秋山
ふしぎデザインという会社をやっている秋山と申します。ついこの間、会社になったばかりで、まだ一人親方段階ではありますが、工業デザインを中心に、それ以外にも試作品を作ったり、空間に置かれる展示品を作ったりしています。
徳田
よろしくお願いします。今日は仕事場からですか?
秋山
はい。ARKEという共同アトリエの一室で、まさにものづくりの作業現場という感じになっています。3DプリンターがあったりCNC切削機があったり、こういう道具を使いこなしながら、日々いろいろな物を作っています。
徳田
たしか、そこの共同アトリエは最初何もない状態からリノベをされたんですよね。今は秋山さんだけじゃなくて、いろんな個人事業主の方がお仕事されてるんですか?
秋山
そうですね。最初は空っぽでしたが、今は20代後半から30代前半のメンバーが集まって、お互い好き勝手にやってる感じです。
徳田
DIYをめちゃくちゃセンス良くされているなあという印象を抱いていたので、オフィスづくりにも活きているなと思いながら見ていました。
秋山
大きな会社でいろんな製品のデザインをするのも楽しかったんですが、自分がだんだん手を動かさなくなっていくことに対しての疑問みたいなものがあって。何とかして作業者でありつつ成長することができないかなと思ったのが、独立した動機でもあります。何か考える時に、できるかぎり手を動かしてやっていきたいなという思いはずっとありますね。
徳田
独立する前は家庭用品メーカーのデザイン室にいらっしゃったんですよね。大企業のインハウスと自分の会社でデザインしていくことに、どういう違いを感じますか?
秋山
インハウスはすごく高度に分業化されているじゃないですか。僕は外側の見た目を考えるので、ボタンのレイアウトとか、文字が見えやすいようにするには、みたいなベタなところから、複数の部品の配置や細かい部分の形状、色はどうするかみたいなところまで深く考えていくわけです。逆に言うと、そういうところ以外は、すごくお膳立てしてもらっていた感じがありましたね。
徳田
エンジニアさんに、ですか?
秋山
エンジニアさんもそうですし、これを何台売らなきゃいけないかみたいな目標を立てる企画の人もそうですよね。自分たちはデザインだけ考えればよいという状態になっていて、贅沢な環境だったなと思います。その代わり、現在はふしぎデザインがどんな仕事をするかは自分で考えるので、行動の自由度は今のほうが高いです。
秋山
前職ではサラリーマンとしてとても充実した生活をさせてもらいつつ、その一方で、DIYでこういう変なプロジェクト(コンセントハウス)をやったりしていました。
徳田
これ、見に行きました!
秋山
本当ですか(笑)。ありがとうございます。
徳田
大阪で制作された作品ですよね。
秋山
そうです。大阪で行われた団地のリノベーションプロジェクトAPartMENTに、僕が当時所属していた「電化美術」というチームを呼んでもらいまして。ファブラボ北加賀屋というものづくり工房と組んで、「電化・家電を作ってる人たちが家を捉え直したらどうなるか」という問い掛けをもとに考えた作品です。コンセントをめちゃめちゃたくさん付けたら面白いんじゃない?という発想から、実際にコンセントをたくさん付けてみました。
徳田
アートプロジェクトでもあり、商業デザインとかプロダクトデザインの領域でもあり。その融合した感じが面白いなと思いました。
秋山
ありがとうございます。この家、今でも実際に住んでいる人がいるはずなんですよ。
徳田
ここにですか?(笑)
秋山
そう、僕もどう住んでいるのか見てみたいんですけどね。他の作品の例では、プロダクトデザインのスキルを生かして作った旅行専用のプリンター「Travellium」があります。
旅行に行ったときに旅先で写真を撮りますよね。それをSNSに投稿すると、このプリンターが勝手に察知してプリントしてくれるようになっています。家に帰ると、ひとつながりの巻物みたいになってお出迎えしてくれますよ、みたいなコンセプトです。
徳田
エモーショナルな味わいがあって、とてもいいですね。
秋山
レシート写真の何とも言えぬやれた感じというか、日が経ったり日焼けしたりすると何が映っているかよくわかんなくなっちゃうんですよね。それが逆に旅の記憶を鮮明に記録するんじゃないかなと思って。自分のデザイナー人生の中で、すごく大きなターニングポイントになった作品です。
徳田
そんな大きな存在の作品なんですね。
秋山
サラリーマンをしていた時は便利な物やきれいな物、美しい物を作るという目標が良いものとしてあったわけです。でもこのプロダクトに表れている良さは、便利さではないですよね。SNSのほうがよほど便利です。でもそういう、便利じゃないとか、写真もカラーでもないしきれいじゃないというような良さもあるんだなということに、すごく実感を持って気付けたというか。
德田
たしかにデザインの世界では見た目の美しさや体験の最適化が重視されていますよね。「それだけでいいんだっけ?」という問いは、とても大事ですね。
秋山
本当に優秀なデザイナーさんはたくさんいるので、少し横道にそれた別のスタディとして、きれいとか便利とかからはちょっと外れた「不思議な価値」をつくっていけないかなと。そんな思いが、「ふしぎデザイン」という社名の背景にあったりします。
徳田
ふしぎデザインの由来を聞こうと思ったら、まさにそういう意味だったんですね。
徳田
ふしぎデザインとして独立されてそれほど日が経っていないと思いますが、すでにいろんなプロジェクトをされているんですよね。
秋山
そうですね、ありがたいことに。たとえば教育系の出版社の、子どもがお風呂で遊ぶためのおもちゃの形と色のコントロールをやらせてもらったりしました。
徳田
かわいいですね、これ。秋山さんが依頼を受けるのは、形がある物がメインですか?
秋山
形ある物が多いですが、ワークショップに関わることもあります。以前に依頼をいただいた件では、バイオテクノロジーの研究者と市民でワークショップを行うということがありました。そのときに、ワークショップを楽しく行うためにわかりやすいモノがあるといいよねという話から、仕掛け絵本を作ったんです。
たとえばこの挿絵、左の絵はバイオテクノロジーに頼った未来で、右の絵は自然との協調と引き換えに文明は衰退する未来をそれぞれ描いたものです。こんな感じで対話を誘発するためのイメージビジュアルを、イシヤマアズサさんというイラストレーターさんと協力してたくさん作りました。
徳田
素敵な取り組みですね。研究者と生活者が集まって何かを考えるというのはオープンイノベーション的な営みだと思いますが、前提知識が異なる中に知の共有をもたらすやり方としてビジュアルを使うというのはとてもわかりやすいですね。その絵本は最終的には本にされたんですか?
秋山
30部だけ作って納品して、出版はしていません。それなのに、「いろんな研究室で使われてますよ」とか「国際会議でスライドに出てました」みたいな話を聞いて、ほんとですか、みたいな(笑)
徳田
それは嬉しいですね。ちなみに、ふしぎデザインのサイトで制作実績を拝見してふと思ったことですが、企画やエンジニアリングはまた別の会社が担当されていたりますよね。そういう協業のやりやすさについて、何かポイントがあったりしますか?
秋山
制作チームの一員として動くときは、リーダーの方がものづくりに理解が深い人だとやりやすいなと思いますね。わかっている分、クオリティチェックも厳しくなるので頑張らないといけないなとも思いますし。徳田さんのような、プロダクトのことをわかっている人が初回だけでも入ってくれるとプロジェクトがスムーズに回っていくと思います。
徳田
なるほど。たしかにプロジェクトをマネジメントする立場の人間がものづくりを広くわかっているに越したことはないですよね。一方、そういった人材はそう多くはない気がします。少なくとも、企画サイドと制作サイド、もしくはそれらとクライアントの間に立って翻訳するようなスキルを持っていることが重要なのかもしれませんね。
徳田
「ワークショップ」で思い出しましたが、お仕事の傍ら、京都芸術大学で講師もされていますよね。コロナ禍の中でどうやろうかという悩みもあると思うんですが、授業の組み立てはどのようにされていますか?オンラインでものづくりを教えるのは結構難しい気がしますが。
秋山
はい、京都芸術大学の情報デザイン学科クロステックデザインコースで非常勤講師をしていまして、担当している授業では主にプロトタイピング(試作)を扱っています。たとえば1年生に出題したのが「ダーティープロトタイピング」。徳田さんはご存知だと思いますが、そのへんにある材料を使って自分の思っているアイデアをとにかく何か形にしてみて、大きさや手に持った感じ、ユーザビリティを検証しましょうというやり口です。
徳田
「ダーティー」というのは手荒いとかそういう意味ですよね。荒くてもスピーディーにまずは作ってみて、そこからボリューム感などを検討しようというやり方ですよね。
秋山
そうそう。1年生向けにそれをやって、「段ボールで自分が好きなゲームをもっと面白くするコントローラーを作ってください」というお題を出しました。1週間くらい手を動かしてもらいながら、発想を形にするひとつのスキルを学んでもらいました。
ただ今はほとんどリモートなので、動画を作って、それを配信する方法で授業をしています。このときは動画を撮り慣れてなかったので、完全に目が泳いでますけど。
秋山
ほかには、考えるときや伝えるときには口で言うより物があったほうがいいよねといった話から、CADの簡単な操作まで広く教えています。ソフトの使い方というよりは、プロトタイピングという技術を身に付けるためにはこういうことをやったらいいよ、ということを動画を通して伝えています。
徳田
学生たちは動画を見てから、実際に手を動かしてプロトタイプを作っているんですか?
秋山
そうです。最終的にはかなり見ごたえがあるものが出てきました。これは2年生の課題の優秀作品ですが、すごくレベルが高いんですよ。
徳田
すごいですね。
秋山
工業デザインで作られる形って大体四角と丸でできていて、段ボールでほぼできる形なんですよね。逆に言うと、段ボールで作れないような複雑な形は、無理やり段ボールで模型にする必要がないというか。それも乗り越えてすごいのを作ってくる学生もいますが。
徳田
手先の器用さも関係してくるんですかね。
秋山
この課題に関しては、かなり関係していましたね。ただこれは2年生向けの割とまじめなプロトタイピングがテーマだったので、1年生向けのダーティープロトタイピングは、「手先が器用選手権」ではありません。
実は、僕は社会人にこそ、このスキルを身につけてもらえたらなと思っていまして。いつもアイデアを考えている企画の人が、自分の企画を模型にしてプレゼンできるようになるわけですよね。社会人向けのプロトタイピング実習みたいなのをやりたいなと思っているので、そういう機会があったら呼んでください。
徳田
いいですね!ワークショップを通してプロトタイピングの有用性を体験するプログラムは組めそうですし、ニーズも大きい気がします。今日の秋山さんのお話を伺い、空間設計や知育玩具、IoTデバイス、バイオテクノロジーなど様々な領域のモノを実装したり視覚化する力が、色んな人を巻き込む原動力になっている気がしました。僕もぜひ巻き込まれてみたいです。
秋山
ありがとうございます。素晴らしいです!
徳田
商品開発やサービス開発などのプロジェクトでもご一緒したいですね。利便性とは異なる価値をつくることを意識されているその視点や、ビジュアライズ・プロトタイピングのスキルは企業の事業開発を大きく進めるキーになると思います。外部知を積極的に取り入れることは、「新結合」という本来的意味でのイノベーションの前提です。ぜひ一緒にできたらなと思いますし、この記事を読んでくださった方が「ぜひうちの会社でやってみてよ」となったら嬉しいですね(笑)。今日はお時間がきたので、ここまでとさせていただきます。秋山さん、ありがとうございました!
ふしぎデザイン株式会社代表。2011年多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業後、家庭用品メーカーで調理家電/生活用品のデザインに従事。2017年に独立しふしぎデザインを立ち上げ、2020年に法人化。「デザインを作り、考え、伝えることで、ふしぎな価値を生み出す」というステートメントのもと、心を動かし共感を生むデザイン・プロトタイピングを行っている。2019年より京都芸術大学 クロステックデザインコースで非常勤講師を務める。 Webサイト:http://fushigidesign.com/
パソコン周辺機器メーカーでプロダクトデザイナーとして商品企画・開発業務に従事した後、博報堂に入社。
現在は、広告やモノづくりの領域を超えてクライアント企業への新規事業・サービス開発やイノベーション支援を行う。
過去にGOOD DESIGN AWARDやオープンイノベーションを中心とした様々なデザインプロジェクトで受賞多数。