博報堂生活総合研究所 上席研究員 内濱大輔
新型コロナウイルス禍は家族の関係にどんな影響を及ぼしているのだろうか。博報堂生活総合研究所が隔年実施している「生活定点」調査(首都圏・阪神圏の20~69歳。最新は2020年6~7月実施)によれば、「円満な家族関係に満足している」と答えた人の割合は最近まで減少傾向にあったが2020年に増加に転じて52.4%と過半数になった。同じく「家族の十分な話し合いに満足している」も2018年から2020年にかけて34.6%から39.2%に増えている。
テレワークなどにより家族とすごす時間が増えたことは間違いないが、関係の良好化も進んでいるようだ。一方、その見方を裏切るようなデータもある。「夫婦おのおの好きなことをしたり、別に暮らしたりしても構わないと思う」という項目は、同期間に28.7%から35.5%へ増えた。ちなみに女性の方が高い。ここからは、夫婦が干渉しすぎない適切な距離感を保ちながら、前よりも話をよくしている様子が浮かんでくる。
また、「友達のような親子関係がよいと思う」も減少傾向から一転して2020年に増加している。特に増加幅が大きかったのは20代で31.7%から41.7%へと10ポイントも伸びた。20代は自身が子の立場から親との関係を答えている場合が多いが、この世代の親子は普段は生活時間のズレなどから疎遠になりがちな関係だろう。そのようなことを前提にすれば、20代の子が親と友達のように仲良くなろうと意識的に振る舞っていると推察される。
つまり、家族が単純に仲むつまじくなっているというより、お互いの感情をケアしあっている。それは「放っておいても家族は家族」という従来的な考え方とも違うといえる。きちんと「家族であろう」としている感覚だ。
背景の仮説はこうだ。第1に身も蓋もないが、家族の在宅時間が長くなるなか、家族仲が悪くては自分の居心地が悪い。第2に家で仕事(勉学含む)をするようになれば、その生産性は家族関係の良好さに左右されるようになる。家事の分担不均衡やコミュニケーション不足でストレスが重なれば、仕事どころではなくなる。家族間の感情ケアには、「自分のため」という側面もあるということだ。
ここで家事・育児についての変化をみてみる。2018年から2020年にかけて「男性でも育児休暇をとるべきだと思う」は40.6%から47.9%へ、「男女ともキャリアと家事のバランスをとるべきだと思う」は29.8%から34.5%へと増えた。ここまでの議論を下敷きにすれば、次のような思潮が生まれていると考えられよう。男女双方がワークライフバランスを保ち家族関係が良好であることが、ワークの充実とライフの充実の両方に効くと。
この流れは、家族のストレスを減らすための、家事や育児の負担軽減行動にもつながりそうだ。同じく直近2年間で「家事の時間や手間を省ける家電を充実させたい」は33.0%から38.3%へ、「調理済み食品をよく使う方だ」は28.1%から32.4%へ、「デジタル機器を育児に活用してもかまわないと思う」も35.3%から42.8%へとそれぞれ増加した。家族平和のための消費だと思えば、開く財布も違うというものだ。
調査はしていないが、外食やキャンプなどの行事、誕生日の贈り物などは、「家族であろうとする」ための消費として今後重要な位置づけになる予感もしている。在宅時間の増加に伴う家族関係の変化には今後も要注目だ。
2002年博報堂入社。マーケティングプラナーとして多様な分野のブランディングや商品開発などに従事。2015年より現職。調査全般の統括や生活者の研究などを担当。共著に「生活者の平成30年史」(日本経済新聞出版)。