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OMOがつくり出す新しいショッピング体験【アドテック東京2020レポート】

2020.12.18
#アドテック東京2020#マーケティング
コロナ禍による自粛生活以降、オンラインでモノを買う人が増え、EC市場は活況を呈しています。一方で、「体験」を提供する場としてのリアル店舗の価値もあらためて見直されています。モノを売る側は、オンラインとオフラインのチャネルをどう統合し、顧客にどのように価値を届けていけばいいのでしょうか。本稿では、10月29日、30日に開催されたアドテック東京2020のセッション「ショッピング体験の未来像」の模様をお届けします。当セッションでは、これからのショッピング体験のあり方について、小売りの立場とそれを支援する立場から活発な意見交換がなされました。

モデレーター
内山 尚幸氏
株式会社 NTTデータ
SDDX事業部長

藤原 義昭氏
株式会社コメ兵
執行役員マーケティング統括部長

髙木 真樹氏
株式会社電通デジタル
デジタルプランナー

中川 浩史
博報堂行動デザイン研究所 所長

OMOの本質は新しい顧客体験をつくること

内山
この数年、OMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインの統合)という言葉をよく耳にするようになりました。あらためて、OMOとは何か、オムニチャネルとは何が違うのかといった点について、皆さんのご意見をお聞きしていきたいと思います。

藤原
私たちは2007年くらいからオムニチャネルに取り組んできました。オムニチャネルとは、ひと言で言えば「どこでも買える」ということですが、これはどちらかというと物流の話で、起点は企業側にあります。それに対してOMOは顧客起点の考え方です。お客さまがオフラインとオンラインをスムーズに行き来できる仕組みをつくって、実店舗で買っているのかECで買っているのかをほとんど意識せずに済むようになる。それがOMOであると私は考えています。

髙木
オンラインとオフラインの間を相互に送客する仕組みはO2Oと呼ばれます。一方、OMOは、オンとオフを相互連携させたうえで、その過程の「顧客体験」をつくっていくことであると私は捉えています。例えば、OMOの成功例とされているアマゾンGOは、センサーで来店した顧客の行動を捉えて、レジなしの自動決済を実現しています。今までにない購買体験を顧客に提供しているわけです。また、試着から購買までをオンラインで実現するアプリなども、新しい顧客体験を創出している例と言えます。

中川
購買に至るプロセスと、購買後のコミュニケーションを大きく変えたのがOMOであると私は考えています。オンライン、オフラインを問わず、買うまで、買うとき、買ったあとのすべてのプロセスを楽しむことができて、髙木さんがおっしゃるように、豊かな体験ができること。それがOMOの本質だと思います。

体験やサービスを含む「トータルなショッピング」

内山
コメ兵ではOMOにどのように取り組んでいますか。

藤原
以前は大商圏を中心に店舗を展開していたのですが、最近はターゲット層を分析して、お客さまの居住地域近くへの出店を進めています。コンビニのようにすぐに行ける店というイメージです。そのようなオフラインの施策がある一方で、各店舗での接客データを分析して来店に結びつけるといったデジタルの施策も実行しています。そのすべてがOMOの取り組みと言えます。

OMOはアジャイル的に進めていくことが大切です。はじめに計画を緻密に描きすぎると柔軟な動きが取れなくなるからです。リアルなコミュニケーションとデータ活用を組み合わせながら、さまざまな試みをくり返して、よりよい方法を見つけ出していくことが重要だと考えています。

中川
私たちはクライアントから完成したプランを求められるケースが少なくないのですが、実際にいろいろ試してみないと何が本当に顧客にとって大事なものかはわからないものです。まさにアジャイルな方法が必要であると私も実感しています。

内山
OMOは企業のビジネスモデルも変化させるのでしょうか。

髙木
私は、OMOを「品質だけで勝負するのではないモデル」と捉えています。以前は、自分たちが考える最高品質のものをつくれば売れると考えられていました。近年は、最高のものをつくるために競合分析を徹底的に行うようになっています。しかしその結果、ユーザーから見るとどれも同じような商品に見えてしまうという現象が起きています。必要なのは、競合環境から抜け出して独占的な市場をつくることです。そのためにデータを活用したり、顧客と対話を重ねたりしながら、商品品質と顧客体験をうまく融合させていく。それが、OMOが目指すべきものだと私は考えています。

藤原
例えば、「歯ブラシを売る」のではなく、「歯の健康を保ち元気に暮らすためのサービスを売る」といった考え方ですよね。提供する価値の意味合いをずらせば、違うマーケットで勝負できるということです。

中川
モノだけでなく、体験やサービスまで含めたトータルなショッピング。それを提供するのがOMOであると言えそうですね。

コロナ禍で生まれた「Social-Me Good」という傾向

内山
COVID-19によって生活者の購買意識や行動はどのように変わったと思われますか。

中川
博報堂行動デザイン研究所では、デジタル時代の生活者の行動デザインをあらわす「PIXループ」という考え方を提唱しています。これは、「Pool」 (情報を引き寄せ貯めておく)、「Ignite」 (気持ちに⽕が点く)、「eXpand」(体験して情報圏を拡げる)という3つの行動をループさせながら⾃⼰充⾜を図る生活者の行動をモデル化したものです。この「Pool」の源泉としての欲求がコロナ禍によってどう変わったのかを2020年5月に調査しました。(https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/83247/)その結果、最も多かったのが生活の安心・安全を求める「安心系欲求」で、次いで、自分らしい生き方を求める「充実系欲求」でした。一方、他人との関係の中で生まれる「優越系欲求」「同調系欲求」は低いスコアとなっています。また、「自分の生活が大事だけれど、社会が安定していないと自分の生活も不安定になる」と考える人が増えていることもわかりました。
そのような傾向を私たちは、ソーシャルグッドになぞらえて「Social-Me Good」と呼んでいます。

藤原
売り場でも「安心系欲求」に応えることが大切になっています。入口に消毒液を設置したり、店員がマスクをしたりすることはそのような行動の一部です。それらはウイルスをシャットアウトするだけでなく、お客さまに「安心感」を与えるために必要な行動であると感じています。

髙木
コロナ禍の自粛生活の中で、人々がAIやデジタルテクノロジーに触れる機会が増えましたよね。例えば、PIXループの「Ignite」のパターンを、AIを使って明らかにすることはできるのでしょうか。

中川
どのようなデータをどう使うかといった方法論を生み出すことができれば、十分に可能性はあると思います。

藤原
行動データからパターンを導き出すことはAIの得意分野ですよね。しかし、実際のお客さまは、こちらが予想もしていなかったものを買うことがあります。例えば、リアル店舗で偶然見つけた商品を購買するようなケースです。そのような偶然性をAIによって予測したり、あるいは偶然性をつくり出したりすることがこれからの課題になると思います。

体験価値を提供する場所としてのリアル店舗

内山
人はなかなか狙った通りには動かないということですよね。偶然性も含めて、よいショッピング体験をつくるためにどう顧客と向かい合っていけばいいのか。ご意見をお聞かせください。

中川
データを活用することによって、商品やサービスのカスタマイズができるし、オペレーションを効率化することもできます。一方、リアル店舗にはホスピタリティ、体感性、セレンディピティ(偶然性)などを生み出す力があります。もちろん、デジタルとリアルの力は完全に分けられるものでもありません。例えば、データによってセレンディピティを実現できるかもしれないからです。デジタルとリアルをシームレスに結びつけながら、トータルな顧客体験をつくっていくことが必要だと思います。

藤原
私は、自社のアセットをしっかり意識することが、すなわち顧客と向かい合うことになると考えています。重要なのは、アセットの中で足りないものを埋めようとするのではなく、強みを伸ばすことです。現在の強みと将来的な強み。その両方の視点をもって、強みに磨きをかけていくことが顧客体験の向上につながると思います。

髙木
ECでの購買が当たり前になると、人々はリアルの感触が恋しくなるものです。また、体感性を提供する場所としても、売り手のブランドや哲学を顧客と共有する場所としてもリアル店舗の重要性は今後増していくと思います。逆に言えば、リアル店舗はそのような体験価値を提供する場所になっていかなければならないということです。これからの店舗がどのように変化していくか。それを考えるとワクワクしますね。

中川
どれだけデジタル技術が進んでも、リアルの価値はなくならないと私も思います。オンラインでも買えるけれど、店舗に足を運べば新しい発見が必ずある。そのような体験をいかにつくっていくかですね。

最適な「価値の届け方」を実現するために

内山
今後OMOがさらに進化していく中で、私たち自身はどう変わっていくべきか。未来に向けて何に取り組んでいくべきか。それぞれのお立場からお考えをお聞かせください。

髙木
ビジネスにおけるデジタル領域を支援する立場として、ブランドのデジタルトランスフォーメーション(DX)に注力していきたいと考えています。例えば、ユーザーの好みに合わせて個別にカスタマイズして販売するジーンズがありますが、そのように、これからは「つくったものを売る」のではなく「必要とされるものを売る」という発想がより重要になると思います。そのためのツールがデジタル技術です。ブランドのDXを実現するために、クライアントに寄り添いながら、ともに成功を目指していきたいですね。

中川
私は広告会社の一員ですが、広告会社は狭義の広告ビジネスを手掛ける企業から、広くクライアントのビジネスそのものに貢献できる企業に転換していく必要があると考えています。クライアントにとって重要なのは、最終的に「売れる」ことです。そのための新しい購買行動モデルやカスタマージャーニーをクライアントともに考え、具体的な仕組みをつくっていきたいと考えています。

藤原
コメ兵は「日本最大級のリユースデパート」という文言を掲げていますが、二代前の社長は「リユース」よりも「リレーユース」という言葉を大切にしていました。リレーユースとは、バトンを渡すようにモノを人から人にリレーすることでサーキュラーエコノミーをつくることを意味します。小売りとは、それを実現する手段の一つに過ぎません。自分たちがお客さまに届けようとしている価値を常に再設計しながら、最適な「価値の届け方」を継続的に考えていきたいと思います。

内山
自分たちが顧客に提供する価値を最適化し、最大化するための一つの方法がOMOということですね。皆さん、今日は貴重なご意見を聞かせてくださいましてありがとうございました。

内山尚幸
NTTデータ SDDX事業部長

1996年同社入社。カード&ペイメント事業部ビジネス企画統括部長、ITサービス・ペイメント事業本部サービスデザイン統括部長を経て、2019年4月より現職。ペイメント領域の新サービス企画、リテール・サービス業界をターゲットとしたソリューション企画などに従事。
グローバルブルー・ティエフエス・ジャパン株式会社 取締役。ネットイヤーグループ株式会社 取締役。

藤原義昭
コメ兵 執行役員マーケティング統括部長

2000年自社ECの立ち上げをし、物流からささげ業務まですべてを構築する。現在全社マーケティングの統括、情報システム部門トップも兼任しオンラインとオフラインを統合した顧客体験の向上を通して長い関係性を構築していくことを進めている。そのかたわらビジネススクールで講師としてマーケティングの教鞭も取る。

髙木真樹
電通デジタル デジタルプランナー

株式会社電通デジタル/デジタルプランナーとして大手メーカーのEC立ち上げ、サービス開発を担当。年商10億円のEC事業会社の運営経験を経て、前職では楽天、Y!、自社を中心としたコンサルタントチームのチーフとして活躍。
中小企業のコンサル支援から、大手企業の立上げコンサル、地方EC事業まで支援は多岐にわたる。
WACAウェブ解析士マスターとして各種セミナー開催やカリキュラム制作、中小事業支援活動など実績多数。
店舗運営経験による「クライアントに寄り添った徹底したタスク管理」が強み。

中川浩史
博報堂 行動デザイン研究所 所長

プロモーション領域を出自に、CRM、インタラクティブ、ナレッジ領域を経験。購買というKGIにコミットすべく、デジタルを活かしたIMCのアップデートと実践に従事。大手飲料、通信、電力、運輸等、プラットフォーム構築・運用の実績も数多く、キャンペーン型コミュニケーションにとどまらない、プロジェクト型の業務も多く担当。
直近では、テクノロジーを取り込んだ顧客体験や、デジタル/スマートフォン時代における購買行動モデル(PIXループ)の研究・開発にも取り組む。

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