「広告朝日」の新連載「愛されるDXはカタチにできるのか」の第5回、生活者エクスペリエンスクリエイティブ局/マーケティングプラニングディレクター 増田 昌弘の記事が掲載されました。
──日頃、手掛けている主な業務について、教えてください。
Webサイトやアプリ、ECサイトなど、クライアントの課題に応じてデジタル上のサービスを開発しています。それを起点に、テレビCMやWeb広告などで宣伝し、顧客データや顧客との関係性の構築(CRM)まで横断的にディレクションをして、クライアントの事業を中・長期的に成長させていく仕組みづくりを行っています。
──デジタル上のサービスを開発する上で、どういったことに気を配っていますか。
例えば、ある大手企業の仕事では、これまで直接的な接点がほとんどない生活者に向けて最適な自社製品を提案する、デジタル上のサービスを開発しました。クライアントが生活者に届けたい情報や思いをくみ取りながら、プロダクトアウトではなくユーザーファーストとなるUXを目指しました。途中で離脱せず、最後までサービスを手軽に楽しんでもらうための使いやすさや、取得すべきデータの選定、取得したデータをECや店頭購買などに繋げていく方法など、オンライとオフラインの融合(OMO)も含めて考える必要がある。クライアントだけでなく、生活者にとっても意味のある体験づくり。それは、生活者視点の発想を持つ博報堂がリードすべき領域だと思っています。
──最適な顧客接点の開発を提案していくとき、クライアント側にはどういった課題がありますか。
クライアントによっても違いますが、多くの場合、事業部ごとに守備範囲が決まっていることが課題の一つです。デジタル化が進むほど、部門の垣根を越えてコミュニケーションをとる必要があるのですが、それがなかなか難しい。
そもそも、デジタル上のサービスを開発するとき、体験の内容を考える人や、例えばアプリにするなら、それをカタチにしていく人、システムや顧客データを管理する人など、プロジェクトに関わる部門も人数も多い。円滑に推進するためにも、私たちは関係者を束ねながら、誰と誰が連絡をとればいいのか、どうやって推進していくかなど、細かく提案しながら進めていきます。そのためには、クライアントのことを深く理解する必要があるので、これまでよりも踏み込んでコミュニケーションをとるようにしています。また、AIやDXについても、種類や目的、実現可能なことと不可能なことなど、できるだけかみ砕いて説明するのも重要です。
──増田さんは事業会社で新規事業開発やサービス開発などを手掛けた後、博報堂に入社しています。そうしたキャリアは、どのように現業に生かされていますか。
事業会社で働いていたとき、広告代理店から提案をもらっても、リアリティーがないと感じてしまうことがありました。だから、提案する立場になってからは、本当に実現可能で、事業会社の人たちが運用できることをプレゼンしています。
今は特に、自分に関係がない情報はアルゴリズムで遮断される状態なので、企業側の目線だけで情報を発信しても届けたい人に届かないことが多い。デジタル化が進み、可処分時間も減るなかで操作は極力短時間で済ませたい、というユーザーの意向もあります。普遍的な生活者の実態をとらえた上で、サービスや施策を開発しないと、ヒットしないと思っています。
──どうやって生活者の実態を捉えているのですか。
新しい業務が始まったら、まずSNSをチェックします。SNSをやっている企業やブランドであれば、どういったこと発信をしているか確認します。そして、その市場や業界では、どういったキーワードでつぶやかれることが多いか、そのつぶやきにどういった人たちが反応しているかなど、いろいろな角度でユーザーの素の部分も読み解いていきます。そこから、業界のオープンデータの調査結果や博報堂のデータなどを見て、分析します。
──プロジェクトはどうやって進めていくことが多いですか。
基本はスモールスタートです。デジタルのサービスは有形の商品と違うので、まずはクイックに作ってリリースをして、改良していく。世の中に出したときのユーザーの反応が、一番リアリティーがあるので、それを基に改善するようにしています。
この仕事をする上で必要な視点は、「作って終わりではない」ことです。デジタル上のサービスやプラットフォームのソリューションを起点として、CMやCRM、店頭のコミュニケーションまで、全包囲でディレクションしていくことがミッションなので、構造から綿密にインターフェースを開発する必要があります。クライアントの事業を成長させることはもちろん、ユーザーのライフタイムバリュー(LTV)を高めていくことも、私たちの役割です。
──綿密なインターフェースはどうやって開発されるのですか。
まずはグランドデザインを考えます。案件にもよりますが、例えば、デジタル上のサービスを作って、こんな風に世の中に浸透させ、こういうデータをとってCRMに活用する。そして、オウンドメディアやSNSでこういう風に紹介していくなど、最初に設計しています。事業を成長させていく途中で、伸び悩む時期もでてくるので、それも見据えて、マスコミュニケーションも想定するようにしています。
先ほどもお話したとおり、納品して終わりではないんです。運用のフェーズがあるので、クライアントとは中・長期的な付き合いになります。
──その中でも最も注力するのは、どのフェーズなのでしょうか。
サービスのUX開発が主軸です。どういった顧客体験にするのか。コンセプトやフロントデザインが最も重要です。当たり前のことですが、良いサービスでなければ使ってもらえません。そのクオリティーが低い時点で、勝ち筋が減ってしまいます。私たち博報堂の強みは、生活者視点で秀逸な顧客体験を構想し、実装から運用までワンストッップでできることです。
──ユーザーにとって良いサービスとは、なんでしょうか。
デジタル上のUIやUXは、突き詰めていけばいくほど、似たようなものになっていくと思っています。ECサイトも数多く存在していますが、構成など、設計はほとんど一緒。「買うこと」をゴールに設定したとき、スムーズに買えるプロセスやルートは似たものに収斂されていきます。
そうなったとき、大事になってくる観点は「ブランド価値が体験できる」こと。ブランディングとKPIを達成するための設計のバランスをとり、なおかつ、それがユーザーにとって快適なものである。その実現は容易ではないのですが、やりがいはあります。
──デジタル化が進むほど、ブランディングも大事になるんですね。その両立が「愛されるDX」につながるのですか。
デジタル上のサービスに愛着を持たれていないと、使い続けてもらえません。何度も使いたいとか、このウェブサイトに来ると安心するとか、自然と情緒的な感情になるように設計する必要があると思います。
とはいえ、デジタル上のサービスで、情緒的になることは、あまり経験がないですよね。それをどう作るか。その難題と真剣に向き合うことは、ひいては生活者を見つめることになり、愛されるDXにつながるのではないかと考えています。無機質ではなく、人感とか温もりなど、一瞬ではなく持続的に情緒的なことを感じるポイントが必要なのかもしれません。まだ試行錯誤している段階ですが、ブランド力を高め、事業を成長させていくためにも、追求すべきことだと思っています。
大学卒業後、教育事業会社に入社。通信教育をはじめとする商品・サービス開発に加え、新規事業開発まで幅広く従事。2016年、博報堂入社。クライアントのブランド開発、マーケティング戦略立案、統合コミュニケーション開発など、様々な業務を経て、現在はサービス開発やWeb・アプリ制作を中心に、中長期的な生活者接点づくりを支援している。
※「ウェブ広告朝日」より転載
(21-3049 朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)
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