「広告朝日」の新連載「トランスフォーメーションはカタチにできるのか」の第7回、統合プラニング局 アクティベーションディレクター 小島翔太の記事が掲載されました。
博報堂 統合プラニング局 アクティベーションディレクター 小島翔太
──アクティベーションディレクターとは、どういった仕事なのでしょうか。
アクティベーションディレクターに求められているのは、広告を見た生活者に行動を起こしてもらうことを含めて企画を考えること。たとえば、広告を見た後にキャンペーンに応募する、商品を購入する、情報をシェアするといったような行動です。ただ、統合プラニング局は、様々な職種の人が集まる垣根のない組織なので、職種にとらわれず、アクティベーションの発想でテレビCMやキャンペーン、プロモーションを企画している人は多いと思います。
──小島さんは博報堂のチーム「CREATIVE TABLE 最高」のリーダーを務めています。チームを結成した経緯は。
テレビCMだけではなく、デジタル施策や新しい施策にも注力したいというクライアントの要望があり、僕がクリエイティブディレクターとなって同年代のメンバーだけで仕事をするチャンスがありました。そういった仕事を同年代の仲間でいくつか手がけていたら、役員から若手だけのチームをつくらないかと相談がありました。いわゆる「Z世代」が主体となり、若手ならではの感覚で取り組むチームは、社内だけでなく社外からのニーズもあるからです。そこで、日頃から交流があり、一緒に仕事をしていた仲間に声を掛けたところ、気付いたら全員が平成生まれでした。
僕らに求められていることは、世の中がリアクションしてくれるコンテンツとしての広告や企画を考えることです。一番のほめ言葉は「最高」だと言ってもらえること。世の中からリアクションしてもらえる、最高のものをつくることが僕らの使命だと考え、チーム名を「CREATIVE TABLE 最高」に決めました。よく聞かれるのですが、自分たちが最高だという意味ではありません。
──小島さんを含めて9人のメンバーは全員、平成生まれで、SNSで話題となる広告をいくつも手がけています。自分たちの強みはなんだと思いますか。
SNSで共感されるコミュニケーションの空気感を、メンバー全員が「感覚的につかんでいる」ことは、僕らの強みの一つです。僕がチームの最年長ですが、大学2年のときからスマホを使っています。年下のメンバーは、初めての携帯電話がスマホで、初めての連絡先交換がLINE。学生の頃からSNSが当たり前に存在していて、今も楽しみながら使い続けている。だから、SNSで好感を持たれるトーン&マナーが肌感覚で分かるんです。
企画を考える際、チーム内で、たとえば「読後感はほっこりした、あの犬のツイートみたいにしたいよね」というように、話題になったツイートで例えることもよくあります。そのとき、メンバー全員が「あの犬のツイート」だけで、「あの感覚ね」とすぐに分かる。一から説明しなくてもニュアンスが共有できるので、コミュニケーションもスムーズ。ストレスを感じることがありません。
アイデアはチーム全員で考えるので、コピーライターだからコピーしか考えないといった職種による垣根もありません。もちろん、コピーライターが最終的には言葉に関しては責任を持ちますが、デザイナーが考えたコピーが採用されることも珍しくないです。みんなで一緒に考えます。
──SNSで広告を展開する上で、意識されていることは。
今は、広告ではなくコンテンツとして考えるようにしています。ただコンテンツといっても、どういった内容だと好かれたり、嫌われたりするのか。それは、SNSの種類によっても違いますし、あくまでも感覚的なものだと思っています。よく言われていることですが、テレビは受動的で、SNSは能動的です。テレビを見ているとき自らの意思で行動するのは、チャンネルを変えるときくらいですよね。一方、スマホは何を見るにしても、自らタップしたりスクロールしたりする必要がある。ツイッターもインスタグラムもYouTubeも、たとえひまつぶしであっても見る人の意思が何かしら働いているんです。そんなふうに能動的に情報を得ているとき、いきなり企業の広告が入ってきたら邪魔ですよね。
たとえば、ツイッターは、誰かがアップしたおもしろ動画や海外の失敗動画、赤ちゃんのかわいい動画などの合間に、企業アカウントの情報が入ってくるわけです。インスタグラムのストーリーも同様です。インスタグラムのストーリーはタップしなくても自動で次のアカウントに進んでいくので、友だちのランチ動画の後に、企業の広告やコンテンツも流れてくる。そうした特性を踏まえ、ある仕事では、若い女性の認知を高める施策として、インスタグラムのストーリーを起点とするプロモーションを実施したことがあります。恋愛をテーマにした動画のコンテンツを毎日ストーリーにアップしたところ、狙い通り認知は高まり、その公式アカウントのフォロワーは最終的に40万人を超えました。
──SNSで共感してもらえるコンテンツを企画することは、決して簡単ではないと思います。
テレビCMを見たことがなかったら、テレビCMを制作できないですよね。それと同じように、SNSで心動かされるコンテンツにどれだけ触れるかということも、重要なことだと思います。同じコンテンツでもSNSによって拡散するものと、拡散しないものがある。拡散の仕方も、内容によって違います。特に若い女性はツイッターではつぶやかず、インスタグラムのダイレクトメッセージや、友だち同士のLINEグループで情報共有していたりする。SNSはリアクションが見えるのが特徴だと思われているのですが、必ずしもそうとは限らない。見えないつながりもあるんです。
──SNSでの施策は、KPIの設定が難しいことや、表現の仕方次第では炎上の心配もあります。
どのSNSでどれくらい反応があったら、どれくらいの売り上げが見込めるか。それを施策に落とし込むのは、とても難しい。ツイッターでバズったら商品が売り切れることもありますが、そうじゃないこともある。SNSウケをねらって作った商品は、そのことがばれた瞬間、嫌われますからね。理想は、企業が思いを込めて作り続けている商品が誰かに発見され、SNSで発信したものが拡散され、売れるというパターン。僕らは、話題になるようにいろいろ仕掛けていますが、それは、あくまでも商品やサービスが「本物」だからできることです。SNSには追跡班や解析班といった言葉があり、「ズルさやダサさはどこかで誰かが見ている」という世界。だから、本物でいることが最も優れた戦略なんです。僕は、ある意味いい時代になったと思っています。
炎上については、真面目な印象が強い企業がSNSでふざけると、リスクが上がると思います。ふだん真面目な学級委員長が、なんの脈絡もなくふざけると、ただ寒いだけだったりするのと同じです。たとえば、文化祭の出し物を決める、学級委員長が活躍できるここぞという場面で、委員長らしい最高なことをする、そんな輝き方のほうが、共感されるはず。企業に置きかえてみると、キャラクターどおりだけど今までにない新しい企画を、期待を裏切るほどのクオリティーでやり切ってみるのがいいと思います。
──特にチェックしているSNSは何ですか。
僕は偏っていて、ツイッターをよく見ています。見方は二通りあり、一つはフォローしている人たちから勝手に押し上げられてくる話題のツイートは、必ずチェックする。バズった投稿はどういった内容であっても「人の心を大きく揺さぶった」からです。もう一つは、世の中で起きていることに対するリアクションを見る。最近だとアメリカの大統領選挙に対して、どういうリアクションがあり、どれくらいリツイートされるのか。自分と世の中の人たちの感覚が同じなのか、違うのか。違うとしたら、どれくらいずれているのかなどを気にして見るようにしています。
そのほか、TikTokもチェックしています。ただ、僕は動画を自らあげたことはありません。TikTokをリアルタイムで楽しんでいる今の高校生が数年後、博報堂に入社したら、TikTok的なカルチャーを分かっているのは彼らです。たとえ広告制作の経験は積んでいなくても、今の時代感覚をよりリアルにつかんでいるので、年次関係なく活躍できる環境は必要なことだと思います。
──今後、手掛けてみたいことなどあれば教えてください。
自分たちが生み出す広告で、生活者のリアクションを得ることが僕らの仕事。そんな、広告を手がけるときと同じ感覚で、ブランドやサービス、プロダクトなどを開発してみたい。アプローチの仕方は異なるけど、結果として求められるのは、広告と同様に池に石を投げ込んで波紋を広げることですよね。その道のプロフェッショナルな方々が、何か新しい発想を求めていたり、若い世代に向けて、もうひと工夫必要だと思っていたりするとき、僕らが企画を出して参加する。そういった関わり方が僕らの能力を発揮できる一番いい方法ではないかと思っています。
平成元年生まれ。早稲田大学卒業後、2012年に博報堂に入社。マス、デジタルを問わず人の心にグッと届き、シェアされてコンテンツとして機能するような広告作りを目指す。 2019年4月から博報堂の平成生まれのメンバーで、最高な広告を作る若手クリエイティブチーム「CREATIVE TABLE 最高」を設立。