古田
2020年は予期せぬコロナ禍という事態により、生活者の価値観や行動が変わり、ビジネス上の影響も大きかったと思います。今回はそんな中でも、緊急事態宣言が出されていた期間に展開された「お家でダンスをおどローソン♪」キャンペーンについて、企画意図や成果を紐解いていきます。
キャンペーンURLに飛ぶと、Webブラウザ上で、EXILEの楽曲に合わせて3DCGのキャラクターが完璧なダンスを見せてくれます。一緒にダンスを楽しんだ後は、「からあげクン」のクーポンが表示され、お近くのローソン店舗で割引で購入できるという仕組みです。
石井
本企画は、もともとLDH JAPANとクラフターで開発していたダンス教材「DANCE VISION」がベースになっています。3月に学校の休校が決まり、LDHのダンススクールの生徒たちもスクールに通えない中で、家でも楽しめる仕組みを提供できないか、というのが発端でした。β版を公開していた折、ローソンの打診を受け、2週間ほどでローソン仕様にカスタマイズしました。
白井
緊急事態宣言が出された4月7日を境に、すぐに挙がった企画でした。外出が制限されるタイミングで、皆さんの身体を動かしたいニーズを捉えて一気に駆け抜けたキャンペーンだったという印象です。Twitterで告知した際のインプレッションや、動画再生数も通常投稿よりかなり多く、「踊ってみた」などのポジティブな反応もたくさん見られました。
古田
今回の企画を、3つのポイントで整理してみました。
まず、プレイアブル。
今回のようなインターフェースを、我々は「プレイアブル・インターフェース」と名付けました。これは言い換えると、遊べる広告だと捉えています。遊べる広告の時代が、これから本格的に始まると思います。
これまでの広告は、CMでも動画でも、送り手から受け手に完成されたものが提供される「ワンベスト型」でした。ですが今後は、音楽や映像、環境や条件などのアセットを受け手にわたし、手元で物語を完成させてねという「オールベター型」への移行が進むと考えています。
白井
このキャラクター「メグちゃん」が踊ってくれるんですが、スマホの操作で360°どこからでも動きを見られるのが驚きでした。
石井
実際にEXILEメンバーのダンスをモーションキャプチャーして、メグちゃんに落とし込んでいるのですが、足の方向から距離感、背中の肩の入れ方まで再現性の高さには目を見張りましたね。我々のスクールの先生も、どの角度からもこれだけ正確に見られると、教材としても画期的だと評価していました。
古田
2つ目のポイントは、レジダイレクト。
表示されたクーポンを店頭で見せるだけで、「からあげクン」の割引購入が可能です。ローソンさんのレジの仕組みがあってこそ実現できたことですが、ユーザーからすると手元のスマホがローソンのレジと直結した感じが、感覚的に新しかったと思います。これまでは、店頭設置の専用端末などを介したクーポン発行が多かったんですよね?
白井
そうなんです。今回は、ダンスが終わるとゲーム上で「からあげクンをゲット!」と表示され、そのままクーポンとしてバーコードが出てくるので、レジに直結できました。アプリも端末も介在せずに一気通貫できたのはよかったと思います。今回は自社商品でしたが、ローソン店内のメーカーの商品で展開することも可能です。
石井
普段のローソン店舗の雰囲気や接客などを含めて、このコンテンツの中でローソンの世界観をシームレスに体験いただけたのではないかと思いますね。
古田
同感ですね。では3つ目のポイント、アプリレス。
前述のように、今回はWebブラウザ上でキャラクターを動かしました。ここで活用しているWebGLという技術自体は、それほど新しいものではないのですが、これを用いて「3DCGキャラクターを精緻に動かす」ために、手前味噌ですがクラフターの技術陣がかなり尽力しました。
今、生活者のスマホの中は既にたくさんのアプリが入っているので、あまり新しいアプリを入れたくない人も多いかもしれません。企業としても、プラットフォーマーに申請する時間や手間がかかる。それらを今回は回避できました。ローソン社内では、アプリレスだったことが最も評価されたと伺いました。
白井
そうですね。ブラウザベースであれだけスムーズに360°動きを見せられるなら、もっと企画の幅が広がると思いました。
石井
実写ではなくアニメのキャラクターにしたことで、逆に体の細かい動きもよくわかったと思います。
古田
そうなんですね。アニメにしたためにデータ容量を軽く収められたので、ロードの速さや反応の良さにも寄与しています。
また、補足ですが、メグちゃんの設定にもこだわりました。LDHのスクールの生徒だという立て付けにし、「DANCE VISION」にも登場しています。練習生がローソンのキャンペーンに起用された、みたいな形ですね。
石井
今回、EXILEメンバーのダンスは、クラフターのスタジオで撮ってもらったんですよね。
古田
はい、クラフターのモーションキャプチャシステムで、キレキレのダンスを踊っていただきました。それを指先まで含めて細かにトレースすることで、メグちゃんのトップレベルのダンスを実現しています。このシステムは、ハリウッドやゲーム業界では一般的になっていますが、世界の広告会社グループで保有しているのは博報堂だけだと思います。
同時に、すでに実用できる高品質なCGキャラクターを複数有しているので、スタジオで新しい動きを撮影すれば、すぐにキャラクターに展開して動かすことができます。
古田
では、キャンペーンの結果を白井さんから紹介していただけますか?
白井
今回は530万人(2020年4月時点)ほどフォロワーがいる公式Twitterアカウントで告知し、インプレッション通常投稿の約4割増、動画再生数は倍近くに伸びました。定性的な印象としては、やはりアプリを入れずWeb上で楽しめるUXが受け入れられており、踊ってみたという声が多く見られました。ただ、実際の動きはプロのダンスなので、「私にはついていけない!」といった声や、それに対して友人が返答して話題にしている様子もありました。
古田
ありがとうございます。改めて3つのポイントをまとめると、
まずプレイアブル・インターフェースとは「インタラクション型のクリエイティブ」と言えると思います。ユーザーの手にゆだね、楽しんでもらうことを念頭にした企画設計ですね。
レジダイレクトは、スマホがレジに直結する「行動デザインの設計拡大」と捉えられます。
そしてアプリレスは、新しい技術はもちろん既存の技術をいかに使いこなすかも含めて、テクノロジーの活用深化の具体化でした。
古田
最後に、今回提案した「プレイアブル・インターフェース」に今後どのような未来があるのかを簡単に紹介します。インタラクティブという観点で、クイズやパズル系のテレビ番組との連動や、ライブコマースとは相性がいいですね。アーティストの新曲プロモーションに導入すれば、ダンスをいち早く覚えてもらって話題の拡散が期待できます。また、企業のプレスリリースも“遊べるトリセツ”のような仕組みを同時に発表すれば、より深くブランドの中身や世界観を体験し理解してもらえると思います。
今回、新しいインターフェースの形に3社で取り組ませていただき、我々としてはマーケティングのゲームチェンジを起こす一歩につながったと感謝しています。
最後に今後の期待をひとこといただけますか?
石井
今回は慌ただしい中での実現でしたが、テクノロジーの可能性を改めて感じました。今後もさらにいろいろな技術と、我々が大切にするエンターテインメントの資産を掛け合わせて、さまざまな事業会社とおもしろい取り組みをしていきたいです。
白井
同感です。ローソンではLDHのキャンペーンもたびたび展開しているので、そうした際にさらに進化した企画を皆さんにお届けできればと思います。
株式会社ローソン入社後店舗営業を経て、ITやマーケティング部門配属。デジタルマーケティング、セールスプロモーションを担当。ACCインタラクティブ部門審査員(2015-2017)ACCマーケティング・エフェクティブネス部門審査委員(2018-2019)法政大学イノベーションマネジメント研究センター客員研究員。第10回 Webクリエーション・アウォード「Web人大賞」受賞。日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013準大賞」受賞。
LDHの国内外、リアル・バーチャル、さまざまなプロジェクトの戦略を担当し新たなエンタテインメント創造に取り組むとともに、ライブクリエイティブのスペシャリストが集まるTEAM GENESISのメンバーとして年間300万人動員するLDHのライブのコンセプトやストーリー、メッセージの作成を担当。
映像によるコンサルティング会社「クラフター」を2011年に設立。劇場版オリジナルアニメーションから企業用ハイエンドVRまで幅広く手がけている。『イングレス』『花とアリス殺人事件』などの作品でエグゼクティブプロデューサーを務める。CGアニメーション制作を行う「クラフタースタジオ」、最先端の映像技術を開発する「クラフターエンジン」の代表取締役社長を兼務。博報堂のエグゼクティブクリエイティブディレクターでもあり、国内外の広告賞も多数受賞している。