──MDコンサルティング局とはどういう組織なのでしょうか。
𠮷田
これまでの博報堂の主なビジネスは、マーケティングコミュニケーションでした。企業と生活者とのタッチポイントであるデジタル含むメディアで、質の高い広告クリエイティブを展開していくこと。それが主要な役割でした。
しかし、IoTや5Gといったテクノロジーによって、全てのモノがつながり、生活の新たなインターフェースになろうとしています。そこに生まれる新しい市場を、博報堂は「生活者インターフェース市場」と呼んでいて、その市場で新しい事業やサービスを創出しようとしているクライアント企業をサポートすること、あるいは自らが複数の企業をまきこんで新しいサービスを共創していくことに博報堂は取り組んでいます。その取り組みを実現させるための一つとして立ちあがったのがMDコンサルティング局で、僕たちは複数あるMDコンサルティング局の一つに所属しています。
──博報堂では、2019年から営業職を「BD(ビジネスデザイン)職」と呼んでいます。「クライアントのビジネスをクライアントともにデザインしていく職種」という意味がそこには込められているわけですが、MDコンサルティング局にはそのBD職のメンバーが多数含まれています。それにはどのような理由があったのでしょうか。
𠮷田
新しい事業やサービスを立ち上げるには、「企業の課題を解決する」という視点が欠かせません。BDの最大の強みは、クライアントと直に接することによって、クライアントの課題を的確に把握していることです。
しかし、企業の課題を把握しているだけでは、解決策を生み出すことはできません。そこで、ストラテジックプラニング職(ストプラ)やクリエイティブ職といった専門職と、BDと一緒の部門に所属することで、早期にさまざまな課題解決策や事業アイデアを創出させ、社会実装や事業運用、そして収益にまで統合的に結びつけるための仕組みをつくっています。
──MDコンサルティング局発足から1年余り、これまでにどういった活動を進めてきたのでしょうか。
𠮷田
この1年間、さまざまなクライアント企業に対し、ビジネスモデルを「商品売り切り型」から「生活者と継続的に繋がるサービス型」に変革させるサービスデザイン提案や、生活者からもクライアント企業からも関心が高いテーマをプラットフォームビジネスにする提案を行ってきました。またその中で、僕たちのMDコンサルティング局発のオリジナルプランニングツールも開発しました。「Meaningful Brand Loop(ミーニングフル・ブランド・ループ)」というメソッドで、社会課題解決と事業を両輪で回していくことに悩んでいるクライアントのビジネス支援を始めています。クライアントと直接向き合っている僕たちならではの視点を取り入れた方法論です。
現代において、社会課題と無縁の企業はないと思います。パーパスを掲げる企業のほとんどが、その中に「社会課題の解決」「社会貢献」といった視点を入れています。しかし、自社の事業成長と社会課題解決を結びつけることは簡単ではありません。
佐藤
パーパスということが盛んに言われるようになった一方で、「パーパスウォッシュ」という現象も起きています。社会貢献を重視する姿勢を示しながら、実際には行動をしないことを「ブルーウォッシュ」、同様に、環境問題への取り組みが大切だと言いながら何もしないことを「グリーンウォッシュ」と言いますよね。同じように、パーパスを定めながら、それが企業活動に反映されていない状態がパーパスウォッシュです。
パーパスがどれだけ素晴らしくても、それがアクションにつながり、最終的には事業の成長につながらなければ意味はありません。パーパスと事業戦略は、いわば「ひと筆書き」で描かれるべきものなのです。
横山
パーパスをつくったはいいが、それがなかなか社内に浸透しないという悩みを持つ企業も少なくありません。パーパスに血を通わせるためには、それを事業や商品、サービスの中に実装していくことが欠かせません。パーパスに基づいた事業活動が展開されれば、クライアントが社会に与えるインパクトを底上げすることに繋がります。
𠮷田
こうした視点でクライアントを支援していくときに重要なのは、クライアントの課題に本当に寄り沿った内容になっているか、そして、スピード感をもって支援できるかという点です。クライアントのフロントラインにいる僕たちだからこそ、できることがあると思っています。
佐藤
僕はBDで15年間営業の仕事をしてきました。クライアントの課題解決の最前線にいるわけですが、BDには「クライアントのことを知りすぎている」という弱点もあると感じています。知りすぎているがゆえに、クライアントの課題や現状を客観的に見られなくなる。そんなケースがしばしばあります。
MDコンサルティング局は、そのような問題をクリアする仕組みをもった組織です。ストプラやクリエイティブなどの専門家が同じ組織内にいるので、BDはその人たちの考え方やスキルを学んで視野を広げることができます。職能の異なる人たちが身近にいることで、クライアントの課題をより客観的に、かつ解決策までを視野に入れて捉えることができるようになるわけです。
横山
実際僕たちのチームがこの取り組みを進めるときも、それぞれ自分の領域に閉じない視野で、ディスカッションをし、汗をかくようなチームワークを実践しています。僕ならばストプラ、佐藤さんや吉田さんはBD的なコアがありつつ、極めて融合的なプロフェッショナル、個性が融合することで、かなり強力なチームになっている実感があります。
佐藤
例えば「ドラゴンボール」では、悟空とベジータはライバル同士ですが、フリーザと対決するときは協力し合いますよね。それと同じように、ある課題に対してそれぞれの職能のプロフェッショナルたちが手を組むことで、力が何倍にもなる。そんなふうに僕は捉えています。もちろん、BDとストプラ、クリエイティブはライバルではありませんが(笑)。
𠮷田
あるいは、「アベンジャーズ」のような組織と言ってもいいかもしれません。別々の作品の主役が集まって、大きな力を発揮する。そんなイメージです。
佐藤
さらに言えば、「一人アベンジャーズ」をやることもできると思います。BDの人間が戦略づくりを担当してもいいし、クリエイティブアイデアを出してもいい。逆に、ストプラやクリエイティブがBDとして動いてもいい。言ってみれば「既存の職能定義から解放する」ということです。これまで、個人単位でそのようなマルチな働き方をしてきた人、できた人はいると思いますが、それを組織全体の取り組みとするのは、博報堂の中でも珍しいことではないでしょうか。
──最後に、今後の見通しをお聞かせください。
横山
これまでの1年間は、言ってみれば田畑を耕す時期でした。そこに実ったものを社会に広く提供していくのがこれからの1年だと考えています。そこから、博報堂ならではの新しいビジネスのつくり方の方法を見出していきたいですよね。
佐藤
MDコンサルティング局はクライアントに最も近いフロントラインで生まれた組織です。どんな職種であれ、最前列で活躍したいという思いがある人がどんどん集まって、組織のパワーをもっと上げていきたいですね。それによってクライアントや世の中に提供できる価値に磨きをかけていきたいと思っています。
𠮷田
マーケティングコミュニケーションだけでは企業の課題を解決できなくなっている時代です。博報堂が得意としてきたマーケティングコミュニケーションに加えて、そのクリエイティビティや生活者発想、さらに培ってきたネットワークを活用してクライアントの事業をサポートし、我々が事業自体をプロデュースしていく、ということをもう一つのビジネスの柱にできるよう、成功事例をたくさんつくっていきたいですね。