向後 健
博報堂デジタルイニシアティブ
パフォーマンスデザイン本部 本部長
──博報堂デジタルイニシアティブ(以下、HDI)とはどのような組織なのですか。
向後
博報堂、博報堂DYメディアパートナーズ、DACのグループ3社を横断する戦略組織で、400名弱のデジタル領域のプロフェッショナルが集まっています。平均年齢は20代後半、男女比は半々くらいです。
組織のカルチャーの面で見ると、博報堂DYグループの「粒ぞろいより粒ちがい」という文化が反映されていて、一人ひとりの個性を重んじ、現場の判断を重視するといった特徴があります。ボトムアップの文化と言ってもいいかもしれません。
それに加えて、デジタルビジネスを担う組織らしいベンチャー的な気質もあります。年功序列の習慣はなく、力があれば若手でも重要なポジションに登用されるし、能力に見合った処遇も得られます。もちろん、そのぶん実力勝負の組織とも言えます。
──HDIの職種構成についてもお聞かせください。
向後
デジタルアカウントディレクター、私が統括責任をしているパフォーマンスメディアコンサルタント、それからビジネスプロセスリエンジニアリング。主にその3つですね。
デジタルアカウントディレクターの仕事は、デジタルメディア領域の業務全体を指揮することです。デジタルのゼネラリストであり、プロジェクトマネージャー的な立場と言ってもいいかもしれません。デジタル専業広告会社の営業担当に近い仕事ですが、大きく異なるのは、デジタルの「戦術」だけではなく、マスなどの他領域を含むトータルな「戦略」を踏まえながら、デジタル領域での動き方を考えていく点です。逆にデジタルの視点からマーケティングの全体戦略を提案するケースもあります。
一方のパフォーマンスメディアコンサルタントは、プラットフォームのスペシャリストで、各プラットフォームの運用戦略立案、課題分析、施策PDCAの実行を担当する専門職です。役割は、広告運用の「体系化」と「高度化」の大きく2つに分けられます。デジタル領域は情報のアップデートが速いので、そのつど業務フローを整備し、運用方法を調整したり、ナレッジを集約していく必要があります。それがすなわち「体系化」です。一方、そうやってアップデートされた仕組みを土台として、新しい運用のテクニックや施策を生み出したりしていくのが「高度化」です。
デジタルアカウントディレクターとパフォーマンスメディアコンサルタントは、一つの案件で対になって動くことがほとんどです。案件に関わる人数はケースバイケースで、規模の大きな案件では40人近いデジタルアカウントディレクターが関わることもあります。一方、デジタルアカウントディレクターは1人でパフォーマンスメディアコンサルタントは複数といったケースもあります。
もう一つのビジネスプロセスリエンジニアリングは、クライアントの課題を把握しながら、業務フローやシステムの再構築を社内で推進する仕事です。
──デジタルアカウントディレクターやパフォーマンスメディアコンサルタントには、具体的にどのような素養が求められるのでしょうか。
向後
先ほど触れたように、デジタルの情報はアップデートが非常に速いので、最新の知識をもっていること自体が武器になります。知識を身に着けることは、努力すれば誰でもできるはずです。その姿勢がまずは大切です。
もう一つ、より本質的な能力として、分析力、論理的に考える力、アウトプットを出す力なども求められます。情報アップデートに左右されない普遍的能力と言ってもいいかもしれません。変化をキャッチアップする努力をしながら、どのような環境でも発揮できるポータブルスキルを磨いていくこと。その2つが大事だと思います。
──HDIを構成する3社の立ち位置の違いとはどのようなものですか。
向後
DXの視点で見ると、博報堂が最も領域が広く、クリエイティブなども含めたマーケティング全体のDXを目指しています。博報堂DYメディアパートナーズが主に担うのはメディアDXで、ここには例えば「テレビ×デジタル」といった取り組みが含まれます。DACはデジタルに軸足を置いた会社で、グループ内でデジタル領域の専門性が最も高いセクションと言えます。
もっとも、博報堂デジタルイニシアティブ自体は、3社が完全融合した組織であり、会社間の垣根はほとんどありません。博報堂DYグループ自体、人材の流動性が高く、出向や転籍も多いので、仕事の中で本属の違いを意識することはあまりないですね。
──HDIにおける仕事の流れを教えてください。
向後
博報堂の営業担当がクライアントとコミュニケーションをする中で、デジタルに関連する課題が出てきた場合は僕たちに声がかかり、クライアントのヒアリングに参加させていただきます。そこからはデジタル領域に関するすべての責任を僕たちがもって、戦術を練り上げていきます。文字通り、デジタル領域の「イニシアティブ」を握って改題解決を目指していくわけです。
──博報堂DYグループにはキャリア採用で入社したそうですね。これまでの歩みや転職のきっかけについてお聞かせください。
向後
2007年に新卒でデジタル専業代理店に入社して、最初はプラットフォームの広告運用などを担当しました。その後志願して営業の部署に移り、4年ほど営業の仕事をしてから、半年くらい事業開発の仕事も経験しました。
博報堂DYメディアパートナーズに転職したのは2013年です。デジタル広告の仕事は、単体ではなかなか収益が上がらない構造になっています。ほかの領域の収益源を組み合わせて、最適なポートフォリオをつくることで初めて収益向上につなげることができます。そのようなモデルをつくるには、大手広告会社に入る必要があると考え転職しました。
──今後、HDIの一員として、博報堂DYグループをどう牽引していきたいとお考えですか。
向後
博報堂DYグループは「AaaS(アース=アドバイタジング・アズ・ア・サービス)」という競争戦略を掲げています。すべてのデータを統合し、独自のシステムで広告やマーケティングの運用をコンサルティングしていく戦略です。これは、これまでデジタル領域で取り組んできた運用型サービスをあらゆる領域に拡大した考え方と言えます。
僕たちがやるべきことは、デジタル領域で培った知見、経験をAaaSの戦略に基づいてグループ全体に広げていくことです。その結果、一方のデジタル領域のビジネスモデルも変わり、新しい事業やソリューションに挑戦する機会が生まれ、デジタルの世界で働く人たちがもっと幸せになれる──。そんなビジョンを描いています。
──当初の志が果たせるということですね。AaaSがもたらすクライアントメリットとはどのようなものでしょうか。
向後
データを活用して、広告やマーケティングの精度が上げられること。コスト効率が大きく改善すること。マス、デジタルといった既存の領域にとらわれずに、博報堂DYグループのあらゆるリソースをお使いいただけること。それらがクライアントの皆さんにご提供できる大きなメリットだと考えています。
──最後に、クライアントのデジタル戦略支援にかける意気込みをお聞かせください。
向後
現在多くの企業が抱えている課題はDX(デジタルトランスフォーメーション)ですが、クライアントの規模によってDX支援の方向は異なると考えています。大企業ではすでにDXがある程度進んでいるケースも多いので、データを活用したコンサルティングサービスをご提供し、より高度なDXを実現するお手伝いするのが僕たちの役割だと考えています。
一方、中小規模のクライアントの中には、リソースの問題などもあってDXがなかなか進まないというお悩みを抱えていらっしゃる企業も少なくありません。その場合は、まずシステム領域の改善や構築をお手伝いさせていただき、そこからデジタル施策をともに考えていくという道筋がありえます。
DXに限らず、クライアントの規模、業種・業態、課題のタイプなどに応じて、デジタル領域のあらゆるご相談事に対応させていただくのが僕たちのミッションです。デジタルのプロフェッショナルとして、クライアントに伴走してビジネスの成長をともに目指していきたい。そう考えています。
2007年新卒で専業代理店に入社。デジタルアカウントディレクター、パフォーマンスメディアコンサルタント双方を経験。2013年より博報堂DYグループに転職。博報堂DYメディアパートナーズ統合アカウントプロデュース局部長を経て、2021年より現職のDAC博報堂デジタルイニシアティブ統括パフォーマンスデザイン本部へ出向。