新型コロナウイルスの影響で、在宅テレワークや、ネット通販、オンラインミーティングが定着するなど、デジタルを活用したさまざまなサービスが私たちの生活の隅々に入り込む「オールデジタル化」が急速に進んでいます。生活者インターフェース市場は、予想を上回る速さで広がっています。こうした変化は、企業にも大きな影響を与え、マーケティング活動そのものが大きく変化しようとしています。企業と生活者の接点は、テレビや店頭、チラシといった、従来からものに加え、 ECやアプリ、オウンドメディア、さらにはデジタル化する様々なモノにまで大きく広がっています。
企業が生活者と様々な接点で常時接続することで、メディア接触データやサイトの閲覧データ、購買履歴など、生活者の様々な行動データ、すなわち顧客データを得ています。この顧客データをもとに、それぞれのファネルにおいてPDCAを回し、個別最適化を進めています。さらにそうした顧客データを貯めていくことで、認知から購買、リピート、ファン化までを一気通貫で運用するといった取り組みが始まっています。
一方、「効率化や合理化の視点からデジタル化を進めた結果、たしかに効率は改善したけど、顧客からの新たな信頼感や好意といったものが築けていない」、「CDPツールを導入したが、自社のデータだけしかない状況では、縮小均衡に陥ってしまう」、「機能最適のマーケティングに限界を感じている。新しい顧客の獲得や、需要の掘り起こしにつながるようなマーケティングが必要だ」など、デジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んだ結果、新たな課題が見つかったという声も聞くようになりました。
このような中、具体的に我々にご相談いただくのは、「機能や効率を超えて、顧客との新しい絆を生み、市場や価値の創造につながるマーケティングをしたい」、「認知、興味、検討からCRMまで、一気通貫で顧客にアプローチするマーケティングを行いたい」といった、いわゆる、「フルファネル型のマーケティング」を求める声が高まっていると感じています。
企業のマーケティング活動がフルファネル型に変わっていくのなら、対応する私たちの体制もまた、新しいものにしていく必要があります。これまでのように、マーケティングDXを博報堂、メディアDXを博報堂DYメディアパ-トナーズ(MP)、デジタルフロントライン機能をデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)が、それぞれ個別に担うという体制ではなく、「ひとつながり」の戦略組織で一気通貫に提供できる体制にする必要がありました。
HAKUHODO DX_UNITEDは、こうした考えのもとに生まれた横断組織です。マーケティングDXとメディアDXを両輪に、価値創造のDXを加速させていくための組織としてスタートさせています。我々のミッションは、すべてのメディア、インターフェースを統合して、生活者にとって魅力的なエクスペリエンス(体験)を提供する。それと同時にエクスペリエンスに対するレスポンスデータを活用して、次の新しいエクスペリエンスを生み出す、というこの両輪を回すことで、新たなマーケットをデザインし、中長期に渡る企業・社会・メディア・生活者との関係性を創り出し“価値創造型のDX”を推進していくことです。この両輪が大切で、今まで以上に博報堂、MP、DACがひとつながりで推進していけば、単なる効率化だけでない生活者にとって、クライアントにとって価値を作り出すDXを推進できると考えています。
価値創造型のDX推進に必要な組織として、フルファネル型のマーケティングの実践に求められる8つの専門機能を集結させています。
「統合プロデュース」…高度化するDX業務に対応し、以下の7つの専門機能を統合的にプロデュースするのが役割です。
「マーケティングテクノロジー」…マーケティングシステムや、CDPなどのツールを、各企業に最適な形で設計し運用します。
「データマーケティング」…クライアントのマーケティングを理解し、必要なデータを見極め、そのデータをもとに、広告からCRMまで高度な全体戦略を策定し、実行する機能です。
「エクスペリエンスデザイン」…デジタルを起点に生活者の心を動かす体験を設計します。今まで培ってきたクリエイティビティを活かした博報堂DYグループ独自の機能です。
「テクニカルディレクション」マーケティング戦略やクリエイティブアイデアをテクノロジーを活用し実現・実装する機能です。
「統合メディアプラニング」…メディアデータを用いて、科学的なアプローチでメディアプランを設計。デジタルメディアだけでなく、マスメディアも統合的に活用します。
「プラットフォーマー連携」…プラットフォーマーと連携し、その機能とデータを高度に活用します。
「デジタル広告運用コンサル」…デジタル広告に関する豊富な知識と経験をもとに、広告運用をサポートします。
この8つの専門機能で、生活者の体験をデザインし、単なる効率型のDXではなく、市場創造や価値創造につながるDXを推進していきます。
この組織は博報堂の5部門、博報堂とMPにまたがる2部門、DACの1部門の約700人のスタッフで構成されています。さらに組織としてのケイパビリティの向上を図るために、エンジニアやデータサイエンティストをはじめとしたスペシャリストを、今後3年間で約400名採用する予定です。また、現在 HAKUHODO DX_UNITED に所属していない社員についても、3社横断の1000人規模で、DX推進人材として育成していく予定です。
この組織の象徴となるロゴもつくっています。光の三原色Brightning RGBがコンセプトです。博報堂、MP、DACがひとつながりとなり、それぞれの色を掛け合わせていくことで、社会、生活者、クライアント、メディアに彩りを与え、進んでいくべき未来を浮かびあがらせるような存在を目指していく、そんな願いをこめています。
HAKUHODO DX_UNITEDでは、DXを進めている企業それぞれに適したマーケティング施策を提案していきます。たとえば、自動車メーカーには、ディーラーというオフラインの顧客との接点があり、すでに顧客データを保有している可能性が高いので、CDPの構築やオフラインの接点のデジタル化などを提案できます。消費財のメーカーなら、プラットフォーマーと連携して顧客データをつくり、新たな需要の発見につなげるといったことが考えられます。ゲーム会社では顧客の獲得効率を上げることが重要ですから、それに適したデジタルソリューションを提案することになるでしょう。
これまで博報堂・MP・DACが蓄積してきたマーケティングの知見やノウハウを新しい組織に改めて集結させ、適切なソリューションを提供するために、その活用や効果的な掛け合わせにより、効果を最大化していきたいと考えています。
私たちがサポートさせていただくのは、特定の業種や企業ではなく、DXに取り組んでいる、全ての企業です。「自社サービスのあり方を考えてほしい」「プラットフォーマーのデータと自社データ掛け合わせて、新しい需要を創造したい」といった、従来の組織形態では対応できなかった相談を、統合プロデューサーが受け取り、残りの7つの専門機能を連携させ、ひとつながりで解決にあたります。
企業のDX推進に確実に寄与することができ、市場創造にも貢献する能力を持った組織。それがHAKUHODO DX_UNITEDの目指す姿であり、オールデジタル時代の新しいマーケティングをリードし、次世代のマーケティングをつくっていくことを大きな目標に掲げています。しかしながら、次世代のマーケティングは、まだまだ遠くにあるのが現状です。広告とCRMの統合でさえも、広告とCRMの両方が最適化するようなCDPを構築できているのは、トップクラスのDXを実践している一握りの企業にとどまっているといっても過言ではありません。我々HAKUHODO DX_UNITEDはテクノロジーとクリエイティビティで、効率化にとどまらず、生活者にとって魅力的なエクスペリエンスを提供することで均質化しない、そしてエクスペリエンスだけでなく、そこで得られるデータを活用し、システム化し、生活者との中長期的な関係を構築する限界がこないDXを追求していきたいと考えています。
1989年株式会社博報堂入社。生活者データベースの構築、社会テーマ・メディアに関する研究、マーケティング・テクノロジー開発を担当。博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター室長、博報堂研究開発局長を経て、2020年4月博報堂DYホールディングス執行役員、博報堂執行役員。2021年4月より現職。