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これからのBtoB営業のあり方とは ─「会えない時代」に顧客を見つける方法(連載:マーケティング実践ソリューション)

2021.10.08
コロナ禍によって、これまで対面で行っていたBtoB営業の多くがオンライン化されています。顧客と直接会うことができない時代において、営業活動はどうあるべきなのでしょうか?8月末に書籍『Sales is ~科学的に「成果をコントロールする」営業術』を出版した、博報堂グループの営業・販売支援会社 セレブリックス 執行役員の今井晶也と、博報堂でビジネス開発を行う栗原清が、BtoB営業の本質や、コロナ禍で生まれた新たな課題とこれからのあり方などについて語りました。

今井 晶也 株式会社セレブリックス 執行役員 マーケティング本部長
栗原 清 博報堂 ビジネス開発局 GM

コロナ禍におけるBtoB営業の「3つのロス」

──セレブリックスは、2017年に博報堂プロダクツと業務資本提携を結び、博報堂グループの一員となりました。まずはセレブリックスの事業内容について教えていただけますか。

今井
ひと言でいうと、「営業活動の総合支援会社」です。企業が売り上げを上げるために必要なありとあらゆる機能を、ワンストップで提供しています。組織は「セールスカンパニー」と「HRカンパニー」からなり、セールスカンパニーではBtoBビジネスにおける営業活動の課題解決を、HRカンパニーでは販売や採用といったビジネスを支援する人材の提供を主に手掛けています。

──今井さんはセールスエバンジェリストとして、セールスモデルの研究や発信活動を行っていらっしゃいますが、コロナ禍でBtoBの営業活動はどのように変化していますか。

今井
法人営業に共通して見られるのは「3つのロス」、すなわち「つながらない」「会えない」「買ってもらえない」です。「つながらない」は、営業の電話をかけても、クライアントのご担当者が出社していないために、なかなか話ができないことを意味します。「会えない」は、ソーシャルディスタンスが求められる中で、顔を合わせての対話ができないということです。「買ってもらえない」は、先行き不透明な中で緊急性のない投資を控える企業が増えていることから、商品やサービスの購買が先送りにされていることをあらわします。

栗原
「会えない」ために、営業活動が全般的にオンラインになりました。オンラインでいかに実りある対話をして商談を成功させるか──。そこにセレブリックスのノウハウがあるわけですよね。

今井
そうですね。例えば、パワーポイントの資料を画面上でどのように提示するかといった点にもオンライン独自の方法があります。仕組みやツールを使うノウハウがオンラインでは重要になってくると思います。

仕組みやツールを活用し、営業活動を「底上げ」する

──これまでのBtoB営業には属人的な部分もあったかと思うのですが、それはオンラインになってどのように変わったのでしょうか。

栗原
コロナ禍でオンラインミーティングやオンライン商談が拡がり、デジタルツールを活用するようになりました。その意味では、コロナ禍によって営業活動のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだと言えるかもしれません。

今井
重要なのは、仕組みやツールは誰のためにあるのかという視点です。商談がオンラインになっても売り上げが落ちなければ、とくに新しい仕組みやツールは必要ないわけです。しかし、オンラインになって対面の時よりも売りにくくなったという営業パーソンがいれば、その不自由さを仕組みやツールで補ってあげる必要があります。あるいは、トップセールスパーソンに頼ってきた企業がリスクを分散するために仕組みやツールを活用するという考え方もあります。

栗原
トップセールスパーソンが万が一病気になったりして休んでしまったら、それに頼っている会社は売り上げが落ちてしまうことになってしまいます。そうならないように、ツールを活用したスキルの平準化が重要になるわけです。

──なるほど。でも営業活動が平準化すると、今度は営業パーソンが個性を発揮できなくなるということはないのでしょうか。

今井
それはありません。仕組みやツールの役割は、あくまでも営業活動の「底上げ」です。不便な点や無駄をなくして、活動全体を一定のレベルに持っていくということです。その上で、個々の営業パーソンの力が発揮されるというのが僕たちの考え方です。

伝統芸や武道の世界には「守破離」という考え方がありますよね。型や技を身につけ、それを発展させ、最後はそこから離れて独自の方法を生み出し確立していくことです。テクノロジーや仕組みが担うのは、その「守」と「破」の部分です。そこから先の「離」は、個人の力、センス、思い、工夫などによって達成されるのです。

重要なのは、「買わなかった理由」

──今井さんは最近、BtoB営業に関する著書を出版されたのですよね。

今井
はい、『Sales is ~科学的に「成果をコントロールする」営業術』(扶桑社)という本です。新規の法人営業にフォーカスして、受注の確率を上げる技術について科学的に解説しています。この本によって、これまで法人営業の研修メニューの中でお話ししてきたノウハウを広く伝えることができると考えています。

──独自の営業メソッドを紹介することは、セレブリックスの「手の内」を明かすことにはなりませんか。

今井
確かに、出版するかどうか半年ほど悩みました。出版を決めたのは、少し気取った言い方かもしれませんが、営業支援会社としての責任を果たしたいと考えたからです。「あらゆる企業の営業を支援する」と謳っているからには、その根拠となる考え方や方法論を広く示していく必要があります。それを知っていただいた上で、多くの企業との関係性をつくりながら、営業に関する悩みを解決してきたい──。それがこの本に込めた僕の思いです。

──本の内容も踏まえて、BtoB営業の本質についてぜひ教えてください。

今井
正しいターゲットに対して、正しい課題を設定して、正しい提案をする──。それに尽きると思います。その本質は以前から変わっていないし、これからも変わらないでしょう。それを踏まえた営業をすれば必ず受注できるはずですし、逆に言えば、受注できないのなら、本質からずれたこと、誤ったことをやってしまっているということです。

では、その誤りを見つけるにはどうすればいいか。視点は2つあります。商品やサービスを買ってくださったお客さまの「買った理由」を分析するか、あるいは、買ってもらえなかったお客さまの「買わなかった理由」を分析するかです。

栗原
「買った理由」を分析してそこから勝ち筋を見出す、というのが一般的な考え方ですよね。

今井
そうですね。しかし、実際に重要なのは「買わなかった理由」です。根拠は3つあります。
一つ目は、「買った理由」には偶然性が作用しているケースが非常に多いということです。例えば、先方のご担当者と営業が同郷だったとか、共通の知り合いがいた、気が合ったといったケースです。そのような偶然性は再現して法則化することができません。

二つ目は、買ってもらえない場合の方が「母数」が圧倒的に多いということです。これまでのセレブリックスの23年の新規のプッシュ営業に限定した営業結果の中央値を見ると、提案型の商材の商談が成約する確率はわずか18%です。つまり、残りの82%は買っていただけなかったということです。18%の数字を上げるよりも、82%の数字を下げる方が生産性は高いですよね。それから、母数が多いということは、データが豊富であることを意味します。それを分析すれば、かなり信頼性の高い法則を導き出すことができます。また、「買わなかった理由」には共通性があるはずなので、一つの理由が発見できれば、芋づる式に問題を解決できる可能性も高いわけです。

そして三つ目は、営業プロセス上、「買わない理由」の方が「買う理由」より先に来るということです。一般に法人営業では、買うことを決めるまでには時間がかかりますが、買わないことは即決される場合がほとんどです。ですから、早い段階でその問題点を分析することができます。

栗原
僕は以前、博報堂からベンチャー企業に出向していた時期があったのですが、ショックだったのは、博報堂の看板がなくなると、営業活動がとたんに難しくなるということでした。出向1年目の売り上げは、1年間でわずか数百万円くらいだったんです。

それを挽回するために、受注できなかったお客さまに何が悪かったのかを聞くようにしました。悪かった点がわかれば改善点が明らかになるし、次に何をやればいいかも見えてきます。結果、2年目以降は営業成績を何倍にもすることができました。今思えば、まさに「買わない理由」を聞いて、自分の誤りを正していたということですね。

今井
僕たちは、営業は一種のマーケティングであると考えています。買ってもらえなかった場合は、その理由をリサーチし、分析すればいいわけです。失敗はいわば「金脈」です。そこから学び、修正すれば、次は確実に成果につなげることができるわけですから。

顧客の「役に立つ人」になる

──「失敗は金脈」と聞くと前向きな気持ちになりますね。ただ「会えない時代」に、まず顧客を見つけることが難しくなっています。どのように見つけたらいいのでしょうか。

今井
最良の方法は、「先にお役に立つ」ことだと思います。今までの営業は、お客さまから「いただく」ことが最初にありました。話を聞いてもらう時間をいただく、アポをいただく、受注をいただく──。それが営業活動だったわけです。

「いただきに来る人」は、お客さまにとっては基本的に邪魔者です。では、邪魔者にならないためにはどうすればいいか。「役に立つ人」になればいいのです。そうすれば話も聞いていただけるし、いろいろな情報を提供してもらうこともできます。

──「役に立つ」ための具体的な方法とはどのようなものですか。

今井
ウェブセミナーを開催したり、サイトで「お役立ちコンテンツ」を提供したり、SNSで情報を発信したり。その際重要なのは、見込み顧客のリストづくりです。ターゲットとするお客さまがどのような事業をやっていて、何に関心があって、何に困っているか。それを把握して、役立てていただける情報を、適切な手段でこちらから発信していくわけです。

栗原
僕たちも、物を買うときはさまざまなメディア、ブログ、SNSなどのお役立ち情報を参考にしますよね。そういう情報をこちらから発信していくことは、法人営業においても有効であるということです。

技術とノウハウを結集し、「営業の科学化」を進める

──セレブリックスが博報堂グループの一員となって、両社にどのような変化がありましたか。

今井
僕たちは営業支援会社なので、どうしてもお客さまの課題を「営業」という視点で解決しようとしてしまいます。しかし、課題解決の最良の方法は、実はPRかもしれないし、広告かもしれないし、DXを進めることかもしれませんよね。グループには企業のあらゆる課題を解決するために、さまざまな領域に知見をもつ専門家がいて、営業以外の視点も得ることができました。そしてそのような視点で実際にお客さまを支援できるようになったことが一番の変化ですね。

栗原
博報堂も、セレブリックスと協業することによってできることが広がりました。例えば、クライアントのキャンペーンを支援する場合、これまではテレビCMなど広告を展開することで僕たちの役割が終わるケースが多かったのですが、セレブリックスのサービスと組み合わせることで、CMオンエア後のお問い合わせへの対応や商談の支援までできるようになりました。よりコンバージョンに近いところまでクライアントに伴走することが可能になったわけです。

それから、スタートアップのクライアントへのアプローチもしやすくなりましたね。これから伸びていく企業に新しい営業のノウハウを提供し、人材が足りない場合はマンパワーも提供する。そんなセレブリックスのサービスに、博報堂のマーケティングのノウハウを組み合わせてスタートアップ企業を支援することができるようになりました。

今井
セレブリックスとしても、博報堂のお客さまへのパスが生まれたのも大きなメリットですね。お互いのクライアントの課題に合わせ、それぞれの知見と人材を最適に組み合わせながら、提供するサービスの領域を広げていく。そんな理想的なシナジーが生まれていると思います。

──最後に、これから両社でどのようなことに取り組んでいきたいと思われているか、お考えを教えてください。

栗原
博報堂は先日、博報堂DYグループ7社と連携して、BtoB 企業のマーケティング・セールス領域のDXを統合的に推進することを目的にした「Grip & Growth(グリップ&グロース) 」というソリューションを発表しまして、セレブリックスもそこに参画しています。それを一つの足場としながら、グループ内の多様な人材を結びつけて、クライアントの課題解決に貢献していきたいと思っています。

また既に、スタートアップの企業成長に博報堂とセレブリックスのチームで貢献できたケースも生まれています。今後はさらに、博報堂のマーケティングのノウハウと、セレブリックスのインサイドセールスのノウハウを融合して新しいソリューションを開発するなど、クライアントに提供できる価値を最大化していきたいですね。

今井
博報堂DYグループにはデータ分析のスキルとノウハウがあり、また商談時の対話音声を解析する「CONOOTO(コノート) 」といったシステムも提供しています。それらを組み合わせながら、営業の対話を分析して「営業の科学化」を進めていきたいですね。グループの知見と技術を結集し、多くのBtoB企業を支援していきたいと考えています。

栗原
「営業の科学化」とはいい言葉ですよね。データやテクノロジーを活用して、最先端の営業の形をつくり、クライアントの期待値を大きく超えてきたいですね。

『Sales is ~科学的に「成果をコントロールする」営業術』
著者:今井晶也
判型:四六判、288ページ
定価:1,760円(税込)
出版社:扶桑社
発売日:2021年8月27日
Amazonリンク:https://www.amazon.co.jp/dp/4594088740

今井 晶也(いまい・まさや)
株式会社セレブリックス 執行役員 マーケティング本部長

2008年に株式会社セレブリックス入社。セールスエバンジェリストとして、セールスモデルの研究、開発、講演を行う。
商品内容に依存されない、B2Bセールスの普遍のバイブルとなる“顧客開拓メソッド™”を執筆、制作。
現在は執行役員 マーケティング本部長として、セレブリックスのコーポレートブランディング、事業企画、マーケティング、営業の統括責任者を兼任。

栗原 清(くりはら・きよし)
博報堂 ビジネス開発局 GM

2006年に株式会社博報堂入社。営業にて大手クライアントを複数担当した後に、ビジネススクールを修了。その後、博報堂DYグループの社内ベンチャーに出向を経て、現職。
現在は博報堂のビジネス開発局のGMとして、博報堂グループの広告以外のビジネス領域への拡張に従事。

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