竹島 唯氏
Twitter Japan 株式会社
クリエイティブストラテジスト
後藤 宏行氏
株式会社ロッテ
イノベーション クリエイティブ ディレクター
長野 種雅氏
資生堂ジャパン株式会社
イノベーションプロデュース部 部長
モデレーター
小島 翔太
博報堂
アクティベーションディレクター
小島
モデレーターの小島です。現在、生活者の気持ちが大きく反映されるものとしてSNSは広告にもたくさん使われています。中でも実際得意先に提案することも多いのが、Twitter、Facebook、Instagram、TikTokの4つ。それぞれのユーザー層、メディアとしてのトーン、使っているユーザーの気持ちの違いなどについて議論していきたいと思います。まずは皆さんのSNS体験を教えてください。
竹島
Twitter Japanの竹島です。普段はTwitter上の会話の中から世の中の兆しを見つけ、それをブランドと掛け合わせて会話が生まれるアイデアを考えるチームに所属しています。社員なのでTwitterを使いますが、Instagramも使います。特にストーリーを日記代わりに活用しています。
後藤
ロッテの後藤です。イノベーションクリエイティブディレクターという自分で考案した役職で、特定の部に所属することなく、クリエイティブ的なんでも屋のような形で社内外にさまざまなプロジェクトを立ち上げています。僕個人は世の中でどういうことが流行っているのか、ソーシャルインサイトのようなものを得るためにTwitterを見ることが多いですが、発信はあらゆるSNSにおいてしたことがありません。
長野
資生堂の長野です。10年ほどシャンプーやコンディショナーの処方や基礎研究をやっていて、TSUBAKIの中身をつくったりしていました。2010年から本社でマーケティングを担当、いまはイノベーションプロデュース部でさまざまな活動をしています。僕もSNSで個人として発信することはまったくなくて、あくまでも仕事において、周囲の情報を得る検索ツールとして利用しています。
小島
僕自身はTwitterを見ない日はないくらいなんですが、TikTokも見てみたらすごく面白かった。メディアごとの違いについて竹島さんどうですか。
竹島
コロナのあった2月3月くらいは、私がよく使うストーリーでは、おそらく皆さんネタがなくなってしまって投稿数がだんだん減っていったんですが、Twitter上では、日々の想いや社会の変化についてツイートする人が非常に増えていましたね。ちなみにこうしたメディアごとの違いを表すのに、Instagramの場合はlook at me、Twitterはlook at thisの目的から使われることが多いと考えています。また、あくまでも個人的な感覚ですが、Facebookは自分のコミュニティに対し、同窓会のような感覚でlook at me的な投稿をする場。TikTokは、いま現在の、こんなに面白い自分を見てほしいというlook at meなのかなと思います。いずれにしてもInstagram、TikTok、Facebookは写真で投稿するので、架空のことや見えないものを投稿しにくいですが、Twitterだと見えない気持ちや社会の動きを言葉で投稿できるため、look at thisになりやすいのかなと思います。
小島
では実際の活用事例について見ていきましょう。まずは僕が長野さんと一緒に担当させていただいた、レシピストというEC専用スキンケアブランドの認知拡大を図ったキャンペーンです。ターゲットに若い女性が多かったのですが、調査すると彼女たちはテレビよりもInstagram、特にストーリーを四六時中見ていることがわかった。そこでタレントの横浜流星さんと土屋太鳳さんのカップルアカウントをInstagramでつくり、2人が仲良く一緒にスキンケアを使っている同棲生活の様子を、ストーリー動画やフィード投稿で描いていきました。本当のカップルが撮りあってるような自然な感じの動画で、僕らおじさんからすると、一体何を見せられてるんだという気分になるくらい(笑)。でも実際にSNSにはたくさんのカップルのアカウント、いわゆるカップル垢があり、若い子は彼らの日常を見て、可愛いな、素敵だなと思ったりしてるんですね。
長野
ハッシュタグにPRとついていたら飛ばしちゃうなど、若い子たちはメーカーの広告を嫌がる傾向にあります。そうならないように、いかに伝えたい世界観やブランドの価値観を、興味を持ってもらいながら伝えられるかを議論したところ、若い子たちが一番関心があるのは恋愛だという結論になった。そこで、多くのカップルがやっているような、“キュンキュン”するような投稿を連続的に仕掛けていったんです。当時スマホファーストマーケティングをやっていて、まずは数ある動画の中からもっとも接触してもらえるメディアとしてInstagramのストーリーズに絞り、テレビと同等の認知をとっていくというチャレンジ目標を立てました。結果的にストーリーがブランドサイト的な役割を果たしてくれ、フォロワーは47万人にもなり、想像以上の成果を得られました。
小島
SNSによって異なるトーン、ユーザーの気持ちに表現を最適化したところ、非常にワークした例ですね。
後藤
私からは、ロッテの創業70周年を伝えるコミュニケーション施策の例をご紹介します。周年広告でよくある、新聞の15段とか30段とかで「おかげさまで〇〇年」というイメージとは異なる、何かリアルに効果のあるものにしたいなと思ったのが始まりです。そこで考えたのが、SNSでどんどん拡散してもらうという手法です。
プロデューサーの川村元気さんに相談しながらつくったのが「ベイビーアイラブユーだぜ」という3分間のプロモーション動画。これをどう拡散させるかということで、まずはFNS歌謡祭の第1夜目に、「一夜限りのスペシャルCM」「ON AIR第2夜」「川村元気×BUMP OF CHICKEN」と予告を出し、当日の朝は4時からサイト上でフル尺で流し、ダメ押しで「見てくださいね」というテレビCMを一度だけ流した。情報解禁のタイミングで「ロッテが川村元気プロデュース、BUMP OF CHICKENの曲でプロモーションビデオをつくった」ことを発信。Twitterトレンド入りし、さらに朝の情報番組でも紹介…としたところ、6日間で518万回の再生がありました。現在は2000万回弱の再生数です。キャラクターもいない、自社のお菓子とそれにまつわるイメージ映像しかない動画でそこまでいけたというのは、正直大変な手応えがありました。
小島
悔しくなるくらい、めちゃくちゃ素晴らしい企画ですね。
後藤
ありがとうございます。実は社内を説き伏せるときに言ったのは、70周年は中途半端なので、100周年の話をしましょうということ。これを見る人が20代前半なら、30年後には十分役員になれる年。つまり30年後に皆さんの代わりに役員になるような有望な人材をとるリクルート広告にしましょうと。実際就職ランキングは大幅にジャンプアップして、この動画が寄与してるのではないかと日経新聞にも書かれたほどです。
実はこの直前にも、川村元気さんと一緒に6社による共創広告コミュニケーションの企画を実施したんです。「君の名は」の地上波2回目の放送に合わせて、作品のテーマである入れ替わりに合わせ、各社のロゴが全部入れ替わるというCMだったのですが、かなり話題になった。Twitter世界トレンド1位を取り、インプレッションも5億を超えました。それもあって川村元気さんともう一度ご一緒したかったんですね。
小島
放送日にTwitterがお祭り状態になる例には「バルス」もあります。ただ、この祭りに、企業に操られてる感、やらされている感が出てしまうと一気に冷めてしまう。塩梅は難しいですよね。では竹島さんお願いします。
竹島
Twirlというイギリスのチョコレートのキャンペーン事例をご紹介します。60円くらいのチョコで、オレンジ味が出たときに非常に話題になりました。世界最大のロックフェスのライブチケットと、このTwirlオレンジ味が、共に2019年にイギリスでもっとも入手困難とされたほどです。それが2020年、コロナで世の中が沈んでいる中、Twitter限定でプリセールを行うということで復活しました。
会話を生み出す仕組みが非常に練られていて、まずは2019年にTwirlオレンジ味に関するツイートをした人にブランド側がいいねをし、さらにリプライの欄に目覚まし時計の絵文字をつけていった。そこでまず「何事?」と話題になった。次に、「ゲットしたなんて素敵」という会話を生むために、ライブ配信中にツイートに反応した人に先着順にIDを発行。買えた人と買えなかった人を生み出した。「ゲットした」ツイートは限られますが、大量の「ゲットできなかった」ツイートも出ることで、話題になりました。
小島
ユーザーの気持ちが無防備に吐き出され、しかもずっと残ってるメディアだからこその使い方ですね。
小島
社内での通し方という点で、SNS施策のポイントはありますか。
後藤
ロッテの場合、お菓子という特性上40~50代女性がボリュームゾーンで、実際テレビ広告は効くんです。ですからそこからいかに拡散させるかを考えます。吉沢亮さん、浜辺美波さんのカップルを描いたCMも、「これ反則でしょ」と話題にしてもらうことを念頭に置いたものだし、土屋太鳳さんの浴衣姿しかり、オフィスでアイスを食べる広瀬すずさんしかり、皆が何かしらコメントしたくなるような内容にしている。すべてSNSでの最大効果を狙った仕組みです。私は社内では一任されているので、なおさらそうした事前設計をより緻密に行うようにしています。
長野
弊社は2023年には広告媒体費の90%をデジタルに移行すると発表しましたが、何をやるにしても、何を実現したいのか、目的を明確にすることが大事です。SNSを活用してバズを起こそう、話題にしよう、だけだとまったくだめで、具体的な指標、インプレッションをとりたいのか再生回数を増やしたいのか…認知が目的なら、今何%のところを何%まで上げたいのか。いつまでに何を達成するかを具体的な数字を用いて明確にすることが、社内例えば、ターゲットである若い世代と、Instagramというプラットフォームを使ってコミュニケーションをとるなど。ただこのコミュニケーションの部分ではロジカルでは語れない、アート、つまり右脳の部分の話なので、プランナーを信じ切るしかありません。最初の話に戻ると、弊社が90%をデジタル広告費にするというのは、テレビ以外のメディアを使ってテレビ以上の認知をとる、ほかのKPIを達成していきたいという意図があるからにほかなりません。
小島
広告会社からするとSNS施策はやってみないとわからないことも多く、KPIを細かく設定されるのを嫌がる傾向にあります。でも目標がシャープであるほどアイデアもシャープになるし、うまくいかなかったときの議論の貴重な材料になる。そこの認識をチームで共有することですね。
竹島
今のお話は素晴らしいと思いました。世の中ゴトになっている商品やサービスを見ていると、コンテンツによって短期的にバズをつくるのではなく、人々の熱量が集まった長期的なムーブメントをきちんとつくらなくてはならない時代なのかなと思います。そして世の中ゴトにするには、人々の行動や気持ちが、熱量の塊として可視化され、伝播し、継続することが必要。皆さんの話は、クリエイティブの力で単発のバズをつくり、プラスアルファ、SNSでムーブメントにしていくという設計が、非常にうまく実現した事例かと思いました。
改めて私なりにキャンペーンの成功のポイントをまとめてみると、1つは前述のとおり単発のバズではなくムーブメントを起こせるか。2つ目は、見た人が話したくなる、広げたくなるような、人の気持ちやインサイトに寄り添った施策か。3つ目は、キャンペーンやタレントについてのみの会話が生まれて終わるのではなく、きちんとそのブランドについて語れていて、「それってこのブランドのことだよね」というところまで着地できるか。この3つが揃って初めてそのキャンペンーンは大成功したと言えると思います。
小島
それをどうやるかが難しいところですね(笑)。最後に僕から、プランナー視点で見ると、ブランドのトーンとかシズル、インサイトなど課題に合わせてSNSを選ぶことが企画においては非常に大切です。TikTokだと、ロッテさんの70周年の重さとはバランスがとれなさそうだけど、逆に勇気を出してそこへぶつけていくというのもありでしょうし。今のブランドのトーンと課題によるのかなと思います。
それから各SNSのカルチャーを理解し、ブランドと接着して広告に仕立てることが重要なんですが、そもそもSNSはユーザーたちの村なので、そこでユーザーのふりをするのは白けてしまう。たとえば学校の先生が生徒と同じテンションではしゃいでいると引きますよね。でも、生徒の気持ちをわかったうえで遊ばせてくれる先生は最高じゃないですか。そこの距離感は大事にしたいなと思っています。
以上となります。本日はありがとうございました。
2017年 Twitter Japanに入社。クリエイティブ・ストラテジストとして、Twitter上において企業のマーケティングに最適なオーディエンスやインサイトを見つけ出し、Twitterの価値を最大限に引き出すコミュニケーション戦略や、クリエイティブアイデアの開発に従事。また、Twitterから消費者の行動や意識変化に伴う、新しい世の中の兆しを発見し、社内外のプランナーやクリエイターと協業しアイデアを創出。入社以前は、総合広告代理店の営業として主に外資系消費財ブランドを担当。
マーケティング、R&D、コミュニケーションを、デザイン思考を駆使して統合。個人的KPIは、イノベーションを起こすこと。起こさせること。そのために社内外で、お菓子やアイスのチカラを最大化させる共創プロジェクトを手掛けている。
2000年金沢大学自然科学研究科修了。同年(株)資生堂研究所に入社。
ヘアケア商品の処方開発及び基礎研究業務に従事。2010年からはマーケティング部門に異動し、ヘアケア・スキンケア・男性用化粧品などの商品開発を担当し、現在に至る。
手段にとらわれず、SNSや世の中で大きなリアクションが生まれるような広告を目指す。
日清どん兵衛デジタル施策、資生堂レシピスト「たおりゅう」、SMBC日興証券「イチロー人生すごろく」、ロッテクーリッシュなど。「CREATIVE TABLE 最高」を発足