博報堂生活総合研究所 上席研究員 内濱大輔
新型コロナウイルス禍を経て、オンラインサービスの生活への浸透が一気に進んだことは疑いの余地がないだろう。博報堂生活総合研究所が隔年実施している「生活定点」調査(首都圏・阪神圏の20~69歳。最新は2020年6~7月実施)によれば、2018~2020年の2年間でオンラインショッピングの利用率は53.9%から66.6%へと拡大し、有職者でみると在宅勤務は3.3%から24.9%へと約7倍に増えた。ビデオ通話の利用率も15.0%から46.0%になっている。
このほかにも、三密を避けるためにオンラインの結婚式や葬儀が行われていることを耳にした方も多いだろう。これら現状ではまだ萌芽(ほうが)でしかないことを含めた様々な事柄について、生活者は今後どうしたいのか。2021年3月の調査(三大都市圏の20~69歳)で、「リアル空間の方がよい」「オンライン上の方がよい」「状況に応じて両者を使い分ける方がよい」の3択で答えてもらった。結果は「結婚式」はリアル派58.7%、オンライン派10.9%、使い分け派30.5%となった。「葬式・法事」についても同じような数値だ。
私は使い分け派が3割を占めた点に意外さを感じた。それは冠婚葬祭というマナーが重視される場面で、リアルで同席することを必ずしも重視しない結果だからだ。だが考えてみれば、前から距離の遠さや健康上の事情などで気持ちがあっても式に同席できない人はいたはずだ。そこにオンラインという選択肢が加わったのは実は朗報だったとみることもできる。
ほかに「病院の診察・医薬品の処方」「仕事」「採用などの面接を受ける」「役所での申請や手続き」でも使い分け派が4~5割を占めた。リアルの良さは認めつつ、距離や時間の面で利便性の高いオンラインも取り混ぜていくことが理想だと、生活者はコロナ禍の経験を経て考えているようだ。
さらに今後は、リアルかオンラインかの二択の間にグラデーションのように多様な選択肢が用意されるようになるだろう。
一つは、離れているのに一緒にいる感覚を生む「テレプレゼンス」の領域だ。例えばコミュニケーションサービス「tonari」は遠隔のオフィス間でお互いが「等身大」に映し出され、目線を合わせて自然な会話ができるシステムだ。人間が感知できない程に遅延を抑え、しかも会議以外の時間も「常時接続」することで、離れた場所にいるはずなのに、あたかも同じ空間にいるように存在が感じられる。この特徴により、雑談や軽い相談が生じやすいリアルの良さと、好きな場所で働けるオンラインの良さを両取りするものだ。
ほかにも、離れているからこそできる新関係「テレコネクション」領域もある。例えば、オンラインダイニング「ズムメシ」という試み。これは様々な地域の飲食の名店から食材を十数世帯でそれぞれ取り寄せて、ビデオ会議ツールごしに食事会をするというものだ。面白い点は、食事会に料理人や農家・酪農家が参加し、土地の歴史・作物・調理法などを語らうということ。単なる美食を超えた、新しい食体験になっており、手軽に遠隔を結ぶオンラインだからこそできることだ。
このようにリアルとオンラインの使い分け提案やその間に生まれる新選択肢の開発は、アフターコロナにおける新ビジネスの種にもなっていくだろう。
2002年博報堂入社。マーケティングプラナーとして多様な分野のブランディングや商品開発などに従事。2015年より現職。調査全般の統括や生活者の研究などを担当。共著に「生活者の平成30年史」(日本経済新聞出版)。