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アフターコロナの消費行動(4)/内濱大輔(連載:アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点 Vol.15)

2021.09.01
#生活総研#生活者調査
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業や生活者を取り巻く環境はどのように変化したのか。また、今後どう変化していくのだろうか? 多様な専門性を持つ博報堂社員が、各自の専門領域における“文脈”の変化を考察・予測し、アフター・コロナ時代のビジネスのヒントを呈示していく連載です。
第15回は、博報堂生活総合研究所の内濱大輔上席研究員が、「消費行動」の観点から解説します。
※本コラムは、2021年7月15日~21日付の日経産業新聞「戦略フォーサイト」に掲載された寄稿連載(全5回)の第4回です。

Vol.15 アフターコロナの消費行動(4)

博報堂生活総合研究所 上席研究員 内濱大輔

時間編成権、会社から個人へ

今回は新型コロナウイルス禍による「時間の使い方」の変化に注目する。

コロナ禍「前」にあたる2019年9月の調査(全国の20~69歳、1500人)で「あなたは複数のことを同時にこなしたい方か、ひとつのことに集中したい方か」を質問した。結果は複数同時派が全体平均40.4%で、若い層ほど高く20代では50.0%だった。

同じ質問をコロナ禍「中」の2021年6月にすると、複数同時派は全体平均45.3%に増えていた。しかも増加幅が大きかったのは30~60代であり、30代は42.3%から53.1%に増加した。つまり、「複数のことを同時にこなしたい」欲求が、コロナ禍を経て若者だけの特性ではない形で拡大している。

これは、テレワークで複数の仕事や、仕事と家事を同時並行にできた経験によるところが大きいと考える。

例えば、調査で次のような自由回答をよく見る。「オンライン会議はカメラとマイクはオフで耳だけ参加し、同時に子どもをあやしている」(女性35歳)。会議は常に全力で参加せよという意見もあろうが、これは生活者側のわがままではない。会議には優先度の高低がある。生活にも絶対に必要な時間がある。であれば、他の作業と並行して参加する会議と、集中して参加する会議とに、時間の使い分けをすることでワークとライフ総体としての生産性が向上することに30代以上が気づいたのだ。

さらにいえばその気づきの本質は、いつ何をどの程度するかという「時間の編成権」が社会や会社から、個人へ移りつつあるということだ。同時並行という行為もその一例といえる。

ここで「時間の編成権」行使の先駆者たる若者たちへのインタビューを紹介する。ある20代の女性は「(録画済みのテレビ番組などで)興味のない部分は倍速再生するが、その代わりお気に入りの部分は繰り返し楽しむ」と言い、時間に意図的な軽重をつけている。

別の人の「映画館では、俳優の名前を知りたいときにその場で検索できないのがストレス。情報量を増やしながら楽しみたいのに」という発言からは、自分に大事な時間にはさらに情報量や熱量を詰め込みたい欲求がうかがえる。そこには「時間は短くするより、濃くする」という思想も感じられる。

生活者による公私にわたる「時間の編成権」行使は、アフターコロナにおいてバリエーションを増やし、時短分野以外にも市場機会を広げるだろう。

例えば、時間を「濃縮」する場合、ウェブ検索で情報量を増やすほど面白い番組や書籍づくりができるかもしれない。時間を「分割」する視点では、コードレスタイプの掃除機は参考になる。ほこりに気づいた時にさっと掃除をするのに向いており、まとまった掃除時間を不要にして、5分間単位に分割している。学習・料理・運動などでも時間分割でアイデアが生まれる余地はある。

時間を「並行」する意味では、スマホの「放置ゲーム」は参考になる。時々操作すれば、ある程度自動的にゲームが進行する。そのポイントは生活者の時間を奪いすぎないことで、ほかの生活行動やゲームと並行してプレイしやすくしている。こうした自走性が喜ばれるカテゴリーもあるだろう。

いずれにせよ生活者が時間を編成するために、企業にはこれからTPO(いつ・どこで・何を)の新しい組み合わせ提案が求められる。

内濱 大輔(うちはま・だいすけ)
博報堂生活総合研究所 上席研究員

2002年博報堂入社。マーケティングプラナーとして多様な分野のブランディングや商品開発などに従事。2015年より現職。調査全般の統括や生活者の研究などを担当。共著に「生活者の平成30年史」(日本経済新聞出版)。

▼本コラムで紹介した「時間の使い方」についての研究は下記をご参照ください
博報堂生活総合研究所 みらい博2020「私の時間が溶けていく」
https://seikatsusoken.jp/miraihaku2020/
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