松井:
清田さんはこの連載ではじめての男性ゲストということで、今日はちょっと客観的な視点をいただきながら働く女性や男女差についてお話できたらと思っています。よろしくお願いします。
清田:
よろしくお願いします。
松井:
桃山商事では女性の恋愛相談をきいて「恋バナを収集する」という活動をされていますが、これはどういうきっかけではじめたのですか?
清田:
はじまりは大学のサークル活動みたいなものでした。僕は中高と男子校だったんですが、早稲田大学文学部のフランス語クラスに入ったら、突然まわりが女子ばっかりみたいな環境になってしまって。一緒に食事したりお茶していると、結構恋愛の話をされることがあったんです。男子ってこういうとき何考えてるの?とか男性目線の意見を求められるんですけど、役立つ意見を言える自信がさっぱりなくて(笑)。それで助けがほしくて、男友達を呼んでいっしょに恋愛話を聞くみたいなことをしていたら、珍しがられてだんだん口コミで広がっていき、最近失恋したから聞いてほしいみたいな依頼が来るようになって…。そのうち僕らにもサークル活動みたいな意識が芽生えはじめて、じゃあ名前を付けようと。なんか会社みたいな名前がいいなと思って「桃山商事」にしました(笑)。
大学を卒業してから編集やライターの仕事をはじめたんですが、桃山商事の活動をいろんな方に面白がってもらえて、これまでエピソードを書く機会や本を出す機会に恵まれ、それで今にいたるという感じですね。
松井:
なるほど。よく女性って、悩みを相談するときはただ聞いてほしいだけなのに、男性がアドバイスをしてくることにイライラ…なんて話をききますが、実際たくさんの女性の相談を聞くなかでそのあたりはどう感じますか?
清田:
女の人の「ただ聞いてほしいだけ」っていうのは、単に機械的にうなずいていればいいというわけではなくて、自分の言わんとしていることをちゃんと理解してもらっている実感とか、この場ではなにを言っても否定されないという安心感とか、そういう諸々が担保された状態のことを意味しているように感じます。例えば不倫の相談もよく来るんですけど、そんなのやめときなよとか説教されてしまうケースが多いみたいで。倫理的にどうなのか、という問題はあるにせよ、いったんそれは置いておいて、ああそうなんですね、そんなことがあったんですねって感じで、まずは話を最後まできくよう心がけています。その人が何に悩んでいるのか、どういう点に引っ掛かっているのかは、聞いてみないと見えてこない場合がほとんどなので。ただ聞いてほしいしいっていう思いの背景にも、いろんな気持ちが混ざっているし、そこを理解することを求められてるんだなって、人の話を聞くなかで少しずつ学習してきた感じです。
信川:
女性だけでなく、男性から相談を受けることもあるんですか?
清田:
女性に比べれば数は少ないですが、最近は男性でも話しに来る人が増えています。でも、女性の悩み相談を受けるときとの違いを如実に感じるというか、とにかく一番違うのは、言語化能力なんですよね。男の人の悩み相談って、なんと言うか箇条書きみたいな感じであっさりしていて(笑)。
女性から聞く話は、エピソードとしてクリアに伝わってくんですよ。いつどこで、誰とどんなことがあったか。描写も細かいし、自分の感情の言語化もすごく的確だし、相手のこともよく観察してる。彼氏とか夫とか、相手の人物像もとても上手にしゃべってくれるんですけど、男性の話はその辺が分かりにくいというか…。彼女はどういう人なんですかって聞いても、「普通にいい子ですよ」みたいな(笑)。
松井:
それは面白いですね。同じように相談に来ているはずなのに、なんでそんなに違うんでしょう?
清田:
はっきりとは分からないですが、男性は例えば政治とか経済とか趣味についてとか、自分の外側の世界のことを分析的に語るのはすごく得意な人が多いように感じるんです。それなのに、恋愛のようにプライベートな領域で自分の内側の話をするとなると、途端に語彙が乏しくなる。自分の感情や欲望に関する言葉が蓄積されてない感じがするんですよね。
松井:
男はこうすべき、女はこうすべきみたいな価値観に影響を受けている感じもしますね。
清田:
もしかしたら、女の人同士のほうがいわゆるおしゃべりをする機会が圧倒的に多いのかもしれませんね。子どものころから、身の回りの出来事や自分の話をする場数が違うというか。あとは、触れてきたカルチャーの違いもあるかもしれません。少女漫画は心理描写がとても豊かですけど、少年漫画は心理的な部分というより、敵をやっつける!とか、大きい目標に向かって突き進む!みたいなものが多いと思いますし。そういうちょっとした経験の積み重ねが大きな違いを生むのではないかと個人的には考えています。
松井:
清田さんの恋愛相談の記事を読んでいると、かなり論理的に解説されている印象があって。要素分解というか、感情を整理するとこんな感じになっていますよ、と提示することで、相手がすんなり納得していくというか。
清田:
僕らはカウンセラーでも恋愛マスターでもないので、専門知識や人生経験に沿ってアドバイスをすることができない。問題を解決するための材料って、さし当たって相手がしゃべってくれたことしかないんですね。だから、ホワイトボードにメモをとりながら話を聞いて、その人の言葉をつなぎ合わせていくというやり方をしています。
さっき言ったコレと今の発言は反対方向を向いてる気がしますねとか、さっきは別れたいって言ってたけど、今の話を要約すると別れたくないとも受け取れますが実際のところはどうなんでしょう?とか、インタビューするような感じで質問を投げかけながら聞いていくんですね。そういうやりとりを重ねる中で、「自分ってこういうことを考えていたんだ」とか「こういうとこに引っ掛かっていたんだ」といったことが見えてくるようで、話しながら思考が整理され、自分自身に対する理解が深まっていくみたいなんです。
こちらに主張やアドバイスがあるわけではなく、整理や言語化のお手伝いをしているだけというか。みなさん最後は目に見えて元気になってくれるんですが、それはおそらく、自分で自分を発見していくことがエンパワメントにつながっているんだと考えています。
松井:
清田さんのところには恋愛についての相談が多いかと思いますが、仕事における男女間の違いや、コミュニケーションのポイントみたいなものはありますか?
清田:
仕事の場合、役割とかミッションとか、そのときのアジェンダみたいなものが設定されていると思います。それらに沿ってやりとりするのが原則で、そこに性別は関係ないっていうのが一応の建前だと思うのですが、実際はジェンダー役割が絡んできたりしますよね。僕はフリーランスなので会社勤めのケースとは違いますが、傾向としては、仕事相手が女性の編集者さんだとやりやすいという感覚が正直ある。今回はこういうテーマでこんなことを書いてほしいとか、コンセプトをしっかり伝えてくれるというのもあるし、雑談からいろいろ引き出してくれる感じもあります。最近こんなことに興味があるなんていう雑談から、もともとのコンセプトと繋げて広げてくれるとか。
本当にあくまで傾向でしかないと思いますが、男性はもしかしたら、コミュニケーションコストみたいなものを削減しようという傾向が強いのかもしれないですね。丸投げと言ったら失礼かもですが、「あとはツーカーでよろしく!」みたいなものを求められているなと感じることが多い。そのスタイルが一番面倒くさくないんでしょうね。
松井:
ツーカーってところが結構ポイントかもしれないですね。もともと会社ってやっぱり男性の比率が高くて、ずっと男同士のツーカーなコミュニケーションでやって来られたのに、そこに女性が入ってくると成立しなくなるという。
清田:
やはりそうなんですね…。男性社会だと、正式な会議より酒の場とかたばこ吸いながら、じゃあそういうことで!みたいに物事が決まっていくというのが昔からよくあると聞きますけど、もうそんな時代ではないので、面倒くさがらず丁寧なコミュニケーションを心がけ、情報共有や意見のすり合わせを重ねていくというやり方が望ましいと考えています。
松井:
慣れていないということもあるかもしれないですね。反対に、女性は丁寧にコミュニケーションをする必要性があったという背景があるのですね。
清田:
男性社会において、どうしても女性はマイノリティ(=少数派、非主流派)の側に置かれてしまうことが多いですよね。基本的にマイノリティというのは自分のことを説明しないといけないし、自分の事情を分かってもらわないといけなかったりする。例えば生理休暇的な問題ひとつとってもそうですよね。ルールとかシステムを変えてもらうために言葉にして論理的に伝える必要性が出てくるし、それはものすごいコストのかかる行為だと思うんです。でも、これは良し悪しの判断が難しい問題ではありますが、そういった経験値が積み重なった結果、何かと言語化して伝える力が鍛えられてるという側面もあるのではないか。そう考えると、ジェンダーだと思っている問題の一部は、もしかしたら男女というよりマジョリティかマイノリティかの違いだったりするのかもしれません。
信川:
コミュニケーション力の差ではないとすると、今後さらにダイバーシティ社会が進むにつれ、きちんと説明を踏んでから相手の理解を得るやり方が前提になりそうですね。