─博報堂のグローバルビジネスにおけるCMP推進局のミッションを教えてください。
CMP(Customer Marketing Platform)推進局では、国内とグローバル市場の両方において、デジタルマーケティングやDX(Digital Transformation)を推進しています。
デジタル化は世界的な潮流ですが、国ごとに普及しているプラットフォームが違うし、生活者のデジタル利用のあり方も、主要なプレーヤーの顔ぶれも違いますよね。当然ながらクライアントは、こうした国ごとの違いに応じたデジタルマーケティングやDXを展開していく必要がある。
そこで我々は、特にグローバルにおいては、日々進化する各国のデジタル環境をキャッチアップしながら、DXなどの戦略コンサルティングやビジネス開発を手がけると共に、それを実装するためのビジネスプロセス全体を推進する体制を博報堂グループ内に整備していくことをミッションとしています。
──具体的に海外ではどんなデジタル業務を手がけているのですか。
かなり多岐にわたるし、領域は越境しているため、一言では説明しにくいのですが、デジタル業務という点では、日本や各国とほぼ同じ領域と言えます。ただ、各国のインフラや人材、プラットフォームなど環境がそれぞれ異なります。
増えているのは、業務のデジタル化やデータ活用を含めたCX(顧客体験)施策の提案、Eコマース戦略、CRM(顧客関係管理)の運用、オウンドメディアや関連サービスのUX/UI開発、これらの仕組みとデータをより深く活用するためCDP(Customer Data Platform)の構築・運用などが挙げられます。
最近では、海外拠点と共に、クライアントのDX全般に関するコンサルティングであったり、マーケティングのデジタルシフトを加速させるための組織のあり方、オペレーションやフローの見直しについての提案も多く手がけています。
我々は、単にDXやCXといった特定領域について、単体で対応しているわけではありません。まずは「クライアントの課題ありき」として、経営陣のニーズや意向を深く聞き出し、ブランドやサービス、事業や組織の観点から、そこに内在する課題を洗い出します。得意先が実現したいゴールイメージ、既に保有しているリソースや導入ソリューションの見極めが重要で、そして、どの領域であればデジタル技術やデータが実装でき、それはクライアントの課題解決にどうつながるのか、徹底的に検証します。
クライアントのリソースをどのように集約して、博報堂グループとしてどんな体制を整備すべきなのか、実現性やスピード感も踏まえて、総合的に判断し、提案していくわけです。
──DX領域は適切な協業パートナーが必要で、業務の成功を左右すると言っても過言ではありません。その選定などにも関わっているのですか?
DXは導入が目的ではなく、各国現場での運用とビジネス成果がゴールです。実務体制となると現地現物になるケースが多いため、各国の協業パートナーの情報アップデートが重要です。我々も候補企業に直接足を運んだり、現地拠点と一緒にハンズオンで動きます。
つまり、ビジネスが立ち上がるずっと前の段階からクライアントの課題に関わり、デジタル領域における価値創造の設計図をイチから描いていくのが、我々の仕事において、最も本質的で重要な要素だと思います。
──多岐にわたるデジタル業務の中でも、現在特に注力している分野はありますか。
あえて挙げるなら、マーケティングのDXです。マーケティングの重要な役割の一つは、生活者にブランドの価値や体験を提供することですが、コロナ禍で世界中の生活者の価値観や生活スタイルが変わり、企業は新たな生活者接点への対応が求められています。例えば、平日の昼間にリビングルームで過ごす人、それぞれの過ごし方も変わりました。マーケティング観点で言えば、ターゲットとなる人、体験もよりパーソナライズされる必要があります。この流れは、コロナ以降もハイブリッドな形で続いていくため、自ずとマーケティングの仕組みも変える必要があります。
現在の厳しいビジネス環境の中で、多くの企業が重視し始めているのは、セールスに直結しやすいECやD2C、OMOといったコマースの領域。例えばスマホで、好きなインフルエンサーたちが何か商品について投稿しているのを見たら、すぐに自分で情報を検索してECサイトを見つけて、その場でその商品を購入する──といった行動が広く普及していますよね。さらに最近では、ソーシャルメディア自体がコマース機能を搭載し始め、生活者の接点自体のコマース化が広がりを見せ始めています。我々は「コミュニケーションから、コマースのエクスペリエンスへ」と呼んでいるのですが、コロナ禍で巣ごもり経済が拡大するなか、デジタルメディアを通じて、顧客にどんな体験価値を提供してコマースに誘導し、セールスを上げていくかがますます重要になっています。特に私たちのチームでは、単に売りをつくるためだけではなく、各国の生活者の「ショッピングの楽しさや便利さ」を心地よく体験するCX視点やカルチャーを大切にしています。
ただ冒頭でもお話ししたように、海外ではデジタル&データを取り巻く環境も、現地企業のリソースやパートナー企業などの事情も国ごとに違うため、日本の成功事例がそのまま通用するわけではなく、ましてや同じASEAN諸国でも、普及しているSNSや通話アプリなども各国で違ってきます。その国ごとの生活者に合わせたカスタマージャーニーを見立てて、顧客をどう誘導し、どんなコンテンツを体験させるのか。それをクライアントのバリューチェーンにどうつなげていくのか。
足りないリソースがあればその国々で対応できる会社を発掘する必要がある。これら全部の設計と実装が担える企業は海外でもあまりないので、その役割を我々が果たしています。
──海外におけるDXは日本より進んでいるとよく聞きます。その理由は何だと思われますか。
特に成長がめざましいのはアジアですね。先進国と違って旧来のレガシーがないので、固定電話の時代を経験することなく一足飛びにスマートフォンやEコマースが普及する、というように、先端技術が速いスピードで広まりやすいんです。また欧米のDXをお手本にして、有力プラットフォーマーが自国に進出してくる前に、独自のプラットフォームを国内構築して顧客を囲い込むという戦略に積極的に取り組んでいるから、DXが成功しやすいという面もあります。
あとは少子高齢化が進んでいる先進国に比べ、人口動態的に年齢が若いとか、政府が国策としてデジタル投資を成長戦略の中核に据えているなどがあげられます。
なかでも中国は、マーケティングのDX進化が突出して目覚ましいですね。これは、決済のデジタル化が非常に早かったことが大きいと思います。最近になってようやく日本でもスマホ決済が普及し始めましたが、今から8年も前に、すでに中国では主要なネットサービスやSNSアカウントには決済機能が付いていた。そうなると、接触頻度、利用頻度が全然違ってくるんですね。一人ひとりの生活者に直接コミュニケーションできる接点がそこにあり、誰がいつ何を買ったのかというデータが日々蓄積されていく。その結果、次々と新しいサービスが登場し、中国のプラットフォームは劇的なスピードで独自の進化を遂げていったわけです。
最近の例としてよく話すのが、中国の美容整形アプリのサービスです。アプリを通じてオンラインドクターや問診サービスが提供されていて、スマホで撮影した顔写真からAIが骨格や肌の状態などを診断して、その結果をもとに専門コンサルタントがオンラインで約10分間、丁寧なカウンセリングをしてくれて、利用者のニーズに合った医師や病院を紹介してくれます。割引クーポンなどもあり、接客の質や信頼感も高い。そこで処方される商品は、そのままSNSに連動したECサイトで購入可能になっている。ミニプログラム上からそのまま決済ができる。こうしたOMO的なサービスが、投資を集め、わずか数年で広まるような状況です。
我々のチームとしても、こうした最新のサービス動向を常に把握し、研究しておくことは大切で、国ごと・業種ごとに日本やその他の市場でも応用できるようにしています。
──博報堂が海外で手掛けたマーケティングのDX領域の成功事例にはどのようなものがありますか。
例えば、Eコマースの購買やオンライン行動分析から、CDPのデータ基盤構築やマーケティングのオペレーション精度を高めてグロースさせたり、ある消費財メーカーのECサイトをShopifyで立ち上げ、体制構築からサイト運用やUXデザイン、オンライン×オフラインのプロモーションを実施したものもあります。クライアントの事業として成功したので、同じモデルを他のアジアの国へ拡大もしました。現在は、ECサイト上の購買パターンを更に分析し、売れ筋をECで予測し、店舗販売の商品展開に活用したり、新商品のマーケティング戦略に活用するといったトライアルも行っています。
また、EC化率が高い中国では、マーケティングにおけるプラットフォーマーの役割が非常に大きく、彼らの提供する機能を使いこなすことが重要になってきます。対応策として、我々もアリババ特化型の専門チームを組み、こういったプラットフォーム側が次々と出してくる新サービスやデータを理解し、いち早く使いこなせるようにしています。
プラットフォーマー側のサービスも最近、新商品開発の機能提供、ミニプログラムのEC化、専門機能のミニプログラム マーケットプレイス展開、と多岐にわたっているため、我々も新サービスの早い段階から機能を理解し、マーケティングプロセスの変化に対応することも重要な課題となっています。
他にも、ある高価格帯ブランドの場合、オウンドメディアやソーシャルメディアから、見込み客のデータを獲得し、CDPのデータ基盤上で統合。この時は、精度の高いエリアマーケティングやSEOやSNSの高度化、データドリブン型のマーケティング体制の構築をゴールとして、販売店舗ネットワーク側で活用しているセールスフォースや基幹システムとの連携、マーケティング全体の設計も行いました。地域エリアによって売れ筋商品が予想と全く違ったり、見込み度が高いターゲットセグメント程、獲得コストが安いという定説を覆す分析結果が出たりと海外ならではの現場の発見もあります。コロナの時には、バーチャルショールームや販売員の遠隔ビデオセールスツールの開発も行い、現場では非常に喜んでいただけました。
──成長性の高いデジタル領域で、グローバルでは多数の有力な競合企業がひしめく中で、博報堂の強みは?
整理すると、①日々進化するインサイトや購買行動をデータを基に把握する「生活者理解」、②それをサービスとして具体化する生活者接点への「実装力」、③それらを機能させるマーケティングオペレーションの「設計・構築力」……という3つがあると考えています。
たとえ高度なCDPのシステムが設計・構築できたとしても、その国ごとの生活者への深い理解、分析やオペレーションを支える人や体制がなければDXは成功しませんし、概念は提案するけどビジネスには参加しない、という姿勢ではクライアントの信頼は得られない。またグローバルでは、バラバラに存在するリソースをインテグレートする設計・構築力も非常に重要です。
我々は中国がわずか数年のうちに世界最大のEコマース市場の出現するのを目の当たりにしてきたわけですが、今、同じことが、人口規模の大きいアジア各国で起きつつあります。
こうしたアジアのデジタルマーケティングの高度化や進化に、Hakuhodo Digital Networkの英知を結集し、クライアントのビジネス成長に応えていきたいと考えています。
博報堂のフィロソフィーである生活者発想を軸に、デジタルやデータを活用したマーケティング領域の戦略プランニング、マネジメント、事業開発、グローバル展開を担当。IT、エレクトロニクス、EC、食品、トイレタリー、化粧品、自動車業界を中心に、デジタルシフト、データ分析、組織開発など、マーケティングの高度化を支援。中国駐在経験もあり。海外広告賞審査員も行う。
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