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D2Cのアプローチで地域の資源に新たな価値を【前編】
(「東北D2Cアワード」レポート 最優秀賞:三陸とれたて市場)

2021.01.08
#D2C#博報堂グループ・D2C統合ソリューションチーム
2020年9月~11月にかけて「東北D2Cアワード」が開催されました。東北・岩手の自然や文化、その風土の特色を活かし「ECで日本・世界に売り出す商品」を岩手県内の事業者から募集。54の事業者から応募があり、書類審査とピッチイベントを経て、三陸で水揚げされた魚介の産地直送を行う「有限会社三陸とれたて市場」が最優秀賞に選ばれました。
今回、アワードで審査員を務めたフラクタの河野貴伸さんと博報堂の入江謙太に東北D2Cアワード開催の背景や審査のポイントを、そして最優秀賞を受賞した三陸とれたて市場 代表取締役の八木健一郎さんと商品開発・製造を担当する越田祐二さんに商品開発までのストーリーや思い、今後の目標などについて聞きました。
前編では、審査員の二人の話をご紹介します。

株式会社フラクタ 代表取締役CEO
河野貴伸氏

博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 部長
入江謙太

地域に眠っている資源に光を当てる

――今回の「東北D2Cアワード」は、「岩手県をEC大国にする」という願いを込め開催されたとのことですが、開催にいたった背景を教えてください。

入江
全国各地には、まだ広く知られていない素晴らしい資源や素材がたくさんあります。ECやD2Cのアプローチを活用することで、それらをもっと多くの人に知ってもらうことができるのではないか、そしてそれらを掘り起こすことで、地域創生やひいては日本全体のブランド力向上にもつながるのではないかと思ったことがきっかけです。
まだ光が当たっていないけれど力のあるD2Cブランドの成長を支援する仕組みを作れたらいいなと思い、今回東北博報堂と共に「東北D2Cアワード」を企画、実現しました。

――審査ではどのようなポイントを重視されたのでしょうか。

入江
このアワードは、D2Cブランドの原石を見つけ、その磨き上げを通じて岩手発のヒット商品を生み出すことを狙いにしています。審査では、「商品を発想・発案するにいたった背景のストーリー性」、「岩手県ならではのリソース活用」、「商品そのものがもつ先進性・魅力度」、「D2Cブランドとしての将来性」、そして「商品に対するこだわり・熱意」という5つの観点から評価しました。
どの商品もストーリーが感じられ、商品そのものも魅力的な物ばかりで、選定に苦労しました。一方で買う側の視点で見ると、いつどんな目的で買いたいと思うか、競合の商品がたくさんある中で選びたいと思うポイントはどこにあるのかがわかりにくい商品もありました。年に1回買わないんじゃないかな、すごくいい商品だけど、もう少し安いこちらの商品でもいいんじゃないかななど、買う側の気持ちも考えながら審査しました。

河野
D2Cビジネスは「Direct to Consumer」という言葉のとおり、お客さまとダイレクトにつながるビジネスのため、お客さまに常に向き合うことが求められます。売り手側はどうしても、お客さまが求めていることよりも、いかに売上を伸ばしていくかという点に意識が向いてしまう傾向がありますが、今後テクノロジーがさらに発達し情報化社会が進んでいく中、多様化するニーズを捉え商品に反映させることがビジネスの成功により欠かせなくなっていくと思います。そのため今回のアワードにおいても、お客さまのニーズに真摯に向き合っているかという点はとても重視しました。

――今回の東北D2Cアワードでは、三陸で水揚げされた魚介の産地直送を行う「三陸とれたて市場」が最優秀賞に選ばれました。審査員としてどのような点を最も評価されましたか。

河野
D2Cビジネスにおいては特に、ビジネスの古いしきたりや前提をひっくり返していく覚悟を持つことも重要だと思っています。D2Cビジネスが誕生したアメリカでも、今までみんなが当たり前だと思っていたけれど実は違うんじゃないかとか、一度前提を疑ってみようといった発想の転換から成長したブランドが多くあります。魚をお刺身に加工して冷凍した商品「刺身個食パック」を提供する三陸とれたて市場は、お刺身は生が一番という今までの常識を見事に覆しました。
またD2Cブランドにおいて、商品の背景にある情熱や思いも大事な要素になります。お客さまのニーズに合わせて熟考と改良を重ねて最適解にたどり着いたという三陸とれたて市場の商品には、携わった方々の情熱や思いをとても感じました。全てのバランスが最もとれていましたね。

入江
三陸とれたて市場のお刺身を初めて食べた時、「信じられないぐらいおいしい!」と思いました。切って冷凍されたお刺身って、固定観念で考えるとあまりおいしそうなイメージはないじゃないですか。でも生のお刺身よりおいしいと思えるぐらい、本当においしかったんです。
加えて商品の背景には、収穫量が不安定な魚をもう少し安定的に供給できるようにしたい、生ものであるがゆえ消費期限が短いことによって廃棄せざるをえない魚を減らしたい、三陸のおいしい魚を日本中・世界中の人々にもっと食べてもらいたい、といったとても純粋で強い思いがありました。商品そのものに感動し、さらに商品の背景にあるストーリーに感動し・・・。感動x感動=無限大という感じでした。

日本をブランド大国に

――今回の東北D2Cアワード全体を通じてどのような感想を持たれましたか。また併せて今後の展望を教えてください。

河野
D2Cアワードに参加されたどの企業の商品も、想像以上に磨き上げられていて感動しました。一方で、客観性はすごく大事だなとも感じました。というのは、D2Cビジネスではお客さまに向き合うことが求められますが、向き合いすぎると多くの人にどのように広めて、どう売っていくかという客観的な視点が弱くなってしまう。バランスを取ろうとするとどっち付かずになってしまうし、とても難しいんです。そういった客観的な視点が必要な部分をぜひ支援していきたいですね。

入江
岩手にはとにかくいい商品・ブランドがあり、情熱を持った方々がいらっしゃる。岩手が持っている資源・資産の力を感じました。日本にはまだまだそういう力があることをあらためて実感し、とてもうれしく思っています。その資源・資産を生活者のニーズに合わせてどのように提供し、広めていくか、我々もサポートしていけたらと思います。

河野
今回受賞された企業には特典として我々が販売支援を行うのですが、まずはその企業の事業をさらに成長させることが目標です。その成功によってD2Cアワードにさらに興味を持っていただき、D2Cビジネスの登竜門にしていきたいですね。

入江
そうですね。そしてD2Cアワードを、日本全国に眠っている魅力的な商品やブランドに光を当てるきっかけにしていけたらと思っています。アワードを他の地域でも開催し、ゆくゆくは各地域の代表が競うD2Cビジネスの甲子園「ジャパンD2Cアワード」を実現したいですね。日本をブランド大国にすることが我々の大きな目標です。

「東北D2Cアワード」表彰式
D2Cのアプローチで地域の資源に新たな価値を
(「東北D2Cアワード」レポート 最優秀賞:三陸とれたて市場)
【前編】東北D2Cアワード 審査員インタビュー
【後編】三陸とれたて市場インタビュー

河野 貴伸(こうの・たかのぶ)氏
株式会社フラクタ 代表取締役
Shopify 日本エバンジェリスト
ジャパンEコマースコンサルタント協会講師
元 株式会社土屋鞄製造所 デジタル戦略担当取締役

2000年からフリーランスのCGクリエイター、作曲家、デザイナーとして活動。美容室やアパレルを専門にデジタルコミュニケーション設計、ブランディングを手がける。
「人の“心”に届く、ブランドの最適解を探究し続ける」をミッションに、ブランドビジネス全体とD2Cブランドへの支援活動及びコマース業界全体の発展と「Shopify」の普及をメインに全国でセミナー及び執筆活動中。

入江 謙太(いりえ・けんた)
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 部長

マーケティング/クリエイティブ/デジタルを統合したコミュニケーションプラニングの知見と、広告を超えた新しいサービス開発の知見をかけ合わせた、企業や事業、ブランドの戦略構築・実行に携わる。日本マーケティング大賞、ACCグランプリ(マーケティング・エフェクティブネス部門)、モバイル広告大賞、東京インタラクティブアドアワード、カンヌ、アドフェストなど受賞。

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