個人の行動が社会、ひいては世界に影響を与えうる。いい方向にも悪い方向にも…そこに気づけたことが大きいですね。

家づくりで実践したSDGs

川廷:
僕は2013年から国際森林認証のFSC認証システムの国内普及をサポートしているのですが、なかなか消費者の認知が上がらないことが課題になっていました。認証材の国内流通量は少なく、違法に伐採された木材と一緒に加工され市場に出てしまうという現状があります。工務店や建設業と共に「国際認証をとった安心安全な木材で家を建てましょう」と消費者にうまく情報伝達ができたら、ビジネスが動き、林業家も頑張ってFSCの認証取得に動いてくれると思います。

FSC認証の取得と普及を支援した南三陸の山での伐採式。この木は自宅の階段材として活用。

そう考えているうち、たまたま僕自身が家を建てる機会が到来し、県産材を使っている工務店に依頼し、自分のつてをたどって日本で初めてFSC認証をとった三重県のヒノキを入手し、そのほかさまざまなFSC材を使用しつつ、それ以外の木材は産地証明取得済みのものを使用して自宅を建てました。結果的に新築戸建てでは日本初となるFSCプロジェクト認証の家として、FSCグローバルの本部に認めていただきました。家づくりのプロセスを一から経験しながら、安心安全な木材集めに自ら関わることで、SDGsを自分ごと化することができたのではないかなと思います。

蟹江:
それは素晴らしいですね。僕の場合、家族が増えたので引っ越しをしようということになり、同僚の建築士に相談したところ「SDGsの家を建てるべきじゃないか?」と(笑)。フローリングや柱など、川廷さんと同じようにできるだけ認証材を用い、それ以外の木材には出荷証明書をつけてもらうようにしたほか、環境が専門の建築士に相談し、環境性能に優れた設計にしてもらいました。また、組み立てが容易な断熱材を用いることで職人の作業時間を削減できるよう努める等、建築現場でもSDGsにかなった作業実態になるようにこだわりました。

SDGsの家をつくる際の検討風景(「2030 SDGsで考える 朝日新聞掲載記事『SDGsハウス、始めます(1)』より)

川廷:
そういう家づくりの方法が普及するのが理想的ですよね。家を建てたい人がそういう選択肢を得られるような仕組みが実現できればいいのですね。

蟹江:
先ほども言ったように、こういうことが大きなビジネスチャンスになるのだと思います。たとえば街を上げて「〇〇の街」、といった形で推進していけば、スマートシティ化にもつながる等、新しい街づくりの可能性が開けていくかもしれません。

きれいごとで勝負する、本気のSDGs

川廷:
僕は常々「きれいごとで勝負すべき」と考えています。とりつくろったりするときに「きれいごと」という言葉が使われてきましたが、これからは、勇気をもって忖度せずに、純粋に未来のために行動する「きれいごと」で勝負する時代が来ていると思うのです。蟹江さんが以前からおっしゃっている「本気のSDGs」という言葉も、僕を支えてくれています。

蟹江:
僕が大事だと思うのは、見せかけで終わらせないということなんです。SDGsはようやく世間に浸透し始めた感じですが、それと同時に、SDGsの表層的な部分だけを取り上げた言説も目にするようになりました。
地球の未来の理想を掲げるこのカラフルなアイコンのイメージの一方で、企業にとっては今後辛いこともあるはずなんです。温暖化対策のために石油石炭を使わないということは、ペットボトルの利用にも通じているので、それはそれで大変だと感じるタイミングが来るはず。SDGsは、これから10年をかけてそういう社会に切り替えていきましょうと呼び掛けいて、生半可な覚悟では進められないミッションです。実はそういう姿勢が一番必要なのは国だと思います。本気で取り組むのであれば、強力なリーダーシップが不可欠。このような世界を2030年に実現していくためにも、何より本気になることが必要なんです。

川廷:
本当にそうですね。我々の世代がやれるだけのことをやりきって、次世代に質の高いバトンをわたさなくてはならない。以前この話をしたら、競走部ご出身で箱根駅伝を目指されていた蟹江さんから「それを言うならたすきでしょう」と突っ込まれたことがありましたが(笑)。

蟹江:
そうでしたね(笑)。
そういえば小学生の息子が、将来野球選手になれなかったら、儲かりそうだからSDGsの専門家になろうかなと言っているんです(笑)。でも彼が大人になるころには、こういうことを実践していない事業はビジネスとして成り立たない世の中になっているといいなと、心から思います。

川廷:
蟹江さんは、アントニオ・グテーレス国連事務総長から、2021年のSDGsアニュアルレポート執筆者14人の1人に指名されたんですよね。

蟹江:
日本での取り組みを紹介できる機会をいただけたのは本当に嬉しいことです。世界に向けてよい報告ができるようにますます活動を推進していきたいですね。

川廷:
共に頑張りましょう!

※次回はお2人が携わる「ジャパンSDGsアクション推進協議会」についての対談です。

蟹江 憲史(かにえ のりちか)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授

慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ代表、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)非常勤教授。北九州市立大学助教授、東京工業大学大学院准教授を経て2015年より現職。専門は国際関係論、地球システム・ガバナンス。国連におけるSDGs策定に、構想段階から参画。SDGs研究の第一人者であり、研究と実践の両立を図っている。日本政府SDGs推進円卓会議構成員、内閣府地方創生推進事務局自治体SDGs推進評価・調査検討会委員などを務める。「持続可能な開発目標とは何か:2030年へ向けた変革のアジェンダ」(ミネルヴァ書房、2017、編著)、「SDGs(持続可能な開発目標)」(中公新書、2020、著)等、多数の著書がある。博士(政策・メディア)

川廷 昌弘(かわてい まさひろ)
株式会社博報堂DYホールディングス グループ広報・IR室CSRグループ推進担当部長

兵庫県芦屋市生まれ。1986年博報堂入社。テレビ番組「情熱大陸」の立ち上げに関わり、地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」では、メディアコンテンツの統括責任者を務める。現在はSDGs領域の業務に専従。外務省や内閣府のSDGs関連事業などを受託。環境省SDGsステークホルダーズ・ミーティング構成員。グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンSDGsタスクフォース・リーダー。神奈川県顧問(SDGs推進担当)。鎌倉市SDGs推進アドバイザーなど委嘱多数。また、公益社団法人日本写真家協会の会員として「地域の大切な資産、守りたい情景、記憶の風景を撮る」をテーマに活動する写真家でもある。

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