※株式会社トモノカイは、東大生国内最多登録数の「東大家庭教師友の会」の運営をはじめ、現役大学生約25万人が登録している大学生向け情報メディア「t-news」の運営や、その他塾講師の派遣など教育関係の事業を幅広く展開しています。
近年になって「オタク」という言葉の捉えられ方や印象は大きく変わり、自分をオタクだと言う人はとても増えました。
若者達からは自分が思い入れを持ち、応援する対象を「推し」と呼ぶ表現もすっかり浸透し、そのような「推し」を持つことの価値を感じ、積極的に持とうとする様子も見られます。
若者研究所では、こうした若者達の変化は決して小さなものではなく、時代の大きな潮流に関わるとともに、令和の時代を豊かに生き抜くうえでの重要なヒントを孕んでいるのではないか?という予感を持ってこの企画を行いました。
今回キーワードとしたのは、「偏愛」。
世間一般における流行などとは関係なく、自分の内側から感じられる気持ちとして、ある物や事柄などに対して特別に強い興味や思い入れ、愛情などを持つ「偏愛」は、オタクや推しといった概念の根幹にあるものです。
特に若い世代で、この「偏愛」を持つ人、持ちたいと思う人が増えているようにも感じます。
実際に、トモノカイのアンケートで10段階での「偏愛度」を問うと、357名の大学生うち81名の回答者が、最も高い「10(人と比べて異常なくらい偏愛している)」と回答しました。
そこで、今回の座談会では、実際に興味深い「偏愛」を持っている若者の皆さんと一緒に、
それぞれの偏愛を共有し話し合うことを通じて、偏愛はどのようにして生まれるものなのか?
偏愛を持つことは人生にどんなことをもたらすのか?といったことを見つめていきました。
当日はオンラインで、トモノカイに登録されている学生の中から、「自分は人よりも“偏愛”しているものがある」と答えた6名の大学生の方と若者研究所メンバー4名、トモノカイメンバー3名と共にワークショップを行い、学生の方にそれぞれの“偏愛”について語っていただきました。
今回参加してくださったのは下記の6名です。
・高校生活3年間で読んだ小説は1000冊以上に及ぶ「”物語”偏愛大学生」
・「愛しさ余って憎さに転じてきた」という「“特撮”偏愛大学生」
・20匹を超える小動物のために部屋の3分の2を捧げた「”小動物”偏愛大学生」
・作曲家達の相関関係を独自に曼荼羅化してくれた「”ロシアロマン派音楽”偏愛大学生」
・歴史・地形・財政まで網羅する「”多摩地域”偏愛大学生」
・暇があれば野鳥を探して歩きまわり、鳥の行動から時間を感じる「”鳥”偏愛大学生」
最初に注目したのが”偏愛”の対象物です。
先にも記述した通り、今回参加してくださった偏愛大学生の6名は皆さん様々な対象を偏愛されていました。
座談会に参加されていない方たちへのアンケートでも、 その対象としてアイドルやキャラクターなど“オタク”や“推し”という文脈でよく使われがちなジャンルだけではなく、歴史上の人物や動物、さらには筋肉や特定の食べ物…というように、非常に多岐にわたる“偏愛”の対象物があがりました。
“偏愛”は根本概念だからこそ、対象物も幅広く自由なのです。
また、“偏愛“という言葉は使用されるシーンにも特徴があるように感じます。
“推し”という言葉は、趣味を語るよりも気軽に言いやすくて、コミュニケーションのきっかけになったり、自分のキャラクターづけになる面があったり、若者の暮らしの中で有用になっている一面を持ちますが、今回集まったメンバーが語る “偏愛”からは、そうした価値や効能を超えた凄みのようなものが感じられました。
”推し”という言葉は気軽に言いやすい一方で、コミュニケーションや自己表現の1つとなる分、周囲の目や関係性を気にしながら使用されることも多い気がします。
一方で、“推し”の根幹概念である”偏愛”は、周囲の人と比較することなく、自分の思いのまま自由に語れる言葉のように感じました。(だからこそ、対象物もより自由になるのかもしれません。)
実際に参加してくれた大学生の方に“偏愛”との出会いを聞いてみたところ、育った環境の影響は受けながらも、周囲の目を気にすることなく、自分の思いのままに“偏愛”を育んでいった様子が伺えました。
たとえば、
・小動物偏愛大学生さんは家に10匹以上犬がいる環境で育つ中でたまたま小動物が気になり始めた。
・特撮偏愛大学生さんは幼少期に親が見せてくれたヒーロー番組にハマっていった。
などなど….
育った環境に由来するエピソードも多くあげられましたが、どれも単純に影響を受けているわけではなく、様々なものとの出会いの中からビビッと来る運命的な感情に従うことで“偏愛”が芽生えたように感じました。
SNS等の普及で、より周囲の情報や視線に振り回されがちな時代になったからこそ、このように自分の身体の内側から湧き出るようにして生まれる“偏愛”により大きな意味があるのかもしれません。
では、若者たちの“偏愛”の根本には、どのような感情があるのでしょうか?
具体的な体験を伺っていきました。
座談会では、参加学生の方に“自身の偏愛しているもの”への思いや過ごし方などを、10分間語っていただく時間を作りました。
10分間では語りきれない思いをひしと感じさせてもらった中で、彼らの“偏愛”の根本が見えてきました。
それは、“知りたいと思うこと”“その探求心が止まらないこと”です。
たとえば、ロシアロマン派音楽偏愛大学生さんは、掘れば掘るほど新事実が明らかになる音楽家同士の人間関係や、美術や政治との思わぬ関わりに魅力を感じていたり、多摩地域偏愛大学生さんは、疑問を解明したくて図書館で市史まで借りていたり…。鳥偏愛大学生さんは、鳥の仕草から意味や心を汲み取って、想像するだけでも楽しいとも語っていました。
好きになったらとにかく、調べたくなる。もっと知りたくなる。そして、知るともっと好きになる。さらには、知らないことを想像してみたりする。“偏愛”は“知る”ことを中心に、営まれ深まっていくのです。
こういった探求心は、現代の情報化社会が後押ししている一面もあるようです。インターネットを通してあらゆる情報を即座に検索できる時代だからこそ、思い浮かぶ疑問を探り、関連する事柄に興味の枠を広げ、そうした情報の海のなかから、思わぬ発見や自分なりの考え、新たな問いを見出していく。会議のなかでは、一人の学生が語った「偏愛には終わりがない」という言葉に賛同が集まりましたが、デジタルネイティブと言われる若者たちの偏愛はそうしてどこまでも深まっていくのかもしれません。
インターネット社会の中で常に周囲の情報や目線に振り回されてしまう時代だからこそ、身体の内側から湧き出るようにして生まれる自分だけの”偏愛”に大きな意味が見出されている一方で、情報に溢れる時代だからこそ、ひとたび生まれた”偏愛”はどこまでも加速し、終わりなく深まっていく。そのような様子が見えてきました。
それでは次回は、探求心とともにある“偏愛”と、若者たちがどう過ごしているのか?これからどう“偏愛”と過ごしていきたいのか?という議論から見えてきた発見をご紹介したいと思います。
執筆
若者研研究員 瀧﨑 絵里香
執筆協力
若者研学生研究員 上迫 凛香
※肩書は当時のものです
株式会社トモノカイ
1992年に東京大学出身者を母体とした学生団体からスタート、2000年に株式会社として設立。
「人と社会を豊かにする『教育』の原点にもどり、『教育』の再設計をしたい。関わるすべての人と“共に”未来の教育を創り、 学ぶ人・学びを支援する人と“伴に”走る会社でありたい」。そんな想いから、「東大家庭教師友の会」を起源に、教育に関わる様々な事業を展開。
現在では、東大生国内最多登録数の「東大家庭教師友の会」/現役大学生約25万人が登録している大学生向け情報メディア「t-news」/国内最大の塾講師求人サイト「塾講師ステーション」の運営の他にも、学校と連携し中高生の学習をサポートする教育プログラムや、「探究」教材の制作販売、中高生を対象に外国人留学生人材によるグローバル教育支援等を行っています。